あゆくんと私が小学六年生のある日。
羽丘まどかさんは、清隆さんの部下で、最近付き合いだしたとのこと。以前から清隆さんとは仲が良かったみたいだけど、あの理不尽の権化たる清隆さんと付き合う人がいるとは……正直驚いている私がいる。
清隆さん曰く、何度か清隆さんが言っている、あゆくんの好みのタイプで『パッと見カッコイイけど中身は可愛らしい年上の女性』にぴったり当てはまるらしい。
……いや、私は別になにも思うところはありませんよ? あゆくんのお兄さんの恋人に嫉妬などしてない。
小日向くるみさんは、十六歳の女子高生だが、既にアメリカの大学を卒業しており、日本の高校には社会勉強のため通学しているとのこと。世界的な財閥である小日向グループのお嬢様らしい。
なんでも、小日向のお祖父さんから、清隆さんと結婚して、子供を作れ。それが嫌なら清隆さんとの推理勝負に勝てとか意味不明な難題を押しつけられているらしい。
だが、清隆さんの推理能力はまさしく神がかり。小日向さんもとても優秀な方だが、清隆さんには連敗続きとのこと。このままでは今回か次回の敗北を持って、お祖父さんに強制的に結婚させられかねないらしい。
小日向さんも滅茶苦茶な境遇に置かれているなあ。あの清隆さんと結婚とか絶対に拒否したいだろう。私がくるみさんの立場でも、なにがなんでも婚約破棄しようとすると思う。
そもそも、グループの将来を思うなら、後継者の小日向さんに高校で社会勉強させつつ、興味のある部活動や勉強をさせた方がよっぽど有意義なんじゃないだろうか。
清隆さんの子供が、小日向のお祖父さんの望む才覚を、生まれながらに持っているとは限らないわけだし。
それにあの清隆さんが、誰かの思い通りに動くわけないし。小日向グループに取り込もうとしても、面白おかしく引っかき回して、お終いじゃないだろうか。
もし仮に清隆さんの子供が、清隆さんの性質を引き継ぐとしたら、その子供もハチャメチャな気がする。清隆さんの才覚だけ受け継いで、性格は小日向さんに似た子に育つ可能性もないわけではないだろうけど。
まあ、私がこんなこと考えてても、なんにもならないか。私はちょっとピアノが上手いだけの、普通の小学六年生なんだから。
「いちご大福です」
あゆくんが、まどかさんとくるみさんにいちご大福を差し出す。
「焙じ茶です。おかわりは、焙じ茶以外が良ければ緑茶はもちろん、玄米茶もありますし、意外と紅茶も合いますから、お気軽にリクエストしてくださいね」
私も焙じ茶をお二人に差し出した。
「……なあ、弟。おまえには双子の姉か妹がいたのか?」
小日向さんは私を一瞥した後、あゆくんに尋ねる。
「そんなわけないでしょう。単なるご近所さんですよ。だいたい、僕とすばるは全然似てないでしょう」
あゆくんは普段とは違う、丁寧な口調で小日向さんに答える。
「すばる……? もしかして、小学生ピアニストの、あの深山すばるか?」
「小学生ピアニストって、そんな大層なものでもないですけど。はい、深山すばるです。あゆく――歩君の家のすぐ近くに住んでいる、歩君の友人です」
「いや、あんた結構有名人だろ……っておい待て。なんでご近所の小学生ピアニストが、鳴海の弟と一緒に慣れた様子でお茶を出している?」
「ああ、くるみさん。すばるちゃんは、ほとんど毎日、歩君とここで家事しているから」
「はい。ですので、この部屋は勝手知ったる、ってやつです」
「いやいやいや、おかしいでしょ!? なんで小学生の隣人が、同じ小学生の鳴海弟と、鳴海の部屋で毎日家事しているんだ!?」
「その質問は兄にしてください」
あゆくんの丁寧な返答には、どこか投げやりな色が混じっていた。
「清隆さん、全然家事しないで、あゆくん……歩君に任せっきりなので。いくら歩君がしっかりしていると言っても、まだ小学生なので、すぐ近くに住んでいる私の両親や私が手伝っているんです」
そう説明すると、小日向さんは呆然としたあと、頭を抱え出す。
「……おい、つまり鳴海は警察ではまどかさんに仕事を押しつけて、家では小学生の弟と、その友達に家事を押しつけているってわけか?」
「そうなりますね」
身内の恥(身内じゃないが)をさらけ出すようだが、否定しても仕方ないので、そう肯定する。
「前々からろくでなしだと思っていたが、そこまでかぁ!? というか、あたしはそんなろくでなしに連敗続きなのか!?」
「ま、まあ落ち着いて、くるみさん。歩君もすばるちゃんも、小学生だけど、本当に家事がとてもできるのよ? 私も清隆さんと一緒にいつもごちそうになっているけど、コース料理まで作れるのよ?」
……まどかさん、それ言っちゃダメじゃないですか?
「ちょっと待って。まどかさんも、鳴海と一緒にいつもこの二人の手料理を食べているのか?」
「あ」
まどかさんも、失言に気づいたみたいだけど、既に遅いかもしれない。
「え、えっとほら。私、家事苦手だし。栄養不足を清隆さんが心配してくれて、それで夕食とか、デートの前の昼食とかを歩君が作ってくれるからって、清隆さんが誘ってくれただけで――」
「小学生の弟とその友達に、部下兼恋仲になろうとする女性への料理を作らせる兄がどこにいる!? そしてそれで本当に恋仲になるなアンタらぁ!?」
まどかさんの火に油を注ぐ弁明に、小日向さんのツッコミが入る。
ごもっとも過ぎで涙が出そう。
あまりにあゆくんが不憫なので私も手伝いの名目で、あゆくんと一緒に料理したけど。
兄と恋仲の女性(しかも清隆さん曰く、あゆくんの好みのタイプの女性)の料理を作らせられる弟の気持ちを考えろ。マジで。
「良いんですよ、小日向さん。僕は家事、嫌いじゃありませんから。それに、あの兄は周りがどうこう言っても聞かないでしょう」
「歩君の言うとおりですよ。できるなら、とっくに歩君か、まどかさんが改善できているでしょうし。それは別にしても、歩君ももうちょっと私達を頼って欲しいとは思いますけど」
「ちょっと待て。俺は兄貴のことだから、仕方ないにしても、すばるが俺達の世話を焼くことないだろ」
「私はあゆくんだけに言ってるの。あゆくん一人でお勉強に家事にピアノも、全部やるの大変でしょ? いくらあゆくんがすごくても参っちゃうよ」
「それはすばるだって同じだろ。俺に構っている時間をもっとピアノとか、小学生らしく遊んだりする時間に使え」
「他のことだって疎かにしてないよ。それに、私はあゆくんとお料理したりするの、好きでしてるんだから」
前世ブーストでちょっとズルしているけど、疎かにしていないのは本当だ。
「前々から思っていたが、俺と料理することのなにが楽しいんだ?」
「えー? あゆくん、ドンドン面白いレシピ見つけてくるし、料理するときの手際とかとても綺麗だし、それにお話ししてても楽しいし。あゆくんと一緒に作ったごはんを一緒に食べるのも好きだし、それから――」
「恥ずかしいことをさらっと言うな。分かったから、もういい」
「そう? えへへ。あゆくんが分かってくれたなら良かった」
「まあ、俺も助かっているのは確かだからな。ただ、疲れてたり他の用事があったらそっちを優先しろよ?」
そう言って、ぽんぽんと私の頭を触る。
「うん! あゆくんもね」
「……なあ、まどかさん。目の前にいるのは本当に鳴海の弟なのか?」
「そうよ? かわいいところあるでしょ?」
まどかさんと小日向さんが、なにやらこちらを見つつ話している。どうしたんだろう?
「弟も歳相応なところあるんだな。会話内容はアレだけど」
「変な邪推をしないでください。それより、大事な用件があって来たんじゃないんですか?」
「その前に、その小学生らしからぬ、かしこまった態度は変えられないのか? さっきのすばるさんと話しているときと同じ感じで話して良いんだぞ?」
「からかいに来ただけなら帰ってください」
小日向さんの言葉に、あゆくんは少しぶっきらぼうに返す。
「まあまあ、歩君。えっと、悪いけれどすばるちゃんは席を外してくれないかしら? 捜査内容とか、機密に関わることで、部外者に聞かせるわけにはいかないの」
「え? それは構いませんけど……あゆく――歩君は?」
まどかさんの言葉に、私は疑問を返す。捜査情報を私に聞かせられないのは当然なのは分かるけど。
「その『あゆくん』に用があるんだ」
小日向さんの『あゆくん』発言に、あゆくんは嫌そうな顔をしたが、すんでの所で文句を言うのはこらえたみたいだ。
にしても、警察の捜査であゆくんに用事? いったい何があったんだろう。
「別に事件に歩君が関係しているって訳じゃないから、安心して。私達は歩君に協力してもらいに来たのよ」
まどかさんが私に説明してくれる。でもあゆくんは小学生で、警察になんの関係もないはずだけど……?
「協力ですか。あゆくんは凄いけど、そもそも関わって良いものなんでしょうか? それに捜査とか、事件によってはあゆくんにショックとかあったり――」
「すばるさんの言わんとしていることは分かるけど、弟はそんなタマじゃないでしょ」
小日向さんはそう言うけど、あゆくんは結構繊細だと思う。芯の部分は強いけど。
「それに、清隆さんからも歩君に協力するように言われているのよ。その点は心配しないでちょうだい」
まどかさんも、小日向さんのフォローをする。
お兄さんは、またあゆくんに無理難題を吹っかけているのだろうか。ちょっとはあゆくんを労ってほしい。
「失礼ですね。僕はちょっと臆病な普通の小学生ですよ」
「どの口が言っているんだ、それ。まあいい、ちょっと弟借りるよ」
小日向さんは言葉では借りるとは言っているものの、その言葉は有無を言わさない強さを持っていた。
「心配しないで良いよ。あくまでこの推理勝負の主体はあたしだし、歩君にはちょっと力を借りるだけだから。歩君に負担をかけるつもりはないよ」
そう言って、小日向さんは穏やかに笑う。その言葉を聞いて、なんとなくだけど、この人は信頼できる人だと感じた。
「分かりました……あゆくん、それじゃあ、あゆくんが晩ご飯の準備できるの遅くなりそうだし、私のお家でそっちのも準備しておくね」
「別に適当で良いぞ。どうせ兄貴に食べさせるんだし」
「そう言ってあゆくん、毎日手の込んだもの作るよね?」
「ちょっとでも手抜きがあると、うるさいからな。けど今日は兄貴の方から面倒を押しつけてきて、そのしわ寄せが深山家に来ているんだ。文句は言わせないさ」
「あはは。でもあゆくんも食べるんだから、一生懸命作るよ」
「それこそ、そんなに力入れなくても良いんだけどな。けど、期待はしているよ」
「うん、期待されました!」
「……おい、さっきも言ったけど本当にこいつ鳴海の弟か?」
「だからそうよ?」
なぜか小日向さんが、なんだこいつらみたいな目で私とあゆくんを見ていた。なんだか納得いかない。
その後、あゆくんの協力もあり、無事に小日向さんは清隆さんに勝利することができたらしい。
けれど、小日向さんは『もう二度と鳴海兄弟には関わらない。あたしの知らないところで勝手にやってくれ』とか言っていたとか。
清隆さんに関わりたくないのは良く分かるけど、あゆくんについても関わりたくないのはどうしてだろう。あゆくんに関わると、お兄さんもセットでついてくる可能性があるからかもしれない。
数週間後、とある近所の喫茶店。
関わらないといったはずの小日向さんは、なぜか不機嫌な表情で私と向き合っていた。
「……どうしてこうなる」
「え、えっと……お疲れ様です?」
小日向さんは、清隆さんの勝負が終わり、元の高校生としての生活に戻ったそうだ。
しかし、今まで清隆さんとの推理勝負に専念していたせいで、ほとんど高校への出席がなかったとのこと。
元々学力については、アメリカの大学を卒業するほどでまったく問題はなく、出席日数についても、小日向さんとしては高校生しているのは社会勉強なので、最終的に留年だろうが退学だろうが構わないとのスタンスらしい。
その辺りの感覚は、小市民の私にはついていけそうにない。もし高校退学なんてなろうものなら、私なら絶叫ものだ。
なら、なにか問題なのか。それこそ、小日向さんがまともに学校に通っていなかったことに由来する。
結婚の破棄をかけた清隆さんとの推理勝負という、説明するのが非常にややこしい理由による不登校が、学校側にはお嬢様のわがままによるものと捉えられていたらしい。
それを特に否定や弁明もしなかったため、小日向さんは学校で非常に浮いている状態になってしまっているそうだ。
説明を面倒くさがった小日向さんにまったく非がないとは言えないかもしれないけど、どう考えても小日向のお祖父さんのとばっちりだろう。
あと、清隆さんには推理勝負をすぐに終わらせる方法があったにも関わらず、個人的な理由で引き延ばしていたから、清隆さんはお祖父さんより質が悪いと、小日向さんが言っていた。その方法や理由は教えてくれなかったけど。
「なにが、『社会勉強のくせに、日本での友人一人もいないのか? それで社会勉強になるのか?』よ! 高校に通えない状況にしたのはおじい様でしょーが!」
「なんというか……その、小日向さんも大変ですね」
「いや、悪い。すばるに言っても仕方ないしね」
「それで、私を呼んだ理由ですが……」
「別に断ってくれても良いんだぞ? おじい様にはなんとかうまく言っておくからさ」
「いえ。私なんかで良ければぜひお受けしたいです」
それで、小日向さんはつい売り言葉に買い言葉で、今まで推理勝負に追われていただけで、普通の生活に戻れば、友人などすぐできると言ってしまったそうだ。
だけど、高校では小日向さんはさっき言ったように、完全に浮いた状態で、どうしたものかと考えたときに私に白羽の矢を立てたそうで。
「でも、私は小日向さんとは四歳差ですけど、良いのでしょうか?」
「別に年齢差は関係ないでしょ? それに、おじい様は高校の友人でなければいけないなんて条件、つけていないし」
「では、小日向さんが良ければぜひ」
「くるみで良いよ。友達になるんだし、あたしだってすばるって勝手に呼んでるからね」
そう言って、ニコリと笑う。やっぱり、くるみさんの笑顔はなんだかすがすがしい。
「じゃあ、くるみさんで。さすがに年上の人を呼び捨ては気が引けるので」
「すばるも、歩君に負けじと小学生離れしてるよね」
「いえ、私はあゆくんほどじゃないですよ」
「それにしても、あの鳴海の弟をどうやって、あそこまで打ち解けさせたんだ? こう言ったら、すばるは気を悪くするかもしれないけど、歩君のつれなさは相当なもんだぞ。すばるの性格がなせるものか?」
「あはは、そんなすごいものじゃないですよ。あゆくんとは四歳からの付き合いなので。交流の長さってだけですよ」
「……その口ぶりからすると、弟はその頃からあんな感じだったのか?」
うんざりしたように、くるみさんが訊いてくる。
「はい、あんな感じです。でも、あゆくんはああ見えてすごく優しくて、気が利くんですよ」
「まあ、たしかに歩君が作るお菓子は、やけに気配りが行き届いたものだったけど。小学生があそこまで手が込んだもん作っていると、逆に怖いぞ」
「単に慣れているだけですよ。ちょっと粗があると、すぐに細かく指摘してくる、意地悪なお兄さんがいるんです」
「あいつは小学生になにを求めているんだ。自分はいい加減の権化のくせに、周りには完璧を求めるなっ。本当にろくな奴じゃないな」
心底、嫌そうな顔をするくるみさん。
「まあいい、あたしは金輪際、鳴海清隆に関わらないと決めたんだ。すばるもそのつもりでいてくれ」
くるみさんは強く断言する。
私には、くるみさんと清隆さんの間になにがあったのか、うかがい知ることはできない。
そして、なんとなくだけど、くるみさんの清隆さんに対する感情が変わることはないのだろうと感じた。
「私は分かりましたけど、私が清隆さんを止めるのは無理ですよ?」
「あいつを止められるのは誰もいないだろ。すばるにそこまで求めないし、鳴海ももう自分からあたしに構ったりしないだろ。鳴海自身も『私達の人生が再び交わりませんように』って言ってたからね」
清隆さん、そんなことをくるみさんに言ってたんだ。そんなフレーズ、良くとっさに出てくるなあ。
しかもそんなかっこつけたようなこと言っても、清隆さんだと滑らないのがまた怖い。私が言ったら、間違いなく浮きまくる。
「それはそうと、私一人でお祖父さんへの説明は大丈夫ですか? 私のお友達とか、あゆくんにもお願いしましょうか?」
「絶対、鳴海歩にも関わりたくない」
きっぱり、くるみさんはそう言い切った。
「鳴海の弟――歩君は危うい。鋭すぎる才覚を持つがために、自分と似て、それでいて自分より巨大な鳴海清隆の影に押しつぶされるか、もしくは自身の才能に押しつぶされるか。あたしにはそんな気がする。あたしはそんな破滅に巻き込まれるのはごめんだ」
「いったい、なにを――」
「だから、すばるは歩君と距離を置くことをお勧めするよ。歩君と一緒にいれば、すばる。おまえも破滅するか、そうでなくても辛い思いをすることになる」
「――っ、あゆくんと離れるなんて絶対しませんっ!」
今でも、思い出す。
初めてあゆくんと会ったばかりの頃。まだ幼いはずの男の子が、世界に自分ひとりぼっちのような顔をしていたことを。
皆が、自分を通してお兄さんを見てると理解し、なにもかも諦めてしまったように一人でいる姿を。
「……まったく、あんな仏頂面した奴のどこが良いんだか。まあ、清隆の奴よりは百倍マシか」
「あゆくんは素敵な男の子ですよ。長く一緒にいれば分ります」
「だから、あたしは歩君と関わる気はないってば。あと惚気るな」
「の、惚気てなんていません! 本当のことを言っただけです!」
「だからそれが惚気なんだっての……まあ、あたしがなにか言って離れるくらいなら、とっくに距離取っているか。やりたい放題、身勝手の王様みたいな兄と毎日顔を合わせてでも、歩君の側に居続けるくらいだからな」
「本当、なんであゆくんみたいな弟がいて、あんなわがままなお兄さんになっちゃったんでしょうね」
「知るか。あいつは誰かの影響受けるタマじゃないだろ」
くるみさんと揃って苦笑いする。
「でも清隆さんと、あゆくんと距離を置きたいなら、どうして私にこんな話を持ってきたんですか?」
「……そうだな。すばるとここで話しているのは矛盾している。歩君と縁を切りたいなら、その歩君と一番縁が深いすばると仲良くなろうだなんて、ナンセンスだ」
私があゆくんと一番縁が深いかどうかは分からないけど、くるみさんの言うとおりだ。
あゆくんと関わりたくないなら、私と交流を持つなんてするのはおかしい。
「ああ、たしかに金輪際、あたしは鳴海兄弟に関わりたくないと思った。いや、今でも清隆の方には関わりたくない、絶対だ。歩君にも、最後の事件で解決に関わったときに、同じように、二度と関わりたくないと思ったんだけどな」
そこまで言うと、くるみさんは一瞬、考える素振りを見せて、話を続けた。
「でもな、ふと歩君がすばると話している光景が思い浮かんたんだ」
「私と……ですか?」
「あんな風に本心で話せる相手がいるなら、あいつはまだ取り返しがつくんじゃないか? そう思ったら、まったく知らんぷりも寝覚めが悪くなるような気がしてね」
「ふふっ」
「おい、なぜそこで笑う」
「えっと、話は難しくて、正直理解しきれないところはありますけど。でも、くるみさんって素っ気ないように振る舞っているけど、優しいんですね。あゆくんに似てます」
「おいこら待て!? 歩君と似ているとか心外にも程があるぞ!?」
「どうしてですか? 良いと思いますけど?」
「おまえ歩君好きすぎだろ!? 少なくともあたしに取ってはまったく褒め言葉じゃないぞ!」
「すすす、好き!? 私はあゆくんの対象外じゃないかな!? もちろん私はあゆくんのこと好きじゃないとかじゃないし、むしろその……だけど――」
「もう九割方本心出てるぞ!? 取りあえず落ち着け!?」
そこまで言って、くるみさんは深呼吸を一つ。
「すばるの惚気は置いといて」
「惚気じゃないです」
「置いとけ、話が進まん。あたしは、すばるに歩君と距離を置いた方が良いぞって言いに来たのが本当の目的だったんだけど……」
くるみさんが私の目をじっと見つめる。
「絶対に嫌です」
くるみさんの言葉に、そこまで悩んでいたことを全て振り切って即答した。
これであゆくんと縁を切るなら、自由が利かない小学生の身で、無理を通して毎日あゆくんに関わったりしていない。
「まあ、聞かないだろうなってことはよく分かった。あたしは忠告はした。あとは知らん。勝手にやってくれ」
「はい。気にかけてくれてありがとうございます」
私には受け入れられないことでも、くるみさんは善意で言ってくれたのは分かる。そこは素直にお礼を言った。
まあ――と、くるみさんは続ける。
「歩君とは関わる気はないが、すばるは友達だからね。だから、ある程度は力になるよ」
「……ありがとうございます」
「歩君が無茶なことしないように捕まえとけ。無茶したら絶対に悲しむ奴がいるって分かれば、思い留まれることもあるかもしれん」
「そういうものでしょうか? それに、私であゆくんの助けになれるのかな……?」
「さあね。少なくとも、歩君にとってはすばるがそうでなきゃ、誰もいないんじゃないか? あたしは歩君の交友関係を知っているわけじゃないけどね」
そこまで言って、くるみさんはおもむろにカメラを取り出す。
「と言うわけで、一緒に写真を撮らせて! おじい様に、証拠として友達と一緒に写真を撮ってこいって言われるんだ」
「急にシリアス壊さないでください!? 変化についていけないんですけど!?」
くるみがすばると交流持とうとしたのは、放置してすばるや歩になにかあったら、なんとなく寝覚めが悪いという善意。
有名になりつつあるすばると、取りあえずでも面識を持っておこうという打算。
あと表向き話した日本での友人が欲しく、なんとなく気が合いそうと思ったからと、いろいろな理由込みです。