深山すばるは、鳴海歩くんの幼馴染   作:タンポポ雲

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第4話 お騒がせな二人

 中学一年生。ピカピカの一年生である。中学生で制服になったり、定期試験があったりと環境が変わって新鮮な気分。

 私の中には、前世の経験はあっても実際に体験した記憶はないので、普通に初めてのことばかりだった。

 ちなみに入学前にあゆくんに制服を見せびらかしたら、普通にスルーされた。まったく相変わらずの塩対応である。

 コミュニケーション能力が重視されるこれからの現代社会に、あゆくんが適応していけるのか不安だ。いや私はあゆくんの保護者かって心配だけど。

 

 それにしても、むう……あゆくんってば、人の気も知らないで、澄ました顔しているんだから。

 

「すばる、どうしたのよ。さっきから鳴海君の方見てて」

 

「ふえ!? な、なにもないよ?」

 

 考え事していたら、クラスのお友達が心配してくれたのか、話しかけてくれる。

 

「なにもないわけないでしょ。さっきから旦那様に熱い視線送っちゃって、このこのー」

 

「だ、旦那様って、もう! あゆくんをからかうようなこと言っちゃダメだよ!」

 

「あらー。自分よりも鳴海君のことについて怒るのかしら。鳴海君はすばるに愛されているわねえ」

 

「え、えっと……そう言えばあゆくんと今日のお夕飯のことについて話しておかないといけないんだったー。というわけで、また後でねーっ!」

 

「す、すばる!? ごまかし方がものすごく白々しい上に、夫婦染みてるわよーっ!?」

 

「声が大きいよっ!? 皆に誤解されちゃう!?」

 

「もうとっくに手遅れだと思うけど」

 

 あゆくんの私に対する塩対応から、なぜそういうことになるのだろう。

 うーん、噂って分からない。

 

「あゆくん、今日の晩ご飯についてなんだけど」

 

「……今の流れからそのまま教室で話し続けるのか、おまえは」

 

「え。き、聞いてたの?」

 

「あんな大声で話していたのに、聞こえないわけないだろ」

 

「あ、あはは……そ、それより今日は、久しぶりにあゆくんも私のお家に来てご飯食べよ? お父さんもお母さんもあゆくんといろいろとお話ししたいって言っているし」

 

「そうは言っても、兄貴の分も作らないといけないしな。あとまどかさんも今日来るから、その分も用意してくれって兄貴に頼まれているんだ」

 

「むー、また? というかなんで清隆さんはまどかさんの分まであゆくんに作らせているの?」

 

「別に今更だしな。料理自体は嫌いじゃないし。別にすばるも毎回、俺の手伝いに来なくて良いんだぞ」

 

「ううん、あゆくんが料理作るなら私も行くよ」

 

「相変わらず物好きな奴だな……すばるに言っても聞かないのはよく知っているから、今更強くは拒否しないが」

 

「だってあゆくんとお料理するの楽しいし」

 

「……でだ、今日はどうする? 俺としてはイタリアンにしようと思うんだが」

 

「この前は中華だったよね、たしか」

 

「和食に中華、フレンチにイタリアン辺りは一通り覚えたからな。そろそろ新しい分野も開拓したいところだが――」

 

「……悲しい、私は悲しいよあゆくん!」

 

「いきなりどうした!?」

 

「まだ中学一年生なのに、既に多くのジャンルの料理を覚えて! 栄養学まで勉強して! 土曜日も日曜日も休みなく、毎日カロリー計算まで考えてお料理! その上、また新しい料理を覚えようとしている! 更に1円でも安く食材を買うために、毎日特売のチェックも欠かさない! なんなの!? あゆくんは将来、料理人志望なの!? それとも料理店でも開くつもりなの!?」

 

「いや、そんなつもりはまったくないが」

 

「だったらたまにはお料理休んでウチに来て夕ご飯食べよう! あゆくんもう一年もウチで夕ご飯食べてないじゃない!」

 

「俺が兄貴の分も料理しないと、もれなく兄貴もついてくるんだ。あまり深山のご両親に迷惑かけるわけにはいかないって、前にも言っただろ。それに料理は好きでやっているし、別にたいして負担でもない」

 

「迷惑じゃないもん! なんだったら料理は私が作るから!」

 

「……よく考えたら、俺とほぼ同等の料理を作れるすばるも大概じゃないか?」

 

「……ふえ?」

 

「さっき、俺に栄養学まで勉強してとか言っていたが、すばるも俺と一緒に料理しているとき、一緒に栄養バランスとか考えてるし。俺が無理しているなら、すばるはどうなんだ?」

 

「え? えっと……私は良いの!」

 

「理不尽だなおい」

 

「だって私は好きであゆくんとお料理しているもん。清隆さんの料理を作らされているあゆくんとは別だよ」

 

「それなら、俺は兄貴の料理だって別に嫌々作っているわけじゃ――」

 

「……わけじゃ?」

 

「……やっぱあの兄貴に作るのはそう好きでもないな。料理自体は好きなのは本当だが」

 

「うん、知ってた」

 

「兄貴は色々味にうるさいからな。自分ではめったに作ろうとしないくせに」

 

「その上、いざ自分で作ると私達より上手く作るもんね」

 

「しかも非常にウザいドヤ顔してくるからな。迷惑極まりない」

 

 二人してため息をつく。まったく、あのお兄さんは。

 

「そろそろ昼休みも終わるだろ。とりあえず今日はまどかさんも来るから、すばるの家についてはまた今度な」

 

「う、うん。でもいつでも来て良いからね? 無理しちゃダメだよ?」

 

「すばるもな。それに……」

 

「あゆくん? どうしたの」

 

「俺もすばると料理するのは楽しいからな」

 

「……あゆくん。うん、私もあゆくんとお料理するの楽しいよ」

 

 あゆくんにそう思ってもらえるなら、私としてもすごく嬉しい。

 

「じゃあ、学校終わったら一緒に買い物行こうよ」

 

「分かった。また放課後だな」

 

 えへへ。放課後楽しみだなあ。

 自分の席に戻ろうとして振り返ると、そこにはあゆくんのところに行く前にお話ししてたお友達含む、クラスの子達が、私達を見ていた。

 特にさっき話していた子は、とても良い笑顔で私を見ている。

 

 ……注目集めてたの、すっかり忘れてたーっ!?

 

「もう結婚しちゃえば?」

 

「そ、そんなんじゃないからーっ!?」

 

 

 

 もうじき中学二年生になろうとする、ある冬の日の日曜日。

 

 いつもの休日と同じように、私はあゆくんと一緒にお昼ご飯の準備をしていた。

 

「あゆくん、今日は何作ろっか?」

 

「豆腐を使いたいから、兄貴にそう言ったら麻婆豆腐が食べたいんだとよ。わざわざ挽き肉と辛子味噌のハーモニーとか意味不明なこと語ってたぞ」

 

「あはは、相変わらずだね」

 

「それは俺が作る。冷蔵庫にあるもの使って良いから、副菜を任せてもいいか?」

 

「了解、任されました!」

 

 そうして、準備に取りかかったところで、清隆さんがあゆくんに声をかける。

 

「ああ、そうそう。もうすぐ、まどかがやってくるから、あいつの分も用意してやってくれ」

 

「まどかさんが? 急な話だな」

 

「お兄さん、そういうことはもっと早く言ってくださいよ……」

 

 料理の分量が変わるんだから。

 

「おいおい、私とまどかはもうじき入籍する仲だぞ? 気軽に呼んだって構わないだろう」

 

「別に悪いとは言ってないだろ。料理の分量が変わるんだから、もう少し事前に言って欲しかったけどな」

 

「その辺りは歩とすばるお嬢さんに任せれば、なんとでもなるだろうと思ってな」

 

「良く分からない、身勝手な期待をかけるな。兄貴に振り回されるすばるの身にもなれ」

 

「おいおい、そう怒るな。おまえの愛しのすばるお嬢さんに余計な苦労をかけるのは、そりゃ少しは悪いとは思っているんだぞ? だがな、私だって休日くらい、もうじき妻になる人とイチャイチャしたいんだ」

 

「妙なことを言うな。だったら俺とすばるは二人の昼飯作ったら外出るから、好きにすればいいだろ」

 

「あゆくん、それなら今日は二人でお出かけしない?」

 

「ああ、それも良いかもな。今日は寒いから屋内の方が良いか?」

 

「そうだね! えへへ、あゆくんとお出かけー。それなら、久しぶりにショッピングモールでも――」

 

「こらこら、二人で勝手にデートの算段しているんじゃない。まどかは歩に用があってくるんだから」

 

「デートとかそういうのじゃない。って俺に用だって? また同居の話か?」

 

 あゆくんは清隆さんとまどかさんの結婚後、実家に帰るつもりらしい。八歳の頃からここで住んでいるし、あゆくんのご両親は、あゆくんにも清隆さんにも、ほぼ不干渉だから、実家に帰ってもほぼ一人暮らしのような状態になっちゃうんだけど。

 

「俺は新婚の邪魔をするほど野暮じゃないぞ?」

 

 あゆくんは、同居の件についてやんわりと拒否する。

 

「私はおまえがいてもいちゃいちゃできるぞ?」

 

「それはそれで迷惑な話だな。少しは人目を気にしろよ」

 

「待て待て。いつも私の目の前で、すばるお嬢さんといちゃいちゃしているおまえには言われたくないぞ?」

 

「い、いちゃいちゃって!? わ、私とあゆくんってそんな風に見えているんですか!?」

 

「落ち着けすばる。兄貴さっきからなに妙なこと言っているんだ。すばるだって迷惑してるだろ」

 

「だまらっしゃい。毎日毎日、仲むつまじく料理したり、肩寄せ合いながら勉強しおってからに。おかげで私は肩身の狭い思いをしているんだぞ?」

 

「それは、兄貴がまったく家事しないせいだろ」

 

「それは、お兄さんがあゆくんに家事を丸投げしているからですよね?」

 

 私とあゆくんは、目を合わせて何言ってんだ、この人という顔をする。

 清隆さんがもっとしっかりしていれば、あゆくんも私も毎日ここで家事をすることになっていないんだから。 

 

「ほら見ろ! ツッコミまで息ぴったりじゃないか! 私だってなあ、毎日甲斐甲斐しく通って、一緒に料理しながら『キヨくんと一緒にお料理するの好きだから』なんて言ってくれる幼馴染がいれば家事くらいするぞ!」

 

「そんな幼馴染、お兄さんの妄想の中にしかいないと思いますけど?」

 

「そうだな。現実を見ろよ兄貴。そんな幼馴染が実在するわけないだろ」

 

 私達の返答に、なぜか今度は清隆さんが何言ってんだこいつらみたいな顔をするが、スルーだ。お兄さんを相手していたら、お昼が過ぎてしまう。

 

 

 

 やがて、まどかさんが来て、四人で昼食を済ます。

 まどかさんは、清隆さんと結婚した後も、あゆくんを同居するように説得するが、あゆくんは変わらず実家に帰ると主張する。

 

「とにかく歩君、私達に気を遣わず、このまま同居しても良いのよ?」

 

「気を遣っているわけじゃありません」

 

「でも私、家事が全然ダメなのよ。歩君とすばるちゃんがいないと、かなり困っちゃうなーって」

 

 まどかさんは家事がダメらしい。清隆さんはできるけどやらないだろうし、それってあゆくんの負担が増えるだけなのでは?

 

「百歩譲って俺は良いとしても、すばるに頼るのはやめてください。俺がいなければ、兄貴がやりますよ。すばるもここに来る必要がなくなりますし、俺が実家に戻った方が皆良いでしょう」

 

「それなら、前から言ってるけど、あゆくんが私のお家に住めば良いよ! お父さんもお母さんも、あゆくんが実家に帰るつもりってことを聞いてから、ずっとそう言ってくれてるし」

 

「気持ちはありがたいが、そこまですばるに迷惑かけるわけにいかないだろ?」

 

「迷惑じゃないよ。それに、私の家ならピアノだって弾けるよ?」

 

「それは確かに魅力的だが……ってそういう問題じゃないだろ」

 

「なんだ、中学一年生でもう同棲か? 歩もすばるお嬢さんも進んでいるな」

 

「ど、同棲って!? 私は別にそんなつもりじゃ! あ、でもあゆくんが同じ家に暮らすってことは間違っているわけでもない……?」

 

「落ち着け」

 

「あたっ」

 

 あゆくんに軽く頭をチョップされる。といっても、ほんの軽くでなでるようなものだったけど。

 

「そ、それでも良いかもしれないけど、それだとやっぱり深山さんに悪いかなーって思うのよね。ほら、歩君はすばるちゃんや、すばるちゃんのご両親ととても仲が良いけど、別に親戚でもなんでもないわけじゃない?」

 

 まどかさんが、あゆくんが深山家に来る案に対して待ったをかける。

 

「さっきも言いましたけど、お父さんもお母さんもあゆくんなら大歓迎って言ってますよ?」

 

「それはそれ、これはこれだ。歩のことで、あまり深山さんに迷惑をかけるのも気が引けるだろう?」

 

「まどかさんはまだしも、兄貴がそれを言う権利はないだろ。今までどんだけ迷惑かけてきたと思ってやがる。塩まかれててもおかしくないレベルだぞ」

 

「何を言う。私は歩に家事をお願いしただけで、別にすばるお嬢さんには家事を頼んでいないぞ?」

 

「そもそも、あゆくんに全部お任せすることがおかしいと気づいてください。だから私やお母さんがあゆくんのお手伝いにきたり、あゆくんを家に住まわせるように言うんです」

 

 逆に言うと、清隆さんはお断りということだけど。大人とかそういうの抜きにしても。

 

「それに、さっきすばるに無茶振りしていただろ。どの口でそれを言うんだ」

 

「そこはほら、歩もすばるお嬢さんもしっかりしているからな。私も信頼して家事を任せることができるんだ」

 

 清隆さんは分かったような、分かっていないようなことを言う。この人はいつも大体こんな感じだ。

 

「それにね、正直な事言うと、歩君が実家やすばるちゃんのお家に行くと、私が追い出したみたいになるじゃない? それだと心苦しいし、ここは私を助けると思って、同居してくれないかしら?」

 

 まどかさんが、そう言ってあゆくんに頼み込んでくる。

 

「別に歩はそんな事気にしないぞ? こいつはどこでもやっていけるさ」

 

「お兄さんがそれを言うのは、おかしいですよね?」

 

 たしかにあゆくんはどこでもやっていけそうな自活能力はあるけど、そういう問題でもない。

 

「それに、鳴海のご両親も良い気はしないでしょうし」

 

「ウチの両親は私にも歩にも無関心だ。歩がここで同居でも、実家に戻ってもまったく構わないと思うぞ?」

 

「け、けど歩君はご近所とも懇意にしているし、いなくなったら絶対なにかあったか聞かれるじゃない?」

 

「はっはっはっ、それこそ今更だな。歩が近所付き合いを完璧にしているせいで、私はご近所からは、ちゃらんぽらん呼ばわりだからな。結婚後も今まで通り歩に家事やご近所付き合いを任せるなら、まどかも恐らく同じだぞ?」

 

「どう考えても、兄貴の自業自得だろ。俺のせいにするな」

 

「あゆくん! やっぱり私のお家に来ようよ!」

 

「すばるちゃん、私の話聞いてた?」

 

 だってあゆくんが実家に戻っても、ここに同居してても絶対ろくなもんじゃない。

 

「なあまどか。私の両親は今言ったとおりの無関心だから気にする必要もないし、ご近所の評判も今更だ。ここは二人で新婚気分、気兼ねなくいちゃいちゃするのもありなんじゃないか?」

 

「両親はどうしようもないからともかく、近所の評判は気にしろよ」

 

 あゆくんの冷静なツッコミが入る。

 

「歩がいたら、すばるお嬢さんも歩目当てで通い続けるだろうし、二人の時間なんてないぞ?」

 

 しかし清隆さんはツッコミをスルーして、まどかさんに話し続ける。

 にしても、あゆくん目当てって……いや、まあそうなんだけど。

 

「兄貴の言う通りです。新婚なんですし、まどかさんも俺はいない方が良いでしょう」

 

「そ、そこはほら。歩君もじきに高校生受験だし、遠くの全寮制の高校に放り込むとか――ご、ごほん。ちゅ、中学生の歩君がそんなこと気にする必要ないのよー?」

 

 おいこら。あゆくんを勝手に遠くに追いやろうとするんじゃない。

 

 その後、結局、同居か実家に帰るかをかけて、まどかさんとあゆくんがポーカー勝負をすることになった。

 制限時間は十五分、チップはそれぞれ五十枚で、制限時間終了後に一枚でも多くチップを持っていた方の勝ちだ。

 ちなみに、イカサマをしたらその時点でした方の負けとのこと。

 

「じゃあ、トランプは私が配ることで良いですか?」

 

「ちょっと待った。すばるお嬢さんなら、歩の有利になるようにカードが配る恐れがあるだろう? ここは私に任せてもらおう」

 

 私がカードを配る役をしようとしたら、清隆さんが自分が配る役をすると言ってきた。

 イカサマするんじゃね? とか、清隆さんだけには言われたくない。

 

「私、そんな器用な真似できませんよ? お兄さんじゃあるまいし」

 

「すばると兄貴だったら、すばるの方が遙かに信用できるんだが? それにすばるの言うとおり、兄貴だったら、自分の好きなようにカードを配るくらいできるんじゃないか?」

 

「なにを言う。お兄様を信用しろ」

 

「清隆さん、そんな手品師みたいなことできるの?」

 

 まどかさんが驚いたように清隆さんを見る。

 

「おいおい、私はただの刑事だぞ。でも安心しろ、まどか。仮にできたとしてもおまえの不利にはしないさ、マイ・スイートハート!」

 

「ああ、それでこそ私のダーリンよ!」

 

 清隆さんとまどかさんの変な小芝居を、私とあゆくんはものすごく冷めた目で見てた。

 うん……この二人と同居とか、あゆくんの精神衛生上、絶対良くないと思う。

 

 十分経過後、勝負はまどかさん有利に進む。

 清隆さんから配られたカードが、まどかさんに断然有利になっている。人にあゆくんにひいきするじゃないかと言っておいて、これは酷い。

 あゆくんが残った全チップをかけた最期の勝負で、あゆくんはクラブのフラッシュ。まどかさんがスペードのロイヤルストレートフラッシュ。まどかさんの勝ちって、六十五万分の一の役をここで出すとか……イカサマするにしても、もうちょっと現実的な役をですね。

 あ、やっぱりあゆくんもイカサマ疑っている。

 トランプをすり替えたなら、捨て札か山札にまどかさんが出したカードがあるはず。あゆくんの捨てたカードにスペードはないとのことなので、山札を見ればイカサマかどうか分かる。

 あゆくんが清隆さんに山札を見せるよう、要求する。

 

「ふふん、歩君。これで勝ったつもりかしら?」

 

 清隆さんがあゆくんに山札を渡そうとしたとき、まどかさんが変な笑いをもらす。

 ……なんとなく、この後の展開が読めた気がするので、さりげなく窓に近づく。

 

「なんですって?」

 

「清隆さん、トランプこっちにパス!」

 

「OK! マイ・スイートハート!」

 

「あ、兄貴、なんてことを!」

 

「えーい、こんなトランプ、窓から――」

 

「させるわけないじゃないですか」

 

 私は窓の前に立ちふさがり、まどかさんからトランプを奪う。

 普通なら現職刑事のまどかさんから奪うなんて至難の業だが、窓を開けてトランプをばらまくことに頭が一杯だったまどかさんと、行動を読んでて、まどかさんからトランプを奪い返すことを想定していた私の差で、無事奪うことに成功した。

 

「ってなにするのよ! すばるちゃんのオニ! あくま!」

 

 まどかさんに構わず、すかさずあゆくんにトランプをパスする。

 ボサッとしていたら、まどかさんか清隆さんにまた奪われかねない。

 

「すまないな、すばる。まったく――まさかとは思いましたが、本当にやりましたね」

 

 一連の流れにも、あゆくんは落ち着いたようにまどかさんに話しかける。

 

「ま、まさか歩君、私が窓からトランプをばらまいて、イカサマの証拠を隠滅しようとすることを読んでいたとでも言うの!?」

 

 驚くまどかさんを横に、清隆さんも涼しい顔をしていた。

 ……恐らく、私がまどかさんからトランプを奪い返すのと、あゆくんにトランプを渡すことのどちらかは間違いなく妨害できたと思うけど、あえて見逃した気がする。

 

 たぶん、まどかさんがトランプを外にばらまけても、ばらまけなくても、結果は変わらない(・・・・・・・・)ことを読んでいたに違いない。

 

 あゆくんは、まどかさんが山札のトランプを外にばらまくことを想定しており、エースのフォーカードを捨て札としていたらしい。フォーカードで捨てるとかなかなかできることじゃない……けど、清隆さんのせいでそれしか勝ち目がなかったんだけど。

 結局、私がしたことはトランプを外にばらまかせて、近所の迷惑になることと、あゆくんを寒空に中でトランプ拾いすることを回避しただけだったっぽい。ばらまいたのはまどかさんでも、あゆくんはトランプ拾いに行くだろうし。

 まどかさんに勝たせたいなら、あゆくんにエース四枚を渡すことないし、あゆくんに勝ち目を残して公平な勝負をさせたいだけなら、まどかさんが有利になるようにトランプを配るなんてことをする必要がない。

 いったい、この人何がしたいんだろう。

 

 ちなみに、まどかさんは『羽丘まどか』の名にかけて、この勝負に負けたら二度と同居の話はしないと約束していたが、清隆さんと結婚したら『鳴海まどか』になるから、『羽丘まどか』の名前に義理立てする必要ないとか、だから次の勝負まで首を洗って待っていろとか言っていた。

 この人、意外と清隆さんと同じ種類の人じゃないだろうか……?

 

 なお、最終的にはあゆくんを説得して深山家に住まわせることに成功した。

 実家に戻って毎日押しかけられるくらいなら、一緒に住んだ方がマシかとか言われた。

 失礼な。仮に実家に戻ったとしても、あゆくんの様子を見に行くだけで、押しかけるわけじゃないのに。




原作だけ読んでたときは、歩が初恋の人を奪われたって言ってるけどこれ歩の横恋慕では?
と思っていたけれども、小説やドラマCDも合わせると、まどかがまだ清隆を嫌っていた頃に、歩とまどかを会わせて歩にまどかへの好意を抱かせた上で、清隆がまどかとの仲を深まるのに利用されて、その様子をわざわざ見せつけられていたっぽい。

まさに鬼の所行。

ここでは、歩はまどかに恋心は抱いていないので、歩のストレスはだいぶ緩和されています。(まどかに振り回されるのは変わらない)
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