私の言葉に、清隆さんはなにも言わずに悠然と立ったままだ。
人に難しいこと聞いておいて、何も言わずにいるのは止めて欲しい。どうしていいか分からない。
「清隆さん、私の回答のお代と言ってはなんですが、私からも質問良いですか?」
仕方ないので、私の方から話題を振る。
「うん、なんだい?」
「あゆくんの興味を持ったもの、それについてあゆくんに見せつけるように、清隆さんが飛び抜けた結果を残してあるのはどうしてですか? あゆくんが嫌いだから、あゆくんの心をくじきたかった……そう思ったこともありますが、お兄さんはあゆくんを嫌っているようには見えません。だからこそ、どうしてそのようなことを?」
「それは前提が間違っているな。お嬢さん」
清隆さんは気楽にヒラヒラと手を振ってみせる。
「私は別に歩の嫌がらせで、そのようなことをしているわけではない。自分で言うのもなんだが、気まぐれでなにかをするだけで、私はそれを完璧にこなしてしまう。たいして努力も必要なくだ」
私はどう返答していいか悩む。たしかに、清隆さんは常人離れしているというか、人間かと疑うようなことすらしでかす。
清隆さんは、そこにいるだけで周囲の人を強く惹き付けていた。
あゆくんの興味を持ったあらゆることで、あゆくんより遙かに上回る結果を出して、あゆくんの心を折ってきた。
そして、あゆくんが最も興味を持ったピアノでさえ、かつて清隆さん自身が伝説とも言われ、世界的に有名なピアニストであったことを知って、あゆくんを絶望させた。
「だからこそ、かつての私は自分が夢中になれる、努力を必要とするなにかを探し求めていてね。歩の嫌がらせをするつもりはなかった。以前、自身の慰めにあらゆる分野に挑戦して完璧な結果を残したがために、巡り巡って歩の壁になってしまっただけだ」
清隆さんの説明に、嘘はないように思える。だからこそ、もう一つ訊いておきたかった。
「それじゃあ、自分の兄である清隆さんが世界的に有名なピアニストであることを、あゆくんがなぜ数年間も知らなかったんですか? それと、以前にあゆくんを『天使の指先』と評した、有名な批評家の前で、清隆さんが数年ぶりにピアノを弾いたと聞きましたが――」
これはうがち過ぎかもしれないけど。
「正直、邪推だとも思いますけれど。もしかして、清隆さんがかつてピアニストであったことを、あゆくんが知るタイミングを、清隆さんが図っていたんじゃないですか?」
普通ならそんなことは不可能だが、清隆さんなら可能ではないだろうか。
ピアノに興味を持つ前に、あゆくんがお兄さんのことを知れば、ピアノをやる前に興味をなくすかもしれない。
それよりもあゆくんにピアノに興味を持たせ、あゆくんがピアノに夢中になり厳しい練習を重ねて、結果を出してみんなから認められて。
自分の夢はピアノだとあゆくんが思ってから、清隆さんのことを知った方が、あゆくんにより絶望を与えることができる。
「その答えは単純なことだよ。私がピアノの世界を引退するときの事件を知っているかな?」
「たしか、ピアノの天板で指を折ったとか。なぜ、そんなことを?」
聞くだけで気が滅入ってくるような事件だ。どんなことがあったにしても、自分からそんなことをするのは尋常じゃない。
「簡単なことさ。親への反抗だよ。先ほども言ったが、私はピアノの世界で頂点を簡単につかんでしまったが、ピアノにさしたる興味も持てなかった。だから他のことをしたくなった。だが、私の母親は、私がピアノの世界から離れることを決して許そうしないだろう。だから、強制的に離れざるを得ない手段を取ることにしたのさ」
……そのために、指を折るようなことをするだろうか? 一歩間違えば、二度と手が使えないような未来さえあったはずだ。そうなったら、他のことをする以前の問題だ。
けれども、人の心を完全に理解することなんて不可能だ。ましてや、その相手が清隆さんなら尚更である。
それこそ、この人はピアノを二度と続けられない怪我と思わせておいてから、あっさりと指の機能を取り戻せる算段でもあったのかもしれない。にわかには信じがたい話だけれども。
「私はそのことに後悔していないが、まだ幼い歩にそのような痛ましい事件を聞かせるわけにはいかないだろう? だから、かつてのコネも使って、歩には私がピアニストであったことも含めて、伝わらないように関係者にお願いしたのさ。ただ、完璧に口止めするのも不可能だった。その批評家の人には偶然会って、どうしてもと演奏をせがまれてね。そのせいで、巡り巡って歩が知ることになってしまったのは、お嬢さんも知っての通りだ」
筋は通っていると思う。真偽を確かめる方法は、少なくとも私にはない。
それでも、どこか清隆さんの回答が引っかかる。清隆さんなら、自分の指を折らずに親からの束縛から逃れ、あゆくんも傷つけずに済むような、穏当な手段を取れたのではないだろうか?
けれど清隆さんがそこまでして、故意であゆくんの心を折ろうとした理由が、どうしても私には見当たらないのも確かだった。
「でも……清隆さんなら、あゆくんに劣等感を与えないように、うまくやることができたんじゃないですか?」
「それは私を過大評価しすぎだよ。いくら私でも、人の心までは自由にできない。歩には悪いことをしたと思っているし、だからこそ、歩の支えでいてくれるお嬢さんには感謝している」
そうまで言われてしまったら、これ以上は私からは何も言えない。
だいたい、私が清隆さんに言ったことはすべて憶測に過ぎないのだから。これ以上は、水掛け論にしかならないだろう。
「……変な質問してしまってすみません」
「構わないさ。先に変なことを訊いたのは私だし、歩のことを強く思ってくれているからこそ出た疑問だったのだろう」
「そう言ってもらえると、助かります。まあ、私とあゆくんは四歳からの付き合いですからね。といっても、全部が全部、理解出来るわけじゃないですけど」
「そういうものか?」
「それはそうですよ。いくら親しくても、完全に理解するなんて無理ですから。だから、私は毎日あゆくんとお話しして、新しい一面を見つけるんです。お兄さんとまどかさんだってそうでしょう?」
「私のおふざけにつきあってくれるのは、まどかくらいだからな。さすがマイ・スイートハート!」
なんでこの人は、すぐに話の腰を折るんだろう。
「そういうところですよ! お兄さんも、おふざけ抜きであゆくんときちんと話し合ってください。さっき、人の心はどうにもできないって言いましたけど、やっぱりお兄さんなら、あゆくんと上手く付き合うことができたんじゃないですか?」
「うむ、善処しよう」
「いや、善処じゃなくてやってくださいよ」
無理矢理連れてこられて、ピアノを聴かされた後に、あゆくんのピアノとどっちが好きとか、あゆくんに構うのはなぜとか質問したり、これはいったいなんだったのだろう。
「清隆さん。今日は、どうしてここに連れてきたんですか?」
「ふむ。単なる気まぐれ……とでもしておこうか」
「無理矢理連れてきて、気まぐれなわけないでしょう。話してくれないと、分からないですよ。私は清隆さんじゃないんですから」
この人はいつもそうだ。他の人の思考は怖いくらいに見通すのに、自分の真意は決して見せない。
「そうやって、いつも
これは本当のところ、私の単なる八つ当たりかもしれない。それでも、言葉を止められなかった。
「あゆくんは、ずっとお兄さんのことで苦しんでいたんですよ! お兄さんがそのことを知らないわけないです! お兄さんがそれを不本意だと言うのなら、ちゃんとあゆくんにそう言って、あゆくんと話し合えば良かったじゃないですか! それなら、あゆくんだってあんなに苦しまずに――」
「私のことなど、言ったところでだれも理解はしないさ」
私の言葉を遮って言った清隆さんの言葉は、いつものふざけた様子がまるでなく、抑揚のない淡々とした言い方だった。
「なんの努力をしなくとも、あらゆるものが手に入る。人の気を惹こうとしなくても、誰もが私を信頼し、好意を寄せる。そんな者の心を、誰が理解できる? いや、そのような者の心など、それ以前に理解しようとすら思わないだろう」
「……でも、それでも。清隆さんにもし不安や苦悩があるのなら。それを話せば、まどかさんやあゆくんだって聞いてくれるはずです」
「私の言葉を信じるものはいても、共感するものなどありはしないさ。私は、絶対なのだからね」
「……それは、まどかさんもですか?」
私の言葉に、清隆さんはなにも答えようとしない。
「清隆さんがそう思っていたとしても、あゆくんと、まどかさんには悩みを話してあげて欲しいです。二人も、きっと清隆さんを理解することを望んでいると思います」
言った後、ちょっと踏み込みすぎかなとも思った。
あゆくんに関してはともかく、清隆さんとまどかさんのことには、外野の私がなにかを言うべきでもないだろう。
「……まったく、歩もお節介な子を捕まえたものだ」
「すみません。でも、私は別にお節介でもないですよ。ただ、もう少し清隆さんには、あゆくんに優しくして欲しかっただけです」
「考えておこう。さて、長く時間を取らせてしまってすまないね。帰ろうか」
私の文句はスルーされて、帰りを促される。
私は、清隆さんの後を追って帰ろうして――ふと、あゆくんが小さい頃に弾いていたであろうピアノを見つめた。
「それとも、折角の歩の実家だ。少し見ていくかい?」
「……いえ、大丈夫です。帰りましょう」
ここには、ピアノ以外には、あゆくんの良い思い出はないだろうから。
お兄さんのせいとはいえ、あゆくんに一人買い物を任せてしまっているのだ。早く帰って、あゆくんと一緒に晩ご飯を作りたい。
ああ、でもこれだけは言っておかないといけない。とても大切なことだ。
「清隆さん、最後に一つ良いですか?」
「なんだい?」
「お兄さんのせいで、一人で買い物させる羽目になったあゆくんに謝ってください。誠心誠意」
「ははは、すばるお嬢さん。とても素敵な笑顔で威圧感出すのは止めてもらおうか」
「ダメです。いつもの様におちゃらけた様子で謝るのも絶対に許しません。真剣に謝らないと許しません。絶対に」
「お嬢さんは本当に歩が好きなのだな。先程、歩のピアノの方が好きと言ったが、恋は盲目とやらに陥っているのではないか?」
「まあ、私があゆくんを好きなのはその通りですけど……あゆくんの演奏の方が好きって人は私以外にもいると思いますよ?」
「これでも、私はピアノ界で伝説と謳われたほどのピアニストなのだがね」
「でも、清隆さんはもうピアニストではないんでしょう?」
「たしかに今の私は刑事だな。だが腕前は衰えていなかっただろう? お嬢さん自身、先程そう言ったのではないかな?」
私は清隆さんの言葉に、ついきょとんとした顔を向けてしまった。
「いえ、職業としての意味ではないですよ?」
私の言葉に、清隆さんは煙に巻かれたような目をこちらに向けた。
別に私は謎掛けをしているつもりはなかったんだけど。
「清隆さんにも、分からないことってあるんですね?」
でもこれは、清隆さんだからこそ分からないのかもしれない。
「……どういうことだ?」
私が今の清隆さんをピアニストでないと言ったのは、技術力の問題ではないし、ピアノに対する情熱とか姿勢とか、はたまた練習量とかそういうものでもない。もっと単純なことだ。
それこそ清隆さんのことを詳しく知れば、大抵のピアニストは同じことを言うだろう。
「いえ。それなら宿題にしておきましょうか。答えが分かったら教えてください」
その後。
「ほら、歩。お詫びといってはなんだが、おまえに素敵なプレゼントだ」
「いきなりなんだ兄貴。なんのテープだこれ? まさか呪いのテープとかじゃないだろうな?」
「そんなわけあるか。お兄様から愛しの弟へのプレゼントだぞ?」
「気色の悪いことを言うなっ」
「とりあえず聞いてみろ」
「まったく、聞けば良いんだろ、聞けば」
あゆくんがテープレコーダーのスイッチを押すと、音声が流れ出す。
『どちらが好みかと言われると、あゆくんのピアノの方が、私は断然好きですよ』
『私は、あゆくんから沢山のものをもらっています。一緒に料理するとき、ピアノの演奏をするとき、ご飯を食べるとき、お話しするとき。沢山のことを教えてもらって、楽しかったり、ときにケンカしたり、仲直りしたり。全部全部、あゆくんがいなければならない、大切な時間です』
『あゆくんがいなければ、今の私はいません。むしろ、私の方があゆくんからもらい過ぎているくらいです』
『私は、私があゆくんと一緒にいたいからいるんです。それだけです』
「わああああああっ!? なななな、なんで録音しているんですかーっ!? 録音は絶対嫌だって言いましたよね!?」
「ふはははは! 私は録音すると言った後、やめるとは一言も言っていないぞお嬢さん!」
もう怒った! 今日という今日は日頃の恨みも合わせて、お灸を据えてやる!
「あれなら、すばるお嬢さんはこれからも歩から離れることはないだろう。予想通りだ」
私――鳴海清隆は今日のすばるお嬢さんとの会話を思い返す。
私は歩に劣等感を与えたのは、本意ではないとすばるお嬢さんには言った。
完全に嘘ではないが、真実でもない。たしかに、手慰みに様々な分野に手を出し、最上の結果を簡単に出してはこんなものかと落胆し、次のものに手を出して、またあっさりと頂点に位置してしまう。そんなことを繰り返してきた。
私にとっては無価値なそれらの過去の結果を、故意に見えないように巧妙に、歩に劣等感を与えるには最高のタイミングで提示した。
ピアノもそうだ。歩がピアノを自分の進む道だと思い、将来の夢とまで思わせてから、その希望を砕いた。その方が、最初から知るよりも遙かに深い絶望を与えることができるから。それが真実だ。
全ては、歩に私が望む役割を果たさせるため。
そのために、歩からあらゆるものが手に入らないように、私が奪う――いや、最初から手に入らないようにした。
唯一の例外が『深山すばる』だ。
歩の周囲の者に私を印象づけさせ、歩を『鳴海清隆の弟』としてしか見ないようにする。
そして、歩を孤立させる。残酷だが、歩を『救世主』として育てるには、必要なプロセスだった。
しかし、一人だけ『鳴海清隆の弟』としてではなく、『鳴海歩』として歩に接する少女がいた。それがすばるお嬢さんだ。
私は成人したそのとき『神』として覚醒し、『悪魔』を滅ぼし、その影響をことごとく消し去った。その後始末がほぼ終わったとき、『深山すばる』は既に歩の心に深く入り込んでしまっていた。
最初は他の者と同じように、それとなく歩とすばるお嬢さんを疎遠にしようとした。
また、歩や私のことで、深山家にあえて余計な負担や迷惑をかけたり、私達兄弟を嫌うくるみお嬢さんを、すばるお嬢さんと友好関係を築かせたりと、すばるお嬢さんから歩を遠ざけるように誘導したこともあるが、既に歩と信頼関係を築き上げていたすばるお嬢さんには、効果は薄かった。
強制的に歩からすばるお嬢さんを遠ざける手段はいくらでもあったが、私はあえて放置することにした。
既に歩の唯一の理解者となっていたすばるお嬢さんを、無理矢理にでも歩から遠ざければ、それこそ『深山すばる』は歩の中で美化され、心の支えとして永遠に残り続けてしまう。
「これから歩とブレード・チルドレンを巡る物語には、すばるお嬢さんが歩の役に立てる局面はない。歩がもがき、苦しんでいるときに、お嬢さんはなにもできない」
すばるお嬢さんは優秀ではあるが、あくまで常人の域にある存在だ。
ブレード・チルドレンと関わるには、最低限の戦闘能力も、歩に匹敵するような論理を構築する能力もない。
ブレード・チルドレンを使う私の計画には、なんの影響も与えられない。
歩の心の面を除けば、すばるお嬢さんは放置していてなんら差し支えのない存在だ。
「そして、ブレード・チルドレンとの争いのときには、とても頼りになる、自分以外の女性が歩をサポートするだろう。それでもお嬢さんは、歩の心の支えでいられるかな?」
歩をブレード・チルドレンと戦わせ、成長させる。私の描く結末に必要なシナリオだ。
だが、歩だけでは乗り越えられない。そのため、私が歩がもっとも頼りにするだろうキャラクターを創り、送り出すつもりだ。
だが、それでも歩とすばるお嬢さんは離れることはないだろう。
歩にとっても、すばるお嬢さんにとっても、もはや互いが互いにいなくてはならない存在になっている。
その上、二人とも――特にすばるお嬢さんは一見そうは見えないが、
子供でありながら、冷静に状況を見据え、これから起こるであろう問題を予測し、その上で周りの人のことも考え、二人一緒に穏やかにいられるように最善の努力をし、振る舞っている。
そうでなければ、小学生でありながら、歩と毎日一緒に家事をするために通い続けるなどという、すばるお嬢さんの行動など、良識的かつ常識のあるすばるお嬢さんの両親が認めるわけはない。
大抵の問題なら二人で乗り越えていけるだろう。ブレード・チルドレンは『大抵』などでは到底収まらないが。
「ブレード・チルドレン、そしてミズシロ火澄を乗り越え、なお、すばるお嬢さんが歩の支えとなれるなら、それはそれで好都合だ。それでこそ、『深山すばる』の存在は歩の枷となり、弱点となる。それも飛び切りのだ」
――まったく、自分のことながらろくでもないな。
そう思いながらも、企みを止めようとは思わなかった。
『あゆくんがいなければ、今の『私』はいません』
ふと、すばるお嬢さんの言葉を思い返す。
『深山すばる』がいなければ、『鳴海歩』は今よりも後ろ向きで、自分はなにも手に入れる資格などないと諦める性格になっていただろう。
『鳴海歩』がいなければ、『深山すばる』はあそこまでひたむきに、ピアノや料理に取り組むことも、他の誰かのために懸命になれる性格にもなっていなかっただろう。
お互いに理解し協力し合い、共に歩んでいける。そんな温かな関係が、ただ羨ましく思った。
誰一人、同じところに立てる者がいない遙か高みにいる私には、絶対に手に入らないものだ。
可能性があるとすれば、ただ一人。『ミズシロ・ヤイバ』とは、同じ高みにいるがために、分かり合えた可能性があったかもしれない。
だが、私と彼はどこまでも敵である運命だった。そして、私は彼を『神』として抹殺した。
故に、私を理解できるものなど。共に歩んでくれる者など、どこにもいない。
まどかは、確かに私を愛してくれた。こんなろくでなしと一緒になってくれたことに、深く感謝もしている。
しかし、まどかは私を理解できない。まどかに非はない。私を理解してくれる存在は、まどかに限らず、もう世界中のどこにもいない。
もしかしたら、私は歩に嫉妬しているのだろうか。
ああ、だとしたら――本当に鳴海清隆は見下げた存在だ。
「歩から全てを奪っておきながら、唯一、歩が手に入れたものをうらやましがるとは。私は、どこまでも救えないな」
さて。表舞台で打てる手はすべて打った。そろそろ、私は行方をくらまして裏から動くこととしよう。
まどかは間違いなく、しばらくはなにもできないほどのショックを受ける。だが、歩とすばるお嬢さんがいれば、まどかもそのうち立ち直れる。表向きは、という但し書きがつくが。
それも、歩をこの地に縛り付ける鎖となるだろう。この地にいれば、歩は必ず
時が来れば、月臣学園に集うブレード・チルドレンとミズシロ火澄が、歩を成長させる。
――そして、私を殺してくれ。私が、私自身の冷たい心と手から解放されるために。
どうして清隆は歩からすばるを引き離さないのか? その(こじつけの)理由説明回。
まとめると
1.清隆が『神』として覚醒して、色々と始末をつけて自由が利く頃には、既にすばるが歩と親密になってしまっていた。
2.歩と疎遠になるようにちょっかいはかけたが、少々のことではすばるが歩から離れなかった。
3.すばるの存在が歩の中で大きくなりすぎたので、無理矢理引き離せば、歩の中で『深山すばる』が美しい思い出となり、それこそ強い支えになることを危惧した。(原作の『結崎ひよの』と同様)
4.すばるを放置しても、すばるではブレード・チルドレンとの戦いに影響はほとんど与えられない。(アイズの魔方陣爆弾で、ひよのに代わって熱センサー握るくらいが関の山)
5.ならいっそ、すばるを歩の足枷として利用した方が良いと考えた。
6.自分と『同じ』存在でありながら、歩が唯一無二の理解者を得ていることから、単純に、すばるを歩から強制的に引き離すような手段を取れば、歩に負けたという感じがするから(ごくごくささいな理由。でも手段を選ばなければ、それこそ原作で「私を殺さなければまどかを殺す」と歩を脅せば済む話だと個人的には思っているので、そういうこだわりを清隆は持っていると推測してます)
本作は歩にも幸せがあっても……と思い書いたので、当初は清隆について描写するつもりはありませんでしたが、書いているうちに「この子、絶対清隆に排除されるだろう」という疑念がつきまとってきたので、無理矢理でも納得できる理由を描写しました。