NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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10.れきしのお勉強です。

 カナリアを引き取った理由なんて、なんてことはない。他に適任者が居なかったっていうだけの話だ。

 ドズルが子供を引き取るには、当時はまだ十七歳と若過ぎた。ザビ家の人間が暗殺された直後という事もあって彼は辞退し、かといって俺達以外に彼女の頼れる宛はない。孤児院に預ける事は論外だ。心情的には勿論、カナリアの特異な能力を放置する事は、彼女自身を危険に晒す可能性が高い。

 あとはまあ俺にはハモンという女手があった。クランプもいる。

 十分に子育てができる環境が整っていた事もあり、彼女を受け入れる事を断る理由がなかった。

 

 三年以上が過ぎた今、カナリアは俺の事を父と慕ってくれている。

 ハモンを母と呼び、俺達の娘のように振る舞っていた。尤も俺はハモンと籍を入れた事はなく、カナリアとも戸籍の上では他人のままだ。それは、俺が死んだ時にザビ家の魔の手が二人に及ばないようにする為の隔離処置。着々と築き上げられるザビ家の独裁体制、俺がダイクン派の人間である以上、何かのスケープゴートとして処刑される程度の事は予想して然るべきだ。

 ドズルは信用できてもギレンは別。もしそうなった時に家族が居ると、一家諸共、不幸にする可能性もある。

 それに俺はドズル麾下として、三年以上も働き続けている。武闘派を気取るダイクン派の人間からは「ザビ家の犬」と罵声を受け続けており、暗殺未遂も一度や二度ではない。浮浪者に扮した男がナイフを片手に体当たりをして来た事だってある。

 そんな事があれば、とてもじゃないが書類上の家族を作りたいとは思えない。

 

 幸いにもハモンは書類の関係に興味がなかったし、カナリアも似たようなものだ。

 理解のある妻と娘に恵まれた事に感謝して、愛妻弁当を片手に現場へと赴くのである。

 

「ランバ・ラル大尉、辞令だ」

 

 軍隊に入ったばかりの若造のケツをシバこうと思っていた時、ドズルに話しかけられる。

「今日は帰れないと伝えておけ」と通信機を渡された十分後には、ドッキングベイ行きの黒塗りの高級車に乗せられていた。

 

「月旅行にでも付き合えと?」

「そんな遠くじゃない。つい隣までだ」

 

 聞きたい事は色々とあったが口数の少ない彼の横顔を見て、秘匿性の高い任務である事を察する。

 サイド3から出ずともコロニー間を移動する短くない旅路だ。今から気を張っていては疲れる、と楽な姿勢を取った。

 

 ドズル・ザビ。ジオン共和国がジオン公国に名を改めた時に大佐へと昇進を果たしている。

 当時はまだ18歳という異例のスピードで昇進を果たしたが、それが親の七光りである事は誰の目から見ても明らかであった。しかし軍内部における彼の評判は驚く程に悪くない。業務は真面目に熟しているし、分からない事は積極的に質問する。当人が親の力で分不相応な地位に就いている自覚があった為、階級にモノを言わせる事もなければ、階級が下の人間であっても遜って教えを請うた。武闘派を気取るダイクン派の拠点を制圧する時は、経験豊富な将兵の意見に耳を傾けてから決断を下す。

 なにより彼は御曹司の立場であっても、泥臭い戦場で文句ひとつ。泣き言すら言わないのが現場の人間から「根性がある」とウケが良かった。

 

 ザビ家が実権を握った今、彼が司令官になる事は既定路線。

 それは誰の目から見ても明らかな事であり、だからこそ彼を優秀な軍人に育て上げる為に多くの人間が尽力している。

 業務の合間に勉強をする多忙な毎日を送る彼の目元は、いつも薄らと隈が付いていた。

 

「今更、聞くのも恥ずかしい話なのだが……」

 

 と彼は零した後、少しの間を置いてから問い掛ける。

 

「ダイクン派が掲げている理念というのは一体、どういうものなのだ?」

「……お前、そんな事も知らずに戦って来たのか?」

 

 俺は武力で訴える過激なダイクン派とは、袂を分かつ身の上だ。

 だが、かつての同志。父が生きていた時は同じ戦場を駆けていた事もある相手である。

 自分達が戦う理由すらも知られぬまま、散っていた元同志が少し哀れに思えた。

 

「これは、この国の成り立ちにも関わる話だぞ?」

「し、仕方ないだろう! この三年間、与えられた仕事を熟すだけで精一杯だったんだ!」

「……まあ恥を忍んで聞いてくるのが、お前の長所だよ」

 

 溜息ひとつ、幸いにも移動中の車という秘匿性の高い場所だ。

 とりあえず何から話すべきか思案する。

 

「……たぶん、お前には理解が出来ない話になるぞ?」

「構わん。何故、奴らがああも戦うのか知りたいだけだ」

「そうか。……まあ、ざっくりといえば地球の保全だな」

「地球? 保全?」

 

 ポカンとした顔をするドズルに「その反応をするのは分かっていた」と俺は更に溜息を零す。

 

 先ず最初に、

 爆発的に増えた人口により、地球が許容できる数を超えてしまったのが始まりだ。

 その問題を解決する為に立案されたのが人類宇宙移民計画であり、計画を推進する為に樹立したのが地球連邦政府。それが百年以上も前の話。最終的には、地球への依存をなくし、全人類を宇宙に打ち上げる事を目的としていた。

 だが、これには問題があった。当時のスペースコロニーには経済的に自立できるだけの能力がなかったのだ。

 地球に依存したまま、人類宇宙移民計画を推進した結果、地球と宇宙では大きな格差が生まれる事になる。また地球から宇宙に打ち上げる費用は、自費で賄う必要があった。支払えない場合は地球連邦政府に借用する必要があった事もあり、これがアースノイドとスペースノイドの大きな格差を生み出す一因となっている。そうした積み重ねが地球を特権階級の住処とする事になった。

 今や地球連邦政府の理念は瓦解している。

 

「そこで立ち上がったのがジオン・ズム・ダイクンだ。ここまでは良いな?」

「お、おう。アースノイドとスペースノイドの格差だけの問題じゃなかったんだな」

「……よくその認識でザビ家の人間でいられるな?」

「そういうのはギレン兄とサスロ兄の役目だったんだよ」

 

 不貞腐れるドズルに、まあいい。と俺は顎を撫でながら次に語るべきことを考える。

 

「ジオン共和国が樹立するまでの経緯を語る前に、先ずはダイクンが掲げる理念から話さねばならないだろうな」

 

 ドズルが頭から湯気が出そうになっているのを無視して、言葉を続ける。

 

 ジオン・ズム・ダイクンが掲げる理念は以下の三つで構成されている。

 エレズムとコントリズム、ニュータイプ。

 

 エレズムとは、先ず宇宙移民者の間で広がった思想の一つであることを言っておかねばならない。

 人類宇宙移民計画を推し進めた結果、地球を知らない世代が増えた事により、宇宙から見た自然豊かな未知の惑星に対する憧れが地球を神聖視するようになったのが思想の生まれた一因。それに伴って、人類発祥の地である地球を聖地化しようという考えがエレズムの根幹である。

 この思想を更に進めて「地球の環境を汚染する原因が人類に起因するものであればこそ、全人類は地球の庇護下から脱却して宇宙に移り住まなくてはならない」と続く事になる。

 

「ちょっと待て」とドズルが口を挟んだ。

 

「人類宇宙移民計画は元々、地球の環境を守る為の計画だったよな?」

「そうだな」

「なんで宇宙移民の間で地球の環境保全の考え方が広まっているんだ?」

「アースノイドとスペースノイドの格差と差別、後は地球連邦による選民思想だろうなあ……」

「まあ、それは現状を鑑みると分かるのだが……」

 

 いまいち納得をし切れないドズルに「人類宇宙移民計画は頓挫したんだよ」と話を続ける。

 

「少し前も当時のスペースコロニーに経済的に自立できる能力がなかったと言ったな。これを理由に地球連邦政府は特例を用いて、選民した人類を地球に居住させ続けたんだ。これが後にアースノイドとスペースノイドという言葉を作り、格差と差別を生む結果になる」

 

 人類宇宙移民計画の推進は非現実的。ならば主張の前提を打ち壊してしまえば良い。

 という風にジオン・ズム・ダイクンが主張したのが、コントリズムだ。

 

 彼が掲げるコントリズムの根幹には「スペースノイドは経済的にも、政治的にも自立が可能であり、連邦政府とも対等な自治権を持つことができる」というものがある。これは言ってしまえば「宇宙に地球に依存しない新たな経済圏を確立する事で自立し、宇宙のみで国民の生活を守り続ける事は可能だ」という事であり、そのまま「宇宙の民(スペースノイド)は連邦政府に頼らずとも生きていける為、連邦政府の支配下から外れて独自の自治権を確立する」と繋がる事になる。

 それを実証してみせたのがサイド3であり、ジオン共和国となる。

 

「結局の話、ダイクンが地球連邦政府に訴えたかったのは“人類宇宙移民計画の完遂”なんだろう」

 

 俺が一通り語り終えると「……ふぅぅむ」とドズルは深く考え込んだ。

 

「つまりダイクン派の連中は地球の環境保護を訴えるのが目的なのか?」

「いや、それは多くのダイクン派にとっては違うと思うぞ」

「はあ?」

「ダイクンの下に集まった連中の多くは、地球と宇宙の格差に不満を持った人間ばかりなんだよ」

 

 親父も似たようなものだしな。と窓の外を眺める。

 郊外に出て、建造物も疎らになってきた。ドッキングベイに近付いて来た証拠でもある。

 

「エレズムなんていう大層な御題目は民衆の大半にとってはどうでも良い話だ。地球を追い出されてからの暮らしが辛く苦しいものであったから、地球連邦政府に不満を持ち、攻撃したかっただけなんだ。理由はなんでもよかった。その根幹にあるのは何時だって、今よりも少しでも良い暮らしがしたい。俺達を地球から追い出しておいて、お前達だけぬくぬくと地球で過ごしてるなんて許せねえ、とな」

 

 俺はドズルを横目に見やりながら告げる。

 

「その事を理解していたのが、お前達ザビ派の人間だよ」

 

 デギン・ソド・ザビが現実路線と呼ばれるのには理由がある。

 今なら分かる。デギンはダイクンの思想を正しく理解しており、そこに共感もしていた。

 しかし彼の思想を広める為の土壌がジオン共和国にはなかった。

 

 経済的に余裕がなければ、多くの人は心に余裕を持つ事ができない。

 理想を掲げられる人間っていうのは、その大半が経済力を持っている人間の事をいう。

 そして民衆というのは基本的に自分と家族、恋人を守る事だけを考える。

 

「全ての人類を地球から追い出す為にデギンが考えたのが、地球に住んでいる人間に対して自主的に宇宙に来て貰う事だった」

 

 彼が考えたのは、宇宙の生活を地球よりも豊かにすることだ。

 これには長い時間が掛かる。今ある地球連邦政府とジオン共和国の国力差からして、彼が生きている間に宇宙に暮らす人々の生活基準が地球のそれを上回る事は難しいはずだ。それでも彼は、いずれ覆る。と信じている。その為に必要な事はジオン共和国の樹立。即ち宇宙のみで完結する経済圏を確立し、自治権を得る事。そして自分達を危険視した地球連邦政府が、自らの利権の為に牙を剥いて来た時の為、ジオン共和国を守り続けるだけの武力を保持し続ける事だ。

 だが、将来に希望を託すという行為そのものがダイクン派の人間にとっては幻想だった。

 

「ダイクンの人格で讃えられるべきは、あくまでも政治活動によって地球連邦政府を是正しようとした事なのだろうな」

 

 革命ってのはいつもインテリが始める。夢みたいな目標を持ってやるから、何時も過激なことばかりをする。

 

「……親父もその類(インテリ側)の人間だった」

「前線で戦っている時は英雄として祀り上げられていたんだったな。あれがどうして、ああなったんだ?」

「ああ、それは誰でも一度は陥る罠だな。俺もそうだった」

 

 それは教育を受けて来た人物が二十代前半くらいで掛かる熱病のようなもの。知識を摂取するという行為そのものに微量の中毒性が伴っており、今まで知らなかった多くの知識を取り込む事によって世の中の全てを知った気になる容態を発症する。若い頃から武人として生きた父が、ダイクンの思想に触れる事で発症し、彼の思想を自分にとって都合の良い解釈をするようになってしまった。

 

「はあ……なんというか、その、気の毒だな」

 

 そういうドズルは、いまいちピンと来ない顔をしていた。

 

「お前は立派だよ、ドズル」

 

 根っこの部分で謙虚な彼はきっと、厄介な病気を患う事もないのだろうな。

 自分の恥ずかしい過去を思い返しそうになり、目を伏せて、思考を無理やり打ち切った。

 

「……俺の知識も偏ったものだ。ちゃんと理解したければ、自分の目でダイクンの論文でも手に取るんだな」

 

 人伝てに聞いた話など当てにならん。と少し眠る事にした。

 

 ドッキングベイ、宇宙船に乗り換える。

 随分と座り心地の良い椅子だ。

 近くに居た乗船員に珈琲を頼んで口に含んだ。

 苦いな、少し前まではブラックの方が好きだったはずなのだが……

 

「まだニュータイプの話は聞いていないよな?」

 

 隣で窮屈そうに座るドズルの言葉に「ただの欺瞞だ」と一蹴する。

 

「ダイクンも理想を語るだけでは、人が付いて来ない事は分かっていたのだろうな。どう考えても地球と宇宙では生活に格差があるからな。宇宙に住む事の優位性を語る上で捻りだした言葉がニュータイプ、つまりは人類の革新。本来ならば、それだけの話だったんだ」

「本来ならば?」

 

 ドズルが問い返すので「アイツだよ」と俺が返してやれば「ああ、アイツか」とドズルは天井を見上げる。

 

「本来は科学的にも、医学的にも根拠のない話のはずなんだが……アイツのせいで否定し切れなくなってしまった」

 

 今は娘同然の幼子を思い出し、深く息を零した。

 全くもって頭の痛い話である。

 

 俺達を乗せた宇宙船はサイド3のエキストラ・バンチと呼ばれる場所に移動している。

 通称、ダーク・コロニー。

 あそこには秘密裏に兵器を開発する設備があるのだと少し後にドズルが教えてくれた。




※本作には独自設定と独自解釈が多数含まれております。
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