NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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12.予想していたものとはちがったのです。

 今日も勘付かれてしまった。

 お父さんの移動手段は自動車で、軍属の方と一緒に移動している事が多い。

 対して私は近場に居るタクシーを拾って移動する。訝しげに私の事を見つめるけど、先にそれなりのお金を見せると車を走らせてくれる。

 まあダメそうだったり、悪そうな人だったら分かっちゃうので、タクシーに乗る前に逃げれば良いだけだし。

 

 でも数十分も後を追いかけていると、お父さんは直ぐに後ろの車がずっと変わってないって勘付いちゃうのだ。

 そこで私は尾行を中断し、適当な場所で遊んでから帰っている。今日クレーンで取った棒付きのキャンディーを口に咥えて、私室に戻った私は床に地図をバッと広げる。そしてマジックで×印を付けてやり、今日、辿った進路を線で書き記す。

 半年間、積み重ねた成果を遠目に眺める。ぐぬぬ、と腕を組んだ。

 

 法則が、あるようでない。毎日のように進路を変えて進んでいる上に、尾行を始めて最初の数十分程度で気付かれてしまうので目的地を絞り切れなかった。はたして何処に向かっているのか、私では推理するのに限界がありそうだ。

 もういっそシンプルに聞いてみた方が早いかも知れない。

 

 だから、私は駄目元でひとつ、お父さんに頼みごとをしてみた。

 

「ほら、お土産だ」

 

 渡されたのは月の名産だ。

 これを見て、そりゃ特定できない訳だと溜息をひとつ零す。

 勿論、お父さんに気付かれないように。

 お父さんの前では大喜びでハグをしておいた。

 

 お父さんから貰った月見饅頭を頬張り、次の計画を立てる。

 お父さんが仕事でドッキングベイに向かうよりも先に、ドッキングベイで待ち伏せする。私がずっと尾行をしていたせいか、お父さんが使う進路は複雑になってしまっているので、私が一直線に向かえば先回りできるはずだ。

 そこで、お父さんがどの便に乗るのか確認できれば、そのタイミングで私も同じ便で月に向かえば良い。

 

 翌日、私はドッキングベイまで行って下見をする。

 あのお父さんの事だ。下手な尾行では、絶対に見抜かれる。

 だから、こうした入念な準備が必要なのだ。

 

 調べるべきは月の便、それが何処から出て行くのか。というものだ。

 

 その時に下見の際に売店で見た商品の中に昨日、お父さんが買って来てくれたお土産と同じ商品を発見する。

 ……コロニーの外に出たのは、たぶん本当。でも、月には行っていない可能性が出てしまった。直接、お父さんに場所を聞く事はできない。それをしてしまっては、私が探りを入れていることが勘繰られる。そうなってしまっては、私がお父さんの後を付けることが難しくなる。

 月に行っていないのであれば、それはきっと、擬装する必要があるって事だ。

 

 ……私は、本当の親を知らない。

 いや、親という意味であれば、ランバとハモンの二人が居れば良いと思っている。

 でも私は、自分が何者なのかを知らない。

 

 この特別な能力の事とか、私が特別な事に答えがあるとすれば、

 やっぱり知りたいって思っちゃうのだ。

 

 

 もう何度目かになる人型機動兵器の戦闘試験。

 連邦軍が使用するガンタンクのコピーを相手にした戦闘試験は疾うの昔に終えており、今は人型機動兵器同士を戦わせている。

 月面開発用の作業機械に偽装する為、名称はモビルワーカーとしている。型番はMW-01。まだ核融合炉の小型化に難航している事もあり、むき出しの核融合炉を背負ったままの状態という、兵器としてはなんともお粗末な代物となっている。それでも議会を納得させる為に一定の成果は出し続けないといけない為、こうやって、お披露目の意味も含めて試験を積み重ねていた。

 戦闘試験が行われる時は、ドズルが視察に来る事が多い。

 

 今日もまた同じようにドズルが足を運んでいるはずなのだが──あと少しで戦闘試験が始まるというのに彼は姿を現わさなかった。

 戦闘試験でモビルワーカーに乗るのは、マッシュとオルテガだ。二人にガイアを加えた三人は、対ダイクン派との戦闘でも過激な戦果を上げ続ける事で、兵卒から将校に成り上がった叩き上げの戦争屋だ。三人のまとめ役であるガイアは少尉、マッシュとオルテガは准尉となっている。

 ちなみに俺は、この任務に就いてから大尉から少佐に格上げされている。

 

 さておき、時間になってもドズルが姿を現わさなかったので、試験は俺の判断で予定通りに進める。

 試験場に現れる二体のモビルワーカー。片や通信機からの反応はなく「行くぜェッ!」とオルテガは血気盛んに飛び込んだ。まだ開始の合図もないのに元気の良い。対するマッシュのモビルワーカーは棒立ちのままだった。何時もなら、相手を迎え撃つ為に駆け寄っている所だ。通信機にも出ないし、マシントラブルでも発生したのかも知れない。スタート地点に着いてから、身動き一つ取っていなかった。

 こちらから映像通信でマッシュに話しかけようとした時、二体のモビルワーカーは衝突する。

 

 オルテガは前進する勢いを乗せて、大きな爪の付いた右腕を突き出した。

 それをマッシュは左腕で華麗に外に弾いた。その見事な動きに二人の対戦を見ていたガイアが、身を乗り出す。

 身を晒したオルテガの胸元に、マッシュが左肩で体当たりを噛ます。

 

 オルテガが後方に大きく仰け反った。

 なんとか踏ん張って、オルテガが右腕を振り回そうとする。

 しかし、マッシュは己の右腕の爪を使って、相手の右肩に当たる部分を押さえつけた。

 

「やるじゃないか」

 

 と思わず、呟いた俺に被せるように、

 

「違う」

 

 とガイアは二体のモビルワーカーを険しい顔で睨み付けた。

 

「おい! ランバ……いや、ラル少佐! カナリアを見なかったか!?」

「……は?」

 

 情報収集の為に多くの計器が持ち込まれた観戦室にドズルが慌てた様子で飛び込んできた。

 カナリアが、こんな所に居るはずがない。今頃はズム・シティにある酒場エデンで俺の帰りを待っているはずだ。

 と思ったところで「大変だ!」と、

 モビルワーカーに乗り込んでいるはずのマッシュが部屋に駆け込んでくる。

 

「腹の調子が悪いから……ちょっと離れた隙にモビルワーカーが盗まれちまった!」

 

 嫌な予感に、冷たい汗が頬を伝った。

 

「鍵は、どうしたんだ! 鍵はッ!?」

「す、すまねえ……! 操縦席に乗った後だったからよお、差しっぱなしに……」

「この馬鹿者がァッ!」

 

 ガイアの怒声にマッシュが萎縮するのを余所に、試験場で大きな衝撃音が響き渡る。

 どうやら、オルテガの機体が仰向けに倒されてしまったようだ。立ち上がろうとするオルテガのモビルワーカーを足で踏みつけて、右腕の接合部を重機の爪で切断する。ドズルは唖然とした顔を浮かべており、ガイアは何時でも動けるように臨戦態勢を取っていた。

 俺は映像通信のスイッチを押す。とてもよく見覚えのある幼子の姿が映し出される。

 

『わ、お父さん!?』

「……カナリア。何故、そこに居る?」

『わ、ワタシが聞きたいよ! ここ、どこ!? ドズルともはぐれちゃうし……!』

 

 ドズルを横目に睨み付けてやれば、いやいや、と奴は首を勢いよく横に振ってみせた。

 

「……もう一度だけ問う。そこで何をやっている?」

『あ、えっと。急におそわれたから……た、たすけて!?』

「さっさと降りろ、この馬鹿娘がッ!」

『ひゃ、ひゃいっ!?』

 

 馬鹿娘は慌てた様子で周りを見渡したが、あ~、と諦めたように項垂れた。

 

「どうした? 急いで降りるんだ! さもないと撃たれるぞ!」

『ひ……う、うたれ……!? お、お父さん! ワタシ、おり方がわかんないよ! どうやって開けるの!? 閉じこめられちゃった!!』

「ならどうやって操縦できたんだ!!」

『……か、カン? はたらくのりものを見てたから?』

「こンの馬鹿娘がァッ!!!」

『たすけてぇぇ~~~~~っ!!!』

 

 先程よりもひと際大きな怒声を上げれば、今にも泣き出しそうな幼子の悲鳴が観戦室に響き渡る。

 この状況、どう収拾を付ければ良いのだ。

 頭を抱える俺から、ドズルが通信用のマイクを奪い取る。

 

「カナリア! 聞こえるか!?」

『ドズル! 閉じこめられちゃった、たすけて!』

「手元にレバーがあるはずだ! それを引いてみろ!」

『えっと……あ、これだね!?』

「あ、馬鹿! それは……!」

 

 ドズルが言い切る前に思いっきり引いたのは、緊急脱出用のレバー。

 操縦席のハッチが勢いよく開け放たれて、幼い少女が甲高い悲鳴と共に勢いよく宙を舞った。室内で花開く落下傘、着地で大きな怪我をしなかった事だけ確認した。

 この後の事を考えると、気が重くて仕方ない。

 

 ……今はもう、何も見たくない。

 何も考えたくない。


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