NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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13.とり返しのつかないこと。

 カナリアです。少し前、八歳になりました。

 今、私は、取り調べを受けています。小さな個室に寿司詰めの状態になる大人の皆様方、机を挟んで私の対面に座るのはドズル。その隣にお父さん、反対側にガイア、マッシュ、オルテガというドズルにも負けず劣らずの強面三人衆が腰を下ろしている。此処は即席の軍法会議場、私の沙汰を下す為に皆が集まっていた。

 ちなみに今、この場で余裕を保っていられているのはガイアだけだ。

 

 私は、ロボットに乗るまでの一部始終を全て話す事にした。

 お父さんを追跡する事に始まって、地図で行く先を特定しようとしても失敗した話。だから出張先の土産を買って来て貰うことにしたのだけど、それがドッキングベイにある売店に同じ商品から行く先が月ではない事を特定する。待ち伏せした後、お父さんが一般客が使う通路を使っていなかったので向かう先が軍が利用する宇宙船だって事もわかった。

 此処で、お父さんを追跡しても勘付かれるのは今までの経験で分かっていたので、お父さんと何時も一緒にいる人を追跡する。

 それで、お父さんが乗る宇宙船を特定できたので、その貨物に紛れ込んだ。

 

「ずっと追跡されている感覚はあったが、それもお前だったのか……」

 

 お父さんが頭を抱える横で「なあ」とガイアが声を上げる。

 

「こいつ、諜報部にでも突っ込んだ方が良いんじゃないか?」

 

 その問いにドズルとお父さんは苦い顔で口を噤んだ。

 

 話を続ける。

 この基地に入ることが出来たのは、ドズルの名前を出した為だ。

 お父さんが基地に入る時、ドズルが出迎えに来ていたので此処にドズルが居る事が分かった。

 だから、基地の入り口のところでドズルの名前を出したら絶対に飛んできてくれる。

 この辺りで姿を隠すのはやめて、カナリアって名前も出している。

 

「何故、俺じゃなくてドズル大佐なんだ?」

 

 お父さんの問い掛けに「だって、中に入れてくれないでしょ?」と答える

 

「どっかのへやで閉じこめて待たせるんだろうなって」

 

 私が拗ねるように答えれば「ああっ!」とドズルが今、思いついたように両手を叩いた。

 

「ドズルッ! お前、機密がどういうものなのか分かっているのか!」

「い、いや……放っておくわけにもいかんだろう!?」

「だからといって中に入れてどうする!!」

「俺は……とりあえず、お前に会わせた方が早いって思ってだな……」

「俺を連れて行けば良いだろう! というか真っ先に俺に報告しとけ!」

 

 お父さんが本気で怒っているのを尻目に私の前にストロー付きのオレンジジュースが置かれる。

 見上げてみると髭面のガイアで「あの二人を手玉に取るたあ大したもんだ」と頭を撫でられた。

 これは、果汁20%! ……喉が渇いていたので、ありがとうって笑顔を返した。

 

「それで、どうしてモビルワーカーに乗っていたんだ?」

 

 二人の言い争いに痺れを切らしたのか、ガイアがマッシュを睨み付けながら問い掛ける。

 

「ここがすぐに私の求めるものがないってことはわかったんだよ? でもね、ここにはワクワクするようなロボットがいっぱいあってね! ちょっと見つめている内にドズルがいなくなっちゃったの!」

「えっ? はぐれたのって俺のせいなのか!?」

 

 それは酷くないか? と零すドズルにガイアが呆れ顔で答える。

 

「こんな幼子から目を離す方が悪いだろ」

 

 お父さんとドズルが納得がいかない様子で私を見つめた。なんで?

 

 巨大ロボットのコックピットに入ったのは好奇心からだ。

 ちょっと座って遊ぶだけなら良いかなって思ったんだけど──鍵を使わないと車とか動かないって事は知ってたから──操縦桿を触ってみた。すると動いちゃった。いけない事をしたってわかったけど、勝手にハッチは閉じちゃって出られないし、バレたら怒られるって分かってたから、とりあえず周りの指示に従って動かした。

 そこまで話して「待て」とガイアが口を挟んだ。

 

「色々と言いたいことはある。マッシュがエンジンを掛けたまま、コックピットを抜け出した事とか、中身が入れ替わっていても気付かなかった周りの整備班とか……」

「整備班の話を聞くと、マッシュとオルテガは何時も合図なしで動かすから危なくて確認できなかったとの事だが?」

「……ラル少佐、その話は置いておこう」

 

 そんな事よりもだ、とガイアが半ば強引に話を戻す。

 

「なんでモビルワーカーを一目で動かせているんだ」

「人が作ったものなら、見ただけで大体わかるよ?」

 

 それがある明確な理由がある時は、なんとなしに読み取れる。

 知らないものは分からない。

 過信すると結構見落とすことが多いので感覚を頼りにし過ぎるのも危険だ。

 でも、ロボットを歩かせるだけなら簡単だったし、

 周りの指示に従って動かしている内に大体の感覚は掴んだ。

 

「よくぶつけなかったな」と話しかけたのはオルテガ。その言葉に私が「……? 気をつけたらぶつけないよ?」と可愛く首を傾げれば「俺、自信なくしそう」とマッシュが項垂れてしまった。初めて動かした時、マッシュは何度も壁に機体をぶつけてしまったとの事だ。程度の差はあれどもガイアとオルテガも初めて動かした時はふらついていたと零す。

 

 まあ、その後は、みんなの知っての通りだ。

 周りの指示に従ってロボットを動かしていると広場に出た。正面には私と同じ巨大ロボットが立っていて、それが急に襲い掛かって来た。だから返り討ちにした。

 以上が、事件発覚までの流れになる。

 

「それで、この件はどう処理をするつもりなんだ?」

 

 ガイアが暗い顔をする皆に問い掛ける。

 先ず最初に、ドズルは私という幼子を機密のある区画に連れ込んだ失態がある。次にマッシュは私にモビルワーカーを奪われた失敗があり、お父さんにはモビルワーカーのパイロットを確認せずに戦闘試験開始の合図を出してしまった。最後にオルテガは幼子に負けた実績が残る。

 この場にいる中で失態のない者は、ガイアだけだ。

 

「まあ幸いにも、何か問題が起きたという訳でもない。不祥事は、このまま隠蔽してしまうのが一番だと思うがな」

 

 ガイアもマッシュとオルテガを裁きたい訳ではない。

 二人を庇う意味でも提案し、お父さんとドズルは私の為に唸りつつも首肯するしかなかった。

 こうして私の沙汰は、お父さんの拳骨一発で済まされる事になる。

 

 はずだった。

 

 

 

 私達が部屋を出ると、白衣の研究員が慌てた様子で駆け寄って来る。

 彼の手には何枚かの書類が握られており、興奮した顔でドズルに詰め寄った。

 

「見てくださいよ、このデータ! 今までの中で一番の情報です! 重心移動、姿勢制御、まるで人間のような動作! これを使えばモビルワーカーの動きをもっと改善できますよ!」

 

 言い寄って来る彼にドズルは気まずそうに視線を泳がせる。

 

「あー……すまないが、その戦闘記録は消して欲しくてな……」

「……消す? なにを言うんですか! そんな勿体ない事ができるはずがないでしょう!」

「いや、そのう……だな?」

「あれに乗っていたのは君だったのだな! こんな幼い子がアレを動かしていたなんて驚きだよ! 次は何時、来てくれる!? 明日? 明後日? 君が乗った一回が、我々の研究を数ヶ月縮める事に……いや、この効率は辿り着けなかったかも知れない! ブレイクスルーだ! 我々はより一層に素晴らしいものを作り上げる事ができる!!」

「おい、待て、誰も乗せるなんて……」

 

 お父さんの言葉も無視して「早く情報を精査して、まとめないと!」と彼は研究室へと駆け戻ってしまった。

 

「すまないな。彼は、ああいう奴なんだよ」

 

 また別の若い研究員が私達に、というよりも私に興味を持って話しかけてきた。

 

「ところで君、あれに乗った時に気になった事とかなかった?」

「あ、なんかね! 反応がすごくおそかった! のっそりというか、すごいもっさり! もっと早くしてくれないと動かしにくいかなって!」

 

 横から別の研究員に急に話しかけられたので、思わず返事をしてしまった。

「カナリア!」とお父さんに怒鳴られる。私が悪い事をしたのは分かっているんだけど、今日は怒鳴られたり、叩かれたりばっかりで散々だ。

 来なけりゃ良かった。とも思うんだけど、あのロボットを操縦するのは楽しかった。

 

「大佐。これ、もう隠蔽できないんじゃないか?」

「……年齢と名前の改竄はしておかないとな」

 

 ガイアの問いかけにドズルは大きく溜息を零した。

 

 

 ジオン・ズム・ダイクンがニュータイプ論を提唱した事に感銘を受けて、サイド6からサイド3に引っ越して来た。

 元より私は「人類が宇宙での暮らしに適応する事による進化について」の研究をしていたのだが、その結果をまとめた論文は地球連邦政府に差し止められてしまったし、翌年以降の私の研究予算は大幅に減額される事になってしまった。明らかに政治的な何かに触れてしまった事は確かなのだが、こうも一方的に迫害を受けてしまっては反発するのも当然の話である。

 だから私はジオン共和国に移住し、その国内で研究を続けていた。

 

 ニュータイプ論という人類の革新をテーマに研究を続けているので、医学的な知識も多く有している。

 そんな私が、このダーク・コロニーと呼ばれる場所に来たのは巨大な人型ロボットを開発する際に、骨格等といった身体に関する知識が欲しくて招集されたという事情がある。正直、私の知識がロボット開発に関係あるとは思えない。実際、ロボット開発に私はほとんど関わっていない。健康診断と称して「宇宙的環境が身体に与える影響」を調べている事もあり、このコロニーに居るほとんどの人間が私の事を医者と認識している。

 ……まあ、風邪薬くらいなら処方する事もあるしな。

 お偉いさんの考えている事は分からないが、私の研究を続ける為の予算と環境は与えられているので文句は言うまい。

 

「フラナガン先生、ちょっとこいつを診てやってくれないか?」

 

 その日は珍しくドズル大佐が幼子を連れて来た。

 話を聞けば、どうやら強い衝撃を受けてしまったようで精密検査をして欲しいようだ。

 相変わらず、私に頼むような事ではない。まあ設備はあるから良いのだが。

 

 とりあえず血を抜き取り、MRIやレントゲンといった検査に掛ける。

 軍事施設の此処では、子供の遺伝子を頂ける機会は珍しい。彼女の検査結果を機械が出すのを待つ間、事のついでにと鼻の粘膜と唾液も採取し、他とは分けて冷凍保存しておく事にする。髪の毛も落ちてるな。念のために取っておくか。

 検査結果は良好、脳波もパッと見た感じでは問題なさそうだ。

 

「部下が骨を折った! 先生、助けてくれ!」

 

 ……私の専門は、脳に関する事なんだがな。

 まあ骨の位置を戻して、固定する程度の事は出来るから構わないのだが。

 後でちゃんと病院に行くんだぞ。

 

 とりあえず幼子を帰して、怪我人の対応をする。

 此処に来てから随分と応急処置が上手くなった気がする。

 応急処置をしている間、怪我人を担架で連れて二人組が会話を始めた。

 

「そういえば今日、モビルワーカーに幼子が乗っていたっていう話を聞いたか?」

「その話はデマだって聞いたぞ。実際には、忍び込もうとしたドズル大佐の娘が捕まったっていう話だ」

「え? 大佐、あの顔で結婚してたのかよ!?」

「まあ噂だけどな。幼子の方だって、オルテガ准尉を倒したって話だし、嘘に尾びれが付き過ぎなんだよ」

 

 ……ふぅん。へえ、ふむふむ。

 少し調べてみようか。


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