NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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15.それもラブ、これもラブ。

 プロト・ゼロ。

 そんなふざけた名前が、虎の子のMS計画の報告書に記されているのを発見する。

 弟のドズルに話を聞けば、新しく雇ったテストパイロットという話だ。実際、彼女が出す結果は他のパイロットと比べると質が良い。兄の俺が口出しし過ぎるのも健全ではないと考えた事もあったし、他にもミノフスキー粒子散布下でも活動できる兵器の開発を進めていたのもあって、MS計画はドズルに一任すると決めていた。

 その結果がこれだ。子供に兵器開発を関わらせるとか、ドズルは本当に何を考えている。

 

「月面開発用の作業用機械だよ?」

「……それは詭弁だ」

「安全確認はできてるって言ってた!」

 

 彼女の言うように実際、彼女が任されていたのは安全な試験ばかりだ。

 腕が立つのは情報を見ているだけで分かる。彼女にも戦闘試験に参加させるように言い付けた事もあった。

 だがドズルは愛想笑いで話を誤魔化すばかりで話を聞かなかった。

 

 ドズルも考えなしに不合理な行動を取る奴ではない。

 何か理由があるのだと考えて、その時は引き下がったのだが……

 

「──それが、まさかこんなガキを使っていたとはな!」

「ちゃんと他の人には話してないけど?」

「子供の話を信用できるか!」

 

 むうっ、と頬を膨らませる彼女に頭を抱える。

 この事は絶対に隠し通さねばなるまい。連邦に新兵器開発計画を悟られない為にも彼女を匿う必要があった。

 スケジュールに余裕はない。

 とりあえず秘書に手を差し出して、溜まっている書類を要求する。

 

「おお……まるで小さな戦艦……!」

 

 開いた図面、許可も得ずに膝の上に座る少女。軍事機密のひとつが暴露された瞬間であった。

 

「…………おい」

 

 とりあえず少女の頭を鷲掴みにして、握力任せに握り締めた。

 

「いたい、いたい! やめて、バカになっちゃう! あだだだだだだっ!」

 

 このまま彼女の頭を搾り続ければ、機密などを取り除けないだろうか。

 ……阿呆な事を考えている。秘書見習いのセシリアに指示を出し、膝上に座るクソガキを降ろさせた。

 書類を睨みつけること数十分、喉が渇いてきた頃合いだ。

 手元に珈琲の入ったカップが差し出される。

 

「気が利くな……何故、まだ貴様が此処にいる?」

 

 満面の笑みを浮かべた小娘が、私の隣で立っている。

 

「私もダイクンの家では、メイド見習いをやってました!」

「そういう事を聞いている訳ではない」

 

 えっへん、と自慢げに胸を張る少女を無視して、白い湯気の上がる珈琲を啜る。

 

「……甘いな」

「コーヒーは甘い方が美味しいからね!」

「それは貴様が子供だからだろう。私は無糖派だ」

「でも、頭が疲れている時は甘い方が良いんだよ?」

 

 フラナガンも言ってた! と、語る少女を胡乱げに見つめた後、甘さ増量の珈琲を口に付ける。

 後でセシリアに無糖の珈琲を用意させよう。

 

「フラナガン……確かダイクンのニュータイプ論に触発されてサイド6からサイド3に移住してきた変わり者だったか?」

「よくそんな細かい事まで覚えていられるなあ」

「見たもの全てとまでは言わないが、情報として頭に入れたものは忘れていないつもりだ」

 

 ふ、と鼻で笑ってやれば「さすが!」と彼女は元気よく両手を叩いてみせる。

 とりあえずセシリアに頼んで膝上からどかし、小娘の相手をさせる。

 

 MS計画と並列して行わせているMA計画。

 人型に拘らないアプローチで戦場を支配する新たな兵器の開発、というコンセプトで進められている本計画。その実情は戦闘機と戦艦の合いの子という非常に中途半端な代物しか開発できていなかった。核融合炉の小型化が進められていない以上、メガ粒子砲といった戦艦に搭載する武装を使おうとすれば、既存の艦艇では持ち運びできないサイズになるのも大きな欠陥である。

 現状、幾つかある案の中で最も効果的な兵器を開発できているのは、MT(モビルタンク)計画。

 これは既存兵器をミノフスキー粒子に適応させるといったコンセプトにした兵器の開発で、一定性の成果は認められている。しかし、これは言ってしまえば、連邦軍が開発したガンタンクと同じ大型戦車にカテゴライズされるものであり、地面がなければ展開できないという致命的な欠点を抱えている。当然ながら艦隊戦で使う事はできず、戦争の決定打になる兵器とは呼べない。

 現実的な路線で考えるのであれば、ミノフスキー粒子に対応した新型戦闘機の開発。

 しかし、既存兵器の関連技術は、連邦に一日の長がある。

 

 地球連邦政府に国力で負けている以上、戦争で勝つ為には技術力で勝る他にない。

 しかし、その技術力も、やはり、真っ当にやっていれば、連邦には勝てないのだ。第二次世界大戦期、機動性に優れた戦車を開発した事によるドイツの快進撃。大艦巨砲主義に対する日本の航空母艦を中核とした機動艦隊。今、ジオン公国に求められているのはソレだ。……確かにミノフスキー粒子には誘導兵器を無力化し、戦争の歴史を逆行させる力を有している。しかし今、地球連邦軍はメガ粒子砲を搭載した艦艇の開発を行っており、世は再び大艦巨砲主義に回帰しようとしていた。この情勢に機動艦隊を持って来ても第二次世界大戦の焼き直しに過ぎず、戦争の決定打には成り得ない。

 ならば、なればこそ。必要なのは、既存兵器の新規開発ではなく、全く新しい概念を持った新兵器の開発だ。

 

「戦争は数、確かにそうだ。しかしジオン公国には、その数がないのだよ」

 

 ランチェスターの法則に従うのであれば、数以外の方法で相手の戦闘力を上回るしかない。

 将兵の数が多くなればなるほどに将兵の質で相手を上回る事は難しい。資源には限りがある。だからこそ局地戦に特化した兵器の開発が急務であるし、それ故にジオン公国は兵器の運用と作戦で勝ち続けるしか手が残されていなかった。

 ミノフスキー粒子で勝てるのは、最初の数戦だけだ。

 MS計画、MA計画。そのどちらも難航するのであれば、戦略を改めなくてはならない。

 最悪、地球連邦政府に帰順することも考慮に入れる必要があるだろう。

 

 しかし、それでは、遠くない未来。

 人類の手によって地球を壊滅させてしまった後に起きるのは、コロニー間の資源戦争だ。

 中世以前、かびたパンを得る為に人は人を殺す時代があった。

 今度は、酸素を得る為に人と人が殺し合う時代が来る。

 

 そうなった時に問題となるのは、地球とは違って、コロニーには自然治癒力がない事だ。

 

 故に人類は滅亡する。それだけならまだ良い。

 地球上に存在していた全ての生命体が人類の手によって絶滅する。

 だからこそ、人は、まだ地球に余力がある内に、地球の庇護下から脱却して、宇宙へと旅立たねばならないのだ。

 

「……遠くない未来といっても数世代も先の話、誰も納得はしまいな」

 

 それは今も地球に戻りたいと願い続ける宇宙移民の数が物語っている。

 故郷は、やはり、故郷なのだ。

 人は郷愁から逃れることはできない。

 

 私はニュータイプ論を信じない。

 人類の進化と宇宙への適応は、全く別の話だ。

 

「おい、小娘」と私が呼びかければ「小娘じゃない、カナリア!」と返された。

 

 もし仮にニュータイプを新しい人種と定義した時、

 ニュータイプというのは、きっと、

 この宇宙を故郷にする人類の事なのだと私は考える。

 

「地球に行きたいか?」と問い掛けると彼女は「行きたい!」と即答する。

 

「自然の景色がキレイだって話だし、遺跡もいっぱいあるからね! 行けるなら一度、行ってみたい!」

「そうか」

 

 では、と質問を変える。

 

「地球で過ごしたいと思うか?」

「うーん? それはないかな? ずっと重力に縛られてるのって不自由じゃない?」

「そうか」

 

 私は甘い珈琲を啜り、椅子に体重を傾ける。

 珈琲で温められた息を大きく吐いた。

 

 魂は地球ではなく、宇宙に還る。

 かつて、天に召される。などといった言葉あったように。

 そういう時代が訪れる日が、何時かやって来る。

 

 人類の為とは言わない、自分の為なんてエゴイズムに開き直るつもりもない。

 守るべきを守る為に、為さなければならない事がある。

 今から数世代先の彼女(子供)達が殺し合わない為に、私は近い将来の来たるべき戦争に勝利するのだ。

 

 

 今から丁度十年前、宇宙移民時代と呼ばれる御時世にて。

 旅客用の宇宙船のひとつが、スペースデブリと衝突する事故が発生した。

 こんな事は珍しい事ではない。ニュースで一度、取り上げられる程度。交通事故が必ずしも新聞に載る事がないように、この事故が広く知れ渡る事はなかった。

 数週間後には、もう話題にする者はほとんどいない。

 世間では、ありふれた不幸な事故の内のひとつとして処理される。

 

 普通と少し変わっていたのは、乗客の行動であった。

 スペースデブリが衝突した際、宇宙船は航行不能の状態に陥る。同時に脱出艇も破損してしまっており、乗組員が宇宙船から逃げる事はできなくなってしまった。

 酸素も限られる状況下、極限状態にあった乗客の取った行動は極めて不可解なものであった。

 

 乗客の中に子供が居た。まだ首が据わったばかりの赤ん坊だった。

 

 十数名の乗客は、残された大人用の宇宙服に赤子を詰め込んだ。

 船内に残された全ての酸素ボンベと連結し、どうか彼女だけは、とありったけの想いを込めて送り出す。

 無重力の宇宙空間に、どうか、どうか、と数十分後には尽きる命で祈りを捧げる。

 

 今となっては、誰も知らない物語。

 ぷかり、ぷかり、と浮かぶ無重力の中で赤子は世界を見ていた。

 泣くこともせず、星々をただただ眺めていた。

 

 

 俺、ランバ・ラルは愛娘の出生を確かめる為に有給休暇を取っていた。

 ダイクン家が支援していた孤児院は、彼の暗殺と同時に支援が打ち切られた事で閉鎖されてしまっており、その関係者を探すのに四苦八苦する羽目となってしまった。それでも自分の過去を知りたいとダーク・コロニーまで付いてきてしまった愛娘の為に調査を続ける。

 当時の院長はザビ派とダイクン派の抗争の際にサイド3から逃げてしまっていた。

 見つける事ができたのは職員の一人、彼女はカナリアの事をよく知っていた。

 

 以下の話の信憑性は定かではない。

 元々カナリアは運送業者から手渡された赤子であったとの事だ。その運送業者の人間から聞いた話では、運送業務中にSOS信号が発せられている事に気付いた為、とりあえず信号の発生源に近付いてみると無重力空間を宇宙服が漂っていたのだという。見た感じ、中身はない。だが、どうせ立ち寄ったのだからと拾い上げてみれば、なんと中には赤子が入っていたのだ。

 しかし男は運送業務に明け暮れる日々を送っており、一ヶ所に留まり続けることもできない。

 自分の生活だけで精一杯だった彼は、赤子を孤児院に預けることを決める。

 

 当時の事件を追いかける。

 航行時の事故は珍しくもない頻度で起きている為、特定する事は難しい。

 それでも、それらしい人物を見つけることができた。

 

 カナリアの両親は特筆することもない一般人だった。

 日頃から貧困に喘いでおり、当時、自活できるようになったばかりのサイド3への移住を決めた矢先の出来事だった。

 

 俺は──この結果を、愛娘に伝えるべきか悩んだ。

 確かな信憑性はない。であればこそ、必ずしも伝える必要はない。

 ……それに、カナリアにちゃんとした親がいた事実を伝えるのは、なんとなく嫌だった。

 彼女の親としての自負がある。引き取ってから愛情を込めてきた自信がある。

 俺は娘を愛している。故に、伝えるのが、嫌だった。

 

 しかしだ。愛娘を想えばこそ、調べた結果は伝えるべきだとも考える。

 

 ドズルに預けた愛娘がギレンに連れ去られたと聞いた時は、思わず鳩尾にパンチを入れた。

 しかし官邸で不自由のない生活を送るカナリアを見て、とりあえず溜飲を下げた後で「これは間違っているかも知れない」と但し書きをした上で彼女の出生について調べた事を伝える。

 カナリアは、彼女には珍しく、黙って話を聞いていた。

 

 全てを伝え終わった時、

 彼女が先ず最初に口にした言葉は「お父さん」だった。

 

「私ね、今、すっごく幸せだよ」

 

 溢れそうになる涙を娘に見られたくなかったから、

 俺は力いっぱい娘を抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 俺のポケットから、封筒が落ちる。

 封は切られていない。毎月のように酒場エデンに届けられる彼女の家族からの手紙だ。キャスバルとアルテイシアの手紙は、アストライアが亡くなってからも続けられていた。

 これは、その手紙だった。

 

 送り主の名は、セイラ・マス。アルテイシア・ソム・ダイクンの今の名前だ。

 

 書かれていたのは、エドワウ・マスの訃報。

 つまり、キャスバル・レム・ダイクンが亡くなった事を伝える手紙であった。




ロリ感が失われていく少女。
ロリは数年後のBBにご期待ください。

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