NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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16.見捨てられないから家族なのです。

 父であるジオン・ズム・ダイクンが暗殺されてから三年余り、僕は十三歳になる。

 妹は十歳になった。

 

 ラル家の当主であるジンバ・ラルと共に地球に亡命した僕達は、地球の資産家であったテアボロ・マスのお世話になっている。

 資産家であるテアボロには、家庭がなかった。子供ができない内に妻に先立たれてしまった彼は事業の成功を生き甲斐にしていた。人生の大半を仕事に費やした彼は、僕達を受け入れる事で人生観が変わったと述べている。特に妹のアルテイシア……今はセイラ・マスと名を改めた彼女の存在は、テアボロにとっては、それはもう可愛かったに違いなかった。

 テアボロは良い人だと思う。父に会いに来た多くの政界人よりも印象が良い。

 もし此処にカナリアが居れば、恰幅の良い彼のお腹に飛び込んで、そのお腹の弾力を楽しんでいた姿が容易く想像できる。

 彼女は今、元気にしているだろうか。

 まあ、ランバとドズルなら悪いようにはしないと思うのだが……

 

 同行人であるジンバ・ラルは、相変わらずだ。

 ジオン・ズム・ダイクンの代弁者を騙り、ジオン共和国──今はジオン公国か、その代表者へと返り咲く事を夢見ている。

 厄介なのは、ジンバは自らが思想の殉教者だと思い込んでいる節がある事だ。

 

 僕達を復讐者に仕立てあげる事が、まるで自らの使命であるかのように思い込んでいる。

 そんな怨讐にも似た念が見て取れてしまうので、彼の話も、まともに聞こうとする気が起きなかった。実際、自分で父の著書を読んでみると──全くの別だとは言わないが、彼の解釈によって捻じ曲げられた点が多く見られた。テアボロにも話を聞けば、彼は微妙な顔を浮かべた後で「これは私が勝手に思っていることだが」と前置きした上で日々、豪邸の下で増え続ける難民キャンプを眺めながら「君のお父さんは、このような光景が広がるのを少しでも抑えたかったんじゃないだろうか」と言っていた。

 

 ジンバはよくニュータイプという単語を使っている。

 ニュータイプと絡める事で宇宙で生活するスペースノイドの優位性を語り、アースノイドと比べて優良な人種であると訴えた。不完全な言葉による相互理解を超えて、誤解なく互いを理解できる新人類の可能性こそがニュータイプである。というような彼の熱弁が僕の心に響く事はない。宇宙に住んでいる程度の事でニュータイプの可能性に触れられるのであれば、目の前のジンバが僕の思っている事を理解できないはずもない。それに妹と僕は、互いを思いやれるし、お互いに考えている事もある程度なら分かる。

 その程度の事であれば、本当に相手を思いやる心を持っていれば、少なからず分かるものだ。

 

 相手に共感する。という意味であれば、難民キャンプでボランティア活動を続ける妹こそがニュータイプになる。

 

 あとはまあ、ジンバの言を鵜呑みにするとして、それで思い当たる人物が問題であった。

 ヒヨコ頭のクソガキ。人類が進化した結果が、あんな悪戯好きのクソガキとか救いがないにも程がある。数億人のカナリアだと? まじで勘弁してくれ、想像しただけで寝込んでしまいそうだ。彼女が特別であることは認めるが、あんなものに人類の可能性を背負わせるとか正気の沙汰ではない。もし神が居るのであれば、せめてもっとマシなものを用意してくれ。あんなクソガキに世界の舵取りを任せられるか。もしそうなった時は僕は世界に叛逆する、復讐のキャスバルだ。

 あれは人類の革新というんじゃない、小悪魔と呼ぶんだ。

 

 彼の頭の中では僕達の父を殺したのはザビ家の連中ということになっているが、その話も怪しいものだ。

 ジンバが口にするのは状況証拠ばかりで、確実といえる証拠がひとつもなかった。それに僕は父には余り、良い印象を持っていない。父を殺されたことに思うことはあるし、父の名があるからこそ、サイド3を追い出されても良い暮らしができている自覚はある。それでも僕達の物心が付いた時には父は仕事人間となっており、ほとんど会話をしたことがなかった。

 だから、妹の人生をなげうってまで、父の復讐をしたいとは思えない。

 

 心残りは、あの小悪魔。不本意だが、彼女もまた僕達の家族であり、小憎たらしい妹の一人だ。

 可愛くはない、僕の可愛い妹はアルテイシアだけだ。だが、守るべき妹の一人にカナリアも含めてやっても良いとは思っている。いずれ、カナリアも地球に呼んで、家族三人で過ごせる日が来れば良い。カナリアならきっとテアボロも気に入ってくれると思うし、カナリアと一緒ならアルテイシアに寂しい想いをさせずに済む。

 ジンバだけは厄介だが……ランバに頼んで、カナリアを地球まで送り届けてくれた時にでも彼を引き取って貰えないだろうか?

 

 まあ不自由に思う事も多々あるが、こんな日が何時までも続けば良いと思っている。

 このまま、何事もなく、地球で大人しくしていれば、ザビ家の連中も僕達を殺したいとは思わないはずだ。

 

 そこまで考えて僕がジンバの話に付き合っているのは、

 僕が目を離した隙にジンバが余計な事をアルテイシアに吹き込もうとする為だ。

 カナリアがジンバを嫌っていた理由がよくわかる。

 テアボロも彼には良い顔をしていない。本当に厄介者だ。

 

 とある日の事だ。アルテイシアが熱を出した。

 ジンバの手前勝手な思想話を打ち切って、僕はアルテイシアの看病をする。

 果物ナイフでリンゴをウサギさんカットで切ってやる。

 

「ウサギってまるでカナリアみたいね」

 

 風邪で赤くした顔でそんな事を呟く妹に「アレはそんな可愛いもんじゃないだろ」と素っ気なく返す。

 

「いいえ、ウサギよ。だって彼女、ウサギみたいに何時もぴょんぴょん跳ねてる」

「……ああ、忙しない奴だったな」

 

 リンゴを切り終えた後、僕は彼女が寝付くまでの間で手紙を書くことにした。

 母のアストライアは日に日に弱っているようだ。その事をアルテイシアは悲しんでいたけども、あの塔を脱出する時の別れで全てを察していた僕は来るべき時が来たか。といった感じだった。正直、会いに行きたい。でも、それが出来ないことは理解している。サイド3に残したカナリアが毎週のように彼女の見舞いに行っている事だけは、サイド3にカナリアを残してきて良かったと思える唯一の事だった。

 母が亡くなった後、カナリアには地球に来るようにと手紙に書いた。

 アルテイシアが寂しがっている、と。

 

 ──エドワウが素直になったら考えてあげても良いよ。

 

 僕はカナリアからの手紙を思わず、破り捨てそうになった。

 アルテイシアに止められなかったら、そのまま燃やしていたところだ。

 返事は、誤魔化されたままだ。

 

 その日、僕はずっとアルテイシアの部屋に居た。

 妹に夕食を食べさせた後、身体を拭いたり、歯磨きをさせた後にアルテイシアの様態が急変する。

 アルテイシアの熱が急に上がり、すぐに医者を呼ぶ事態になった。

 

 医師の診断では、サハラ熱とのことだ。

 あまり深刻ではないというのが医師の見立て。ちゃんとした処置を続ければ、大丈夫との事だ。

 僕は朝まで妹の看病をすると名乗り出て、ひとまず解散となった。

 

 真夜中、書斎から適当な書籍を引き抜いた僕は薄暗がりの中で活字に目を通す。

 外で犬が吠えている。五月蠅いな、アルテイシアが起きなければ良いのだが……キャワン! という犬の悲鳴が上がり、そのまま鳴き止んだ。

 ……何が起きたんだ? と窓から外を見下ろした時、突如として銃声が鳴り響いた。

 

 この時の僕にはまだ、分からない事だが──ザビ家の者が刺客を送り込んできた。

 

 僕はアルテイシアを守る為に必死で屋敷内を駆け回り、反撃して、なんとか九死に一生を得る。

 全身をミイラ男のように包帯で巻かれたテアボロの話によれば、ザビ家の手先との事。ジンバ・ラルがアナハイム社と接触した為にテアボロも巻き込まれて、屋敷の中にいるほとんどの人間が銃器によって撃ち殺された。……当時、サハラ熱を患っていたアルテイシアには分からなかったかも知れないが僕には分かった。襲撃犯の狙いはジンバ・ラルだけではない。テアボロの生死確認はしていない癖に、執拗に僕とアルテイシアを殺そうとしてきた。

 ダイクンの遺児である僕達も標的にされていた。

 

 ドズルは信用できる。でもザビ家を信用する事はできないと思い知らされた一件だ。

 父の血を引き継ぐ以上、僕達はこれから先もなにかと理由を付けて狙われ続ける事になるはずだ。今回のように何かの事件に巻き込まれる形でも、事故死と見せかける事ができる機会があれば、積極的に命を狙われる立場にある。

 ザビ家、もしくはザビ派の連中にとって、僕達は消し去りたい存在だった。

 

 僕には力が必要だ。今のままでは守るべき存在を守れない。

 サイド5のルウムにあるテキサス・コロニーに引っ越す時、そこでの生活。注意深く周囲を観察すれば、何時も僕達の事を見張っている影がある事に気付くことができた。……結果的にカナリアを呼び出さなくて良かった。父の血を継いでいる僕達は刺客の目から逃れる事はできないけど、父と血縁のない彼女なら僕達のように刺客に怯える事もない。

 テキサス・コロニーで息を潜めながら過ごす毎日、僕は妹達を守れるだけの力を得る機会を虎視眈々と狙っていた。

 

 ジンバ・ラルの暗殺が起きてから二年、僕は十五歳になる。

 母のアストライアが亡くなってから一年が過ぎる。これから先も刺客に怯える毎日を過ごし、鬱屈した想いを抱えて生きて行かなくてはならないのかと辟易していた頃。黒猫のルシファーも喪ったアルテイシアが、名前のない墓石を前に母の墓参りに行きたいと言った。この頃の彼女も憔悴しきっており、僕達は心身共に憔悴し切っていた。生きる目的のない人生、眠るアルテイシアの口からアストライアとカナリアの名が紡がれる頻度が増え続けている。僕も、アルテイシアも、限界が近づいていた。

 だから僕は自分の命を犠牲に、テキサス・コロニーからの脱出を試みる。

 

 何かをしようという訳でもない。

 検閲に引っかかりそうな文章で手紙に墓参りをしたい事、近々にテキサス・コロニーから出る旨を書いておいた。

 事のついでのようにルウムの学校に行って、勉強をしたい事も書いた。

 

「ええっ!? なんで持って行っちゃいけないんだい!? 弾なんて入ってないし、持ってすらいないじゃないか!」

 

 テキサス・コロニーから出航する時、ジオン公国の士官学校に受かった少年が手荷物検査の職員に声を荒らげている。

 

 彼の名前はシャア・アズナブル。

 テキサス・コロニーに来た後で出来た友人で、僕と顔と声が瓜二つの生き写しのような姿をしている。

 そんな彼は馬鹿な事に骨董品の古式拳銃を家から持ち出しており、銃弾を撃ちだす機構が死んでいる為、殺傷能力もないのだが……そんなことは調べてみないと分からない。更には彼の好物である包装紙に包まれた羊羹までもが検閲に引っかかり、爆発物か判別する為の成分分析が必要となってしまった。

 なにをバカな事をしているんだ。と思う僕の隣で泣き叫ぶ彼。

 どうやら士官学校の入学手続きに遅れると、大きな失点になってしまうようだ。

 そんな彼に、大きく溜息を零す。

 

「ちょっといい考えがある」

 

 半分は彼の為、もう半分は自分の為。

 何事もなければそれで良し。仮に何か起きたとしても、それは僕のせいじゃない。

 乗り込んだ人間を、ちゃんと確認しなかった相手が悪いのだと考えた。

 

 服装と手荷物を入れ替える。

 手荷物検査に引っかかった彼は、エドワウ・マスとしてテキサス・コロニーから旅立った。

 ふと手渡された鞄の中身を確認すると、そのまま入学手続きの書類が入っていた。

 

「……これでは結局、入学手続きができないではないか」

 

 本当に慌ただしい友人の馬鹿さ加減に呆れ果てる。

 さて、どうやってサイド3で落ち合うべきか。

 予定表を確認し、どう考えても期限内には間に合わない事を知って失笑する。

 

「失点するのがお似合いだよ」

 

 そう呟いた時、ドッキングベイにある大型の液晶に旅客船のひとつが爆発したニュースが流れる。

 ジオン行きの便。これによって百名近くの人間が死んだ。怯えはなかった、ジンバ・ラル暗殺事件の時に僕はアルテイシアを守る為に一人の人間を殺してしまっている。ザビ家の連中はここまでするのか……僕のせいかも知れない。でも、僕が殺した訳ではない。僕が動いたせいで死んだ命はあったのだとしても、あの船に乗っていた人を殺す判断を下し、実行したのは僕ではない。ジンバ・ラルの時も殺したかった訳じゃない。殺さなければ殺されていた。僕だけならまだしも、アルテイシアも殺されていた。だから殺さざるを得なかっただけだ。

 ああ、でも、シャア・アズナブル。彼に関しては、どうだろうか?

 死ぬかも知れない死地に、何も知らない彼を送り込んだのは僕だ。僕が死ねと命じて、彼は死んだ。

 そう、言い換える事もできるのかも知れない。

 

「力が欲しいな……カナリア。僕には、皆を守れるだけの力がない……」

 

 その後で僕がシャア・アズナブルに成り代わったのは、刺客に怯える毎日に辟易していたせいかも知れない。

 彼を殺してしまった贖罪の意味も込められていたのかも知れない。ザビ家を恨む気持ちもある。こんな思いをさせ続けて来たザビ家に復讐したいという気持ちはある。でも、それが目的ではなかったはずだ。

 もう、僕には自分の本心がよく分からない。

 言語化できないこの想いすらもニュータイプは汲み取ってくれるのだろうか。

 ……ニュータイプはそんなに万能じゃない。

 少なくとも、彼女はそうではなかった。

 

「会いたいな、カナリア」

 

 別に誰かに救いを求めている訳じゃない。

 心を許せる誰かに会いたかった。

 アルテイシアに頼る訳にはいなかったから、他に心を許せる相手となれば必然的に彼女になる。

 あの頃に戻りたい。と、強く想っている自分がいる。

 弱くなった自分を自覚する。




最後のギレンとガルマの部分、ちょっと思う所があって削除しています。
後で何処かに入れます。

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