NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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18.ちゃんとお勉強もしていますよ!

 キャスバル・レム・ダイクンの訃報を聞いた時、

 衝撃的だったのは確かなんだけど、不思議と思っていたよりも悲しく感じなかった。

 それは彼を喪ったという自覚が薄かっただけなのか。

 少なくとも、涙が零れ落ちる事はなかった。

 

 機密を知った私は、機密保持の意味を込めて、首都官邸で日常を過ごしている。

 とはいえだ。お父さんは頻繁に会いに来てくれるし、ドズルもよく顔を見せてくれた。ダーク・コロニーの研究者からは早く帰ってきて欲しいと言われているみたいなんだけど、たぶんそれって機体のテストをして欲しいって意味だよね?

 ま、良いんだけど。

 私が11歳の時にダーク・コロニーでは、それまで人型機動兵器開発における最大の問題点とされていた核融合炉の小型化に成功したようだ。ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉というよく分からない名前なんだけど、ドズルが凄いって言っていたので、兎に角、革新的で凄い発明なんだってことは分かる。流体パルスシステムとか、AMBACシステムとか、なんだかよく分からない単語がたくさん出て来たけど、私が乗っていた時と比べて全くの別物になってるのはわかった。

 乗りたい! って私が言ったら、無言でギレンに睨まれた。

 ……良いじゃん、別に良いじゃん。私が一番、人型ロボットを上手く扱えるんだ!

 

 12歳になった時、ドズルが私の誕生日にモビルスーツのシミュレーターを首都官邸に持って来てくれた。

 形式番号がMS-03のヴァッフを飛び越えて、MS-04のブグのデータが入っている。ダーク・コロニーでは、更に新型の開発が進められているようだ。まあ、それも一週間程度で飽きちゃったんだけどね。中に入っているステージはもう全て、ハイスコアを塗り替えちゃったし、完全にランダムにしちゃったり、理不尽な難易度にされると面白みがない。

 ドズルが顔を合わせる度に新しいステージを用意してくれるけど、それもドズルが帰る前にクリア出来ちゃってやることがなくなる。

 

 偶にキシリアもシミュレーターに新しいステージを入れてくれるけど、能力試験みたいな内容で面白くなかった。

 まあ実際、そんなものだと思うんだけど。一度、私がクリアするとキシリアは満足して、プレイデータを抜き取って帰る。

 私はあまり、キシリアの事が好きじゃない。

 あの人、私の事を実験動物かなにかだと勘違いしてるっぽい。

 今はまだ、なにかをしてくるつもりもないみたいだから、別に良いんだけど。

 ギレンに会いに来る人達の方が余程、あくどい人が多いし。

 

 あとはデギンに会いに行く機会も結構ある。

 禿頭で中年のおじさん。ドズルやギレンの父親で、ジオン公国の公王。なんと、この国の王様である。

 今はもう実権の大半をギレンに譲っているけども、彼が持つ影響力は大きいままだ。

 私が会いに行くと、何時も高級菓子を用意してくれるのだ!

 

 あとセシリアは嫌い。セシリアの人柄は嫌いな訳じゃないんだけど、頼まれてもいないのに私の教育係として張り切ってて、それを押し付けてくるのが嫌だった。勉強するのは良いのだけど、侍女としての立ち振る舞いとか、パーティーのマナーとか、そういうのはどうでも良いじゃんって思うのだ。今はギレンに保護されている形になっているけど、何時までも此処に居るつもりはない!

 

「カナリア、近々外に出かけるぞ」

 

 私が飽き飽きしたシミュレーターでハイスコアを叩き出してると、ギレンが話しかけて来た。

 外に出られるのは嬉しいけど、急な話だ。あまり良い意味ではない感じがする。

 

「ニュータイプ研究所とツィマット社、どちらが良い?」

 

 そう問いかけてくる彼に「ゴースト・コロニーが良い」って返すと「駄目だ」とすげなく断られた。

 まだ試作段階にあるMS-05を見てみたかったんだけどね。

 ……少し考え込んだ後、注視してギレンの心を読んだ。それからツィマット社と答える。

 

「承知した、三日後だ」

 

 そう言うと彼は記憶媒体の端末を私のシミュレーターに差し込んだ。

 ……このシミュレーターも、せめて対人ができれば良いんだけどね。機密情報ばかりなので、回線を繋げることができないのは分かるんだけどさー。何かの情報をインストールした後、選択できる機体の中に新しいモビルスーツが増えている。

 形式番号EMS-04。正式名称ヅダ。ザクとは違う青い外装のMSは、異常なまでに中毒性の高い速度を備えていた。

 でも、これは────

 

「……ねえ、ギレン。これ、おかしいよ」

「ほう、何がだ?」

「私の知識は数年前のだから、今だとわかんないけど……たぶんこれ、機体が耐え切れない動きをしてる気がするかな」

 

 実際に乗せてくれるとはっきり分かるよ。と私が言えば、ギレンは顎を撫でながら暫し考え込んだ。

 

「少し、考える」

「……あれ? てっきり乗せてくれないと思った」

 

 彼から感じる気配は明らかで、私が兵器開発に関わる事を否定している。

 

「事情が変わったからな」

 

 ギレンは、それだけを告げると部屋を出て行ってしまった。

 とりあえず、私は、このヅダを使って、シミュレーターにある全ステージの記録を塗り替える。

 今までの半分程度のクリアタイムを見て、こんなんチートだよ、チート。と溜息混じりにシミュレーターの電源を落とした。

 

 

「ふむ、断られたか。残念だ」

 

 ニュータイプ研究所が本格的に稼働を始めて一年程度が経過している。

 マリオン・ウェルチの他にも被験者は次々と送り続けられており、目立つところではクスコ・アルが良い結果を出している。新しく当研究所に配属された技術士官、シムス・アル・バハロフの主導で開発が進められているサイコ・コミュニケーター(略称:サイコミュ)も悪くない進捗であり、今はマリオンがサイコミュ技術を用いたラジコンを脳波でコントロールできる段階まで研究が進められていた。いずれ、クスコも同じことができるようになるはずだ。

 ただニュータイプが発する脳波にも個性があるようで、サイコミュによる操作が苦手な者もいる。その典型例がアルマ・シュティルナーという少女であり、サイコミュ技術を用いた玩具で遊べない彼女はモビルスーツの戦闘シミュレーターに噛り付いている事が多い。

 そんな彼女もダーク・コロニーに所属するパイロットと遜色ないスコアを出しているのだから、驚きである。

 

「そんな彼女達をも圧倒するスコアを出し続けているのが、最初のニュータイプ。カナリア。マリオンは追い縋っているがな……」

 

 記録によれば、モビルスーツ。当時はモビルワーカーだったか、それに初めて乗った時ですらも自分の意のままに機体を操っていたという話だ。

 

「もし仮に、それが本当だとすれば……ニュータイプというのは末恐ろしい才能だな」

 

 私は、ニュータイプ候補生の中でも特に成績の良いマリオン・ウェルチを中心に脳波の研究を続けている。

 薬物でも投与して、分かりやすい反応を得れば、もっと研究を捗らせることもできるのだが……

 

「まあ今となっては急ぐ研究でもあるまい。まだ、この能力と技術を活用する方法も見いだせていないのだからな」

 

 一定の成果を出したことでニュータイプ研究所の規模は徐々に大きくなりつつある。

 脳波でニュータイプの適性を見分ける手段も確立できている為、ここに来るニュータイプの数も増える。

 そうすれば研究は更に捗るようになり、予算は勿論、研究員や職員の増員も承認して貰えるはずだ。

 

「……所長も、なんだかんだで優秀なのだがな」

 

 BBの子守りを続ける彼は、ニュータイプ能力が先天的なものか、後天的なものか調べる研究を進めている。

 まあ、これらの研究が人類の革新に繋がるかどうかなんて私には分からないし、興味もない。この未知への探求、最先端の技術と知識に触れている今にこそ私は生き甲斐を感じている。

 そして、この研究で私、クルスト・モーゼスの名は歴史に刻まれるのだ。

 

 

 士官学校にも休日はある。外出届を出せば、外に出る事も難しくはない。

 暫くズム・シティを離れる事になる為、その前にと私は末弟のガルマを首都官邸に呼び出した。

 扉をノックする音。入れ、と言えば、ガルマがおずおずと部屋に足を踏み入れる。

 扉の前で直立する末弟の姿、肩肘が張っていた。

 

「よく来たな」

「は、はい!」

 

 緊張しているようだな。とりあえず私は末弟を応接用の椅子に座るように促した後、部屋に備えておいた珈琲豆の入った袋を手に取る。

 

「学業、頑張っているようだな。ドズルからも聞いている」

 

 コーヒーミルで豆を挽く、その香りを楽しんだ後で粉をドリッパーに移した。

 部屋に備え付けの電気ポットからゆっくりと二人分の湯を注ぎ入れる。

 コーヒーカップに白い湯気の立つ黒い液体を移して、大量の砂糖と牛乳を入れた。

 

「…………」

 

 自分用に淹れた無糖の珈琲はガルマに出し、砂糖入れと牛乳の入った小瓶を添える。

 自分は薄茶色の──最早、珈琲とは呼べない別の何かを啜りながら腰を落とす。

 

「飲め。私、手ずから淹れた珈琲だ」

 

 美味いぞ。と告げれば、彼は何も入れずに口を付ける。

 

「苦っ」

 

 思わず、口にした言葉にガルマは気恥ずかしそうに私を見上げた。

 そんな末弟の姿に私が鼻で笑ってやれば、ガルマは顔を真っ赤にして一気に珈琲を飲み干すのだった。

 さて、揶揄うつもりはなかったのだがな。

 とりあえず私も珈琲に口を付けて、珈琲の風味もあったものではない味に一言零す。

 

「……甘い」

「ええ……なんで、そんなに砂糖とミルクを入れちゃったの?」

「疲れている時は目一杯に甘くした方が良いらしいぞ」

 

 そう言い返してやれば「なんだよ、それ」とガルマがはにかんだ。

 冗談を言ったつもりはないが、ともあれ緊張は解れたようだ。

 さて、伝えたい事がある。しかし、どう伝えれば良いか。

 言葉に悩んで視線を落とす。薄茶色の水面に、ヒヨコ頭の少女を思い出す。

 

 最近、彼女は執務室に入ってくる事が多い。

 

 どんな事をされた時に、彼女は喜んでいたか。

 セシリアとカナリアの触れ合いを思い返して、彼女が笑顔を浮かべた時の状況を思い返す。

 椅子から立ち上がる。そしてガルマの隣に立った。

 不思議そうに私を見つめる末弟の頭を、くしゃりと搔き乱した。

 

「遅れてしまったが、入学試験の首席合格。よくやったな。今も、特に座学は良い成績だ」

 

 ガルマは顔を真っ赤にした後「きゅ、急に何をするんだ! 気持ち悪い!」と私の手を振り払って、部屋を飛び出してしまった。

 

「……ふむ、難しいものだな」

 

 ジンジンとする振り払われた手を見つめる。

 珈琲のような何かを飲み干した。牛乳で柔らかくなった甘い味が心に染み入る。

 

 

 国家間の緊張の高まりつつある中、それでも戦争には届かない。

 まだ平穏と呼べるこの時代で、11歳の少女は機械弄りに明け暮れる。社内で破棄されたジャンクを漁り、自分だけのモビルスーツを組み立てる為に日々を費やす。大きさは1メートルを少し超える程度、二足歩行の下半身に操縦席を付けたロボット。彼女が作る二足歩行機体はダーク・コロニーで開発されているモビルスーツを比べれば、お粗末なものだ。

 それでも彼女は作り上げつつある。人型と呼べずとも、二足歩行する機動兵器の開発を完成させようとしていた。

 

 ここはツィマット社、少女の名はミア・ブリンクマン。

 将来はツィマット社を導く有能な技術者になる。と云われる天才少女は、この時はまだ機械弄りが好きなだけの少女であった。




前に言っていたギレンガルマの分がここに入っています。

今回クスコ・アルに関しては、名前を出さないと違和感がありそうだった為に出しましたが、私が小説版を読んだことがないので以後もまともに登場する事はないと思います。
クスコ・アルのファンの皆様申し訳ありません。
たぶん本筋に関係のない所で彼女なりの人生を歩んでいると思います。

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