NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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2.だいくんけでのにちじょう。

 カナリアです。ダイクン家の使用人見習いをしています。

 年齢の割にしっかりしていると褒められます、四歳です。

 今は瀟洒にポーカーを嗜んでいます。

 

「くそっ、なぜ勝てない!」

 

 対面に座るのは母譲りの金髪の少年。名はキャスバル・レム・ダイクン。

 ジオン・ズム・ダイクンの嫡子である彼は今、くしゃりと悔しそうに前髪を掻き上げる。そんな彼の手元の机には、並べられた五枚のカード。数字の6から10のストレート。その対面に座るメイド服を袖に通すレディな私の手元にはスペードのフラッシュだ。

 私は場に積み上げられた賭け金代わりの飴玉を、にんまりと笑みを浮かべて手元に掻き集める。

 

「あめだま、たくさん」

 

 山積みの飴玉。それをジオン・ズム・ダイクンの次子である少女、アルテイシア・ソム・ダイクンが横から羨ましく見つめてきたので飴玉を幾つか御裾分けする。

 

 使用人見習いの仕事なんて、あってないようなものだ。

 アストライアが仕立てさせたメイド服を普段着代わりに着込んでいるけども、まだ四歳の身の上では満足に家事も手伝えない。代わりにジオンが私に与えた役割は、二人の子供の遊び相手。男の子と女の子が一人ずつ、嫡子のキャスバル・レム・ダイクンはキザでスカした男の子、それでいて負けず嫌いだ。次子の女の子は、アルテイシア・ソム・ダイクン。よく笑って、よく歌ったりする。飼っている黒猫のルシファが大好きだ。

 キャスバルは私よりも五つも上で、アルテイシアは二つ上。傍目から見ても仲の良い兄妹である。

 

 私の特別な力を使っても、オセロやチェスでキャスバルには勝てない。

 でもババ抜きや神経衰弱なら絶対に負けない。キャスバルは負けず嫌いなので何度でも勝負を挑んでくる。本当に何度も何度も挑んでくるので、ちょっと相手をする事が面倒になった私は対価を要求する事にした。それで彼はお菓子を持って来るようになり、これを賭け金代わりに勝負を持ち込んできた。それを掻っ攫うのが私の今の御役目だ。

 私、知ってるよ。こういうのをカモっていうんだよね。

 

「きょうも、みついでくださりありがとうございます」

 

 彼の手元から飴玉がなくなったのを確認し、深々と頭を下げる。

 

「貢いだ訳じゃない! そんな言葉、何処で学んだんだ!」

 

 次は勝つ! と彼は私を指で差した後、机に広げられたトランプカードを片付け始める。

 御馳走様です。私は心の内側で次の分の感謝を述べておいた。

 

「やはりポーカーで勝つ為にはカウンティング……」

 

 彼がカウンティングを頑張ってくれるおかげで山札の残りが分かっちゃうんだけどね。と、彼に気付かれないようにンベッと悪戯っぽく舌を出した。今日のルシファは御機嫌斜め、アルテイシア以外が手を出したら噛まれちゃう。撫でたい気持ちをグッと堪えて、両手いっぱいの飴玉を持って与えられた自室に戻る。部屋には子供用のピアノがあって、大量の飴玉は宝箱に突っ込んでから鍵盤に指を添える。

 私は相手の気持ちを読み解く事ができる。

 かといって、それは相手の感情を理解できるといった程度のものであり、納得とは程遠い。ジオンは私の事を新人類の先達と言ったりもするけども、人の心が読める程度で大きな何かが出来る訳じゃなかった。道具は使う人間で用途が変われば、形も変わる。刃物は料理を作る時に便利だけど、人を殺す事に特化させることもある。技能や能力も似たようなものだ。持っているだけでは、大した意味はない。これ単体ではプリンや飴玉をせしめる程度が関の山、こんなものが人類の拠り所になるはずもない。

 想いを誰かに伝えるのであれば、テレパシーなんかよりももっと良い手段がある。

 

「〜〜♪ 〜〜♪」

 

 アストライアが発する歌声は、名前も顔も知らない誰かの心を響かせる。

 ノーシング・ノーライフ。これよりも素晴らしい共感性を持つ力が、果たして他にあるだろうか? 私からすると皆を幸せな気持ちにさせるアストライアの歌声の方が余程、羨ましく思える。

 その夜、夕食時。議会がまとまらない事で悩むジオンに私は「アストライアの歌を聞かせれば良い」と提案した。

 微笑ましいものを見る目で頭を撫でられた。

 

「みんな、お前のように相手を理解してやれる優しい人間だったら良かったのだがな」

 

 その父の言葉にキャスバルは、訝しむように首を傾げる。

 テメー! 言いたい事は分かってんだぞ、コラー!

 

 

 餓鬼が来た、女だった。ヒヨコのような金髪の芋臭い女だ。自由奔放な妹だけでも手に余るというのに、更に餓鬼が増える事を想うと億劫で仕方ない。

 僕は行く宛のない餓鬼を放り投げてもよいと考えるほど鬼ではないし、決められている事に難癖を付けるほど子供でもない。ただ理解する事と納得する事を同義だとは思わないで欲しい。母のアストライア、妹のアルテイシア。そこに僕を含めた親子水入らずの場に不純物が混じる事は全くもって不本意である。

 それに此奴は、使用人見習いの身分の癖に家族同然の扱いを受けるのも納得がいかない。

 

「はじめまして、かなりあです」

 

 そう言って小汚い頭を下げる。

 衣服は庶民の中でも貧相なものを着ており、髪の手入れも満足にしていない。

 正直、見ていて気分の良いものではない。

 触れるのも嫌だと僕がそっぽ向けば、此奴は困ったようにはにかんだ。

 なんだその態度は、僕の方が子供のようではないか。

 

「遊んでやる、来い」

「いいの?」

「僕が良いと言っているんだ。……いや、先に風呂に入って来なよ。臭い」

 

 彼女が風呂に入った後、僕はトランプで簡単なゲームに付き合ってやる事にした。

 一度や二度、適当に遊んでやれば良いと思っていたのだが、意外にもこれが長く続いて一時間が過ぎる。

 その間、僕は一度も彼女に勝つ事ができなかった。

 

「よっわ~い」

 

 ババ抜きの最中、彼女は最後の二枚の内一枚を摘みながらにまにまと笑みを浮かべる。

 摘ままれているのはハートの7、歯ぎしりする。勝負の最中、彼女は僕の手札からババを引くことは一度もなく、しかしアルテイシアからは程よくババを抜き取って僕に渡してくる辺り、狙ってやっているとしか思えなかった。オセロやチェスだと勝てなくもないが時折、僕の思考を読み切っているのではないかという動きをしてくる事があった。結局、地力の差で勝ててしまえるのだが、誘い込んで罠に掛けようと思った時は必ずといっても良い程に引っかからない。ブラックジャックだと勝てることはあるけども、彼女の負けた時の大半は自滅。それも引かなきゃ負けるっていう時しか引かず、運悪く負けてしまうっていうパターンばかりだ。

 ジャンケンをした時、アルテイシアには程よく負ける癖に僕相手に負けた事は一度もない。

 気に食わない奴だと思った。

 

 彼女が僕の家に来てから一週間が過ぎた頃、彼女は子供向けのメイド服を着ていた。

 馬子にも衣裳とはよくいったもので、姿勢を正し、深々と頭を下げる仕草は思っていたよりも様になっている。そういえば、この家に来てから母が肌と髪の手入れをしているので見れなくはない程度には綺麗になっていた。この綺麗という言葉を思い浮かべた時、彼女は僕の方を少し驚いた顔で見つめた後、にまにまと笑みを浮かべる。「いってくれないとわかりませんよ」と舌足らずの口で宣いやがったので、片手で彼女の頭をぐりぐりと押し付けてやった。

 母から彼女が特別な能力を持っている事を聞いている。

 思っていることが言わずとも伝わってしまうのは厄介なものだ。あまり良い気がしない。と思った時のこいつはとても悲しそうな顔をしたから「身内以外ならな」と片手で髪をぐしゃぐしゃに撫で回してやった。相手の思っている事が分かるのであれば、もっと上手く取り入ることもできるはずなのに、こいつはそれをしようともしなかった。

 その特別な能力を相手を揶揄う事ばかりに使って、その反応を楽しんでやがるのだ。

 まったくもって悪女である。将来有望な女狐だ。

 

 でもまあ相手の心が分かるからといって相手に合わせるばかりの人生ってのは「窮屈だろうな」と子供心に思った。

 案外、彼女くらい人を食ってるのが丁度良いのかも知れない。

 

 

 ダイクン家の生活にも慣れ始めた頃の事だ。

 私の保護者であるジオンは時折、屋敷に偉い人を呼んで密会をすることがある。サングラスを掛けた頭の禿げたおじさんは優しい人、その隣に付き従っている事の多い坊主頭は怖い人。どちらも心は真っ黒で、たくさん悪い事をしてきたんだと思う。でも頭の禿げた恰幅の良いおじさんは嫌な感じはしなかったし、坊主頭のお兄さんは怖い人だけど、自ら進んで悪い事をするような人にも見えなかった。あと顔が怖くて大きな人は心が白くて、とっても優しい! 私が今まで会って来た人の中で最も優しく感じられる人だったから、会えると嬉しくなって抱き着いちゃう! 出会った当初は子供の扱いに困っていたけども、今じゃ笑いながら私を高い高いしてくれるのだ、大好き!

 アルテイシアと二人で肩車をして貰って、キャスバルを見下すのが最近のトレンドである。

 

 ジオンの友達は心の黒い人が多い、悪党ばかりだ。

 でもドズルの他にも優しい人はいる。ラルおじさんである。ジンバは信用できない奴だけど、ランバは良い奴だ。ドズルは優しいけど気弱で泣き虫、それに比べてランバが心根が真っすぐで強い! なによりも子供の私を前にしても、ちゃんと私の事を見てくれるのが高得点! ジオンとジンバが密会している間、暇になったランバに「おにたいじだ!」と意地悪なキャスバルを退治しに行くのにも付き合ってくれる。チェスやオセロもランバの手を借りれば、ボッコボコに出来るのだ!

 悔しがるキャスバルを眺めるのは、おつなものですな!

 

「大人の手を借りて卑怯だと思わないのか!?」

「おにいさま。すぐれたしきかんというのは、いかにぶかをうまくつかいこなせるかということです」

「はっはっはっ! このランバ・ラルもカナリア嬢には勝てませんな!」

 

 大人げなく笑うランバに合わせて私も高笑いをする。

 

「しかしカナリア嬢も人の手を借りてばかりではいけませんぞ。そしてキャスバル様、この手は少し軽率過ぎましたな」

 

 そういって二人は先程までやっていたゲームの検討を始めるまでがセットだ。

 私も話を聞くようにはしてるけど難しい事はよく分からない。

 

 キャスバルは、よく考える。孤児院で同年代の誰よりも賢く、ドズルよりも物事を深く考える事ができた。

 その事はランバも理解しており、九歳の子供にはまだ早いと教えない事も口にしたりする。

 ランバからすると私も十分に賢いとの事、当然である。私は特別なのだ。

 

 そんな感じで色んな人と顔を合わせていると、本当に悪い事を企んでいるような奴もいる。

 密会を終えた後、ジオンは私だけを部屋に呼んで、いつも同じ質問をする。

 

「今日、会った相手はどう見えたかな?」

 

 私は思った事を率直に告げる。

 細かい事は分からない。何かを企んでいる。という事は分かっても、パッと見ただけでは具体的な何かまでは分からない。

 だから何時も印象だけを口にしている。

 

 そうか、とジオンは短く頷くだけだ。

 ザビ家の印象を口にした時は「意外だな」と深く考え込むように呟いていた。


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