NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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20.イエスロリータ、ノータッチ!

 プロト・ゼロ。ことカナリアの情報はキシリア機関を通じて、ニュータイプ研究所にもたらされる。

 最近ではツィマット社に足を運ぶ機会が多いようで、大人顔負けの腕を披露しているとの話だ。モビルスーツ開発は黎明期、皆が皆、経験もない状態からのスタートになる為、この時期はまだ大人も子供も関係ないのかも知れない。しかし、それでも、異彩を放つのがカナリアの存在だ。マリオンやクスコ、アルマが彼女がシミュレーションで出したスコアを抜こうと切磋琢磨するも、カナリアの記録には及ぶ事はない。

 やはり、彼女には、彼女にしかない特別な何かを持っているようにしか思えなかった。

 

 現状、最高のニュータイプである彼女は、やはり被検体として手に入れたい。

 私が作り上げたシミュレーターのステージをクリアさせるだけでは物足りない。改めてニュータイプとしての彼女が優秀であると思い知らされるだけだ。本当ならばシミュレーターだけではなくて、もっと色んな実験に参加させたいのだが──それをフラナガンに進言しても動かず、キシリアに進言するもドズルやギレンといった連中が邪魔をする。

 何故、カナリアには人類の可能性が詰まっていることが分からないのか。

 

 今、私が調査しているのはニュータイプが何を感じ取って反応しているのか、というものだ。

 ニュータイプ能力の中で最も顕著なのが勘の良さである。空間認識能力は勿論、その空間にある情報を瞬時に読み解く能力にも長けていた。瞬時に得られる情報が多ければ、多い程に勘の精度は高くなり、時には相手の心を読んでいるのではないかと思える時もある程だ。シミュレーターのステージの配置も、何かを意図して置いた物が多ければ多い程にニュータイプのプレイヤーは的確に先読みして行動するし、ランダムな情報は無意識に排除する能力も備えている。マリオンは、単純なシミュレーターの腕前は平均よりも少し上といった程度のものではあるが、それでもダーク・コロニーにいるパイロットよりも高いスコアを出せるのは、この優れた勘の良さ。即ち、先読み能力がある為だ。

 ……実戦で培われた豊富な経験と判断力の高さでニュータイプに引けを取らないスコアを叩き出すダーク・コロニーのパイロットも大概おかしい訳だが、そこはまあ今はニュータイプに関係がないので省く事にする。

 

 珈琲を啜り、キーボードを叩いて今日の研究をレポートに纏める。

 

 ニュータイプ同士が対戦した時、高度な先読み合戦が多発する。

 ずっとシミュレーターに噛り付いているアルマとマリオンを戦わせた時、最初の何戦かは、どうにか先手を取ろうと牽制合戦が始まった。それが何度も続いた後は、如何に相手に与える情報量を増やすか。という点にシフトした後、相手に与える情報に複数の意味を持たせるという数に質を伴わせるようになった。今となっては二人を戦わせると脳を酷使し過ぎてしまう為、日に何度もテストを行う事ができなくなる。

 相手の情報を読み取り、読み取らせる。そうして相手の反応を少しでも鈍らせて隙を作る、というのがニュータイプ同士の戦い方であった。

 

 しかし、此処でもカナリアは異質だった。

 彼女はシミュレーターをプレイする時、ステージに配置されたギミックの意図を読み取った上で踏み込んでくる事が多々ある。この程度の罠であれば踏み抜いても問題ない、と言わんばかりに猪突猛進のプレイングをするくせに操縦は繊細だった。瞬時に自分が今、置かれている状況を把握する能力に長けており、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するというバカの考えなしを実戦レベルに落とし込んでいる。

 それでいて不意打ちにもしっかりと対応してくるのが厄介極まりない。

 

 最近ではステージギミックを破壊する事を目的にしているような節さえあるほどだ。

 まるで「これが一番早いと思います」と言わんばかりにギミックを突き抜けて、最短距離でゴールを目指してくる。

 おかげで欲しい情報が手に入らない時もあった。

 彼女に提供するステージは、如何にして、ギミックを攻略させるのか。という点を重視しなくてはならない。

 

 なんで私は、こんな研究に関係のない所で頭脳を酷使しなくてはならないのだ……!

 偶にフラナガンが制作するステージは、ちゃんと真面目に攻略しているのが一層に腹立たしい。そして恥を忍んでフラナガンに助言を請いに行けば「モーゼス君、君はレディの扱いがなっておらんようだな」とすました顔で言ってくるのが更に私を苛立たせる。

 そうして彼女から得られた情報を精査するのだが──やはり、彼女は被験者としてニュータイプ研究所に来るべき人間だ。

 人間の可能性は、彼女の身体にこそ詰まっているのだ!

 

 とはいえ、今はあるもので研究を続けるしかない。

 先日もまた新しくキシリア機関の者によって、新しく被験者が届けられた。

 名前は、ペッシェ・モンターニュ。赤髪の少女。カナリアよりもひとつ上の13歳だ。フラナガンが今、研究しているニュータイプ能力の後天的発現の可能性を確かめる為に研究所へと連れて来られた女の子である。その為、彼女はまだニュータイプと呼べるだけの素質を持っていなかった。全くないという程でもないのだが──「なんでまた女性なのだ?」と私がフラナガンに問い詰めれば「ここに居る被験者は皆、女性ではないか」と返された。

 ペッシェはニュータイプとしての素質が低い。

 その為、被験者の中では、何をやらせても最下位という成績を残してしまっている。

 

 ……フラナガンは近頃、私の集めた資料を持っていく事が多かった。

 それはカナリアの過去に関する情報であり「孤児院は……まあ、此処が孤児院みたいなものか」と呟いていた。

 あれでちゃんと研究はしている。

 サイコミュを用いた玩具のアイデアは、フラナガンが関わっていることも多いのだ。

 

 いずれ、何時の日か、私は人類の可能性を解き明かしてみせるのだ。

 ……このタイミングでペッシェが来たのは都合が良かった。シミュレーターで他の子に負けて、何時も落ち込んでいる彼女に話しかける。

 君も彼女達のようになりたくないか? と。

 フラナガンが人工的にニュータイプを生み出す研究をするのであれば、私はニュータイプを解明し、外付けでニュータイプの力を得られる手段を探る。幸いにも、この研究所には被験者が残した莫大なデータがあった。それを分析する事でニュータイプの何たるかを解明する。

 これは、その一歩目だ。

 ニュータイプの戦闘能力を再現したサポートシステムの開発、シミュレーターで他の被験者を倒す事から始める。

 

 

 時は流れる、今年で18歳になる。カナリアはもう13歳になっている頃だ。

 私は今、シャア・アズナブルとしてジオン公国の士官学校にいる。

 もう三年目だ。私が成り代わったシャアとでは瞳の色が違う為、出生を悟られない為にサングラスを常備している。

 わざわざ眼底色素異常という診察結果を出して貰った上での話だ。

 

 特に身を入れてきた訳ではないが、学業では首席に近い成績を収めている。

 そのおかげで出生がバレる訳にもいかないのにザビ家の末弟であるガルマには絡まれるし、気付けば同室にもなっていた。彼はしきりに立派なザビ家の男になると意気込んでいたが、私から言わせて貰えば、そんな風に周りの目を気にしてばかりな所が坊ちゃんなのだ。

 君の兄であるドズルをもっと見習うのだな。

 君の歳にはもう少佐として立派に職務に励んでいたし、今は大佐で士官学校の校長を兼任している。

 

 ……カナリアの消息は、未だに分かっていない。

 私の正体が知られてしまった時、ザビ家が何をしてくるのか分からない為、あまり目立った行動を取る訳にもいかなかった。私だけが危険に晒されるのであれば、それで良いのだが、テキサス・コロニーに居る妹に手出しされるかも知れないのだ。カナリアには申し訳ないが、私の優先順位はカナリアに会うことよりもアルテイシアの安全の方が上にある。そんな事なので目立つこともできず、ランバ・ラルの行方も掴めていなかった。

 ドズルは、人柄は信用できる。しかし、彼も私よりも家族を優先するはずだ。

 私も、ドズルやランバよりもアルテイシア一人を優先する。

 

 だから、彼がザビ家に所属している以上は私の正体を明かす訳にはいかない。

 幸いにも、鈍感であった彼は、この三年間で私の正体に気付く事はなかった。

 

 時間は、あっという間に過ぎていったように思える。

 ジオン公国と地球連邦政府の間で高まっていく緊張も、まるで他人事のようで、血気盛んにジークジオンと拳を突き上げる同級生を冷めた目で見つめていた。ジオン・ズム・ダイクンが望んだ革命は、こんな形じゃなかっただろうに──振り上げた拳の行く先は地球連邦政府にあり、今も国民と駐屯軍の間で小競り合いが起きている。

 理想だけで、大義を為すことはできない。そんな事は今時、子供だって知っている事だ。

 

 最後の実施訓練、目立つのは嫌だった。

 だから私は、あえて問題を起こすことで首席をガルマに譲った。

 今は目立つかも知れないが、後々の事を考えると今、リスクを背負ってでも為すべき事だ。

 翌日の成績発表では、私の思い描いていた通り、私は次席に落ちていた。

 

「シャア、居るのか!?」

 

 成績発表された日の事、私が小天体観測センターから公開されている情報を眺めている時の話だ。

 私は数日前に、ひと目見て嫌な予感がした小天体を見つけた時から観測を続けている。それが今日はっきりとした感覚で分かった為に計算式を打ち込んでみた。その結果、その小天体が首都バンチのコロニー群に突っ込む事が分かった。

 計算通りに、行けば、という話だが。あくまでも素人の計算だ。

 

「どこからこんなデータを?」と部屋に戻って来たガルマが問い掛ける。

「連邦の観測局にアクセスして見つけた」

 

 私がそう言うと「なんだ。じゃ、大丈夫だ」と彼は安堵し、椅子に腰を下ろした。

 

「観測局がキャッチしていて警報を出していないのなら危険じゃないということだろ?」

「そうかな。逆に警報を出しそびれているのなら……これは、重大な失態だぞ?」

 

 今でさえも公国と連邦の関係は悪い。

 何がきっかけで破裂するのか分からず、そのまま戦争に突入する事も考えられた。

 しかし、彼は軽い調子で「専門家に任せておくさ」と云うと世間話を始める。

 まあ、確かに私も考え過ぎたかも知れない。

 

 パソコンの電源を落として、インスタント珈琲を淹れる。

 するとガルマが「僕の分も頼む」と言ったので、二人分のカップを取り出した。

 砂糖を入れる。スプーンで一杯、二杯、三杯……冷蔵庫から牛乳を取り出し、たっぷりと注ぎ入れたのを手渡す。

 

「どうぞ」

「ありがとう、シャア」

 

 ガルマは、受け取ったカップをそのまま口に付ける。

 

「……ぶふっ! ……なんだこれ、激甘じゃないか!」

「くく……あっはっはっはっはっはっ!」

 

 思わず噴き出したガルマの姿を見て、つい私も笑い声を上げてしまった。

 そんな私の態度に機嫌を悪くしてしまったのか、彼は不貞腐れるように私を睨んだ。

 

「……ったく、君の甘党にはほとほと呆れているよ」

「特別に甘いのが好きな訳ではない。疲れている時は甘くする方が良いと聞いたことがあったんだ」

「疲れている、君が?」

 

 彼は激甘の珈琲を啜ると「あまっ」と改めて呟いた。

 

「……まるで兄さんと同じことを言うんだな」

「私が、ドズル校長と?」

「ギレン兄さんの方だよ。兄さんも同じことを言っていたんだ」

「……ほうっ?」

 

 ところで、と私は話を切り替える。

 

「君の実家は豪邸だったね。使用人もさぞかし多いのだろうな」

「なんだい、急に? ……まあ兄さんが使っている官邸は広いからね。使用人の一人や二人は当然いるよ」

「それなら……幼いヒヨ、金髪の少女とか。居たりしたのかな?」

 

 もしかすると、メイド服を着た。と付け加える。

 

「……シャア、僕は君の事を尊敬している」

 

 彼は静かに激甘の珈琲の入ったカップを机に置くと、急に真剣な眼差しで私の事を見つめてきた。

 

「君が、その……少し特殊な性癖を持っていても、僕は咎めないよ。いや、人類誰しもが、そういった誰にも言えないような想いを胸に抱えているものだと理解している。……僕にだって、胸に秘めているものが……その、だ。……ひとつやふたつくらいは、ある…………」

「……君は何を言っているんだ?」

 

 シャア、と彼は母以外の誰よりも優しい声で語り掛ける。

 

「手を出すのだけはやめておけ」

「本当に何を勘違いしている?」

 

 その時、ガルマの瞳には強い意志が宿っていた。

 か弱い女の子を悪逆非道の輩から何がなんでも守るという騎士のように強い目をした一人の男がいる。

 

「シャア、僕は大真面目なんだぞ! ちゃんと話を聞くんだ!」

 

 とりあえず、私は彼の頬を強めに張っておいた。

 

 そんな掛け合いのあった数日後、卒業式の最中。

 小天体が首都バンチのズムシティのあるコロニーに衝突する事故が発生した。


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