NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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21.すれ違い宇宙。

 南米、地球連邦軍司令部。ジャブローにて。

 今しがた観測局の失態を耳にしたゴップは、受話器を置いて、豪華な執務椅子に体重を傾ける。

 如何に機械といっても、人が管理する以上はヒューマンエラーが発生する。それが言い訳の利く事故であれば、まだ仕方ないと言える。だが、それが初歩的な入力ミスともなれば、頭が痛いものであり、その為に30tの氷塊がジオン公国の首都バンチであるズムシティに衝突するとなれば、胃に穴が空くなんて話ではない。今回の件で責任を取り、クビを飛ばされるなんてまだ良い方だ。

 問題は残された側であり、この後始末を押し付けられる上、引き継ぎもなしに総とっかえされてしまうのである。

 

 懲戒免職で罪を償えるなんて、良い御身分だな。とゴップは水の入ったペットボトルに手を付ける。

 

 水で舌を潤した後、再び受話器を手に取る。

 政府高官の中では、未だにサイド3は統治下にあるという解釈だ。

 それ故、想定される暴動に備えて、強襲揚陸艦の派遣。更には軍艦船の随伴も緊急会議で議決されるに違いない。

 少なくとも、ズムシティに駐屯している連邦軍の将兵を守る意味でも派兵する必要はある。

 

「……ああ、そうだ。私だ。強襲揚陸艦一隻と軍艦を何隻か直ぐに動かせるようにしといてくれ。ああ、天体衝突の件だよ」

 

 受話器を戻し、誰を派遣するのが良いかな。と思案する。

 ティアンム少将は……まだ荷が重いか。一歩間違えれば、戦争に突入するこの局面。七〇年代軍備増強計画もまだ中途である今、まだ地球連邦軍は戦争する準備が整っていなかった。……正直、戦争に勝利する事だけを考えるのであれば、今すぐにでも攻め込むべきではある。しかし地球連邦政府は、あくまでも民主政治。その成り立ちを思うに国家と呼ぶには憚られるが、民衆による選挙を以て連邦議会の議員は選定されている。

 故に戦争を起こすにも、鶴の一声という訳にはいかない。

 それにだ。それが如何に合理的な判断であったとしても戦争は避けるべきだ。このまま冷戦状態を継続していけば、いずれジオン公国は膨大な軍事費を前に自滅する。かつての冷戦でアメリカにマネーゲームを仕掛けられたソ連のように──逆に中途半端なところで軍事費を削るのであれば、ジオン公国を事実上の支配下に置く事も可能だ。

 いずれにせよ、時間は連邦に味方をしている。

 

 ……自分の派閥から出せるのは、そう多くはない。

 交渉の事を考えるとワイアット中将の方が良いが、彼は御世辞にも艦隊運用が得意という訳ではない。万が一の事を考えるとレビル中将、しかしレビルはあの見た目で好戦的なところがある。他に派遣される可能性のある将校と高官を見比べて、自分の派閥から出す将校を選定する。

 こういう頭が痛くなる時は、悪い事が重なるものだ。

 

 

 首都バンチ、ズムシティに衝突した小天体。

 質量30tの氷塊は、農業ブロックの一つを破壊し、集約設備の損傷によって残る二つも機能を停止する。

 これにより、ジオン公国の全農業生産力の80分の1が失われる計算となった。元よりジオン公国は、ジオン共和国と名乗った日から経済の締め付けを受けており、その上で宇宙に住む人類の義務として、更なる食糧農産物の納入を求められ続けていた。尤も、食料農産物の納入を増やしたのは、サイド3に限った話ではなく、サイド全てが一律で納入量を増やすように要求されただけの話だ。

 しかし地球連邦の怠慢により、計三つの農業ブロックを損失したジオン公国の国民としては納得できる話ではない。

 

 そもそもの話として、今の地球は痩せ細っている。

 年々進行する砂漠化に効果的な対策も打てず、地球での生産量は落ち込み続けていた。故に地球に住む人類を養う為に、宇宙からの納入量を増やすしかない。この事実をエレズムを提唱し、コントリズムを達成したジオン公国が納得するはずがなかった。議会は熱狂し、民衆は怒声を張り上げる。鉄パイプを片手に駐屯軍へと襲い掛かり、即席のカクテルに火を付けた。

 そんな暴動が頻発する中、宇宙では破壊されたブロックの掃海作業に明け暮れる者達がいる。

 

 

『エリア30に航路確保しました。小型船舶に限り、通行できます』

『エリア31はまだです。農産物ダストの密度が濃厚で、大型の残骸も浮遊しています』

 

 目下、掃海作業中。と通信機を片手に持ったガルマが、港湾局と連携を取っている。

 この掃海船の艦長はガルマ。そんな彼の手となって、私は船に取り付けられたアームで粛々と残骸の改修業務に明け暮れる。大型の残骸は爆薬を仕掛けた後、爆破で細かくしてから回収し、回収した物は指定された区画にまとめて運び入れた。こういった残骸や農作物もサイド3にとってはリサイクルすべき大切な資源である。

 規模に対して、明らかに手が足りておらず、手を休める暇がない。

 

「外洋より大型船接近!」

 

 そんな折、オペレーターの一人から声が上がる。

 

「ダメだ、停めろ! まだ作業中だ!」

「交信不能、連邦コード以外受けつけません!」

「なんだって!?」

 

 ガルマとオペレーターの言葉に掃海作業の手を止めた。

 接近する大型の強襲揚陸艦と衝突する訳にもいかず、ガルマは横に躱すように指示を出した。強襲揚陸艦は残骸を意にも介さず、ズムシティへと直進を続ける。その光景をガルマは歯を食い縛って見送る。

 念入りな事だ。こんなものがなくてもガーディアンバンチの駐屯軍ぐらいはすぐズムシティに移送できるだろうに。

 

「屈辱だ……! シャア、何故こうも奴らはでかい顔ができる!?」

「……連邦政府には、サイド3が自分達の統治下であるという矜持があるのさ」

「厚顔無恥も甚だしい! サイド3はジオン公国が自活できるまで発展させたのだ! 搾取するしか能がない連中が、自分達の落ち度でサイド3に大被害を与えた癖に……責任を取らないだけでなく、不平不満は力で押さえつけようというのかっ!」

 

 熱くなる友人から目を外し、外を見た。人型の巨大ロボットが残骸を集める姿、見た事もない作業機械に声を上げる。

 

「ガルマ、あれはなんだ!?」

「どうした? ……ああ、あれはモビルワーカーだ」

「モビル……ワーカー……」

 

 彼の話によるとジオニック社が開発中の人型汎用作業機械との話である。本来は月面開発の為に作られた作業機械なのだが、汎用と名が付くだけあって、こんな風に残骸の掃海作業にも運用する事ができるようだ。

 

「ドズル兄さんが、開発の最高責任者なんだ」

「……ドズル…………校長か」

 

 懐かしく、今は遠い名を想起しながら人型の作業機械が動くのを見つめる。

 

「シャア、これはトップシークレットだ。君だけに言う」

 

 そんな私の郷愁も露知らず、彼は聞いてもいない事を口にする。

 モビルワーカーは軍事に転用が可能である事、故に軍人であるドズルが監督をしてる事。そしてジオン公国は今、モビルワーカーの開発に御執心だという事。この三つを聞いた私は、戦争の臭いを感じ取った。そうか、戦争が起こるのか。とモビルワーカーを観察する。あんなものが艦隊戦に役に立つとは思えないが……しかし、あのドズルとランバの二人が居て、無意味なものを作るとも考えにくかった。

 モビルワーカー以外にも、とっておきを用意してあるはずだ。

 

「…………ん、あれは……?」

 

 そんな折、モビルワーカーの一機が私達が乗る掃海船の前まで接近した。

 モノアイがガラス越しに私達を見つめる。少し、懐かしい感覚があった。ぼんやりと眺めていると「なんだあってえ!?」とオペレーターが声を荒らげる。それに気を取られた時、モビルワーカーがブースターを吹かせて、掃海船から離れて行ってしまった。

 あの感覚は……いや、彼女が此処に居るはずがない。ドズルやランバが、彼女を兵器開発に関わることを許すはずがない。良識がある大人として二人を信じているが故に、考え得る可能性のひとつを振り切る。

 たぶん、きっと、気のせいだったのだ。と怒るガルマに意識を戻す。

 

「どういうつもりだっ!? 誰の為にこういう事態になっていると思っているんだっ!!」

 

 どうやら彼は傲慢な連邦の軍艦相手に怒鳴り散らしているようだ。

 

 

 めーでーめーでー、こちらカナリア。13歳です。

 只今、宇宙での掃海作業中。久しぶりに搭乗するモビルワーカーの感覚を嬉しく思いながら残骸だらけの宇宙を駆け抜ける。数年ぶりに会ったマッシュとオルテガに、誰が一番多くの残骸を集められるのか。と勝負を挑まれたからにはハリキリガールまっしぐら! お父さんの制止を無視して、モビルワーカーで運べる大きな残骸を目指す。残骸を手にして嵩む重量すらも利用して、集積場へと次から次にシュートを決め込んだ。

 トップは私。二位はお父さんで、三位がガイア! 私は通信機のスイッチを押し込んで、マッシュとオルテガに連絡を取る。

 

「ねえ? もうすぐダブルスコア付けられそうだけど大丈夫?」

『こんのぉ、クソガキめぇーっ!』

『ちょっと出だしと場所が悪かっただけだ!』

「えぇーっ? 張り合いがなさすぎるから、二人のスコアを足して勝負する? 私は構わないよ?」

『ああん、言ったな!? 子供だからって容赦しねーぞ!』

『すぐに分からせてやらあっ!』

 

 煽るだけ煽って通信を切り、キャッキャと笑い声を上げる。

 久しぶりに会う気心の知れた相手という事もあって、今日の私はテンション高めだ。大きな網を持ってきたお父さんと協力して、四方に散らばる農作物を回収する。その農作物は、お父さんが残骸とは別の集積場へと持っていった。待っている間、私はまた残骸の掃海に努める。近場に居た掃海船の中に集めた残骸を押し込んでは送り出し、また別の掃海船がチマチマと細かい残骸を回収する姿を見て、また残骸を押し込んだ。そうしているとお父さんが空になった大網を持ってくるので、同じように農作物を回収し、また大量の農作物を抱えたお父さんを見送るのだ。

 そんな事を繰り返している内に、奇抜な形をした大型の宇宙船が私達の横を通り過ぎる。

 

「ねえ、ガイア! ねえ!」

『……お嬢ちゃんか、急に通信して来やがってなんだ?』

「あれ、なに!? でっかいのが横切っていった!」

『あれは……連邦の強襲揚陸艦だな。あの中に大量の兵隊を詰めてやがるのさ』

「はえー、すっごい大きい……! シミュレーターとは全然違うね!」

『……俺達の住んでいるコロニーはあれとは比べ物にならない程、でかいけどな』

 

 それもそうだ。と私が笑えば、ガイアも小さく笑みを深めて通信を切った。

 さて、もっと仕事しないと。そう思って操縦桿を握り締めると、ふと、なんか懐かしい気配を感じ取った。感覚の訴えるままにモノアイを動かせば、一隻の掃海船がある。なんとなしに近付いてみた。船内を覗き見ようとしてみたけども、流石にモビルワーカー越しでは見るのが難しい。

 そんな折にお父さんが戻って来る気配を感じ取ったから、中を見るのを諦めて父の側までブースターを吹かした。

 

『カナリア、どうかしたのか?』

「う~ん……ちょっと気になっただけ。なんでもないよ」

『そうか。さあ、もう少しだけ気張るぞ』

「うん! 張り切っちゃうよ!」

 

 通信画面越しにサムズアップを決めれば、お父さんは歯を見せて笑ってくれた。

 モビルワーカーを使った初めての任務は大成功を収める事になる。

 ギレンは、これでもっと予算を下ろせる。と、ほんの少しだけ嬉しそうに語っていた。

 

 

 

 後日、マッシュとオルテガには行列のできるケーキ屋のロールケーキを買いに行ってもらった。

 ダーク・コロニーの皆で食べて、すっごく美味しかった!


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