NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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22.謀ったな!?

 ズムシティに小天体が衝突する一週間前の話。

 ジオン公国には資源採掘用として、アステロイド・ベルトからサイド3の宙域内に運び入れた二つの小惑星が存在している。

 その内の一つは、後から更に一つの小惑星を結合する事で宇宙要塞としても転用した。これをア・バオア・クーと呼称する。現時点で地球連邦政府は、わざわざ外部から運び入れた資源採掘用の小惑星としか認識しておらず、こうでもしなければ満足に資源も手に入れられないとは大変な事だな。と鼻で笑って、重要視をしていなかった。

 そんな監視の薄いア・バオア・クーの宙域に、何体ものモビルスーツが運び込まれる。

 

 この日はジオン軍にとっては、次世代の量産機を決める重要なコンペティションが開催される事になっている。

 ジオニック社が資源運搬用の貨物船を流用して持ち込んだのは、緑色の塗装が特徴的な人型汎用兵器。形式番号MS-05、正式名称はザク。武装には開発途中のヒート・ホークを模した武器の他に、マシンガンとバズーカを模したペイント銃が用意されている。これを計五体分、パイロットにはランバ・ラルを始めとし、ガイア、マッシュ、オルテガの三人組。そこに新しくダーク・コロニーに配属されたククルス・ドアンが居る。

 対するツィマット社が擬装した輸送トラックで持ち込んだのは、青色の塗装が施された人型汎用兵器。形式番号EMS-04、正式名称はヅダ。武装はザクと大差はない。違いがあるとすれば、ヅダの左肩にはシールドクローが装備されているという点がある程度だ。パイロットの中の一人に、ジャン・リュック・デュバル少尉が居る。

 そして、派遣された整備員の一人にミア・ブリングマンの姿もあった。

 

「今回のヅダに搭載されている土星エンジンと前回の木星エンジンでは、性能に大きな違いはありません。改良点は、ただひとつ。どれだけ出力を上げても暴走事故を起こすことがなくなった点に尽きます……というよりも一定以上まで出力を上げると、自動的に出力が落ちる構造にしたといった方が正しいですね。これによって、飛躍的に安全性を向上させることができました」

 

 ですが、と彼女は語気を強めて、コックピット席に座る少女に言い聞かせる。

 

「決して無理はしないでください。私達はヅダの機体フレームの強度問題は解決できていません。いや、出来たんです。リミッターを付ける事で出力を抑えれば……しかし、それはザクも一緒。無茶な扱いをすれば、ザクだって自壊します」

 

 今回の戦闘試験では、ザクもまたリミッターの制限を緩めている事をミアは知っていた。

 

「……それが出来るのは、相手のパイロットもまたエース級だからです。とはいえ……ヅダのフレーム強度だって、最初の視察の頃に比べると二割増しです。これ以上は素材の問題だと断言できるところまで持って来たんです。でも、これ以上はありません。より高価な素材に手を出してしまえば、量産機の体裁を保てなくなります」

 

 今でさえもザクの八割増しのコストが掛かっている。つまり、ヅダの生産には、ザクの二倍近いコストを支払っても良いとジオン公国に思わせられる結果を出さなくてはいけなかった。

 

「既にザクのロールアウトは決まっています。ヅダには高性能量産機として生き残る道しかありません。ここで決められるのは、ヅダの生産の有無。ザクとヅダの生産数です。……デュバル少尉も優秀なパイロットです。しかし、残念ながらダーク・コロニーの練度には敵いません……ツィマット社の命運は、貴方と共にあります。どうか……月並みの言葉だと思います。でも、どうか────」

 

 御武運を、と彼女は開いたコックピットから離れた。

 子供向けに特注されたパイロットスーツ、その胸元にはツィマット社のロゴが刻まれている。少女は、少しずつ離れていく友人に親指を立てた後、コックピットのハッチを閉じる。

 真っ暗に閉ざされるコックピット。すぐに光が灯り、モニター越しに外の景色が見えた。

 

「ミア。私ね、宇宙が好きなんだよ。なんでかな、無重力に漂いながら見る光景が、凄く綺麗に映るんだ」

 

 

 先鋒として出た新米のククルス・ドアンが宇宙空間を縦横無尽に駆け抜ける青い影に翻弄されていた。

 ドアンも、経験の面ではガイアやランバに劣るが、マッシュとオルテガが相手の時は良い勝負をするようになってきた将来有望なパイロットの一人だ。先の格闘性能試験、飛行性能試験でザクを凌駕する結果を出していたデュバル少尉が拳を握り締める程度には腕が立つ。その彼を、まるで子供でも扱うかのように翻弄し、ワンサイドゲームの様相を見せていた。

 ヅダが持っていたのは、バズーカを模したペイント弾。分かりやすく狙撃を受けて、ドアンが回避をした所をヅダが急加速による接近からのシールドクローでコックピット付近を打ち抜いた。無論、模擬戦である今、シールドクローに攻撃力はない。胸元に大きくピンク色の塗装を受けたところで、最初の戦闘が終わる。

 ガイアとオルテガ、マッシュが感心するように頷く中、ランバだけが注意深くヅダを睨み付けた。

 

「なかなかやるな。次は順番的にマッシュかオルテガか?」

「いや、俺が行く」

 

 言いながらランバがノーマルスーツのヘルメットを被る。

 

「俺が負けたら、マッシュとオルテガの二人で戦わせるんだ。性能では、ザクでヅダに勝てんよ」

「じゃあ、採用も決まったものか?」

「いや、ヅダのコストはザクの1.8倍だ。二体同時に相手にする事が出来て、初めてコストに見合う事になる」

 

 だが、その前に。と彼は自分用に改良をしたザクに足を動かす。

 

「試さずには、認めてやることが出来んのだ。父として」

 

 マッシュとオルテガは首を傾げる中、ガイアだけが得心して笑みを深める。

 

「子って、そんなに良いものかね?」

「お前も子を取ると分かる」

「お嬢ちゃんみたいな子がいれば考えるよ」

「なら無理だな」

「ほう、何故だ?」

 

 うちの子が一番だからな。と告げた彼はコックピットの中に入り、ハッチを閉じる。

 

「手間がかかる子ほど可愛くなるってのは、本当のようだな」

 

 ガイアは肩を揺らし、ブースターを吹かして子を迎えに行く親の背中を見送った。

 

 

「二人目で、もうお父さんなの!?」

 

 真正面から接近してくるザクにバズーカ砲の銃口を合わせる。

 しかし、お父さんは機体を僅かに左右へと揺らす事で、上手く照準を定める事ができない。舌打ちを零す。手に持っていたバズーカをお父さんのザクに投擲し、切断能力のないヒートホークを片手に構えてから相手との距離を詰める。

 投げたバズーカを避けるか、受け止めるか──お父さんは姿勢を屈めて、頭突きでいなした。

 

「上手いなあ、もう!」

 

 衝突する。瞬間、お互いのヒートホークで二度、三度と切り結んだ後、ザクが蹴り上げてきた足をブースターの噴射で回避した。

 お互いの距離が離れる。お父さんは、左手にマシンガンを構えて、点よりも面で掃射する。それを宇宙空間で無作為に漂う岩を盾代わりに防ぎ切って、バズーカを回収。気持ちよくマシンガンを撃ち続ける彼の動きを止める為、バズーカを撃って牽制する。お父さんのザクもまたブースターを吹かした。機動戦では、ザクでヅダには勝てない……いや、持久力と安定性では、ザクの機動力はヅダを超え得る。

 モノアイを動かす。時間にして数秒、モニターに映った物質を脳に叩き込んで周辺情報を一新する。

 

「お父さんは……ッ!」

 

 宇宙上に存在する岩石同士がぶつかり合いながらヅダに襲い掛かった。

 それを右へ、左へと機体を動かして回避する。直感──頭上から降り注ぐ、マシンガンの掃射を間一髪で回避した。これがゲリラ戦術、引き出しの多さならお父さんの方が上か……ッ!

 目の前の事だけを見てられない。

 

「だったら……もう、腹を括るしかッ!!」

 

 視野は空間的に捉えて、思考は多角的に、背中にも目を付けるんだ!

 ヅダに搭載したエンジンへの負荷を軽減する為に、思いついたのは進行上に浮遊する岩石を蹴って推進力の足しにする事だった。お父さんのような相手の本能に訴えかけるような操縦は無理だ。ならば、もっと派手に動き回ってやる! モニターがグルングルンと回る中、的確に岩石を足場に着地し、直線的な機動を描いてお父さんとの距離を詰める。

 肉薄する。振り上げたヒートホークの模造品を──手放した。

 思考の空白、一瞬の迷い。勢いのまま、ザクの胴体に蹴りを入れる。ここぞとばかりにバーニアをフルスロットル。警報が鳴るのを無視して、その身ごとザクを岩石に叩き付けた!

 

「……もっと綺麗に勝てたら良かったんだけどね」

 

 距離を取る。最後の一発、残していたペイント弾で岩石に埋まるザクのコックピット部分を撃ち抜いた。

 

 

 三戦目は、なんとガイアとマッシュ、オルテガの三機で襲い掛かってきた。

 流石にエース級が三人も相手となれば、防戦一方。最後は三位一体の連携による攻撃を受けて、一機を撃破。二機目を中破判定まで追い込んだけども、三機目のガイアに隙を突かれて逆に撃破されてしまった。流石に二戦した後に三人相手は酷過ぎると思うんだ! 私がコックピットの中で文句を宣っていると『ツィマットの隠し玉が、まさかお嬢ちゃんだったとはな』とガイアがオープン回線から通信を掛けてきた。

 

「三対一とか、どうやっても勝てないに決まってんじゃん! バーカバーカ!」

『そう言ってくれるな。俺達の連携はエースパイロットが相手でも通用するのか試してみたかったんだ。お嬢ちゃんは俺達が知る中で最も腕の立つモビルスーツパイロットだからな。それが高性能機に乗ってるとなれば、そりゃもう機会を逃す訳にはいかないだろう?』

「……私、一応、このヅダの生産をギレンに認めさせる為に来てるんだけど?」

 

 大丈夫だろ、とガイアが無責任に答える。

 

『既にヅダの有用性は示されている。少数の生産になるだろうが──あの機動力は俺達から見ても魅力的だからな。それに兵器ってのは汎用性も大事だが、多様性も重要だ。戦車にも色んな種類があるように、戦闘機が多岐に渡るように、汎用機だからってなんでもかんでも一つの機体に任せるのには限界がある』

「……高性能量産機って聞いてるけど?」

『そりゃ売り込み方が悪い。高機動量産機だよ、そいつは』

 

 ザクには安定性と操縦性がある。

 その為、拡張性が高くて汎用機としては非常に優れた性能を持っていた。元々がモビルワーカーとして開発されていた経緯を持つ為か、作業用としても使い勝手が良いのも優れている点のひとつだ。次世代機が開発されても後方支援に回すことができる。

 故にザクは幾ら量産しても腐ることがない利点があった。

 

 対するヅダは完全に戦闘用として開発されている。

 戦闘用に特化している為、ザクと比べると拡張性や汎用性という面では劣る。操縦性の難度から気軽に後方支援機として扱う事もできず、技術の進歩と共に時代遅れの機体へと成り下がる弱点を抱えている。今はまだモビルスーツの黎明期。これから先、様々なモビルスーツが開発される事を考えれば、あまり多くの数を発注する事はできない。

 しかし、今が黎明期であればこそ、ヅダを作り上げたツィマット社を切り捨てる選択もない。

 

 ツィマット社が存続するのに困らないだけの数を発注するのが、正しい政治的な判断だ。とガイアが告げる。

 

『俺達の大将は良い顔しないだろうがな』

「ドズルが? どうして?」

『軍の偉い人としては信頼性の低い機体とか扱いたくないだろうよ』

「慣れたら難しくないと思うけどね」

『デュバルは難儀していたみたいだがな』

 

 ああそうだ、と通信を切る直前にガイアが口を開いた。

 

『後でパパにごめんなさいってしとけよ』

「……やっぱり、怒ってる?」

『そういう言い方をしてやるな、心配してんだ』

 

 通信が切断される。ヅダの中で、私は何度か逡巡した後、通信機のスイッチに手を伸ばした。

 

「お父さん? ……えっとね、うん。最初はね、ギレンが私を守る為で……ああ、いや。私ね、モビルスーツ。大好きみたいで……うん、うん……あのね、その…………わかってる、うん……」

 

 お父さんとの会話は、思っていたよりも長くなってしまった。

 

 

 時は今、掃海任務を終えた後の話だ。

 食堂にて、ガルマは生徒達に取り囲まれていた。

 

「ガルマさん、僕らは黙っていて良いんですか!」

「このまま連邦に好き勝手をさせて、サイド3が乗っ取られても良いんですか!?」

「どうなんですか、ガルマさん!」

 

 士官学校を卒業した直後、准尉の階級を得たばかりの彼は苦境の最中に立たされていた。

 卒業生は勿論、士官学校に在籍する生徒達が暴動を起こす寸前の所まで来ている。皆が口にする不満の数々はガルマ自身も思っていた事だけに否定し辛く、彼も感情だけを優先するのであれば、共に決起して連邦軍の兵営を攻撃してやりたいくらいの想いはある。

 しかし、だがしかしだ。

 そんな事をしてしまっては戦争の引き金になりかねない。

 合理的に物事を考えるのであれば、拒否一択。しかし、ガルマを包囲する生徒達の目が、彼の事を見定めようと目をギラギラと輝かせている事に気付いた。

 今、この場で断れば、何かしらの危害を加えられることをガルマは察する。

 そうなってしまっては、兄に報告をすることもできない。

 

「……そう、だな。僕も、君達の想いには賛同するよ…………」

 

 とりあえず、ガルマは事なかれに肯定の意を示す。

 今をやり過ごして、隙を見て兄と連絡を取る。これしかない。

 その後は、出来る限り、時間を稼ぐんだ。

 

「ガルマさんも賛同してくれるようで良かった!」

「実はもう計画は立ててあるんです!」

 

 そういって彼らは机の上を片付けると、連邦軍兵営の見取り図を広げた。

 

「決起は今夜!」

「やるならば、早い方が良い」

「先ず私達は────」

「兵器庫を────」

「そのためには────」

 

 してやられた。と気付いた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだのを感じた。

 両肩に手を乗せられて、そのまま椅子に座らせられる。眩暈のする頭で地図を見た。攻撃目標、幾つもある矢印。頭がまともに回転しない。でも、直感的に理解できたことはあった。この作戦は成功しない。皆が語る言葉には希望的観測が余りにも多すぎる。このままでは全員で連邦軍に捕まるのが目に見えていた。それならまだ良い。問題なのは、皆が過激な行動に出る事に躊躇をしてない事だ。このままでは、此処に居る全員が連邦軍に殺される。

 ガルマは考える。今の自分の立場を、テロリストの首謀者として殺される未来を悟った。

 

「……シャア…………そうだ、シャアだ。シャアは何処にいる!?」

 

 このまま無駄死にするだけならいざ知らず、僕達の蜂起が連邦軍に治安部隊を動かす口実を与えるかも知れない。

 そうなれば最悪だ。血の大弾圧が起こる。それはザビ家の男として、看過できない!

 

「シャアを呼んでくれ……この作戦には欠陥がある! 僕には……僕達には、シャアが必要だ!」

 

 真っ白になった頭の中で、彼が縋ったのは三年間の学校生活で友情を育んだ友であった。


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