NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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23.金糸雀は、まだ鳴かず。

 BBです。正式名称はブルーバード、皆からはビービーと呼ばれています。

 今年で3歳になります。親は居ません。研究所の皆には居るのですが、私には居ないようです。私の事を育てたフラナガン博士がいうには、私はクローンと呼ばれる存在なので親が居ないとの話です。でも、マリオンやアルマ、ペッシェ。他の被験者にも、此処に親が居ないので結局、皆一緒なのかも知れません。

 私は、ニュータイプの被験者になる為に生まれました。

 それが、どういう意味なのか。私には、よく分からないです。ニュータイプが何の事かもよく分からないです。

 私には、親が居ないようです。フラナガン博士は、親ではないみたいです。

 

 ああ、でも、と彼は言います。

 

「カナリア、彼女は君の親と呼べるかも知れない。いや、年齢的には姉と呼ぶべきかも知れないな」

 

 彼は、ぶつくさと呟きながら簡単な健康診断を終えて、仕事に戻って行きました。

 

「……かなりあ? きいろいとり?」

 

 どうやら私の親は、鳥だったのかも知れません。

 子は、キャベツ畑で採れます。コウノトリが運んでくる時もあれば、橋の下で拾う事もある。

 だからカナリアが私を運んで来ても不思議じゃありません。

 

 私は、この衝撃の事実をアルマに聞かせてあげました。

 大爆笑されました。不愉快です。

 

「貴女の親? に当たる人物の戦闘データならあるよ」

 

 観たい? とマリオンに訊かれたので私は力強く頷きました。

 それは、とある宙域で開催された戦闘訓練。シミュレーターでも見た事がある緑色の人型汎用兵器が、見た事がない青色の機体に翻弄されている姿がありました。被験者の中でも彼女のように動かせる人はいません。

 

「……このなかに、わたしの……おねえさん?」

 

 言葉だけではなくて、映像として観たせいだろうか。

 その存在が、急に現実味が帯びていくようで……

 なにか、胸の奥に灯った、ような気になれたのです。

 

「思ったよりも脳波の基準が上がらないな……」

「……被験者の中では、優秀な成績を収めているようですが?」

「やはり、カナリアが優秀なのか。彼女は物心が付いた時から、ああだったと聞いている。元が素体として優秀なのだろうな」

 

 しかし、と彼は顎を撫でる。

 

「ニュータイプ能力が、先天的な素質が必要なのか。先天的だとして、ニュータイプ能力は成長させる事ができるのか」

 

 ニュータイプ能力の成長を促すのに必要な要素があるのやも知れんな。とフラナガンが語ってみせる。彼の隣には、クルスト・モーゼスが立っていた。わたしはおやつを食べた後、おねむの時間が来たので部屋のベッドで横になる。

 

「……ふえ?」

 

 次に起きた時、ガラス張りのカプセルの中に閉じ込められていた。

 野菜や建物や機械の残骸に紛れて、ぷかり、ぷかり、と無重力の海に浮かんでいる。

 これは……どうなって? その時、背後から強い光が放たれた。数瞬、遅れて爆発音。最後に強い衝撃がカプセルを大きく揺らす。その場でくるくる回転してのたうった。ガラスに額をぶつけた時、目の前にはコロニーがあった、コロニーが遠のいている。ペタリ、とガラスに手を触れる。先程の爆発に押し流されて、他の野菜や残骸と共に宇宙の果てに追いやられようとしていた。血の気が、引いた。ペタリ、ペタリとガラスの向こう側へと手を伸ばす。なにもできない、どうしようもない無力感。そして、もう二度と、あの場所に戻れない恐怖が身を襲った。

 助けて、と叫んだ。ガラスに爪を立てる、引っ掻いた後を血が這った。

 歯を食い縛り、喉が裂けても、掠れて声が出なくなっても、誰か助けてください。と強く訴える。

 心からの叫びは、誰にも────

 

『……子供、なのか? こんな所に……ッ?』

 

 その時、目の前に現れたのは緑色の人型汎用兵器。モノアイが私の顔を捉える。

 搭乗者はククルス・ドアンと言った。わたしは彼に救助された後、ドック・ベイまで送られる。

 すぐに迎えは来た。キシリア機関の人間だ。

 このまま、私は、あの研究所に送られるんだと思う。

 

 次の日、少しだけ人の声が鮮明に聞こえるようになった気がする。

 翌年、妹ができる。

 増えた、と言った方が正しいのかも知れない。

 

 

 掃海任務を終えた私は、学寮の自分の部屋にあるシャワー室で汗を流していた。

 冷蔵庫の中からコーラを取り出し、肩にタオルを掛けたまま椅子に腰を下ろす。卒業式を終えた後の進路について、思案する。正直、ジオン公国という国に対して、そこまでの思い入れはない。父が作った国が元になっているという意味では、思うところがない訳でもない。だがジオン共和国からジオン公国に名を改めた時に、ザビ家の国という認識であるし、ジオン共和国は亡国と呼んでも差し支えない。少なくとも民主主義から専制政治に変わっている時点で国としては別物だ。

 愛国心もなければ、母が亡くなった日から郷土愛もない。

 このまま軍人になったとしても守りたいのは精々、母の墓くらいなものだ。今が平穏な時代であれば、まだしも、命を投げ打ってまでする事ではない。やるべき事を整理する。カナリアだ、カナリアを見つけて連れ帰る。そしてアルテイシアに全てを話してから出来るだけサイド3から離れたコロニーに移住する。その為には、やはり私は、軍人になるべきではなかった。

 そこまで考えた時、部屋の扉を力強くノックされる。

 

「シャア! シャア・アズナブル! 今すぐに扉を開けてくれ!」

 

 ……不穏な気配だな。少し、警戒しながら扉を開ける。

 四人の同級生が、扉の前を取り囲んでいた。

 

「ガルマが君の事を呼んでいる!」

「……ガルマが?」

「至急、食堂まで来てくれ!」

 

 少し待ってくれ、着替えてくる。と私は手早く制服に袖を通した後、近場にあった刃物を制服の中に仕込んだ。

 嫌な、予感がする。四人に四方を固められての移動、とりあえず食堂に辿り着くとガルマが多くの生徒に取り囲まれていた。シャア、と駆け寄ろうとするガルマを手で制止して、周囲の雰囲気を探る。物々しいな。これは、そういう事なのだろうな。蜂起したのはガルマか? ……今、泣きべそをかいているガルマが首謀者とは考え難い。では、他に誰が、いや、この空気は、誰が始めたという訳ではなさそうだ。蔓延した不満と不安が、まだ精神的に未熟な彼らに焦燥感を植え付けて今、何かしなくてはならない。という強迫観念に囚われてしまったのか。

 首謀者すらも不在のまま、突発的で杜撰な計画が進められている最中ってところだ。

 ガルマは、まあ体良く担がれたのだな。

 

「ガルマ、聞こえているか?」

「ああ、シャア。よく来てくれたな……迷惑を掛けてすまない」

 

 肩を落とす彼に、私は失笑する。

 

「大変だな、君の生まれの不幸でも呪ってみるか?」

「何、不幸だと!?」

 

 私の皮肉に反応したのは、ガルマではなく、彼を取り囲んだ一人だった。

 

「ガルマ。君は良い友人ではあるが、君の父上と兄上がいけないのだよ」

「……シャア。迂遠な言い回しで僕を慰めてくれるのは良いが、父さんと兄さんを貶すことは許せないな」

「すまない、ガルマ。訂正する」

 

 私が肩を竦めてやれば、ガルマも幾分が気を持ち直したようで小さく笑みを浮かべた。

 このまま、私はガルマの隣に座り、机の上に広げられた地図を見る。

 

「なるほど、連邦軍の兵営を襲撃するつもりなのだな」

「話が早いな」

「……しかし、この杜撰な計画では失敗するだろうな」

 

 君が? と私が声には出さず、視線だけでガルマに問い掛けた。すると彼は小さく首を横に振る。

 

「ガルマ、君はどうしたいんだ?」

 

 君、という部分を強調すれば、彼は真っ直ぐに私を見た後で答える。

 

「シャア、この作戦が成功するように修正して欲しい」

 

 私は少し考えた後、私を見た彼の目の輝きを信じて作戦の修正案を考えた。

 もし作戦を成功させるのであれば、攻めるのは今夜。あの強襲揚陸艦がサイド3に来た以上、日が経てば経つ程に相手の援軍が集まって不利になる。

 ガルマに、その事を伝えれば、彼は神妙に目を伏せた。

 

 

 シャアが食堂に来るまで、ずっとジオン公国を守る方法を考えていた。

 結論をいうと、兵営襲撃を成功させる他に道はない。

 

 僕が拒否をしても兵営襲撃そのものは決行される。

 その時の僕は校長のドズル兄さんと連絡を取り合えないように縛られた状態で監禁される事になり、兵営襲撃は失敗に終わる。その結果、起きるのは地球連邦軍による武力に対する武力制圧。ただの民間人の暴動なら駐屯軍も鎮圧に銃器と戦車は使わない。だが、僕達は士官学校に所属している。卒業式の途中で小天体がズムシティに衝突した為、まだ正式な軍人として配属された訳ではないが、それでも武器を持って制圧しようというのだ。多くの死者が出るはずだ。僕達が攻める側とはいえ、学生が駐屯軍に殺されることは、民衆の更なる暴動を加速させることにもなりかねない。そうなれば、もう世界は止まらない。治安出動の口実としても十分に満たしている。

 血の大弾圧。ジオン公国の国民達は、僕らのせいで殺される。

 

 故に今、選ばなくてはならない。

 進むのか、逃げるのか。二つに一つ。もし仮に兵営襲撃を成功させてしまえば、駐屯軍は拠点を失う事になり、直後、すぐに治安出動には出られなくなる。それに元はといえば、地球連邦が小天体を見逃した事に非があるのだ。その後の対応だって悪い。事実として連邦軍は何時でも制圧できるように艦艇を集めているし、戦車も揃えていることも交渉時の好材料となる。今はまだ死者こそ出ていないが、多くの民間人に被害が出ているのだ。だから、勝てば……勝ちさえすれば、きっと父さんと兄さんが上手い事やってくれる。

 これが悪手だって事は分かっているさ。

 希望的観測が多分に含まれていることも自覚している。

 でも、僕には皆を止められない。これが今の僕の限界だ。

 止められないなら、勝利するしかない。

 

「人を殺させない為に人を殺す。ははっ……矛盾しているな」

 

 学生達に暴走をさせない為には、僕が指揮を執る他にない。

 とんだ貧乏くじを引いたものである。

 頭が痛くなる、胃が締め付けられるようだ。




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