NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

24 / 54
いつも多くの高評価、感想、お気に入り、ここすき等、
ありがとうございます。書くモチベーションになります。
誤字報告も大変助かっています。

本日は短め。


24.暁の蜂起。

 深夜。ズムシティは緊張の最中にある。

 民衆の天体衝突を機に噴出した連邦への怒りは凄まじく、警察の制止を振り切って暴動を続けている。

 既に連邦駐屯軍にも被害が出ている状況。翌日には、首都バンチにガーディアンバンチに駐屯する治安部隊の主力が到着する予定となっており、既に連邦治安部隊の本格投入までのカウントダウンは始まっている。

 少なくとも、それが実行できる状況にまで持ち込まれる事になる。

 

 士官学校に所属する低学年の者達は、明日の不安に眠れぬ夜を過ごしている。

 連邦軍兵営に滞在する駐屯軍の数は二千名、対する士官学校の卒業生は二百名。戦力比は十倍、実弾の銃器を使ったテロリズム。相手を殺すんだ、殺されもする。三年間、同じ屋根の下で勉学に励み、同じ釜の飯を食べて来た誰かが死ぬ事になる。

 ジャケットの首元にあるフック。上手く嵌らなくて、カチャカチャと音を鳴らす。

 同室のシャアが見かねて僕の首元に手を伸ばしたが、そんな彼の気遣いを僕は首を横に振って拒絶する。

 

「僕は、同級生の皆に死ねと命じるんだ。今から君に頼っていたのでは、身が持たないよ」

 

 僕が強張った笑みで粋がってみせれば、彼は含み笑いを零す。

 今、僕達は監視されている。家族と連絡を取らせない為だ、トイレに行くのも誰かしらの護衛が付いて回る。これが正しい事だとは思わない、やらされている事だと思う。でも、今は、そんな自分の気持ちに蓋をする。卒業生は全員、兵営襲撃に参加する事を決めた。

 その言葉を待っていた、と。僕の名前で集まった人も多い。僕が居るから、死んでやる。と言ってくれる人がいる。

 だからこそ、僕は担がれた。

 

「……今からでも、遅くはない」

 

 そんな彼の言葉に、またしても僕は首を横に振った。

 

「シャア、もう遅いんだ。手遅れなんだ。僕は学生という身分に胡坐をかいて、同級生を統率する意味を理解していなかった」

 

 だから謀られる、利用される。と自嘲した。

 

「足元を固めなければ、足をすくわれる事になる。僕はザビ家の男としての矜持を大事に思っておきながら、ザビ家の男である意味を理解できていなかった。僕は、僕自身の影響力をあまく見ていた……これは、その報いなんだ。大いなる力には責任が宿るというけども、僕は反対だと今、実感している。立場には責任がある、責任には力が宿る。君の言っていた通りだ。僕は何時まで経っても坊やだから、担がれて利用される事になる」

 

 ジャケットにあるフックが漸く嵌る。大きく息を吐いた後、サングラスの先にあるシャアの瞳を見据える。

 

「これは……仕組まれた事だったのかも知れない。でも僕の名前で集まってくれた人もいる以上、僕は、僕の選択に責任を持たなきゃならない」

 

 シャアは彼には珍しくキョトンとした顔を見せた後、ははは、と肩を揺らす。

 

「笑うなよ、皆が見ている」

 

 ちらりと監視の一人を見やる。シャアは部屋に入る前に自分を慕う同級生から受け取ったフットボールのヘッドギアを改造した仮面を被り、ああそうだ。と思い出したように声を上げる。

 

「私には妹がいる」

「へえ、そうなんだ。そんな話は聞いたこともなかったな」

「……正確には、妹のような存在だな。おそらくズムシティに居るとは思っているのだが、この三年間で見つけられなかった相手だ」

 

 シャアは、何時もの気取った雰囲気とは違う柔らかい笑みを浮かべた。

 

「ガルマ、この戦闘が終わったら妹を探すのを手伝って欲しい」

「……そんな事で良いのかい?」

「ああ、十分だ。ただ、内密に頼みたい」

 

 何故、と口にしようとして、首を振って疑念を振り払った。

 

「わかったよ、シャア。ザビ家の一人としての僕の力が必要なんだな」

「……もう坊やとは呼べないな」

 

 彼と笑い合って、共に部屋を出る。

 シャアは相手を撹乱する為に先行し、その後に僕が率いる本隊が続く。

 大丈夫、模擬戦の要領だ。それに、これはシャアの立ててくれた作戦でもある。

 最も信頼する参謀の意見を信用せずして、何が将だ。

 気休め程度だが、僕の用兵学はA評価。

 僕が上手くやれば成功する。そう思うと少し気が楽になる。

 

「ガルマさん、ゼナさんをお連れしました。やってくれるそうです」

 

 足を止める。ゼナは同級生の一人、彼女にはドズル兄さんを足止めする重要な任務が与えられている。

 

「君なら出来る。とても重要な任務だ」

 

 そう言って彼女の肩を叩いて、先を目指す。

 シャアとは途中で別れる。僕は一人で、集まった同級生の前に赴いた。

 ……ザビ家の男なら腹芸のひとつもやってみせるんだ!

 

 

 軍人とは、何たるか。

 今一度、皆には思い返して欲しい。

 軍人の本懐とは何か、今一度、思い返して欲しい。

 

 僕達が士官学校に来たのは──様々な理由があったに違いない。

 強い正義感を持って入学した者が居る。学費が掛からず、生活費も要らない点に惹かれた者も居るはずだ。安定した高収入を得る為に軍人を志した者も居る事は分かっている。皆がそれぞれの事情を抱えて、僕達は同じ場所で寝食を共にして、勉学に励んだ。

 僕達が出会った事に必然性はなかったかも知れない。

 だが! 僕達が今、此処に立っている事には、必然性があるはずなんだ!

 

 強い正義感に駆られたのであれば、警察や消防士になっても良かった!

 学費を掛けたくなければ、国立の高校や大学を目指せば良い!

 安定した高収入なんて、もっと他に道があったはずだ!

 

 それでも、あえて、この道を選んだ事には理由があったはずなんだ!

 この国情が不安定なこの時期に、あえて軍人である事を選んだ意味が!!

 入学試験で落ちた者がいる。訓練が厳しくて、志半ばで学校を離れた者もいる。それでも、僕達が今、此処に立っている事には理由がある!

 

 あの辛い日々を思い出せ!

 総重量三〇キログラムの装備を背負って、五〇キロメートルを踏破した重装行軍訓練にも耐えて来た!!

 何故できた! 僕達は何故、出来たのか考えてみるんだ!!

 

 僕達には……信念があったからだ!

 

 今一度、思い出すんだ!

 軍人とは、何たるか! 軍人の本懐とは何か!

 スペースノイドの生命と権利と財産を護る為……いや、そんな難しい言葉はいらない!!

 

 僕達は、隣人を守る為に立ち上がるんだ!

 

 思い出せ、家族と過ごした日常を!

 幼馴染や友達、いや、買い物をした時の店員や犬の散歩をしている御老人!

 公園で遊んでいる子供達! 野球少年、今もオフィスで働く大人達!

 カフェテラスで談笑する淑女、遊園地で過ごすカップル!

 これまで出逢って来た全ての人間の顔を思い出せ!

 その笑顔を思い浮かべるんだ!

 

 これは、始まりだ!

 僕達にとっての始まりじゃない、駐屯軍による虐殺の始まりだ!

 連邦軍の駐屯部隊を治安出動させてはならない、ズムシティの市民を殺させてはならない!

 いいか、これはズムシティだけの問題に留まらないぞ!

 

 これは、僕達の国を守る為……国とは何か! 国とは人だ!

 今から行うのは、国と人を守る為の戦いだッ!

 誰かの待ち望んだ明日を守る為に戦うんだッ!!

 誰かが謳歌する素敵な日常を守る為に僕達は今、立ち上がっているッ!!

 

 ……弾薬は実包、実弾だ。当たったら死ぬんだ!

 これは訓練ではない、模擬戦でもない!

 死ぬんだ! 我々の内の何人かが確実に!

 

 それでも……死なせるな!

 僕達の誰かが死んでも、民間人を死なせるな!

 愛する誰かを死なせるな! 誰かが愛する誰かを守るんだッ!

 守る為に戦うんだ、守る為に殺すんだ!

 

 このガルマ・ザビが命じる!

 死ね、と! 死んで来い、そして勝利せよ!!

 僕達の撃った一発の銃弾が、受け止めた一発の銃弾が数千、数万の人間を救う事になる!

 

 ジーク・ジオン! 出陣だッ!!

 

 

 翌日、ガルマの起こした連邦軍兵営襲撃は瞬く間に市民の間に広がった。

 これをメディアは「英雄的快挙」の文字と共に大々的に報じており、昼過ぎにはパレードまで開催される始末となっている。実際問題、まだ正式に配属もされていない士官学校生が兵力差が十倍もある駐屯軍の武装解除に成功した事例は、そう多くないはずだ。

 市民はまるで戦勝ムード、指揮を執ったガルマが手を振るだけで黄色い歓声が飛び交う程であった。

 ガルマは先頭で手を振り続ける。

 あまいマスクで心を隠し、嗚咽を押し殺して笑顔を振りまいた。官邸に戻った彼が、家の扉を閉じると同時に床に倒れた事を知る者は──少なくとも民間人の間に知れ渡る事はなかった。

 ガルマが指揮した「暁の蜂起」は以後、開戦するまでの間、華々しく語り続けられる事になる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。