NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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25.暁の蜂起、裏舞台。

 士官学校生が地球連邦駐屯軍の兵営を襲撃した事件。

 首謀者はザビ家の御曹司であるガルマ。これをジオン公国の民衆は、暁の蜂起と呼んで持て囃した。

 しかし、ある程度の権力を持つ人達、もしくは民衆よりも少しだけ情報収集に手間を掛けている人達。教養として勉学を嗜んでいる人達の見識は変わってくる。それはその人達に与えられている情報でも変わる不確かなものであるし、そもそもの話。誰が正しくて、正しくないと言った話でもない。それは、人が今、持っている手札と開示された情報だけで最善の選択を選び続けなくてはならない為だ。

 世界は巡り、廻る。

 誰が何をせずとも、時の流れが止められないのと同じように。

 自分が今、真っ先に何をすべきか。何のために進むのか、逃げるのか。それとも今は待つのか。

 人は、常に選択を迫られ続けている。

 選択を突き付けられて、なおも選択ができない者は、緩やかに衰退する。

 停滞は、緩やかな自殺である。

 

 

「なに? 俺に会いたい? この時間にか?」

 

 屋敷の使用人に問い返す。今年、士官学校を卒業する一人の女性が悩み事の相談をしに来たとの事だ。

 名前はゼナ・ミア。卒業席次8番の筋の良い生徒であり、卒業後の進路についての相談があるとの事だ。まあ、最近は世間の目から見ても物騒になって来たし、勘の良い者であれば、数年後の戦争が既定路線だと云う事も察している。

 そんな状況では、臆してしまうのも仕方ないのかも知れない。

 とはいえだ。戦争が起きるのであればこそ、優秀な人材は手放したくないというもの。彼女の成績を確認した後、目を通していた論文を整理して、部屋に通す。

 失礼します。と彼女は扉の前で直立し、敬礼する。その仕草を見て、少し嫌な予感がした。

 

「何時もなら、もう起きてさえいない時間だ」

 

 俺は十八歳の時には、もう既に実戦の場に立っていた。

 相手は連邦軍ではなかったが、ダイクン派との抗争で多くの将兵を死地へと送り出す。良い意味で覚悟が決まっている人間というのは、新兵であっても良い敬礼をするものだ。逆に相手への畏敬が勝っている時は、身体が強張ってぎこちなくなる。そういう傾向があるってだけで、全員が全員に当てはまるものではない。

 だが、俺が彼女の敬礼に覚悟を感じ取れたのは確かな事実だ。

 

「御無礼をお詫びします」

 

 椅子に腰を下ろすのをやめる。座れ、と彼女に促した。

 

「いえ、私はここで結構です」

 

 この時点で疑惑は、確信に変わる。俺は遮蔽物にもなって、相手にも投げつけられる椅子に手を掛けた。

 

「話せ。何を、とは言わずとも分かるな?」

「…………閣下のお時間が頂きたいのです」

「お前の役割を聞いているのではない。何を隠している?」

 

 睨みつける。臆してなお、目から強い意志を失わせない覚悟。そんな黙する彼女を見た俺は、簡単には吐かないと察してポケットに入れていた通信機に手を掛ける。視線を外したのは一瞬だった。

 

「閣下! 動かないでください」

 

 彼女の手には拳銃が握られていた。手に震えがない、怯えがなかった。

 

「……空砲だろう、それは」

「閣下、止まってください!」

「まだ未熟だな。俺を止めたければ、脅すよりも先に口を動かすんだったな」

 

 俺は椅子に腰を下ろし、笑みを浮かべて問い掛ける。

 

「さあ、面白い話でもしてみるのだな」

 

 そう言って、改めて椅子に座るように促すと外からエンジン音が聞こえてきた。

 これはジオン公国で採用している装甲車のものだ。音の数からして、一輌や二輌ではないな。

 なるほど、連邦の駐屯軍に攻め込むつもりのようだ。

 

「残念だったな。時間切れだ」

 

 先ずは事実確認からだ。俺が屋敷の者を呼ぼうとした時、女性生徒は大きく口を開いた。

 

「ガルマ様です! ガルマ様が檄を飛ばされたんです!」

「……ガルマ、だと?」

 

 その言葉を聞いた時。頭の中が、真っ白に呆けてしまった。

 

「校長ッ! 起きてください!!」

「大佐殿ッ!」

「教導隊の暴発です!!」

 

 扉の向こう側から屋敷に住まわせている使用人に混ざり、教師の声が聞こえてくる。

 

「…………あのガルマが、そんな事をするはずがないだろう……?」

「事実です。檄を飛ばし、指揮を執るのは閣下の弟様です! だから私も、加担して……!」

「例え、それが事実だとしても……ッ!」

 

 感情のままに振り上げた拳で、目の前にあった机を粉砕する。

 

「ああ、今の言葉で分かった。お前は俺の障害であっても敵ではない」

 

 机を壊した時に傷付いた右手から血が滴る。こんな時こそ冷静に、だ。大きく息を吐いて、怒りを発散させる。

 

「犯人捜しは後だ! あの馬鹿共を今すぐに止めに……!!」

「閣下! もう交戦は始まっています、兵営で火の手が上がりました! 先遣隊が居たようです!」

「くそッ! 後手、後手かッ! 小僧共がやってくれるッ!!」

 

 もう止められない、賽は投げられている。

 先ず、俺がやるべき事は────

 

「車を出す準備を……それから、戦闘車両も準備しておけ! 出せる分、全部だ! 出られる奴は全員叩き起こせ、残すのは必要最低限で良い! 生徒は出すなよ! 連邦と交戦する事になるかも知れないからなァッ!!」

 

 扉の向こう側にいる者達に指示を出す。ギレン兄に連絡をしたのは、その後になる。

 御丁寧にも自家用車のタイヤがパンクさせられている事に気付いた時は、自転車で追いかけようかと思った程だ。

 誰だ、こんな用意周到な策を立てたのは!?

 ランバの奴が居たら、ゲリラ学A判定が貰えそうだな、この野郎!!

 

 

 私が弟のドズルから情報を受け取った時には、もう事は手遅れの状態となっていた。

 数年後には連邦との戦争が始まる。そのつもりで準備を進めて来た。しかし今、開戦するのは拙い。モビルスーツの配備が間に合っておらず、モビルスーツを輸送する為の軍艦の竣工もまだ終わっていなかった。ア・バオア・クーとソロモンの要塞化計画も中途であり、今、戦争を起こされるとジオン公国は成す術もなく敗北する。

 危険を承知で工業化を推し進めてきた政策が、裏目に出てしまったか。

 

 ……現場は、ドズルに任せておけば良い。

 私が考えるべきは、今後の身の処し方。少なくともガルマの身は守ってやらないといけないな。

 ガルマの勝利が前提になるが、情報統制はしておかなくてはならない。

 

「キシリア。キシリアが良いよ」

 

 応接用の机で珈琲のような何かを啜り、洋菓子を口に運んでいる小柄な少女が口にする。

 

「……キシリアは、まだ考えが浅い。このような重要な局面では使えないな」

「キシリアはまだまだでも、彼女が抱えているキシリア機関ってのは優秀なんでしょ? 私も何度か見たことあるけど……凄いよね、本気で隠されたら私でも腹の内が読めないんだから」

 

 ま、感情は分かるけど。と彼女はクッキーを咥える。

 

「あとは……そうだね、指示を授ける時は苦言じゃなくて、一言。誉め言葉でも添えれば良いんじゃない?」

「……指示を出す時に、そうする意味はあるのか?」

「フラナガンも愛用するレディの扱い方のひとつだよ」

 

 良いからやってみなって。と言った後に彼女は数枚のクッキーを片手に腰を上げる。

 

「何処に行く?」

「風呂掃除と布団乾燥機の準備。ああ、あと、簡単に作れる料理の下拵えも頼んでおかないとね」

「……使用人が板に付いて来たな」

「その一言を妹にも分けてあげなっての」

 

 あと私だって伊達に何年も使用人やってる訳じゃない。と彼女はンベーと舌を出してから部屋を出て行った。

 私は、軍事機密であるはずのヅダがラテアートで描かれた珈琲を啜る。

 

「甘い、な。甘さ控えめで、これか」

 

 愚痴の少々、指先でトントンと机を叩いて思案する。

 そして電話の受話器に手を掛けた。

 

『……何でしょう、兄上様』

「キシリア、頼みがある」

『おや、兄上が私に頼み事とは珍しい』

 

 棘のある言い方、私は改めて甘めの珈琲を啜ってから口を開いた。

 

「士官学校生が兵営を襲撃した事は耳に入っているな?」

『ええ、今しがた、報告がありました。なんでも……ガルマが指揮を執っているようですが』

「あのガルマが、本当にあんな事をすると思うか?」

『……彼もザビ家の男という事ですよ』

 

 ふむ、と言いたくなる事を飲み込んでキシリアに指示を出す。

 

「キシリア機関、動かせるか?」

『命令とあれば』

 

 しかし、とキシリアは疑念を口にする。

 

『……どうして今、このタイミングで?』

「それが最善だと私が判断したからだ」

『本当で?』

「私の手駒は公国の為に在るからな。貴様の機関なら私用で使う事も許されよう」

 

 その後は、出来るだけ穏便な手段でガルマを助けるように指示を送る。

 今のままでは連邦政府からガルマを要求された時に差し出さざるを得なくなるし、仮に突っぱねようにも連邦政府に大きな借りを作り兼ねない。であれば、お互いにとってガルマを差し出せない理由を新しく作れば良い。

 幸いにも、その為の下地はあるのだ。

 

「メディアの統制は私がやる。お前には民衆の扇動を任せる」

 

 指示を伝え終えた時、そのまま電話を切ろうとし、受話器を置く手を止める。

 数秒、悩んだ後で思いついた月並みな言葉を口にした。

 

「キシリア」

『なんでしょう?』

「期待している」

 

 受話器を置いて、珈琲を啜る。

 やっぱり、味は変わらず甘かった。

 あの小娘は、人の好みに合わせることを知らない。

 

 

 多数の将兵と兵器を詰め込んだ強襲揚陸艦。その他、砲撃能力を持っている二隻の艦艇。

 この艦隊を率いるのは地球連邦軍のレビル中将である。暴動の最中にあるズムシティの宿を取る訳にもいかず、この強襲揚陸艦で寝泊まりをしていた時の事だ。駐屯軍の兵営が、ジオン公国の士官学校生に襲撃をされたとの報せが入った。

 もう、この時には手遅れとなっており、出陣準備を始めた五分後には続々と制圧を受けた報告が入る。

 

「閣下! 出陣許可を! 今こそ治安出撃する機会です!」

 

 血気盛んな士官の一人を手で制して、白くなった髭を撫でる。

 

「もう遅い。今、相手には二千人の捕虜がいる。そして今や民衆は全て私達の敵だ」

 

 仮にも地球連邦政府は、民主政治の政体を保っている。

 故に、開戦になると分かっていながら出撃する事は、一軍人の権限を大きく逸脱していた。勿論、ある程度の権限は与えられている。しかし、それは天体衝突の件に関する事であり、士官学校生が地球連邦の駐屯地を襲撃する事態までは想定されていなかった。

 その為、レビルは行動を起こす前に事の成り行きを地球にある連邦政府に報告する義務がある。

 

「……結果的に私が適任か。保険なんて適用されて欲しくなかったのだがね」

 

 レビルは愚痴り、ゴップと連絡を取る為に艦長室に戻る。

 

 スペースノイドに参政権がない。

 それがスペースノイドに与えられていない事には、言い訳にもならない理由がある。

 単純な話。宇宙移民が実施された数年間、地球とコロニー間を繋いだ選挙システムの構築がままならなかった為だ。やりようはあったという話もあるが、それには莫大な資金が必要となる。スペースコロニーの建造費用は勿論、その維持費と宇宙移民の打ち上げ費用で連邦政府の懐事情はカツカツとなっており、宇宙全域まで対象にした選挙は現実的ではないと判断された。

 より安価な方法を模索すると同時に、宇宙移民計画が落ち着いてから段階的に参政権を戻す計画は確かにあったようだ。

 

 しかし、ここで関わってくるのがラプラス事件。

 これは地球連邦首相官邸である宇宙ステーション「ラプラス」が、改暦セレモニーの際に爆破テロを受けて破壊された事件だ。実際には、政権転覆を狙った身内の犯行ではないかという陰謀論も囁かれているが、その可能性は低いとレビルは考えている。

 少なくとも、それらしい証拠でもない限り、信じる気にはなれない。

 

 さておき、重要なのはラプラス事件の後。

 改暦をされた22年後に地球連邦政府は「地球上からの紛争の消滅を宣言」している。

 つまり、これはそれまでの地球上では少なからず争いが絶えなかった事を意味しており、それを理由にスペースノイドの参政権が後回しにされ続けた結果、話はうやむやとなってしまった。

 この頃にもなれば、地球連邦政府の体質も変わっている。

 弾圧を続けた結果として国家的基盤を築き上げた地球連邦政府は、常習的にスペースノイドの参政権を認めないまま、それを当たり前にしてしまった。実際問題、各サイドを対象にした選挙は費用が跳ね上がる為、簡単にはできない事情はある。

 しかし、それでは、スペースノイドが納得できないのは自分でもわかる。

 

 だが、あくまでもサイド3は地球連邦の統治下だという建前がある。

 勝手に共和国や公国と名を改めて、此処が自治領だと宣言されてしまっては、出て行かない訳にはいかないのだ。今は最低限の税として、ジオン公国から農作物が送り続けられている為、地球連邦も大目に見ている。経済制裁という形で制裁を続けている建前もあった。

 とはいえだ、もうサイド3を地球連邦の統治下と言い張るのも限界だ。

 事ここに至っては、地球連邦とジオン公国は分けて考えるべき状況まで来ている。

 

「いっそ、政府が相手を国として認めてくれれば、こちらもやりやすくなるのだが……」

 

 レビルは愚痴り、首を横に振る。

 相手が国家であれば、もっと簡単な話だ。それ相応の扱いをすれば良い。

 まあ、それを連邦政府が認めた時点で、手前勝手な簒奪者に屈した事を意味するので出来るはずがない。サイド3が認められるのであれば、と他のサイドも続くのが目に見えている。

 そうして訪れるのは宇宙戦国時代。舞台を宇宙に、世界は大戦前に逆行する。血で血を洗う戦争の始まりだ。

 それこそが今、自分が想定し得る最悪だった。

 

 地球連邦政府が行った唯一の偉業は、人種を統一した事だ。

 今はアースノイドとスペースノイドに分かれているが、西暦以前では、もっと多種多様に分かれていた。人種による戦争、宗教による戦争。文化、信仰を否定する訳ではないが、そういった争いは今の世の中で失われたのだ。イデオロギーによる争いは絶えなかったが、それでも争いの火種のいくつかは確かに消えた時期があった。

 しかし今、新しくアースノイドとスペースノイドという人種が生まれて、新しい人種の間で戦争が起きようとしている。

 

「歴史を紐解けば、連邦政府に正義がない事は確かなんだろうな」

 

 だが、とレビルは受話器を手に取る。

 

「役目は全うする。それが軍人だ」

 

 少なくとも以上の事は、駐屯軍兵営が襲撃される理由にはならないのだ。




最後にレビルの部分がありましたが、
勉強不足の点があった為、書き直します。

追記。
書き直しました。
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