NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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27.青春シンドローム

 士官学校生による地球連邦のズムシティ駐屯軍への襲撃事件が昨晩の話。

 翌日の昼には凱旋パレードが開催される事になり、同じ時間帯にジオン公国と地球連邦の間で会議が行われた。

 そして、今は同日の夕方の話になる。

 

 士官学校、校長室。カナリアに作って貰ったサンドイッチを片手に後任の為に引継ぎ資料の作成をしていた。

 体育館では、襲撃事件で亡くなった者達の弔いが行われている。あんな馬鹿共の葬儀なんて、公共機関がやるべき事ではないと思うが、ギレン兄がいうには民衆に対する体裁を取る意味が込められているらしい。あくまでも地球連邦と戦った英雄として扱う事によるプロパガンダ的な意味合いもあるのだとか。

 まあ、こういう事はギレン兄に任せておくのが良い。俺は俺のやるべき事を為すだけだ。

 

「シャア准尉、入ります!」

 

 そんな折、威勢の良い声と共に青年が部屋へと入ってくる。

 何度か写真を見た事がある。しかし実際に顔を合わせるのは、これが初めての事だ。ガルマから事情聴取をしている内に分かった事だが、襲撃事件の時に彼が考えた作戦の数々は見事なもので、かつて過激なダイクン派を相手取っていた時のランバ・ラルを髣髴とさせる程だった。

 今、実際に彼の事を目の当たりにして、頭の奥に多少の引っかかりを覚える。

 

「……何処かで会ったことはあるか?」

「はい、何度か。ドズル校長の顔は拝見させて貰っています」

「そういう意味ではない。もっと、昔に……」

 

 はて、と惚けた顔で首を傾げる彼に「まあいい」と俺は本題に入る。

 時間に余裕がある訳でもない。士官学校校長だけではない、この後には首都バンチ司令部司令官の引き継ぎ業務があるのだ。些細な違和感よりも、今は兎に角、業務を推し進める事を優先した。

 執務机にて、手元の資料を確認しながら彼に辞令を伝える。

 

「貴様は待命──予備役編入だ。本学の履歴も抹消される。一兵卒に格下げと云う事だな」

 

 彼が小さく溜息を零したのを確認し、だが、と付け加えた。

 

「ある程度の内情は知っている。ガルマの身代わりで割を食わせてすまないな。数年以内に階級をひとつ上げた上で呼び戻すことを約束する。なんなら配属先の希望を聞いてやってもいい」

「……随分と買ってくださっているようですね」

「兵営襲撃の際に負けてしまうのが最悪の展開だったからな。あそこで勝利したから治安出動を免れたと言っても良い」

 

 出来る事ならば、ガルマの相方として同じ場所に配置してやりたかった程だ。

 しかし襲撃事件には、明瞭な黒幕が居なかった。事件の中心人物といえば、ガルマかシャアの二人であり、どちらか一人を処分しておかなければ、地球連邦に対しての示しが付かない。……ここでガルマを処分してしまっては、あの会議やギレン兄のプロパガンダ。キシリアのパレードが意味をなくす。

 消去法的にシャアを処分する他になかった。

 処分といえば、俺は校長をクビになるし、司令部の地位からも追われる事になる。来年明けに少将へと昇進する事になっていた話も消えてなくなり、半年間の減棒まで言い渡されていた。というか給与ゼロである。まあ実家が太いので給与がなくとも実害はないのだが、体裁的な節制は求められる事にはなる。

 その上、単身でア・バオア・クーに赴くことが決まっていた。

 ダーク・コロニーの面々はソロモンに配属だ。

 

「ほとぼりが冷めるまでは、ズムシティには置いておけん。サイド3からも出た方が良いかもな……それで、お前は、何処か行きたい場所はあるのか?」

 

 俺の事はどうとでもなる。問題は、コイツだ。

 シャアは飄々とした態度を崩さないまま、僅かの間を置いて口を開いた。

 

「……地球へ、行ってみようかと思っています」

「地球にか」

「はい、この機会に」

「ふむ、偉いな」

 

 俺は少し考え込んだ後、「頼まれごとをしてくれないか?」と手元の資料を眺めながら告げる。

 

「頼まれごと、ですか?」

「地球の地理や気候、地形に関する資料が欲しい。スペースコロニーとの違いをレポートで提出をしてくれるのであれば、旅をするのに不自由しない程度の路銀も付けてやる」

「……それは、ありがたいのですが……」

 

 彼は言い淀んだ後、覚悟を決めたように問い掛ける。

 

「失礼ながら、ドズル校長。このまま私が軍を離れる可能性を考えていないのでしょうか?」

「……軍を辞めたいのか?」

「いえ。ですが可能性のひとつとして考えています」

 

 サングラスに隠れた彼の目を探るように見据える。

 あまり軍に執着していないのは、本当か。反連邦の機運に熱狂して入学する他の生徒とは違う雰囲気を感じ取った。

 だからこそ軍に残って欲しいのだがな。と今、手に入らない事に溜息を零す。

 

「最悪……そうなっても構わない。いや、お前には、軍属になって欲しいのだがな」

「この場では、期待に応えられず申し訳ありません」

「ハッキリとした物言いをする奴だ」

 

 変に媚を売ってくる奴よりも余程、気持ちが良い。

 

「構わん。その時は、その時だ。だが、レポートは必ず出せ。それが条件だ」

「寛容な処置をありがとうございます!」

 

 シャアは踵を打ち鳴らして敬礼を取る。

 

「では、シャア・アズナブル准尉。兵卒として除隊します! お世話になりました、大佐殿!」

「ああ、元気でな」

 

 彼は一度、背を向けた後に「あ」と今思いついたような声を上げる。

 

「大佐殿。配属の件ですが、希望があります」

「図々しいな。まあ良い、希望を聞くと言ったのは俺の方だ。言ってみろ」

「はっ! 現役として再召集される際には、モビルスーツのパイロットの任に当ててください」

「……モビルスーツ。聞き間違いではないな……誰に聞いた?」

 

 いや、と苦虫を噛み締める。

 

「ガルマに決まっているな、あの小僧」

 

 機密漏洩はカナリアだけにしておけと──メールにはモビルワーカーとして、通してあったけどな。

 

「わかった、留意しておく。ただし訓練は厳しいぞ」

「ご配慮に感謝しますっ! では!」

 

 そう言って、彼は扉の向こう側へと消えていった。

 ……やっぱり何処かで会ったような気がする。しかし俺はテキサスコロニーには行った事がないし、アズナブル家とも縁がない。誰かと間違えているのかも知れない。そこまで考えた時に「ああ、あいつか」と金髪の悪ガキを思い出した。

 キャスバル・レム・ダイクン。旅客機の事故に巻き込まれて亡くなったダイクン家の遺児。……あれはキシリア機関。というよりもサスロ兄の遺志で行われた暗殺だったのだが、まあ、もう少し大人しくしといてくれれば、もっと長生きも出来ただろうに……知った時には後の祭り、今でも悔やまれる事件のひとつだ。

 

「政治は嫌だな、サスロ兄。だが政治を知らねば、守れない命もある」

 

 キャスバル・レム・ダイクンの件は、自分の力のなさが招いた結果だと戒めている。

 

「次にゼナ・ミア准尉、入ります!」

 

 その言葉を聞いた時、少し待て。と俺は彼女が入るのを止める。

 手鏡を片手に髪を整える。鼻毛が出ていないかもチェックし、その後で「入って良し!」と威勢よく伝えた。

 彼女と共に入って来る二人の軍人を下がらせて、二人きりの空間を作る。

 

「……………………」

 

 戸惑い表情を浮かべる彼女を前に、俺は視線を右往左往とさせる事しかできない。

 前々からギレン兄に言われている事がある。それは所帯を持つ事であった。ザビ家の跡継ぎは作っておかなくてはならない。と迫って来る長兄に「ギレン兄の方こそ所帯を持てば良いじゃないか」と言った事がある。

 兄は小さく笑みを浮かべると「私はサディストだ」と聞きたくもない兄の性癖を知らされた。

「じゃ、じゃあキシリアは?」と問い掛けた時は「アイツも同じだ。縄で縛り、鞭で叩くのが趣味だ」と身も蓋もない事を口にして「スキャンダル待ったなしだな」と気障っぽく肩を揺らして笑うのだ。

 頭が痛くなる。そんな兄と妹の性癖のせいで、俺にお鉢が回って来たという訳だ。

 ちなみにガルマは、まだ若い。との事。

 

「…………………………………………」

 

 俺は、自分でも分かるように強面だ。

 生まれてこの方、カナリア以外の異性に好かれた覚えがない。そのカナリアは今、13歳。俺は26歳だ。事案にも程がある。そもそもの話、今日まで妹として扱ってきた彼女を今更、恋愛対象として見ることができないという事情もあった。あとランバ・ラルが義父になるのは、御免被る。という思いもある。

 年齢以外の諸々の事情を含めても、カナリアはありえない。

 

 ……正直な話、結婚願望はある。

 モテたいと思った事もある、今もモテたいという願望は持っている。しかし、この顔ではナンパしても相手を怖がらせるだけだ。実際に声を掛けて、事案になりかけた事もある。だから、俺は、俺の事を恐れない良い女でも居れば考える。とお茶を濁してきた。

 しかし、ア・バオア・クーへの転属が決まった時、唐突にギレン兄が最後通告をして来たのだ。

 

「ア・バオア・クーに行けば、出会いはないだろうな。安心しておけ、こちらで選んだ嫁を送ってやる」

 

 そういう事情もあって、俺は早急に嫁探しに奔走せざるを得なくなった。

 俺にだって、好みはある。前提条件として、俺の顔を見ても臆さない度胸がある事。絶世の美女だとか、そういうのは求めていないが、愛嬌がある方が好みだ。できれば、優しくしてくれる相手の方が良い。等と色々と考えながら襲撃事件の書類整理を行っていたところ、ゼナ・ミアの写真を見つける。

 そこで思ったのだ。あ、良いな。と。

 彼女は18歳、俺との年齢差は8歳。これなら、まあ、珍しくもない年齢差だ。

 ア・バオア・クーへの転属まで一ヶ月もない。

 

「……今日は、玩具を持っていないな?」

「はいっ!」

 

 威勢の良い声、見え隠れする気丈さが好ましい。

 

「今度の事で俺は、ここの職を辞する事になった。監督不行届、引責辞任。つまりは、腹切りだ」

「は、はい……」

 

 追い詰められていた俺は、一世一代の大勝負を決断した。

 艦隊決戦主義。玉砕覚悟の一発勝負。策はない、確かに政治は学んだ。しかし、これが俺だと思うから小賢しい事をせずに真っ向勝負に打って出る。

 だって、誠意を見せるのが告白というものだと思うから、

 誠意を見せずは、成るものも成らず!

 

「こんな男だが、時には、傷つくこともある……人に慰めて貰いたいと思う時も、ある……」

 

 ポツリ、ポツリと並び立てる言葉には嘘偽りはない。

 ギレン兄に嫁を持つように言われ続けた事情もあり、それも語り聞かせた。

 追い詰められたから今、俺は告白をしているのだと。

 

「俺は……ザビ家の人間だ。いずれ、妻子を持たなくてはならない事は分かっている。しかし、誰でも良いという訳ではない。ギレン兄の事だ、良い縁談を持って来てくれると信頼はしている。だが、傍に誰が居て欲しいのか……追い詰められて、初めて真剣に考えた時、思い浮かんだのが君の顔だった」

 

 その上で、俺は思いの丈を口にする。

 

「不純な思いがないとは言わない。だが、こんな俺だが一応、それなりに顔も広い。色んな異性を知る中でパッと思い浮かんだのが君であり、もう他には誰も思いつかなかった。俺は、この好機を逃したくはない!」

 

 意を決して放った言葉は、余りにも月並みだった。

 

「毎日、俺の為に味噌汁を作ってくれないか?」

 

 そう問いかけた時、彼女は噴き出した。

 

「ふふ……失礼しました。しかし、それは少し古いのでは?」

 

 むう、と顔を真っ赤にする俺に、彼女は背筋を伸ばして笑みを浮かべる。

 

「思っていたよりも校長……いえ、貴方は愛しい人だったのですね」

 

 薄っすらと赤らめた頬で答えた。

 

 

 同時刻、僕は父親のデギンに叱られる事になった。

 足腰の弱くなった体で、父さんは僕の頬を張った。ロリコン疑惑でシャアの張り手を受けた時よりも痛くはなかったけども、それでも心の奥底に響く痛みだった。父さんは、サングラスを外し、真剣な目で僕を見た。目と目で向き合った。

 ごめんなさい。と僕は痛む頬で謝るしかなくて、

 

「違うのだ、ガルマ。謝らせたい訳ではない」

 

 父さんは下唇を噛み締めた後、大きく息を吐いた。そして、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。

 

「ケガがなかったのはなによりだ」

 

 サングラスを掛け直した父さんは、優しく微笑んだ。

 

「ひとつしかない大切な体だ、粗末にしてはならん。親不孝者にだけはなってくれるな」

 

 僕に向けた言葉は、それだけだった。

 少し寝る。と彼は椅子に身体を預ける。

 僕は黙って頭を下げた後、部屋を出た。

 

「……悔しいな、僕は何時まで経っても子供のままだ」

 

 自然と出てきた涙が何を意味するのかよく分からない。

 服の袖で拭い取り、一人で部屋に戻る。

 あの時は、ああするしかなかった。

 でも、それがどれだけ周りに心配をかける事だったのか、理解できていなかった。

 どう足掻いても同じ結論だったとは思うけど、

 それでも、ちゃんと理解して、行動できていた訳ではなかった。

 

 部屋の机には、少し冷めたラテが置いてある。

 水面には、金糸雀のラテアート。誰が淹れたのか一目瞭然だ。

 それを一気に飲み干した。

 甘かった。少し胸がホッとする。

 

 ふと携帯端末を見ると、シャアからのメールが入っていた。

 どうやら、ほとぼりが冷めるまで地球に行くようだ。

 彼も僕のせいで迷惑をかける事になってしまった。

 巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。

 僕は、まだ独り立ちできていない。

 だから周りに迷惑をかける、不要な心配をさせる。

 本当の意味で男にならなきゃいけない。

 

「……そういえば、シャアの人探しの件も考えておかないとな」

 

 シャアから聞いた話によると、彼の義妹はカナリアという名前のようだ。

 年齢は今年で13歳、金髪の少女。これだけ聞くと首都官邸でメイドをやっているカナリアが思い当たる。しかし、シャアから聞いた人物像を鑑みれば、別人だという事はすぐ分かる。

 シャアが語る彼の義妹は、常に人を食ったような性格をしており、自由奔放。勘は良い癖に相手を気遣う事をせず、悪戯ばかりに精を出す。他人を貶める事ばかりを考えるクソガキで小悪魔のようだった。悪い意味で良い性格をしている。との事だ。

 とてもじゃないが僕の知るカナリアとは、似ても似つかない。

 

 そもそもだ。カナリアは幼い頃、ダイクン家に引き取られていた。

 彼女の幼馴染と呼べる相手はキャスバル・レム・ダイクンとアルテイシア・ソム・ダイクンの二人だけであり、そのキャスバルは事故で亡くなっている。彼女の口からシャア・アズナブルという名前を聞いたことがない。実際、彼女にシャアの名前を出して聞いてみても知らないと言っていた。

 だから、シャアの義妹であるカナリアとザビ家のカナリアは、別人だと断言できる。

 

「それに……こんなに気遣える子が、シャアのいう義妹と一緒のはずがないじゃないか」

 

 食器を返しに行くついでに、お礼のひとつも言っておこうと部屋を出る。

 ありがとう。と言った僕に彼女は、優しく頭を撫でて来た。

 

「ぼ、僕は年上だぞ!?」

「ムキになるから坊やって言われるんだよ」

 

 彼女はキャッキャと笑いながら食器を両手にキッチンへと消えていった。

 ……別人のはずだけど、良い性格をしてるのは似ているのかも知れない。




やっと襲撃事件が終わってくれた。

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