NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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ありがとうございます。書くモチベーションになります。
誤字報告も大変助かっています。

今回、短めです。


28.問題児も、三人揃えばなんとやら。

 襲撃事件から数ヶ月後の話。

 ドズル前校長が使っていた屋敷は今、社宅として現校長のコンスコンが利用している。

 リビングには多量の書類が持ち込まれ会議室となっており、壁には大きなホワイトボードが幾つも用意されていた。その全てがビッシリと文字と写真で埋め尽くされた軍事機密の塊だ。本棚が幾つも増設されており、資料をファイルに綴じたコーナーもある。

 会議室と呼ぶだけでなく、資料室とも呼べる一室。四人の男達が熱く議論を交わす。

 

 その中の一人が、社宅の借主であるコンスコンだ。士官学校の校長も務めるジオン公国、国防軍の大佐である。

 恰幅の良い身体付きでちょび髭が似合う彼は、珈琲を啜りながら手元の資料に目を通す。

 

「コンスコン、地球の資料はまだ届いていないのかな?」

 

 そんな彼に問いかけるのは、癖のある髪をした痩せ形の男。名をマ・クベと云う。

 彼もまた国防軍に所属する人間であり、階級は中佐。地球に対する知見の深い人物として、デギンが招集した一人だ。

 葡萄ジュースの入ったグラスを指先でチンと鳴らし、この場にいる全員を苛立たせる事を得意技にしている。

 

「地球に入った調査員が地球の書籍を買い込む予定になっているはずなのだがなあ」

「検閲、検閲と全然、送られて来ないではないか。これでは作戦も立てるどころか、考えることもできん」

「ジオン公国の国立図書館も、意外と残っていないものだ」

 

 ジオン公国には、宇宙で自活する自分達こそが優良人種と考える土壌がある。

 かつてはジオン・ズム・ダイクンが提唱した“優性人類生存説*1”から始まり、今では“ニュータイプ論”という名で民衆に広まっていた。

 故にジオン公国の国民性は地球の歴史を軽視する傾向にある。

 この事実を憂いたのがマ・クベであった。戦術の上に戦略があるのは、今時の子は誰もが知っている。しかし戦略を決定するのは外交が強く関わっており、外交を左右するのは経済。経済の更に上には、文化がある。経済と外交の順番は、人によって上下する事があっても、文化が最上位にあるのは誰であっても変わらないはずだ。そして、文化とは、歴史だとマ・クベは考える。

 築き上げてきた歴史が、国の基盤を確かなものにするのだ。

 

「歴史、歴史と……まるでジオン公国が地球連邦に劣っているかのようではないか」

 

 そう口を挟んだのは、輝く頭部と口髭を特徴に持つダンディーな男だ。彼は、エギーユ・デラーズ。戦術から戦略まで幅広く知識を修めており、兵站や補給にも造詣の深い人物でもある。

 

「地球連邦に劣っているとは言いませんよ。しかし宇宙の歴史はまだ三四半世紀程度、それにスペースノイドが地球を起源に持つ民族なのは紛れもない事実。地球の歴史を知る事は、そのまま私達自身を知る事にも繋がるのですよ」

 

 これだから浅学の輩は困る。とマ・クベは指先でグラスをチンと弾いた。

 そんな彼にデラーズは静かに拳を握り締める。

 デラーズはジオン公国を愛するが故に、地球の文化を重要視するマ・クベとの相性が致命的に悪かった。

 

「まあ、いずれにせよ。地球の地理が分からなければ、満足に地球侵攻計画の立案もできんわな」

 

 そう零すのはコンスコン。現に今日まで彼らが取り組んで来たのは、宇宙における侵攻計画。もしくはミノフスキー粒子の電波障害を用いた新しい戦闘教義の研究であった。そんな三人の会話を耳に入れず、自分の研究に関連する資料に没入する男がまた一人。彼はギニアス・サハリン。凋落したジオン公国の名家、サハリン家の嫡子である彼は、デギンの取り計らいで技術将校として招集されている。彼は今、ミノフスキー粒子の特性を、戦術的且つ効果的に運用する方法を粛々と模索している所であった。

 

「艦隊の主砲がメガ粒子砲となった今の時代、たった一度の攻撃を受けるだけでも致命的だ。これだけ武装が強くなってしまった以上、散開し、機動戦に持ち込むのが常套手段であるが……それでレーダーを用いた自動照準を用いられるよりもミノフスキー粒子の散布下でジッとしていた方が被弾率が低い。故に時代は更に逆行し、艦隊運用は陣形を組ませた方が効率が良いのだろうな。出来る限り攻撃を一点に集中させて……攻撃の密度を上げる事を……」

 

 ぶつぶつと彼が独り言を呟くのは何時もの事、残った三人も必要のある時だけギニアスに話を振るようにしていた。

 若干、混沌とする環境にて、コンコンと部屋の扉がノックされる。失礼します。と部屋に入ってきたのは緑がかった銀髪の少女、彼女はアイナ・サハリン。ギニアスの妹である。彼女の両手にはトレーが握られており、淹れ立て珈琲の他に洋菓子が用意してある。

 少し休憩を挟んでは如何でしょうか。という彼女の言葉に、いつもすまないな。とコンスコンが返す。

 そんな二人のやり取りにデラーズとマ・クべは一旦、矛を収めた。

 ギニアスは妹を一瞥するだけで、すぐ自分の世界へと戻る。そんなどうしようもない兄の手元に、アイナは珈琲と砂糖を添える。

 

「ああ、そういえば──つい先程、キシリア機関の者から荷物が届きましたよ」

「なんだと?」

 

 マ・クベは珈琲を優雅に一気飲みした後で、そそくさと部屋を出る。

 その彼の後をデラーズも続く。コンスコンだけが、ゆっくりと珈琲を堪能する。

 

「すまないね、アイナ君。落ち着きのない人ばかりでね」

「いえ、そんな……私の事は別に……お仕事頑張ってください」

「ありがとう。ところでこのクッキー美味しいな、銘柄を教えて貰っても?」

「あ、それは私の焼いたもので」

「ほう、大したものだ。君が此処に来てくれて本当に良かったよ」

 

 コンスコンは、美味い。美味い。と肥えた腹を更に育てる。

 

「少し良いかね?」

 

 幾つかの資料を手に部屋へと戻ってきたマ・クベはしかめっ面でコンスコンを睨みつけた。

 

「どうしたかね?」

「これはなんだ、小学生向けのものではないか」

 

 そう言って彼が突き出してきたのは、確かに子供向けの動物図鑑であった。表題として印字されている文字も“どうぶつずかん”と全てがひらがなで書かれてしまっている。そのすぐ後で段ボールを抱えたデラーズもまたリビングへと戻って来た、眉間に皺を寄せて。その中身は、小中学校で使う参考書といったものばかりであり、これを資料と呼ぶには余りにも稚拙であった。

 マ・クベとデラーズが憤慨する中でギニアスは、マ・クベが手に持っていた動物図鑑の中身にパラパラと目を通す。

 

「数字や文字を見るよりも余程、わかりやすいな」

 

 子供向けに写真が多く使われた動物図鑑。そこには地球の生態系を通じて、地球の風景が分かりやすく掲載されている。

 コロニーでは珍しいサバンナや湿地帯、銀景色。一目見るだけでも行軍が難しいと分かる地形にマ・クベとデラーズが息を呑んだ。他にもサバイバル技術の指南書があり、生水を飲むと危険なので一度、沸騰させる必要があるといった事などが書かれてある。蚊を始めとした虫対策、日本の歴史に詳しいマ・クベは知識として、蚊と鼠が病原菌となる可能性を知っていた。

 スペースコロニーでは、伝染病は半ば根絶されてしまっているが、これが地球となれば話は別だ。段ボールの中身が、途端に宝の山のように思えてくる。

 勿論、これで全てが学べるとは考えていない。しかし、触りとしては、これ以上に効果的なものもない。

 

「今の緊張状態だ。余りにも露骨なものでは、今までのように検閲されるだろうしな」

 

 呟いたのはギニアス。実際、これは孤児院の寄贈用としてグラナダを経由し、サイド3に持ち込まれている。

 

「……これ、他の部署にも送っておいた方がよくないか?」

 

 コンスコンの呟きにマ・クベとデラーズが頷き返す。

 こうして地球の諜報員によって、サイド3に齎された小中学生用の教材や入門書はジオン公国の上層部に広く知れ渡る事になる。

 新婚のドズルは地球の資料よりも擬態の為に詰め込んだ絵本等の方が喜んだという話は、ミンナニハナイショダヨ。

 

 

 アマゾナス州、州都。マナウス。

 ドズルから十分な路銀を受け取った私は地球の各地を自由気ままに散策する。最初はヨーロッパから始まり、地球連邦の重要拠点を辿りながら東へ東へと渡って東洋の島国からアメリカ大陸に移ったのが先日の話だ。ズムシティで見つからなかった三年間、もしかするとカナリアは地球に降りたのかとも考えて、戦争が起きる前に探すつもりで来たけども、手掛かりひとつ見つかりはしなかった。

 意気消沈とする中、通り道で軍事基地の反対デモを見た。看板にはジャブローの文字が書かれている。

 そんな彼らの熱狂を素通りして、気晴らしに立ち寄ったカジノでルーレットを少し嗜んだ。結果は惨敗、一週間分の生活費が高々三十分程度で消し飛んでしまった。まあ、こんな日もある。と席を立ったすぐ後で頭にターバンを巻いたマフィアの男が椅子に座った。

 別に、その男の事が気になった訳ではない。

 興味を持ったのは、彼の後ろに立つ褐色肌の少女。

 彼女は男に指示を出す、一目賭けだった。つまりは36分の1を三連続で当てた後、ディーラーを交代した後で二連続で外す。

 特別な能力を持つ少女。

 特別な能力といえば、思い出すのは可愛くない方の妹だ。

 妹もまた、伏せたトランプの数字と絵柄を絶対に当てる事ができた。

*1
宇宙に進出したスペースノイドこそが選ばれた民であるとする説。




投稿を最優先にしている為、感想の返信が非常に遅れていますが、
全部、ちゃんと目に通させて貰っています。
多くの感想を頂けるので、ある程度のペースを保っていられています。
いつもありがとうございます。
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