NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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3.さよならは、とつぜんに。

 自分が子供受けをしない見た目をしている事は自覚している。

 ちょっと恫喝するだけで恐れられる姿をしていたから俺は軍人を目指した。俺は馬鹿だ、考えるのは得意ではない。親父や二人の兄貴のように物事を大局的に俯瞰し、多角的に見ることはできない。だが馬鹿が馬鹿なりに考えて、自分が出来る形で家族の力になりたくて選んだ道だ。

 

 ……ジオン共和国建国時、ジオン共和国軍の前身となるジオン国防隊が設立された。

 これはスペースノイドの動きを危険視した地球連邦の経済制裁や連邦軍の派遣といった事柄への対抗手段であり、これを取りまとめたのが親父という事になっている。

 この事は事実としては正しいが、事情は少し複雑だ。

 

 先ずジオン共和国はジオン・ズム・ダイクンを代表に据えた二大派閥で構成されている。

 一つはジオンが掲げる理想主義に共感した者達で構成されたダイクン派と呼ばれる派閥。もう一つは現実主義を是とする父デギンを派閥の代表とするザビ派だ。そしてダイクンは理想主義者であると同時に非暴力主義者でもあった、少なくとも民間人を戦わせる事を是とする人間ではない事は俺も知っている。だがダイクンのシンパである大半の者達はダイクンが提唱した「コントリズム」のみを取り上げており、自分達の力で自由を勝ち取るんだと躍起になっていた。これを無理に押さえつけては暴動が起きるとして、親父は彼らを義勇兵として迎え入れる。

 義勇兵となった彼らは当時、組織されていたジオン国防隊に編入される事になった。

 その為、親父が奴らを受け入れたにもかかわらず、ジオン国防隊の末端の兵の大半はダイクン派によって占められる事になってしまった。また当時のジオン国防隊の将校と士官には、親父が地球連邦から派遣されてきた駐留軍の切り崩しによって得た経験豊富な将兵が多く採用されていた事もあってダイクン派の反感を買う結果にもなっており、その遺恨はジンバ・ラルを代表に今も残り続けている。

 親父は政治家だ。長兄のギレンも、次兄のサスロも、武よりも智に重きを置く人物だ。

 

 国防隊から共和国軍になった今でも、末端の兵達はダイクン派の人間が多く占めている。

 別に俺はダイクンの事が嫌いという訳ではないのだが、ダイクン本人の意思とは別にコントリズムを掲げるダイクン派の連中は好ましくない。奴らは過激で攻撃的だ。親父や兄貴達は勿論、妹のキシリアや弟のガルマにだって危険が及ぶかも知れない。だから俺はダイクン派の連中が余計な事をしないように共和国軍の内側から楔を打つ役割を担うのだ。それに頑丈だけが取り柄の肉体。いざという時は外敵は勿論、内敵からも家族を守る為の盾になる。

 それが俺の選んだ道だ。馬鹿が馬鹿なりに選んだ胸を張れる役割だ。

 自分の子供泣かせな強面も、その為にあるのだと思えば、少しは誇らしく思えるものだ。

 

「われをかかげろ、そらたかく!」

 

 とある日だ。親父に付き従ってダイクンの屋敷に来た日の事だ。

 親父と長兄がダイクンと話をする為に奥の部屋に入ろうとした時、後を追いかけようとする俺の前に立ちふさがったのは幼い女の子であった。レモンのような金髪をした幼子は、怖い顔をしているはずの俺に両手を突き出している。どう扱えば良いのか困り果てた俺に「外で待ってなさい」と親父が告げられて、長兄は鼻で笑った後にダイクンを含めた三人で奥の部屋に入ってしまった。

 目の前には幼子、俺の両手で握れば簡単に壊れてしまいそうな子供だった。

 

「はやくして! はやくー!」

 

 ぴょんぴょん、と飛び跳ねる幼子。他に誰かいないかと周りを見渡すと部屋の入り口から俺を見つめる幼い女の子が更に一人、警戒するように俺の事を観察している。そうだよ、俺の顔を見れば、あの隠れている子の方が正しい反応なのだ。しかし目の前の女の子は俺を見て怖がりもせず、構ってくれない事に膨れっ面を見せる始末だ。

 

「てりゃーっ!!」

 

 痺れを切らした女の子が俺の身体に飛び込んだ。

 危ない、と思った俺は咄嗟に幼子の身体を受け止めた。

 両手を彼女の脇の下に入れて、掴み取る。

 怪我はしなかったか、握り潰してはいないか?

 ギュッと閉じていた瞼を、恐る恐ると開いてみる。

 幼子がクリッとした目で俺を見つめていた。

 

「かかげろ!」

「……掲げろ?」

「たかく! ずっとたかく!」

 

 戦々恐々と天井近くまで掲げてやれば、幼子はキャッキャと笑い出した。

 

「らるおじさんよりもずっとたかい!」

「ラル? ジンバ・ラルの事か?」

「じんばきらい! らんばのほう! らんばだいすき!」

 

 ランバ、ランバ・ラル。確かジンバ・ラルの息子が、そのような名前だったか。

 

「らんばいいやつ! ひっとうかしん!」

 

 俺は率直に言うと過激なばかりのダイクン派の連中が嫌いだ。

 ダイクン派の中でも過激派筆頭のジンバ・ラルの息子が、この幼子に気に入られている事実がなんとなく気に食わなかった。

 だから俺は彼女を掲げながら、その場でクルクルと回転してみせる。

 

「おーすごい! すごい!」

「ランバも良い奴かも知れんが、俺はもっと凄い事ができるぞ!」

「じゃあ、かたぐるま! かたぐるまして!」

「おお、良いぞ! しっかりと掴まっておくんだ!」

「おおー! おっきい! じゃあね! じゃあね!」

 

 子供に怖がられる事が当たり前だと思っていた。

 この強面な顔も悪い事ばかりではないし、強い劣等感を持っていた訳でもない。

 だが、何もしていないのに、子供に怖がられてしまった時や泣かれてしまった時は流石に傷ついたりもする。

 子供が嫌いな訳じゃないのだ、ただちょっと苦手なだけだ。

 だから、こうやって子供を掲げるのは初めての経験で、自分の事を怖がらない子供も初めてだった。

 たったそれだけの事が、嬉しかった。

 

「このままぜんしん! じおんろぼ、はっしーん!」

「おお! ……で、何処に行くつもりなんだ?」

「おにたいじ! いじわるなきゃすばるをたいじする!」

 

 キャスバルというのが誰だか分からないが、とりあえず彼女の云う事を聞いておけば良いと歩を進めようとした。

 ズボンの裾を引っ張られる感覚。足元を見てみれば、部屋の入り口から様子を窺っていたはずの女の子が羨ましそうな目で俺を見上げていた。

 

「あるていしあ! こわいかおのおにーさん、きゅうしゅつにんむ!」

「怖い顔……俺はドズルという名前がある」

「どずる! あるていしあものせてあげて! はやくはやく!」

 

 アルテイシアと呼ばれた女の子も肩に乗せてやれば、嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。

 両手に花とはこの事か。気が強くなった俺は胸を張り、二人と一緒に堂々と屋敷の中を歩き始める。

 とはいっても直ぐに目的地の部屋の前まで辿り着く事ができた。

 

「きゃすばる、でてこい! はやく!」

「おにいさま~、はやく~!」

 

 幼子二人が部屋に向かって誰かに呼び出しており、少しして扉が開かれた。

 

「あ~もう、なんだよ。アルテイシアまで一緒にな……」

「かった! きた、みた、かった! これがあっとうてきぶりょくさによるむけつかいじょうというものだー!」

「というものよ~!」

「きゃすばるよ~、むじょうけんこうふくせよ~!」

「しなさ~い!」

 

 目の前には強張った顔で身動きひとつ取れない少年が一人。

 勢いのままに此処まで来てしまったが、さてどうしたものか。

 ……俺は両肩に乗った二人に全てを委ねる事にした。

 

 

 俺、ランバ・ラルはクッキーの入った缶を片手にダイクン家に足を運んでいる。

 目的は屋敷に住む三人の子供であり、親父に会いに来た道すがらに寄ってみただけに過ぎない。親父に会う時よりも少しだけ身嗜みを整えて、屋敷のチャイムを鳴らす。屋敷の中から慌ただしい足音、少しして扉が開けられる。中から姿を現わしたのは、自分よりも頭ひとつ分以上も大きな体躯。忘れるはずもない強面な顔、政敵であるザビ家の三男。ドズル・ザビ。その男の両肩には見慣れた二人の幼子が腰を下ろしている。

 彼と視線が交錯する。殺意はない、敵意があった。

 それが幼子二人に関わる事を直感的に理解したからには、引く事はできぬと目一杯の敵意で睨み返す。

 

「らんば!」

 

 幼子の一人、カナリア嬢が満面笑顔で俺の名前を呼ばれた。

 俺に両手を差し出す彼女を両手で受け止めて「は~い、ラルおじさんだよ~♪」と破顔させながら空高くに掲げる。

 カナリア嬢をあやしつつドズルと再び視線を合わせる。

 

 ──分かっているな?

 

 ──ああ、勿論だとも。

 

 男には、時に言葉を介さずとも伝わる時がある。

 戦場に生きる者は即断即決。俺達は過去の諍いを振り切り、即刻で停戦条約を締結する。

 条項はただ一つ、ダイクン派とザビ派の諍いをダイクン家の屋敷に持ち込まない。

 掲げ上げたカナリア嬢をそのまま肩に乗せて、屋敷へと足を踏み入れる。

 この屋敷は現時刻を以て、非戦闘地域に指定されたのだ。

 

 アストライア様にリビングまで案内された時、クッキーのついでに用意した珈琲の豆を贈る。

 それを受け取った彼女は「今から珈琲を淹れて来ましょう」と気さくな笑顔で台所へと向かった。部屋に残されるのはカナリア嬢とアルテイシア様の他、政敵のドズル。正直、邪魔以外の何物でもないが、厄介な事に二人はドズルを気に入っている御様子だ。ここで敵意を剥きだしにしても良い事はない。子供達を怖がらせるだけという事は相手にも分かっているようで、特に何かを言ってくるような真似はしてこなかった。

 だがザビ派の連中とは昨日の敵で、今日も敵の間柄。同じ空間に居ては居心地の悪さを感じる。

 見るに相手も同じものを感じているようだった。

 此処は大人の余裕を見せつける為にも小粋なジョークでも飛ばしてやりたいものだったが、思いつくのは軍人的なジョークばかりで幼子の前で口にするようなものではなかった。

 かといって、このまま黙っている訳にもいくまい。

 はて、どうしたものか。

 

「らんば! ちぇす!」

 

 悩み、困り果てているとカナリア嬢がチェス盤を持ってきた。

 

「らんば、たい、どずる! ふぁいっ!!」

 

 その言葉を聞いた時、俺はドズルと顔を見合わせる。

 賭け金は幼子二人からの尊敬。互いに好戦的な笑みを浮かべた後、盤上に駒を配置する。

 負けられない戦いが、此処にはあった。

 

 と、思っていたのだが。

 

 カナリア嬢はドズルの膝の上に座り、俺に向けて挑発的な笑ってみせた。

 

「らんば、つよい! ゆえに、ゆえあって、すけだちする!」

 

 正直な話、ドズル相手なら負ける気はしない。カナリア嬢の腕もキャスバル様に負ける程度、二人が力を合わせた程度で俺に敵うはずもない。

 そう思っていた。

 その考えが甘いと知るのは数十分過ぎた後の話になる。

 

「ぐぬ、ぐぬぬ……」

 

 形勢は不利、ドズルの腕前は平均以上にはある。しかし俺が手こずる程ではない。

 

「どずる、だめ! そこじゃない!」

「お、おう。ここならどうだ?」

「うむ、くるしゅうない!」

 

 しかしカナリア嬢の的確な助言が今、俺を苦しめている。

 今も仕掛けていた罠のひとつを見破られてしまった。手が読まれているとしか思えない助言の数々、形勢は着実に悪くなりつつある。

 温くなった珈琲を啜り、長考する。拙い、拙いぞ。このままでは勝てない。

 

「らんば~……かてないの?」

 

 カナリア嬢がドズルの膝を占拠した為、代わりに俺の膝上に腰を下ろしたアルテイシア様が心配そうに俺を見上げる。

 勝つか、負けるか、ではない。男には、勝たねばならぬ時がある。

 ランバ・ラル、此処が男の見せ時だ!

 

 数分後、

 

「むむむ……」

 

 仕掛けた罠は全てカナリア嬢に見切られた今、絶体絶命の窮地に追い込まれている。

 最早、どう足掻いてもチェックメイトを逃れられぬ状況。今にも泣き出しそうなアルテイシア様、守れなかったこの笑顔。敗北の味を噛み締めながら彼女の頭を優しく撫でた。

 

「……見事だな。しかしドズル、自分の力で勝ったのでないぞ。カナリア嬢の助言のおかげで勝てたのだということを、忘れるな!」

「はっはっはっ、これが負け犬の遠吠えというものか。なあカナリア?」

「はいぼくしゃのことばにちからなし、しょうしゃのみがれきしをきずくのだー!」

 

 高笑いを上げる二人に、どうにか怒りを堪えて再戦を申し出る。

 その要求を二人は快く受け入れて、チェスの駒を並べ直す。今度こそ、という言葉はあまり使いたくないものだが、今度は最初から勝つ為の戦略を組み立てる。油断をした訳ではない、しかし何処か見縊っていたのかも知れない。戦場では次はない、勝つ為の準備を怠った。俺の勝利はアルテイシア様の笑顔に繋がる。だがしかし、どうすれば二人に勝つ事ができるのか。

 一手目から熟考する。膝上で俺を心配そうに見つめる彼女の為にも、負ける訳にはいかぬのだ。

 

「ん? チェスをやっているのか?」

 

 そんな折、新たにリビングへと足を踏み入れる少年。キャスバル・レム・ダイクンがチェス盤を覗き込んだ。

 

「なんだ、まだ始まったばかりじゃないか」

「おにーさま! わたし、らんばにかった! おにいさまにかったらんばにかったから、わたしがさいきょう!」

「おいおい、俺の事も忘れないでくれよ?」

「うん! どずるとわたしでうちゅうさいきょう!」

「……なるほど」

 

 キャスバル様は小さく頷き、俺の隣に腰を下ろした。

 

「僕を手伝え。あのクソガキを分からせる」

「なんと?」

「あー、だめー! ふたりでとかずーるーいー!」

「お前も二人じゃないか」

 

 ぶうぶうと文句を言うカナリア嬢には意にも介さず、キャスバル様は最初の一手を打ち込んだ。

 

「いいか、ランバ。あのクソガキの攻略にはコツがあるんだ」

「あー、あー! どずる、さくせんたてて!」

「お、おう。……いや、俺は頭に自信がなくてだな」

「おにいさまがいるとかてないの!」

「小癪な事に罠を全て見破りやがるからな、盤石な態勢で少しずつ全体を押し上げていくんだ」

「どずるー! ひらおしにまけるなー!」

「や、やらせはせん! やらせはせんぞー!」

 

 キャスバル様と共同戦線を組んだ二戦目は、無事に勝つ事が出来た。

 アルテイシア様も御満悦である。三戦目は俺だけで戦って優勢、四戦目のキャスバル様で五分となっていた。

 どちらもカナリア嬢とドズルの敗北である。

 

「どずるのばかー!」

「いたた……わかった、わかった。次までにちゃんとチェスの勉強をしておくからな」

 

 ポカポカとカナリア嬢に頭を叩かれる政敵の姿は正直、小気味良いものではあった。しかし流石に少し気の毒にも感じられたし、彼女の教育にも悪いと考えて諫言する。

 

「ドズルに頼るだけではなく、カナリア嬢もしっかりと学ばなくてはなりませんな」

 

 彼女は、むうっと頬を膨らませながらも大人しくドズルの膝上に座り直す。

 簡単に検討する。時間にして二十分程度、カナリア嬢が大きな欠伸をした頃に中断した。ドズルも政敵である俺の話を真剣に聞いていたのは少し意外だった。

 

「感謝する」

 

 検討を終えた時、ドズルは俺の目を見て頭を下げる。

 

「別にお前の為だけにやった訳ではない」

 

 俺は素っ気なく返し、自分で買ったクッキーを頬張る。

 正直、菓子類は好きではない。しかし最近は洋菓子を食べる機会が増えたせいか味の良し悪しが分かるようになった。

 珈琲と洋菓子も一緒に食べれば味が合う事も、この家に来るようになってから知った。

 

 

 ドズルとランバが家に来るようになってから数ヶ月が過ぎた。

 派閥同士で対立する事はあっても、個人間であれば仲良くなれる。

 そんな一例、心地よい日々が過ぎる。

 この穏やかな毎日が何時までも過ぎて行けば良い。

 そう思い始めた頃の話だ。

 

 ジオン・ズム・ダイクンが議事堂にて暗殺される。

 

 平和な日常は終わりを迎える。

 時代は次の舞台へと移行し、戦乱の世が幕を開けようとしていた。

 私達は守るべきを守る為、大切なものを奪われない為にも戦わなくてはならない。

 そんな時代が、始まろうとしている。




アニメ版とオリジンの設定を良いとこ取りで混ぜた感じ。
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