NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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気付いた時には、投票者数が300を達し、感想が550を超えて、総合評価が10kです。
驚きです、ビックリマンチョコです。
キリよく超えられたからといって記念に何かする訳でもないですし、
たぶん次話を出し続けることを読者が一番望んでいると思いますので次話をどうぞ。
いつもありがとうございます。
皆様の感想や反応がワクワクで楽しく書いてます。


31.スミス海の戦い。

 ニュータイプ研究所にて。

 

「カナリアは4歳の時に初めて人を殺した可能性がある」

 

 口にしたのはフラナガン。唐突な言葉に思わず、クルストが振り返る。

 ニュータイプ研究所は現在、貴重な被検体を壊さない為に負担の少ない研究に留めてある。それはクローン体であるBBも基本的には変わらない。何故ならば、彼女もニュータイプ能力を持った人間を複製できる可能性を持った希少な被検体である為だ。

 しかし、BBには人権がない。故に、倫理問題は起きようはずもない。

 

「BBは4歳、そろそろ人殺しを経験させても良い頃合いだ」

 

 宇宙空間に放流したのは、思っていた以上の成果を上げられなかったしな。とフラナガンは零す。

 クルストは時折、思う事がある。もしかして自分達の研究は、とんでもない化け物を作ろうとしているのではないか。普段はレディの扱い方などと宣う癖に、彼は人としての情を欠片も持ち合わせていない。かといって言動が非情という訳でもなかった。彼は理解している、自分が異端である事を。その上で彼なりに人の心を理解する意思を見せる。

 何故ならば、感情を理解する事が彼の研究には必要な為だ。被験者の感情を理解することは、そのまま研究の効率化へと繋がる。

 彼は学習する。トライ&エラーを繰り返す事で、自分の行動が他人にどのような影響を与えるのか観察し、得られた情報を元に分析して、改善する。その在り方は研究者としては、余りにも正し過ぎた。誰も踏み入れた事のない暗闇の中を、一歩、また一歩と進み続ける様は世界の真理を追い求める探究者のようでもある。

 よし、楽しく話せたな。と彼は人相手にパーフェクトコミュニケーションを取る為に検証を続けている。

 

「……まだ4歳だが?」

「この研究所の中での成績は、既に上から3番目以内に入り続けている」

 

 彼は淡々と告げた後、感情の篭ってない瞳でクルストを見る。

 

「私は天才でもなければ、神でもない。凡人にできる事は試行回数を延々と積み重ねる事だけだ。一度の試行は一歩分の歩みであり、試行を積み重ねる事は歩み続ける事と同義になる。地面を踏み均し、踏み固めれば道になる。新雪の中に足を踏み入れるのが先駆者であれば、前人未到の地に道を生み出すのは凡人の役目だ。人類は歩みを進める事で道を作り、後続の者達が更に先へと道を伸ばす。そうやって技術を継承し、進歩を続ける事で文明を発展させてきた過去がある」

 

 さあ、と彼は口の端に皺を寄せる。

 

「クルスト君。研究者の端くれとして、共に道を敷こうではないか」

 

 結局の話、彼もまた数字の信奉者。延々と情報を収集し続ける事を趣味とする研究者の鑑であった。

 

 

 宇宙は、怖いです。

 ザクのコックピットの中で三角に足を畳んで身を震わせる。

 此処は月面、スミス海の近場にある丘の頂上。あの時に放流された恐怖が身を巣食う、宇宙の黒は今にも吸い込まれてしまいそうな暗黒に見える。モニターを見ているよりも、何もない真っ暗闇の方が怖くないから必要最低限の機能だけ残して、後は全部、電源を落としてしまった。

 操縦系統は子供の私でも動かせるようにした特注の配置となっている。

 正直、もう宇宙には出たくない。しかし、私には拒否権がない。私は人間ではなかった、だから私は偉い人の命令を聞かなきゃいけない。それが私が産まれた意味で、理由であるから、私は今日、この怖い宇宙で戦わなきゃいけなかった。

 ギュッと自分の身体を抱きしめているとコックピット内に電子音が響き渡る。

 

『通信、聞こえるか?』

 

 私は慌てて、ヘルメットを操作してマイク機能を音にする。

 

「は、はい! きこえてます!」

『やはり、若い声だな。まあいい。こちら、ランバ・ラル少佐。そちらは……』

「にゅうたいぷけんきゅうじょのび……じぇーんともうします!」

 

 通信画面はない、音声のみだ。

 私の声は変成器で誤魔化している為、相手には十代半ば程度には聞こえるようになっている。

 今日はミノフスキー博士の亡命阻止を目的とした任務だと聞いている。亡命が確認され次第、殺すことが予定されており、その際に戦闘が予想されるという話もだ。

 だから、私が派遣された。私は今日、人を殺す為に此処に来ている。

 

 その事を改めて自覚すると、身体が震えて来た。

 呼吸が荒くなる。はっ、はっ、と息を零す。カチカチと歯を鳴らす、操縦桿を握る手が震える。

 大きく深呼吸をした。私は人ではない、と言い聞かせる。

 この身に流れる血は、鉄の味がする。心の奥底まで凍えるように、感情を凍らせる。

 鉄の心、鋼の意志。私は人ならざる者、従順な人形。

 だから傷付いても大丈夫。

 

 今日、作戦に参加するのはソロモンの皆々様。

 ランバ・ラル少佐をリーダーにガイア、マッシュ、オルテガ。ククルス・ドアンの編成となっている。「ドアン、彼女の援護を任せる」とランバが指示を出し、相手が動くのを待つ事になった。

 そして、“ウサギ”は来る。というガイアの報告と共に巨大な、人々の気配を遠くに感じた。

 皆が標的を追いかけるのに夢中になる中で、私だけが一人。皆とは外れた方向へとブースターを吹かした。見つけたのは巨大な輸送船、私は丘の上に立ち。持っていたバズーカを構える。

 火器管制の射程外。だけど、行ける。と確信を持って、マニュアル照準でロケット弾を放った。

 

 バズーカの弾は輸送船の艦橋を目指して、ゆるゆると吸い込まれる。

 着弾。艦橋は爆発で全壊して、輸送船が大きく傾いた。慌ててハッチが開かれる。中から飛び出す人型兵器。幾つかは輸送船に巻き込まれて、一緒に墜落してしまった。

 人の思念が聞こえてくる。悲鳴が、怨恨が、直接、脳に叩き込まれた。

 声が消える。悲鳴の数だけ、声が消える。人を殺してしまったのだと、十や二十では済まない数の人間が、あの輸送船には乗せられていた。それを、私が、たった一発放っただけで殺してしまった。

 ボタン、ひとつ。余りにも、余りにも、あっけなさ過ぎる。

 

「……ぅ……うえっ…………」

 

 込み上げてくる吐き気、そのまま胃液を吐き出した。

 視界が霞む、意識が朦朧とする。ズキズキと痛む頭で、辛うじて気絶するのを免れる。私は人形、私は人形。暗示するように唱え続けて、意識を繋ぎとめた。此処は戦場。私だって、さっきの輸送船と同じように何時、死んでもおかしくない。

 人を殺したんだ、それも呆気なく。なら殺されもする。次が私でもおかしくない!

 

『ジェーン!? おい、待つんだ!』

 

 ブースターを吹かせる。通信機越しに制止する声も無視して、ヒートアックスを片手に敵の人型兵器の中へと突っ込んだ。次は私の番かも知れない。という思いが、私の背中を後押しする。

 殺される、次は私だ。なら、なら! 殺される前に皆、殺してしまえば良い!

 敵を圧倒し、蹂躙する。気付いた時には、立っているのは私だけで、周りは皆、死んじゃった!

 

「あは、あはは……あははははは……ッ! ……は、はは……ゥっ……うぷっ……うええ…………」

 

 またパイロットスーツの中に吐瀉物を吐いてしまった。

 私は、私自身が思っているよりも、ずっと生きたがりだったようです。

 

 

「……これは、想像以上と想像していた以上に想像以上の結果だな。圧巻と呼ぶ他にない」

 

 遠くから戦闘を観察していたレビル中将は嘆息する。

 ジオニック社によるモビルワーカーの軍事利用に対抗したAE社の軍事用モビルワーカー、通称モビルスーツ。この開発には、地球連邦軍も少なからず関わっているのだが、ゴップ大将は興味を持てずにいる。実際、レビル中将も期待していた訳ではない。その事はAE社が開発したモビルスーツを見て、所詮は大型戦車(RTX-65)の延長線。民衆に対する示威効果を期待したデカい的に過ぎなかった。

 しかしジオニック社が開発したモビルスーツは、自分が考えていた以上に機敏に動いている。

 バーニアを吹かし、跳躍するように前進を続ける有り様は既存の戦車では対応できない。当たり所が良かった事もあるが、中型以上の輸送艦を一撃で撃墜できる武装を携行できるのも驚異的だった。また、マシンガンのような武器も持っており、対空掃射で戦闘機に対する備えもある。

 宇宙で活用すると、どうなるか。陣形を組んで機敏に動き回れる分、小型艦を揃えられるよりも厄介かも知れない。

 

「……きっと初めて、航空艦隊を目の当たりにした人物は今の私のような心境だったのだろうな」

 

 単体では戦場の決定打に成り得る存在では、ないのかも知れない。

 しかしモビルスーツの存在は、新たな戦場を築くだけの力を持っている。

 研究と開発を後押しするだけの価値があった。

 

「それだけに、惜しいな」

 

 少し前に届いたミノフスキー博士の死亡報告に溜息を零す。

 先の天体衝突の件で、本格的な介入を遠慮したのが拙かった。建前はAE社とジオニック社の小競り合いであり、地球連邦とジオン公国の戦闘は発生していない。という事になっている。とりあえず、見た事をゴップに報告しなくてはならんな。と今日、見た出来事を頭の中でまとめる事にした。

 ……とは言っても、ミサイルという兵器がある以上、速度がなければ、モビルスーツが良い的である事実は変わらない。地球上で戦場を支配するのは空であり、宇宙ではミサイルとメガ粒子砲を装備した戦艦で事足りる。かといって、現代でも戦車や空母という兵器が廃れないように一概に必要がない。と断じる事も難しかった。

 最悪、作業用にも転用できるという点を鑑みて、開発自体は続けさせるのが正解だ。

 少なくとも戦車では、歯が立たない兵器である事は見て取れる。

 

 

 ニュータイプ研究所に足を運んだ時の話、

 中身は意外と綺麗にされた一室にて、私、キャスバル・レム・ダイクンことシャア・アズナブルがニュータイプ能力検査を受ける。

 その結果、サミュコンと呼ばれるサイコミュ技術を活用した脳波コントロールできるラジコン玩具で遊ぶ事ができる程度の能力を持っている事が判明した。数値としては、この研究所でニュータイプ能力を持っていると認識されている中では、最低の数値との事だ。逆にララァは、この研究所で最も高い数値を記録しているとの話である。

 シミュレーターを用いた訓練では、常に先読みをしてくる少女達に最初こそ敗北を積み重ねてしまう事になった。しかし、過去にカナリアとチェスをしていた時の事を思い出し、モビルスーツの操縦技術の力勝負を押し付けてやる事で勝ち切る事ができた。ララァにも勝ってやれば、彼女は頬を膨らませて拗ねてしまった。

 一通りの訓練を受けた後、フラナガン博士が単刀直入に話し掛けてくる。

 

「ララァを預けさせてはくれぬか?」

「嫌ですわ」

 

 私が答えるよりも先にララァは私の背中に隠れてしまったので、私は肩を竦めるしかなかった。

 

「これではな」

「では、シャア少尉もニュータイプ研究所に転属されるとよろしい」

「まあ、少尉と一緒なら……」

「そう簡単にコロコロと転属できるものじゃないだろう」

 

 靡きそうになるララァに、私は溜息混じりに答えた。

 一応、私の所属はドズル麾下となっている。ニュータイプ研究所はキシリア機関の者が関わっている事からキシリア派閥に所属する組織だと推測できる。これでは、転属も上手くいかないだろう。それにドズルとキシリアならば、ドズルの方が良い。そもそも、此処は窮屈過ぎる。あまり自由に動く事もできないのも問題だった。

 今、手に持っているニュータイプ研究所に所属する被験者リストの中にもカナリアの名前がない為、これ以上長居する理由もない。

 

「……そういえば、プロト・ゼロという人物に心当たりはあるか?」

 

 フランガン博士に問い掛ければ、はて、と彼は首を傾げた後に、ああ、と声を上げる。

 

「ジオン公国における最初のニュータイプ能力の発現者であり、最強のニュータイプ能力の持ち主ですな」

 

 最初のニュータイプ能力。という言葉を聞いて、思わず鼻で笑ってしまった。

 ニュータイプ研究所が開設されるよりも早く、私はそれらしい能力の持ち主を知っていたからだ。

 ララァでコレなのだ。

 あのクソガキのニュータイプ能力も最高峰に違いない。

 

「それはララァよりも強いのか?」

 

 事のついでに問いかけてみれば「まあ、どっこいどっこいですな」と彼は答える。

 なるほど、世界にはカナリアレベルがあと一人いるらしい。

 世の中クソだな。

 そういえば、ほとんどの被験者の顔を合わせたはずなのだが、一人だけ出会ってない人物が居る。

 彼女は? とブルーバードの名を指で差した。

 

「出張して、今は研究所にいませんな」

 

 とフラナガン博士は答えた。

 

 

「これ! どうですか、これ!」

「どうって言われても、私、こういうのは分からないんだけど……」

「土星エンジンの出力があれば、モビルスーツは列車砲だって牽引できるんですよ!!」

「え、なに? 相手は何を想定しているの?」

 

 ツィマット本社にて、ミア・ブリンクマンは親友に彼女自作のモビルスーツの設計図を披露する。

 私の考えた最強のモビルスーツ案にカナリアは苦笑する他にない。きっと彼女のような人間が、ゲームとかでよくある用途不明な派生機を大量に造ったりするんだろうな。と思いつつも適当に聞き流す。

 今のカナリアの立場は、ジオン公国の国防軍からツィマット社に派遣されたテストパイロット。便宜上、プロト・ゼロの名で特別少尉となっている。この特別というのは、少尉の中でも特別という意味ではなくて、特別に少尉待遇で扱いますという意味なので、少尉よりも立場が低かったりする。

 しかし、ツィマット社でカナリアの事を見縊る人間は誰一人居なかった。

 

「嬢ちゃん! テストの準備ができたぜ!」

 

 スタッフの一人から声を掛けられて「わかったー」とカナリアは席を立った。

 

「あ、私も乗せてください!」

「あー、うん、皆が良いって言ったらね」

「おじさん!」

「おう、監督が良いって言ったらな」

 

 ミアにはモビルスーツの搭乗経験がある。

 カナリアが操縦するのを後ろで見ていただけだが、それ以後、モビルスーツに乗るのが癖になってしまっていた。

 あまりに興奮するので、カナリアとしては操縦しにくい。

 耳元で叫ばれたりするので、周りの声が聞き取れなくなる事も多々あった。

 そんな彼女に呆れたカナリアが「もういっそ、自分で乗ったら?」と口にするのは、もう少し後の話。

 鱗が落ちた彼女の目は、宝石を詰め込んだ宝石箱のようにキラキラと輝いていたという。


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