NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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本日は短めです。


32.政略のちょっと小難しい話です。

 小惑星アクシズ。

 それは火星と木星の間にあるアステロイドベルトの小惑星をジオン公国が資源発掘に徴用した小惑星の一つである。

 ア・バオア・クーやソロモンと違って、これはアステロイドベルトに置いたままとなっており、周辺にある小惑星群の資源発掘用の拠点としても活用されている。また木星に存在する希少な資源を調達する為の中間地点としても機能している為、ジオン公国の生命線とも呼べる拠点のひとつとなっていた。

 故に此処に配置する人材は優秀である事は勿論、絶対に裏切る事のない人間であることが条件に挙げられる。

 

 そこでジオン公国の公王であるデギンが推薦したのがマハラジャ・カーンになる。

 彼は、ジオン・ズム・ダイクンが提唱するコントリズムに共感し、サイド3に移住した生粋のダイクン派であった。だがデギンは彼の能力と人格を信用しており、サイド3から遠く離れたアクシズを任せられるのは彼以外に居ないと断言する。

 ジオン公国の実質的な指導者であるギレンは、アクシズには身内を置きたかった。

 しかし、公王であるデギンは勿論、軍事の要であるドズルも送り出せない。まだキシリアの事を人格的にも、能力的にも、精神的にも、信用し切れないところがある為、手元に置いておきたい。ガルマは論外である為、ザビ家以外の人間に任せなくてはならなかった。

 だがマハラジャは、ダイクン派の人間だ。

 更には、彼の人格と能力を信用する事はできても、それ故に、故があれば裏切る可能性も孕んでいる。

 例えば、子を人質に取られた時、彼が子を犠牲にできる人間であるとは限らないのだ。

 

 であれば、とギレンが考えた策のひとつがマハラジャ・カーンを身内に招き入れる事だった。

 これにデギンも賛成する。

 次に問題となるのは、誰と誰を結婚させるのか。という話になる。

 

 ここで白羽の矢が立ったのがドズルであった。

 しかし、ドズルは、あんな顔をしている癖に繊細なところがある。恋愛結婚に理想を抱くタイプだ。その上、彼は奥手でもある。マハラジャとの関係を考えれば、政略結婚を無理強いする事は好ましくない。

 これでドズルに好きな相手でもいれば、別の案を考える手もあった。

 だが、彼が恋慕を抱いている相手が居ない事はキシリア機関の調査で分かっている。故にギレンは期限を設ける事によって、恋愛願望に区切りを付けさせようとした。そうする事で出来るだけ、自然な流れで縁談という形に持っていきたかったのだ。

 実情は政略結婚だが、縁談という形にすれば、ドズルの心情的にも悪くないと考えての事である。

 

 余談だが、今回の件でギレンが婚約相手に自分を選ばない理由の一つは年齢にある。

 ギレンは今年で34歳。対するマハラジャの娘は、19歳。流石に15歳の年齢差では、マハラジャも良く思わないはずだ。対してドズルは27歳であり、19歳と27歳であれば、まだ面目は保たれる。

 ……年齢だけをいえば、同年代で19歳のガルマが適齢だ。

 しかし、ガルマが暁の蜂起で英雄視される現状をマハラジャが良く思っていなかった。それ故にガルマを避けた事情がある。またギレンの知るガルマが、ドズル以上のロマンチストの坊やである事も、この重大な政略結婚の駒として使えない理由の一つとなっている。

 なんかの拍子に問題を起こされては困るのだ。

 

 話を戻す。

 ギレンが自分を政略結婚の駒に使わない理由は他にも、自身がサディストである事が上げられる。下世話な話になるが、彼は女性を乱暴に扱わないと勃たない難儀な性質を持っている。流石に今回の件で相手に乱暴する訳にもいかなかった為、彼は自分を使う事を見送る理由の一つになった。

 ちなみに今、語る必要はないが秘書のセシリアはマゾヒストである。

 

 事のついでに語ると、

 キシリアがサディストというのはギレンの偏見である、少なくとも彼女自身にサディストの自覚はない。ギレンがあえて、ドズルにキシリアがサディストと言ったのは、ドズルを追い詰める為に適当に言った事である。

 本当の理由は、マハラジャに息子が居ない事だった。

 あとは、まあ、キシリアと結婚する相手は大変だ。とギレンが勝手に考えている為、政略結婚の駒に使えないと思い込んでいる事も理由の一つに上げられる。

 後日、この話をドズルから聞いたキシリアは、ギレンの背中を足蹴にした。

 キシリアは純愛も、嗜虐も、被虐も全ていけるのが本当だ。

 可能性の獣である。

 

 閑話休題。

 以上の事が、ギレンが、ドズルを政略結婚の駒に選んだ理由になっている。これが達成された暁には、ザビ家は背中を刺される心配をする必要がなくなるのだ。

 

 しかし、ドズルに期限を言い渡した翌日の話だ。

 ギレンにとっての誤算が生じる。

 彼は、窮地に追い詰められた時のドズルの決断力をあまく見積もっていた。少なくともドズルの本領の一つである即断即決が、色恋沙汰にまで適応されるとは考えていなかった。

 奥手で恋愛弱者のドズルの結婚相手の面倒は、自分が見てやらなくてはいけない。とギレンは勝手に思い込んでいた節がある。

 

 ギレンがドズルに縁談を提案した翌日、

 ドズルは士官学校の卒業生であるゼナ・ミアに求婚した。

 これが上手くいってしまった。

 

 これを知ったギレンはキシリアを通じて、キシリア機関にゼナ・ミアの身辺調査を依頼した。

 彼女の実家は一般家庭であり、特別に何かある訳でもない。親戚も似たようなものであり、ゼナ・ミア自身はジオニズムに感銘を受けたザビ派の人間だ。

 つまりはまあ、何もなかった。

 良い事も、悪い事もない。毒にも薬にもならない結婚相手だった。

 下手に変な相手を連れてくるよりも余程、ましではあるのだが、政略結婚をまとめていたギレンとしては、なんともつまらない結末であった。

 デギンがマハラジャの屋敷まで頭を下げに赴いた事で、この縁談は御破算となる。

 

「貴方の嫡男であるギレンの意向は分かっています。万が一にも裏切るかも知れない可能性を消しておきたいのでしょう?」

 

 屋敷まで足を運んでくれたデギンに、それならば、とマハラジャは提案する。

 

「マレーネとハマーンをサイド3に置いていきましょう。マレーネはザビ家の手元で雇って頂けると良いでしょう。ハマーンにはサイド3でしっかりとした教育を受けられるようにして欲しい」

 

 セラーナは、まだ幼いので連れて行きます。と彼は告げる。

 独りは寂しいので、と付け加えて。

 こうしてマハラジャは末娘を連れて、総括責任者として小惑星アクシズに赴くのであった。

 

 サイド3に残された2人の娘、この処遇をギレンはドズルに一任した。

 ドズルが悪い事をした訳でもないのだが、まとまりかけていた政略結婚を駄目にされた腹いせに面倒を押し付けたのだ。ドズルは二人の対応に頭を悩ませる事になる。マレーネは侍女にでもしておけば良い。立場を求めるのであれば、長兄のセシリアと同じように秘書として扱えば良かった。

 しかし、ドズルが着任するア・バオア・クーは前線基地。

 子供を置いておく余裕もなければ、同年代の子供が一人もおらず、遊ばせてやれる環境もなかった。

 かといって、自分の管轄に子供を置いておける場所なんて……

 

「あ、そういえばあったな」

 

 ダーク・コロニー。モビルスーツを開発する時に子供用のスペースが設けられている。

 軍事機密を扱う施設であるにも関わらず、何故か不思議な事に子供が遊んだり、勉強をする為の空間が設けられているのだ。スミス海の戦いでニュータイプ研究所の有用性が示された事もあり、モビルスーツパイロットとしての実験もダーク・コロニーで行われる予定になっている。

 ハマーンの年齢と比べれば、どうしても差ができてしまうのだが……それでもア・バオア・クーに置いておくよりも余程良い。マレーネも偶に会いに行く事ができる。

 これは妙案だ。とドズルは、即断即決で手続きに移った。

 

 更に数週間後、自分の膝上に座って勉強する少女に金髪の青年は頭を抱えている。

「どうしてこうなった」と天井を見上げる彼の悲痛な背中には、不機嫌に頬を膨らませる褐色の少女の姿があった。

 最後に苦労を被るのは、何時だって末端の人間である。


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