NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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35.キルスコア2千万。

 宇宙世紀0079年1月3日、ジオン公国。地球連邦に宣戦布告。

 後世では、この時点で地球連邦軍の戦力はジオン公国の三倍だと云われている。

 

 事実、地球連邦軍は、サイド3がジオン共和国と名乗った日から軍備増強を続けてきた。

 特に戦艦と巡洋艦を多く取り揃えた大艦巨砲主義を踏襲した、艦隊決戦を戦闘教義の主軸に置いている。60年代に建造された旧型マゼラン級戦艦には、メガ粒子砲を搭載する近代化改修を施しており、70年代に建造した新型マゼラン級戦艦を加えた。その数は、92隻。同じく新旧サラミス級巡洋艦473隻。補給艦が1340隻となっている。

 以上の他にも宇宙空母を含めた戦闘用艦艇が1000隻以上が存在している。

 

 対するジオン公国軍は戦艦8隻、重巡洋艦42隻。軽巡洋艦108隻。補給艦240隻。

 その他、宇宙空母を含めた戦闘用艦艇は200隻程度。

 

 これだけを見て分かるように艦艇の数では、戦力比は3倍では済まされない。

 しかし公国軍には虎の子のモビルスーツがあった。

 その数、実に3000機程度。

 対する地球連邦軍の航宙戦闘機は、200機程度となっている。

 この差が、戦力比3倍と呼ばれる所以だ。

 

 故に迅速果断な侵攻が、明暗を分ける。

 

 宣戦布告をした同日、

 ドズル中将が率いる宇宙攻撃軍は先ず、地球連邦軍の巡航艦隊を奇襲し、これを撃破。同時に突撃攻撃隊が月面都市グラナダを制圧し、フォン・ブラウンも占拠する。月面を支配下に置く事で、サイド3は完全にジオン公国の支配下に置かれた。更に同時期、コンスコン大佐が率いる別動隊がサイド2にて、虎の子のモビルスーツ部隊を展開。ダーク・コロニー組が中心となって、コロニーを次々と落とし、8バンチコロニー「アイランド・イフィッシュ」だけを残して翌日に持ち越される。

 その間にドズル中将の座乗艦で、本作戦の旗艦でもあるムサイ改型艦隊指揮艦「ワルキューレ」がサイド3からサイド2に移動する。その旗艦にモビルスーツ部隊の指揮を執っていたランバ・ラル少佐がドズル中将に呼び出された。

 

 

「聞いたぞ、ドズル! 毒ガスで住民を殺すとなッ!!」

 

 艦橋まで足を運んだランバはパイロットスーツのまま、出し抜けに言い放った。

 ドズルは周りに「口外するな」と一言。

 睨み付けるランバに、ドズルは咳払いをした。

 感情を表に出さないように、ドズルもまた相手を見定める。

 

「地球連邦政府の高官共は、どれだけの血を国民が流しても痛みを感じる事はない。自分達の権力と生命が危ぶまれて、初めて腰を上げる!」

「それが毒ガスで民間人を虐殺する事と何の関係があるッ!!」

「先ず、否定しておくが、奴らは民間人ではないッ! 銃を持ち、我らの命を脅かす武装した民兵ッ! 立派な兵士だッ!」

「しかしッ!!」

「これは戦争なんだぞッ!? 我々は正当に宣戦布告して、サイド2は連邦に付くと言ったんだッ! 中立宣言でもなく、我らと敵対したッ! これを攻め落として、何が悪い!?」

 

 この言葉に、ランバは言葉を詰まらせた。ドズルは溜息を零した後、モニターに作戦プランの映像を表示する。

 

「良いか。ブリティッシュ作戦の概要は、サイド2のコロニーをジャブローの真上に落とす事にある」

「なんと……いう事を……っ!」

 

 ランバは歯を食い縛り、目を伏せる。そうして、覚悟を決めた瞳でドズルを睨み付けた。

 

「ジオン・ズム・ダイクンは、地球の環境保全を最終目的に宇宙移民計画の完遂を願ったッ! それがコロニーを落とすだとッ!? まさか、ドズル。お前まで賛成した訳じゃあるまいな? ザビ家の連中は気でも狂ったかッ!?」

「……俺は賛成したよ、少佐。二度、階級を省いたが見逃してやる。次はちゃんと呼べ」

「はい、中将殿。これでよろしいか? では、言わせて貰うぞ!」

 

 ランバは大きく息を吸い込んだ後、怒声を張り上げた。

 

「コロニーは宇宙の民にとっての家、帰るべき場所だッ!! それを落とすとは、何事かッ!?」

「サイド2の連中はスペースノイドではなかった。地球に定住する、地球連邦政府に帰属する。地球から宇宙に疎開されただけの地球の民なんだ! 未だに奴らの魂の故郷は地球にあるままだッ! そして、我らは地球連邦の所有物を地球に送り返すだけの事、送料は元払いでなッ!!」

「そんなトンチが聞きたい訳ではないッ!」

 

 ランバは片手に抱えていたヘルメットを床に落とし、ドズルの胸元を両手で引き寄せる。

 互いの目の位置が、同じ高さにして、至近距離でランバはドズルの瞳に問い掛けた。

 

「目を覚ませ、ドズル! これは、悪魔のする事だッ!! 今は勝てるかも知れん。だが、代償を支払う事になるぞ!!」

「今、勝たなくては、ジオンに次はないッ!」

 

 ドズルは近場にあった椅子に腰を下ろし、艦橋の大窓から外を見た。8バンチコロニーを眺めながら、肩を落とす。

 

「降伏勧告は出した、攻め入る時間も定めた。投降した者には手を出さないつもりだが……誰一人、コロニーから出て来ようとしなかった! それどころか、我らの軍服を見るだけで狙撃を受けて傷を負った者もいる!」

 

 時間は与えた、猶予もあった。

 無差別に虐殺する場合、もっと前の段階で攻め込まねばならなかった。

 生き残れる道もあったのに、彼らは自らの意思で戦う道を選んだのだ。

 それはもう民間人の域を超えている。

 

「俺は殺すぞ、少佐。耐え切れないならそれでも良い。三度だ、次は営倉送りだ」

「待て、ドズル……中将!! コロニーを落とせば、地球はどうなる!? どれだけの民間人を巻き込む事になると思っている!?」

「少佐は、ジオンと連邦の国力差を知っているか? 30倍。本気を出せば、日刊で戦艦が作れる国だぞ?」

「戦争が、合理性だけで終わらせられるものかッ! お前はダイクン派の何を見て来た!? 感情だ、人の意思が戦争を継続させるッ!! こんな事をやっても、戦争が長引くだけだッ!」

「それでも……地球連邦政府の高官共の心を挫くことはできるッ! 嘗て、ドイツに敗れたフランスが、ヴィシーフランスと自由フランスに分かれた時のように弱体化させれればそれで良いッ!! 高がレビル一人、高が軍人一人に何ができるッ!!」

「その自由フランスは最終的に勝ったんだぞッ!!」

 

 はあ、はあ、と二人が肩で息を吐き出す。

 そんな大人達を遠目に眺めたヒヨコ頭の少女が溜息を零した。

 何故、彼女が旗艦のワルキューレに居るのか、それは貨物と一緒に忍び込んだ為である。頃合いを見計らった彼女は、ドズルの前に姿を現す。出航してしまった後だったので引き返す訳にもいかず、仕方なしに戦場まで赴く事になった。勿論、民間人が艦船に乗り込む事は重罪だ。しかしドズルは彼女にプロト・ゼロの別名がある事を利用し、特別少尉の待遇で戦艦に居る事を許す。

 彼女、カナリアは二人が言い争うのを尻目に人知れず、艦橋を離れた。

 

「今の世にシャルル・ド・ゴールが身を寄せられる連合国はないッ!!」

「ドイツは負けたんだぞ!?」

「我らがジオンはドイツではないッ! 地球の民に抑圧されてきた宇宙の民を解放するッ!! 宇宙の民は地球から解き放たれて、自らの意思で立ち上がる時が来たんだッ!!」

「随分と賢い事をいうようになったな、中将! 民族自決の真似事でもするつもりか!? それこそ、第二次世界大戦の二の舞ではないかッ!!」

「第二次世界大戦は、核兵器の使用で終わっただろうがッ!!」

「どれだけ正当化しようとも核兵器による無差別な虐殺だッ!!」

 

 二人の言い争いは、まだ続けられる。この間にも作戦は着実に進められていた。

 突撃機動軍所属の海兵隊の艦隊司令であるアサクラ大佐が、キシリア少将から毒ガス設置の任を受けた。しかし戦後に戦犯として裁かれるのを恐れた彼は、配下の女性将校に与えた毒ガスを催涙ガスと称して毒ガス設置の責任を押し付ける。そんな事も知らない女性将校は申し訳なく思いながらも、手っ取り早く制圧する為だと考えて催涙ガスの設置に動いた。この間、アサクラ大佐は記録媒体の改竄に手を回しており、配下の女性将校から目を離す。

 そうしている内に8バンチコロニーに毒ガスが撒かれる事になった。

 

「8バンチコロニー“アイランド・イフィッシュ”に毒ガスの散布を確認ッ!!」

「……よくやった」

 

 ドズルが声を振り絞る。この報告を聞いたランバは拳を握り締めて、嚙み切った口の端から血を流す。

 

「……ここまでだな、ドズル。俺はもう、ザビ家には付いて行けぬ!」

「待て、ランバ! 待つんだッ! カナリアはどうするつもりだッ!?」

「俺の子だ! 無論、一緒に連れて行くに決まっている!」

「そんなことが今更、許されると思っているのかッ!」

「許されざることをしておいて、よく言うッ!」

 

 ランバがドズルに背を向けて、艦橋の扉から出ようとした時、新たに通信が入る。

 

「毒ガス攻撃の実行者のシーマ少佐から緊急回線を使った通信があります」

「……繋いでくれ。ランバ、少し待っておけよ!」

「ふん、知った事か!」

 

 繋ぎます。との通信手が言った直後『違うんだッ!』という女性の声が環境に響いた。

 

『アタシじゃないっ! ドズル中将に繋いでくれ、アタシはアサクラ大佐に騙されたんだッ!!』

「……聞いている。騙されたってのはなんだ?」

『毒ガスだと聞いてなかった!』

「…………そうか」

 

 女性将校の悲痛の叫びに「ここまで落ちたか」とランバはジオン公国に完全に見切りを付けた。

 もうこれ以上、聞いてられない。と一歩、進んだ時だった。

 

『それに実行したのはアタシじゃない、設置したのもだッ!!』

「……どういう、ことだ?」

『わからない……女の声だった。あれは海兵隊のザクじゃなかったッ!』

 

 この瞬間、ドズルはヒヤリとしたものを背筋に感じる。

 周りを見渡した。こういう時に限って、したり顔で姿を見せる少女を探した。

 そのドズルの様子に、ランバもまた嫌な予感に唾を飲み込んだ。

 

「……おい、まさかと思うが……ドズル、この船に……まさか、カナリアが乗ってやしないな?」

「………………………」

「おい、なんとか言え。なんとか言ってみろッ!」

「……ランバ、違うんだ……俺は…………」

「居ないと言えッ! 言うんだ、ドズルゥゥぅううッ!!」

 

 ランバの悲痛の叫びも虚しく、艦橋にいる誰もが口を噤んだ。

 数分後、少し前にワルキューレに搭載されていた予備のモビルスーツが哨戒に出たのを確認される。

 パイロットはプロト・ゼロ特別少尉。

 整備士は「上官にドズル中将の命令だと言われれば、従わざるを得なかった」と述懐した。


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