ありがとうございます。書くモチベーションになります。
誤字報告も大変助かっています。
宇宙世紀0079年1月4日。
ブリティッシュ作戦第二段階へ移行。アイランド・イフィッシュ*1に核パルスエンジンを装着した後、地球への降下を開始する。翌日、地球連邦軍はアイランド・イフィッシュの移動を察知。その移動に司令部本部は疑問を抱くもティアンム少将は、月を周回する軌道からコロニーを質量兵器として地球に落とす事を察する。地球連邦所属の観測局が軌道を計算し、コロニーの落下予測地点がジャブローである事が判明。レビル中将は、先遣隊としてサイド2に急行していたティアンム艦隊に転進を指示、コロニーの破壊を試みる。
1月8日、コロニーの落下軌道上にティアンム艦隊が展開するも、ジオン公国軍のコロニー護衛艦隊の強襲を受けて、ティアンム艦隊は半壊。コロニーの破壊にまでは至らず、1月10日。コロニーは地球の引力圏内に突入。しかし地上からの援護射撃もあってか、大気圏に突入した直後、コロニーはアラビア上空で崩壊を開始する。
三つに割れたコロニーは、それぞれが地球に降り注いだ。
軌道が、逸れた。
アイランド・イフィッシュの残骸は、地球に大きな被害を与えた。
コロニーの前半分がオーストラリアのシドニーに直撃、南部にある都市群は壊滅。太平洋に落下した残り三分の一が人口密集地である東アジアに地震と津波を引き起こし、カナダ南西部を襲った三分の二が北アメリカの全域に破片の雨を降らす。
地球の地殻と大気は引き裂かれた。
後に語られるコロニー落としの被害者は、余りに膨大な数となり、死者を正確に測る事は困難とされる。ライフラインの崩壊に伴う疫病の流行と餓死などの二次被害。戦争の直接的な被害も含めて、地球の総人口の約半数が死亡した事実が明らかとなっていった。
翌日、11日。以上の戦果を受けて、サイド6は中立を宣言。
ジオン公国軍はブリティッシュ作戦の失敗を認めて、地球への橋頭保を確保する為にサイド5への侵攻を開始した。
開戦からブリティッシュ作戦までを後世では、一週間戦争と語り継がれる事になる。
サイド5ことルウムでは、徹底抗戦の機運が高まりつつある。
既にサイド5にはティアンム艦隊が収容されている。サイド2とサイド6でジオン公国に抵抗した残存艦隊も合流しており、更に数日内に地球からの本隊の到着が予定されている。レビル将軍はルナツーの後詰め艦隊の他、サイド1、サイド4に収容されている艦隊も搔き集めており、サイド5に現存する宇宙戦力の全てを搔き集めていた。
これをジオン公国は危機と判断。サイド2とサイド6の残存戦力を集めたティアンム艦隊だけでも同等以上、レビル将軍が率いる本隊も合わせれば3倍以上の戦力差となる。故に宇宙での優位を確保する為にジオン公国軍はティアンム艦隊の撃滅、その後、サイド5にやって来るレビル艦隊を迎え撃つ策を取ることを会議で決定した。
その会議内容のリークを受けた地球連邦軍は、ジオン公国軍の思惑通りに部隊を動かす事になる。
地球連邦軍はミノフスキー粒子下での戦闘に不慣れであった。
メガ粒子砲の開発過程で地球連邦軍はミノフスキー粒子の電波障害の特性には気付いていたが、これをミノフスキー粒子を用いた兵器を運用する際の不具合と認識。最初から兵器運用を試みて、効率的に散布する方法まで研究し、戦術に組み込んでいたジオン公国とは、ミノフスキー粒子に対する認識に雲泥の差があった。これにより、従来の戦術が通用しなくなった事に地球連邦軍は、ミノフスキー粒子下の環境に対応できないまま大敗を喫する。
本隊は壊滅し、黒い三連星の活躍でレビル中将は捕縛される。ティアンム艦隊は決戦を避けて、ルナツーに引き返す。
後にルウム戦役と呼ばれる戦いは、ジオン公国の圧倒的勝利で幕を下ろす。
そのままジオン公国軍はサイド6を介して、休戦条約の締結を目指すと同時に残敵の排除を開始する。サイド5の制圧にはガルマ少佐が着任、宇宙攻撃軍はサイド1とサイド4の占領に取り掛かった。地球連邦軍がサイド1とサイド4からジオン公国を狙わなかったのは、宇宙要塞ソロモンとア・バオア・クーの存在があった事に加えて、サイド5を制圧した後、ブリティッシュ作戦の再開を匂わされた事にある。
さておき、裏でキシリア少将が率いる突撃機動軍が着々と地球侵攻作戦の準備を整える。
その表でズムシティでは祝勝祝典が開催された。
◆
勲章伝達式。サイド5ことルウムの制圧部隊に配属されたガルマは祝典に間に合わなかった。
自分と同じく少佐に昇進した事だけは分かっており、同期としては少し鼻が高い。現在、モビルスーツパイロットの中で少佐は、非常に高い階級だ。自分は月面を制圧する時に階級がひとつ上がり、ルウム会戦では戦艦5隻を撃墜した事で中尉から少佐に二階級もの昇進を果たした。これは異例の出世だ。今や自分は赤い彗星と呼ばれており、ジオン公国の中でもトップエースの一人に数えられている。
知った名前では、ランバ・ラルが少佐から中佐に上がっており、今いるモビルスーツパイロットの中では最高位の階級となっていた。ただ話を聞くに彼はルウム戦役で、ほとんど戦果を上げられなかったようだ。公式記録で艦艇の撃破数はなく、戦闘機や補助艦の一隻も落としちゃいなかった。
彼ほどの人物であれば、この好機に戦果を荒稼ぎできそうなものなのだがな。
代わりに突出した戦果を上げていたのが、プロト・ゼロ少佐。
戦艦8隻、巡洋艦5隻。戦闘機12機という異常な結果を残していた。写真を見た事がある。自分と同じく顔を仮面で隠した少女であった。「やあっておしまい!」とでも言いそうな仮面の趣味はさておき、背中を覆い隠す程に長く艶やかな金髪、茶色というよりも黄色に近い。年齢の割に幼い体格、頭の頂点でくるっと跳ねた二本のアホ毛が雛を髣髴とさせる。しかし露出した口元と顎のラインを見るだけでも美人の素質を持っていると分かった。瞳は茶色寄りの黒い色をしていた。
なんとなしにカナリアの事を思い出したが、私の妹がこんなに美人のはずがない。と直ぐに意識の外へと追いやった。
そもそもの話、なんで彼女が戦場に出ているのかっていう話だ。仮に戦場に出ていたとして、彼女が乗っているのは金色に塗装したヅダである。そんなバカをドズルとランバの二人が許すはずがない。あと、いくら何でも戦果を盛り過ぎだ。私が操縦しても、ある程度の地位を持つ人物が全面的に支援する事で、やっと出せるかどうかという戦果である。
彼女はジオン公国軍の士気高揚の為、体よくプロパガンダ要員に扱われているだけだと結論付ける。
実際、メディア受けも良い。英雄視というよりもアイドル的な人気だが、まあ、こんな事で士気高揚に繋がるのであれば、安いもんなのだろう。
祝勝祝典を終えた一週間後、
地球連邦政府と休戦条約を結ぶ為、マ・クベ大佐を代表にした大使が地球に降り立つ。
その裏で、私はドズル中将に呼び出される。
「よく残ってくれたな」
迎え入れられた部屋には、ドズルの他に誰も居なかった。
椅子に座る事を促される。長めの話になるか。
正体がバレる事はないか細心の注意を払い、僅かに声色を変えて受け答えをする。
最初は世間話だった。……自分の正体に勘付いた気配はない。
「貴様を他にくれたくなかったのは、他にさせたい仕事があったからだ」
「それは、どのような?」
仕事の話に、先程までとは別の意味で身構えて問い返した。
ドズルの口元から笑みが消える。
目付きが軍人へと変わり、空気が僅かに張り詰めるのを感じ取る。
「連邦の新モビルスーツ開発計画が秘密裏に進行している。V作戦というらしい」
「……それの、何が問題で?」
「ただのモビルスーツの開発であれば、問題ない。しかし、それがザクやヅダを大きく超える性能を、となれば話は別だ」
書類を手渡される。中には本作戦に関連する情報が記載されていた。
そこにはジオン公国と地球連邦の国力比を数値化したものがあり、宇宙の大部分を占拠し、地球に大打撃を与えた今もまだ工業力は地球連邦の方が十倍以上も高い事が試算されている。即ち、これは地球連邦がモビルスーツの開発に成功した暁には、ジオン公国と地球連邦の戦力比が簡単にひっくり返ることを意味していた。
この脅威をジオン公国に所属する人間の多くが分かっていない。とドズルは愚痴る。
「俺達がルウム戦役で勝てたのはミノフスキー粒子の特性に関する情報のアドバンテージがあったからだ。これも先の会戦で連邦軍はミノフスキー粒子下の戦場を知った。我が軍が連邦軍に優位を持てるのは最早、モビルスーツ技術しかない」
だから貴様に命令するのだ。とドズルは告げる。
「あらゆる兆候を捉えて、V作戦の基地を探り出して叩き潰す事を!」
不意にドズルは窓から外を見上げた。ドックの中に格納される一隻の艦船を見上げて「おお、着いたな」と零す。
「ジオン軍きっての英雄といえども身ひとつで、これだけの任務を熟せるとは思っていない」
見ろ。と先程のムサイ級軽巡洋艦を指で差した。
「アレは貴様の船だ。俺のワルキューレ程ではないが最大級の改装をさせてある。ムサイを超えたムサイだ」
好きに使え。という言葉を聞いた時、少し胸を撫で下ろす。とりあえずドズルの傍に居続ける事はないようだ。
「何か、質問は?」
「ありません! シャア少佐、任務に邁進します!」
敬礼を返す私に「それと」とドズルが付け加えた。
「この広大な宇宙、船一隻では手に余る。だから同じ任務に就けられる部隊がある」
「……それは一体?」
「おそらく貴様もよく知っている名前だ。上手く協力するんだな」
そう言うと、入れ。と彼は促した。
少し間を置いた後、隣の部屋に控えていたらしい二人の人物が姿を現す。
共に女性だ、一人は黒い長髪をした体格の良い女性。175センチメートルある自分よりも更に高い、ドズルと肩を並べる事もできそうだ。
もう一人は、ヒヨコ頭で奇抜な仮面を付けた少女だ。写真からも低い事は想像できていたが、こうして顔を合わせてみると思っていた以上に背丈が低かった。
彼女は、私を一目見た瞬間、さらりと口を開いた。
「キャスバルじゃん、なんでここに居るの?」
瞬間、場の空気が固まる。
「あれ死んでなかったっけ?」と彼女一人だけがポケッとしていた。
カナリア編、完ッ!