NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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久しぶりに関わらず高評価、感想、お気に入り、ここすき等、
ありがとうございます。書くモチベーションになります。
誤字報告も大変助かっています。

今見たら避難所がユーザーページから飛べなくなっていたので、
チラシ裏に置き換えました。


2.御嬢様の犬

「メアリー様、起きてください!」

 

 早朝、定時なると同居人が私を起こしに来る。

 渡した合鍵で鍵を開けて、バンと扉を開け放つのだ。まだ眠たい私は布団の中に頭の先まで潜り込めば「だ~め~で~す~!」と同居人が布団をひっぺ剥がした。頭の中がまだぼんやりとしている。元気印のエリスに上半身を起こされて、爆発した頭をせっせと整える。

 そうしている内に少しは頭も冴えて来る。

 ベッドから重たい腰を上げる。まだ寝ていたい、朝に弱い。一生分は寝ていただろうに、と義父は笑うけど何十年と寝ていても眠たいものは眠たいのだ。身体が睡眠を欲している。そんな私の事なんて露知らず、彼女は私の寝間着のキャミソールを一気に脱がすと下着に上着と手際よく着替えさせた。見事な早業である。最後にもう一度だけ髪を整えて、準備万端。私はエリスを手招きし、ギュッと抱き締めて「よく出来ました」と頭を撫でまわした。

 嬉しそうに目を細める彼女の額にキスを落とし、顔を真っ赤にする彼女を背に部屋をでる。

 

 エリスは私の所有物である。

 彼女は朝から晩まで、ずっと私の傍に居る。

 一緒に居るのに気を張るのも嫌だったので彼女の事は犬だと思う事にした。義父は好きにしても良いと言っていたので問題もないはずだ。勉学も一緒に励んでいるし、拳銃の訓練をする時も一緒だった。だけど義父は彼女の分まで家庭教師を用意するつもりはなかったようで彼女の勉強は私が教えている。上手く出来た時は彼女の頭を抱えるように胸元に抱き寄せて、頭を撫で回す。彼女は、こうされるのが好きで嬉しそうに顔を蕩けさせる。

 これでやる気を出してくれるのであれば安いもんだ、と考えて兎にも角にも抱き締めて甘やかした。

 その甲斐あって今では、彼女が私に勉強を教えてくれる時がある。拳銃で的に当てるのは、もう彼女の方が上手くなっていた。私よりも良い成績を出した時の申し訳なさそうな顔が気に入らなくて、何時もに増して目一杯に撫で回す。柔らかい頰を両手でもっちもちに撫でるのが好きだった。顎下を擽ると気持ち良さそうに目を細める。

 可愛くなれ、と育てられた子は可愛く育つもので、気付いた時には可愛過ぎて手放せなくなった。

 私のエリスに対する溺愛っぷりは義父が嫉妬する程である。

 

「ふんふんふ~ん♪」

「あ、あの……自分で……」

「聞こえな~い♪」

 

 訓練の終わりは、お風呂である。

 犬である彼女を洗うの飼い主である私の役目、金色の髪をくしゃくしゃっと洗ってやる。背中は勿論、手から足の指先まで全身くまなく洗って浴槽に放り込んだ。なんと、ウチのエリスは待てが出来る。お手もおかわりもできる偉い子なのだ。恨みがましく睨みつけてくるエリスの事なんて素知らぬ顔で、自分の体をゆっくりと時間をかけて洗った。

 白い湯気が漂う空間、張った湯に足先を入れる。一人で使う分には広くて、二人で使う分には少し狭い浴槽。スペースを節約する為にエリスを抱き寄せる。背中から抱き締めると顎を上げて、上目遣いに私の顔を見つめるのが可愛かった。今日は正面に座らせて、抱き寄せる。人並み以上にはある胸元に顔を埋める彼女が、トロリと気持ち良さそうに目を細める姿は庇護欲を唆られる。

 良い子、良い子と頭を撫でる。

 優しい気持ちで接すると優しい子に育つようで、ちょっとした悪戯を仕掛けても驚くばかりで怒る事はない。

 片手で前髪を上げて、その額に唇を落とす。

 

「ひゃッ!?」

 

 深い意味はない、愛犬にキスをするようなものである。

 耳まで赤くする彼女の反応が面白くて、ついつい悪戯をしてしまうのだ。

 ちなみに彼女の方から私に触れるのは厳禁にしてあった。

 

 

 メアリーお嬢様の寝る準備を整えた後、時折、ポンポンと布団を叩く時がある。

 これは私に添い寝しろという命令だ。逡巡するも私に逆らう術はない、私の衣食住を保証してくれているのは屋敷の主であるゴップ。しかし私の私服と菓子類を提供してくれるのは目の前の彼女である。欲しいものがある時は彼女におねだりをすれば良い。しかし、その時に幾つかの芸を仕込まれたりする。人前で見せるのは憚られるものも多いのだけど──彼女の部屋の中だけでしかそういった命令を受けないし、良い子良い子と抱き締められるのが心地良かった。

 私には、人の心が分かる。

 人は相手に心を見透かされるのを嫌うようで、薄気味悪いと疎まれながら育った。心が読める私が原因で両親の仲も日に日に悪くなって父親が不倫し、母親は私を置いて家を出て行ってしまった。そして父親も私の前から消えてしまう。孤児院に送られた私は、周りから疎まれて孤立する。なんでも分かっている風な目が気に入らないんだとか、そんな理由だった。

 そんな私を引き取ってくれたのがゴップというふくよかな男だ。

 

「娘の良き話し相手になって欲しい」

 

 男は心を隠すのが上手く、言葉の真意まで読み取るのが難しかった。

 だけど悪意はない、孤児院での虐めも酷くなっていた。衣食住が保証されるのであれば、と私は今よりも少しだけ良い生活を求めてゴップを頼る。乗せられた高級車にも驚いたけど、想像以上の豪邸にも言葉を失った。孤児院に大金を積んで、半ば人身売買のように買われた私にゴップが求めたのはひとつだけだった。それは、どんな時でもメアリーの味方で在り続ける事。その為に私は買われたのだと彼は言った。

 私が曖昧に頷き返すと「今はそれで良い」と頭を撫でられた。

 

 彼の執務室でメアリーお嬢様と引き合わされる。

 私が一生仕える事になるかも知れない御主人様、意地悪じゃなければ良いな。とか最初はそんな事を考えていた。お嬢様と一緒に私室まで案内されて、部屋に入って開口一番に彼女は「貴方を犬と思う事にしたわ」と今しがた思いついたように告げられた。その言葉が本心である事を読み取った私は、屋敷に来てまだ初日だというのに後悔と悲嘆に暮れる事になる。

 そして、それは後日、別の意味で残酷な意味を持つ言葉になる。

 彼女は私を飼う為に犬の飼育本を読む事から始めた。飼い主だから責任を以て躾けるし、しっかりと育てるのだと。情熱が明後日の方向に向いているお嬢様の隣で悲嘆すること数日、良い子良い子、と私の頭を抱きしめて全身を撫で回すお嬢様の姿があった。

 お嬢様は良い事をしたら全身で褒めてくれる。本当に犬相手にするように全身をわしゃわしゃと撫で回される。まるで愛犬だ、複雑に思う事はある。だけど彼女の本心からの愛情に包まれるのは心地良かった。

 彼女に抱き締められると良い匂いがする。

 

 逆に悪い事をすると叱られる。

 先ずはベッドの上で「おすわり」と命じられて正座させられる事から始まる。お嬢様の機嫌の良い時は「ちんちん」と仰向けに寝転がり、衣服の裾を持ち上げてお腹を晒す。そして、お嬢様の気が済むまで延々とお腹を撫でられるだけで済んだ。偶に猫吸いされる。犬なのに、猫扱い。恥ずかしいからやめて欲しいけど、おしおきだから何も言い返せない。

 お嬢様の機嫌が悪い時は、伏せを命じられて土下座をする。

 謝罪の言葉を口にする事も許されず、その日、一日はワンと吠える以外に口を利いて貰えなくなる。それだと仕事にならないので、どうしてもって時は自分から土下座をして許しを請うた。頭に足を乗せられた時がある、仰向けになり、無防備に晒したお腹を足で踏まれた事もあった。どちらもポンと乗せるだけだったのだけど、好ましい相手に無防備な場所を晒して、踏まれるというのはなんだか胸の奥がキュンとする。

 調教されている、好きな相手に支配されるのは気持ち良かった。

 

 添い寝の命令、私は唾を飲んで衣服の首元を緩める。

 彼女の支配には愛が込められている。支配されるのは喜びだ。何故なら、それは相手が自分を必要としてくれている為だ。お仕置きの内容も彼女の欲求を満たす為だと考えれば、その捌口になれている事を嬉しく感じる。倒錯してると思う、歪んでいるのは分かっている。だけど私に意地悪をする事で満たされる彼女の心を知ると不思議と私の承認欲求も満たされてしまうのだ。無防備なお腹を見せる時、好き放題にされている時に自己肯定感が高められる。足蹴にされる時に私の欲求が満たされる。彼女の為に全てを捧げる瞬間が、どうしようもなく心にキュンとクる。

 尊厳を破壊される事は、過去の私を壊してくれてるようで開放感があった。

 

 私は彼女の犬である、なので全てを管理されて然るべきだと思っている。

 衣服を脱いで、畳んで下着姿になる。彼女の隣で横になれば、ギュッと頭を抱えるように抱き締められた。

 甘い香りに包まれながら、今日も今日とて撫で回される。

 幸せ過ぎて、胸が苦しくなる。

 こんなに幸せで良いのだろうかと何処かに落とし穴がありそうで怖かった。

 

 

 おやつの時間、テーブルの上に置かれた焼き菓子を齧る。

 背後にはエリスが控えているので「エリス」と彼女の名を呼んで隣に立たせる。まだ遠い、おすわり、と追加で命令すれば、彼女は私の隣に腰を下ろす。頭の高さが私よりも少し低くなったところで摘んだクッキーを彼女の鼻先に近付けた。お手、と私が左手を出せば、彼女は右手の私の手に乗せる。今日もエリスは良い子さんだ。クッキーを直接、口に咥えさせて、彼女の頭を撫で回す。可愛いねえ、偉いねえ、とたっぷりと言い聞かせる。

 その一部始終を見ていたゴップは珍しく引き攣った笑顔を浮かべていた。

 

「この通り、ちゃんと手懐けました」

 

 エリスの駄目犬っぷりにゴップは、

「これは予想していなかったな」と天を仰いだ。

 クッキーを頬張る駄目犬は可愛らしく首を傾げてのけた。

 その内、犬耳に尻尾と首輪を付けられていそうだ。

 

 

 某日某連邦軍基地にて、ゴップは執務机で書類に目を通している。

 同じ部屋の来客用の机に腰を下ろす男が一人、名をグレイヴと云った。彼は憲兵隊に所属する地球連邦軍の高官、軍内部の秩序維持を主だった任務として与えられている。連邦軍の内情を探る憲兵の性質上、連邦政府の高官との繋がりが太い中、彼個人は、あくまでも連邦軍に所属する一人として行動している。その為、ゴップを始めとした軍政家にとって彼は扱いやすい人物であった。

 今はまだ連邦政府に噛ませたくない案件を任せるのに重宝されている。

 例えばそう、兵器の軍需に関わる情報を探らせたりとか。

 

 ゴップが目を通す書類には最近、ジオン公国で活発になっている新兵器の開発に関する情報が纏められている。

 気になるのはヒルドルブと呼ばれる超弩級戦車の開発だ。明らかに連邦軍の大型戦闘車両ガンタンクを意識したものであり、連邦軍に対する対抗心が見えている。他にもモビルワーカーと呼ばれる作業用機械の開発にも注力しており、これから先の拠点の開発と拡張にも力を入れている事が手に取るように分かった。これに地球連邦政府は遺憾の意を表明するも「自分の身を自分で守る事の何が悪い」とサイド3は突っぱねた。

 これにより地球連邦とサイド3の軋轢は増すばかりだ。

 なんとか戦争回避の道はないかとゴップは思索していると「ところで」とグレイヴが問い掛ける。

 

「あの御姫様の様子は如何ですか?」

「ああ、元気にやっとるよ」

 

 ゴップは手元の紅茶を啜り、グレイヴの言わんとしている事を察して続ける。

 

「アレを使うつもりはないよ。アレは劇薬だ、劇薬の割に効能が薄い」

 

 今は封印しておくのが最善だ、とゴップが続ける。

 その事はグレイヴも承知している。冷凍睡眠装置で眠り続けていた姫君の存在は、地球連邦に混乱を与える。ともすれば地球連邦の崩壊にも繋がり兼ねなかった。彼女が生きている事自体が時限式の爆弾だ。彼女の存在は、余りにも危険だ。今の世情で露呈する事だけは、絶対に避けなければならなかった。

 例え、それが殺すことになったとしてもだ。

 

「では消してしまった方がよろしいのでは?」

 

 グレイヴの問い掛けは、問い掛けではなかった。

 ゴップに決意を促すものである。

 しかし、ふくよかな初老男性は首を横に振った。

 

「国家の未来は、子供達の為にあるのだよ」

 

 現在は精々私腹を肥やさせて貰うがね、と笑うゴップにグレイヴは不満げに眉間の皺を深めた。


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