NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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3.親の心子知らず、子の心親知らず。

 地球連邦政府が地球上における紛争全ての消滅を宣言したのが半世紀前の話になる。

 表立つ敵対勢力の消滅により、金食い虫であった地球連邦軍の規模を縮小させる。治安維持程度の軍事力を残し、積極的な兵器の開発も打ち止めとした。これにより軍需企業は力を失う事になり、方針転換を余儀なくされてしまった。連邦軍に残る兵器開発部門が細々と開発を進めるに留められる。

 実際、この予算削減によってコロニーの開発は大幅に進められた。

 今となっては90億人もの人類が宇宙で生活を進めており、新たなコロニーの建造を少数に留めている。軍需から民生の流れに乗って大きく力を伸ばしたのがヤシマ財閥で、元から一般家電製品の大御所であるアナハイム・エレクトロニクス社(以下、AE社)が台頭している。

 

 つまりだ。

 今の連邦軍の兵器開発に関する技術力は大きく衰退している、という事だ。

 実用よりも示威行為を目的とした結果、開発されたのが大型戦闘車両ガンタンクである。実用から大きく離れた設計が、連邦軍が実戦から久しく離れてしまった事を意味している。

 サイド3ことジオン公国との緊張が高まりつつある御時世だ。

 連邦軍の高官として、ゴップは最悪を想定して動いている。そんな彼が今考えているのは、新兵器開発を担わせる企業の選定である。連邦軍が抱える開発部門は規模が小さい事もあり、既存兵器の改善と改良に終始しており、新兵器開発に耐え得る土壌がなかった。よって宇宙艦艇に関する事はヤシマ財閥傘下のヤシマ重工。戦闘機は老舗の航空機メーカーのハービックが主体となるのは既定路線。しかし共に兵器開発は不慣れな企業でもあった。君主制に移行したジオン公国は、今も恐るべき速度で新兵器の開発を進めている。

 地球連邦には、危機感が足りていなかった。

 

 そんな折、とある企業からゴップに連絡が入る。

 考えが煮詰まっていたゴップは、話だけは聞いてみるかと客人を招き入れた。客人は体格の良い中年男性であった、彼の胸元にはAE社の社章が付けられている。彼の名前はメラニー・ヒュー・カーバイン、元軍人だ。彼が士官学校に入ったのは学費が掛からない為であり、軍隊への服務の義務を果たして直ぐ退役している。その後、中東紛争に巻き込まれた彼は難民となり、流れた先のニューホンコンで商売のやり方を学んだ。その後、AE社に入社。脅威の速度で出世を果たし、今では役員の一人になっている。

 彼は軍人時代に培ったコネを使う事で連邦軍中将のゴップまで渡りを付けた。

 

「要件は?」

 

 客間に招かれた彼は、部屋に入って直ぐゴップの単刀直入な質問を受ける。

 まだ椅子にも座らせていなかった。瞬間的にカーバインは脳裏に駆け巡る手練手管を検討した。

 しかし、彼は思考を打ち切る為に数秒だけ目を伏せた。

 この一手目を間違えてはいけない、と彼の商売人としての直感が策を投げ捨てる。

 

「我が社も七〇年代軍備増強計画に一枚噛ませて頂きたくて来ました」

「ほう?」

「公国軍が軍備増強を進めている事は知っています」

 

 カーバインはチラリとゴップの顔色を窺った。

 無表情、感情が読み取れない。

 此処は踏み込むべきだと判断して、カーバインは勇気の一歩を踏み込んだ。

 

「モビルスーツなるものを知っていますでしょうか?」

「ふむ」

「……モビルワーカーは軍事転用できます」

 

 ゴップの目が僅かに揺れる。息を吐いて、深く思考した。

 

「座りなさい、詳しく話を聞こう」

 

 カーバインは内心で胸を撫で下ろし、此処からが本番だと気を引き締め直した。

 

 ゴップと会話を交わしている内にカーバインは、当たりを引いた事を確信する。

 カーバインは軍人時代に培ったコネから軍政を携わる人間で出来るだけ階級の高い人間に当たっていた。何度か話の分かる人間を経由し、最終的に辿り着いたのが目の前のゴップ中将である。ゴップ中将に兵器開発を差配できるだけの実権はない、しかし強い影響力を持っていた。連邦会議で七〇年代軍備増強計画を通したのは、彼が政府高官に根回しをしたおかげであり、これによって得られる権益の配分で財界にも力を増している。

 当たりを付けていた一人ではあった。

 しかし、全ての図面を引く黒幕に辿り着くまで、あと一回は経由する必要があると考えていた。

 ゴップ中将までの道筋を作ってくれた同級生のジャミトフ中佐に感謝し、カーバインは本格的に商談を開始する。一方で話を聞いていたゴップは、モビルスーツの有用性がいまいち理解出来ていなかった。作業用機械であればまだしも、兵器が人の形をしている意味がないと考えている。しかし、きな臭いものを感じるのも事実。公国軍がモビルワーカーの開発に力を入れる意味、その動力に核融合炉を使う意味。作業用機械としては、過剰過ぎる面が多々あった。

 そして、目の前の人物。彼のように貪欲で野心的な目を持つ者は連邦傘下の企業に欠けていた。

 

 もしも、もしもだ、もし仮にモビルスーツを開発する事に何らかの優位性を公国軍が見出していた時、モビルスーツを開発する基礎すらもない状況は、もしかすると危険なのではないか?

 

 ゴップは軍政家ではあったが戦術家ではなかった。

 故に彼は持ち前の嗅覚のみで危機を感じ取った。だが根拠はない、根拠がなければ投資は出来ない。資金は有限、投資は金持ちの道楽ではないのだ。

 彼に投資をするには、何か理由が必要だった。

 

「……モビルワーカーは作業用機械としては優秀だ」

 

 先ずは作業用機械としての開発を要求した。

 実際、最初から軍事用モビルスーツが作れる訳ではない。

 この提案はAE社にとっても有り難い申し出である。

 

 最新機種を連邦軍に回してくれる事を約束に両者の間で密約が交わされる。

 これが後の作業用モビルスーツ、ドラケンEへと繋がる。

 そして、AE社が兵器開発に参戦する足掛かりとなった。

 

 

 宇宙世紀0075年。

 人型作業用機械ドラケンAが開発された、これはAE社が初めて実用化に成功したモビルスーツである。

 尤も、この時はまだモビルスーツという名称が公式になかった為、ジオニック社に倣ってモビルワーカーという区別で少数が生産される。連邦軍に回された少数の機体はルナツーに送られた。60年代以降、遅々として進まなかったルナツーの軍事拠点化に大きく貢献した事でAE社は「これ、民生用としても売れるのでは?」とドラケンシリーズの開発を決断する。

 本機の末尾にあるAの文字は、開発続行の意味も含めての事だ。

 

 そしてドラケンAの一機が、ゴップの豪邸の敷地内にも置かれていた。

 AE社が個人的に贈呈したものであり、ゴップは高級車を貰ったようなものだと軽く流した。

 これに興味を持ったのが他でもないメアリーお嬢様であった。

 御年14歳である。

 遊び盛りの彼女は格納庫に置かれたドラケンAに試乗した。

 膝の上には、エリスが乗せられている。

 コックピットの中に放置されていた説明書を読み漁るも、自家用車とは訳が違った。

 メアリーがちんぷんかんぷんになっている前で、

 同じく説明書を覗き見ていたエリスが、それっぽい場所のスイッチを入れる。

 

 すると動力炉に火が灯り、電源が入った。

「え、どうやったの?」と困惑するメアリーを余所にエリスは操縦桿を手に取り、先程、説明書で見た付け焼刃の知識を基にコックピットの配置を掌握していった。ペダルを踏もうとした、しかしメアリーの膝上に乗った状態では足が届かなかった。だからエリスは自身の御主人様にゆっくりとペダルを踏むように促す。メアリーは愛犬の指示に従って、緩やかにペダルを踏み込んだ。

 するとドラケンAは前へと歩み出し、コックピットの中で二人は大はしゃぎとなった。

 動かしている内にエリスも慣れて、細かい動作も熟せるようになっていった。メアリーも自分でやりたくなって操縦を代わって貰うも上手く出来ず、操縦は全てエリス任せになる。そうして二人は思う存分にドラケンAで遊んだ後、ゴップにこっぴどく叱られる事になった。

 流石のゴップも看過できなかったので、二人は自室での謹慎処分が言い渡される。

 

 その間、二人は接触禁止にされて寂しい夜を過ごした。

 一週間の謹慎が解かれた後、暫く二人が離れる事はなかった。

 

 

 同年、メアリーは義父の反対を押し切って士官学校を受験した。

 というよりも勝手に願書を出して、家出をするように飛び出してしまった。ゴップは直ぐにメアリーを捕えるように指示を出したが、彼女と一緒に行動するエリスの勘が鋭くて捕まえることが出来なかった。二人を捕まえる事が出来たのは受験が終わった後である。

 ちゃんと話を聞けば、メアリーが今日まで敷地内で我慢して来たのは自分が士官学校に入学すると信じていたからだった。もう自分は15歳になるとメアリーは猛抗議し、少し遅めの反抗期が訪れる。正直、ゴップも愛娘の行動力を舐めていたところがある。今にして思えば、勝手にドラケンAを操縦するような子が大人しいはずがなかったのだ。これまでが大人しかったので完全に虚を突かれてしまった。

 そして愛娘の言い分を聞くに此処で反対しても結局、同じことが起きるのは目に見えていた。

 

 ゴップには珍しく頭を抱える。

 部屋に監禁はしたくない。愛娘は大事だが、出来るだけ窮屈な思いはして欲しくなかった。

 メアリーの幸せを願う程度には、ゴップにも愛娘に対する情を持っている。

 

「どうせ外に出すのであれば、自分の影響下にあった方が良いか……」

 

 そしてゴップは根負けする形で士官学校への入学を認める。

 

 この時、ゴップに誤算があった。

 メアリーは屋敷での生活に不満を抱いていた訳ではない。エリスが家に来てからは幾分か寂しさも解消されており、お出かけをする時に護衛が付く事にも慣れてしまっている。そしてメアリーにとって士官学校への入学は、エリスと離れる事になるのでマイナスの方が大きくなっていた。

 それでもメアリーが士官学校への入学を決めたのには理由がある。

 偏に義父への愛故に。何時も忙しくする義父の力になりたかった彼女は士官学校に入学し、連邦軍に服役する事で高齢も近い義父の負担を減らしてあげたかった。その為に今日まで勉学に励んでいる。出来る事であれば、義父の後を継ぎたいとも考えていた。

 つまりはまあ、交渉次第ではメアリーを思い留まらせる事は十分に可能であった。

 

 ゴップには珍しい判断ミス、それも愛娘に対する愛故にだ。

 自分が自覚する以上にゴップは愛娘を愛していた。

 愛娘には出来るだけ自分のやりたい事をやらせてあげたかった。

 故にゴップは探りを入れる前に受け入れてしまった。

 

 しかし一人で士官学校に行かせるのも許せない。

 故にゴップはエリスの年齢を詐称し、士官学校に裏口で入学させる。幸いにもエリスの成績は基準に満たしていたので捻じ込むのは難しくなかった。学寮で同室になるように根回しもした。エリスには万が一の保険として拳銃を持たせて送り出した。

 全てを終わらせた後、ゴップは政務をしている時よりも疲れた身体で屋敷に戻った。

 寂しくなった執務室でゴップは受話器に手を伸ばす。

 

「ワイアット君かね。ああそうだ、私だ。前に言っていたブランデー入りの紅茶が飲みたくなってね。今度、近い内に寄るので頼めるかね?」

 

 愛娘を引き取ってから六年、ゴップは立派な父親になっていた。




ジャミトフ「ねえ、なんで頼ってくるの? なんでよりもよって自分なの、ねえ? 知っている中で最も厄介な相手に橋渡したろ」
カーバイン「まじありがと、あとで十年物のワイン送るわ。なんか困ったことがあったら言ってくれ」
ジャミトフ「…………」
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