NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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5.戦争

 あっという間に時間が過ぎ去って、

 士官学校を卒業した私、メアリーとエリスは北米にある義父の豪邸まで帰っていた。

 義父は居ない。クリスマスまでに仕事を終わらせる、と豪語していた義父は今、ジャブローにある参謀本部で缶詰になって働いていた。サイド3ことジオン公国との緊張はまだ続いている。昨年は暁の蜂起という学生運動と称するには行き過ぎた事件も起きていたが、辛うじて開戦を避ける事が出来た。今も義父が中心になって、戦争回避の道を探っている。

 まあ真っ当な感性であれば、国力で劣る地球連邦を相手に戦争を吹っ掛けるような真似はしないはずだ。

 

 年が明けた後、私達もまたジャブローの参謀本部に移動する事になる。

 友達のブライトも一度、ジャブローに移動した後、副官の一人として艦艇に乗る事が決まっていた。私は参謀本部の配属になる為、彼と共に前線に出る事はないはずだ。今日の私があるのはお義父様のおかげ、少しでもお義父様の負担を減らせるようにバリバリ働く所存である。

 今は英気を養う時、クリスマスから年末年始に掛けて学寮では出来なかった事を沢山楽しむのだ。

 

 この日の為に用意した道具の数々、開け放ったトランクケースの中身を見てエリスは身震いした。

 三年間でエリスは大きく成長している。私の身長なんて悠々と追い越して、私の方が彼女を見上げないといけなくなった。小型犬だったはずの彼女は今や大型犬、身体を洗うのも一苦労である。もう力で押さえつける事もできず、その気になれば、私の事なんて簡単に好きに出来るはずなのだ。

 しかし彼女には、それが出来ない。

 九年以上の付き合いで築き上げた楔と鎖が彼女を雁字搦めにする。実際には薔薇の茎だったとしても、その棘が彼女の肌を傷付ける事になったとしても彼女には振り解くことが出来ない。囁きかける、愛している。心を読ませて、愛してる。言葉で縛る、心で縛る。私の声を聞き取る度に、読み取る度に、彼女は光悦に目を細める。彼女には首輪が掛けてある。今はまだ付けてなくとも、それは確かに存在している。

 トンと彼女をベッドの上に押し倒す。

 力なく仰向けになる彼女の胸元に腰を下ろし、彼女の細い首を両手を添えてやる。僅かに力を込める。すると彼女の身体が僅かに緊張したけども、全てを受け入れるかのように消え入るように儚い笑みを浮かべた。徐々に力を入れる。学寮だと力を入れ過ぎると跡が残るから出来なかった。

 でも、今なら、出来る。

 キュッと力を込めた時、彼女は呼吸を失った。

 

 ジオン公国が全世界に向けて宣戦布告をしたと知ったのは数日後の事だ。

 その話を聞いた時、エリスの意識は飛んでいた。気絶と覚醒を延々と繰り返した彼女が正気を取り戻したのは半日後、何を呼び掛けてもワンとしか言わなくなった彼女の姿を見た時は本当に焦ったし、流石に反省もした。エリスにシャワーを浴びせた後、全身に付けられた無数の傷跡を軍服で覆い隠す。エリスは気付け代わりの熱い珈琲を啜り、痛みに顔を歪めた。彼女の回復を待っていたので出発が数日、遅れている。

 出来るだけ早くジャブローまで移動しないといけなかった。

 公共機関は使えないと判断し、車を用意させる。運転は私がする。助手席に座るエリスは締め付けられた痕が残る首元をしきり気にしていた。指先で蚊に吸われた後を擦るエリスが窓から空を見上げる。釣られて私も空を見た。まだ昼間なのに、空には無数の流星が駆け抜けていた。

 エリスの顔が、サアッと青褪める。

 助手席から車のハンドルに手を伸ばす。真っ赤に燃える無数の残骸が、大気圏で突き抜けて地上に降り注いだ。乗っていた車が道から外れる。大地が揺れたかと思えば、すぐ隣を、丁度、私達が進む先の道路に残骸のひとつが突き刺さった。舞い上がる砂煙、爆発的な衝撃が横殴りに叩き付けられる。

 意識が遠のく中で車が二転、三転と横転していたのを感じた。

 

「……ん、んん…………」

 

 目を醒ます、頭上に地面がある。

 どうやら自分は逆さまの状態で座席に吊るされているようだった。隣を見る。気絶するエリスの顔があった。頭から血を流している、でも見た感じ頭を切っているだけで酷い怪我ではない。彼女の頬に手を伸ばす、呼吸も安定している。見た感じ、他に怪我らしい怪我はしていないようだ。

 安堵に息を零し、とりあえずシートベルトを外す。

 車の天井に背中を叩き付けた。呻き声を零し、なんとか気絶するエリスを助ける為に狭い車内でもがいた。先ずは首を痛めないように、落ちても自分の身体がクッションになるように構えて、まだ気絶する彼女のシートベルトを外した。

 

「んッ……ぐっふ!」

 

 自分よりも背の高い彼女の身体が不幸にも私の鳩尾に入ってしまった。

 予想外の衝撃に彼女をお腹に乗せたまま身悶えする。痛みを我慢できず、小便が漏れた。太腿を伝う不快な感触を覚えつつも、なんとか彼女を安全な場所に運ぼうと気を保った。幸いにも簡単にドアを開ける事が出来た。エリスの身体を車内から引っ張り出して、外に出る。

 空を見た、宇宙から大量のコンテナが落とされている。

 マスドライバーによる簡易爆撃、連邦軍基地がある方角に投射されているようだった。要塞の破壊、いや、防空設備の無力化なのか。こんな雑な攻撃を防げていないという事は、連邦軍の艦隊は打ち破られてしまった可能性が高い。この攻撃が終わった後、次に来るのは公国軍本隊による地上侵攻だ。

 ……道の真ん中、連絡手段はない。

 近場の基地まで歩くよりも一度、豪邸に戻った方が良さそうだ。

 

「………………」

 

 まあそれもエリスが起きてからの話。

 まだ眠るエリスの横顔を見て、私は、なんとなしに唇を重ねた。

 私が、しっかりとしなければいけない。

 自身の唇を舐め取る。

 彼女は、絶対に守り切るのだと心を決めた。

 

 気絶から目覚めたエリスの意識は朦朧としている。

 休ませてあげたいけども、今の私達には余裕がなかった。公国軍の攻撃は計画的だ。防空設備の無力化を確認でき次第、直ぐに本隊が地球上に投入するはずだ。そうなる前に豪邸に戻り、お義父様か近場の基地と連絡を取る必要がある。車も壊れている、移動手段の確保も必要だ。エリスに肩を貸して、少しずつでも前に進んだ。

 豪邸に戻るまで半日以上も掛けてしまった。

 

「…………なんて、こと……」

 

 もう空も暗くなった頃、豪邸は跡形もなく消えていた。

 豪邸があった場所にはクレーターが出来ており、何かの残骸が突き刺さっている。

 呆然とする私に、傷付いたエリスが前に歩み出す。

 

「行きましょう。落ちたのが此処であれば、ガレージはまだ無事な可能性があります」

 

 そうだ、これから先はもっと悲惨な事が待ち受けている。

 もう戦争の口火は切られたのだ。下唇を噛んで、私もまた歩み出す。

 ガレージは半分が崩れてしまっていた。

 残る半分には、一機の人型作業機が置かれてある。

 ドラケンC。ドラケンAから改良を進めたドラケンシリーズの最新機種。

 幸いにも鍵はガレージの中に置いてあった。

 

 

 空が落ちて来た。

 宇宙から落とされたコロニーは文字通り、天地を割ってオーストラリア大陸に落着する。

 同大陸における全ての通信網が一時的に断絶、地球規模の気候変動、地震や津波が世界各地で発生し、コロニー一基による被害は天文学的な数字を弾き出した。地球上の気候が落ち着くまでの間、公国軍はマスドライバーによる対空設備の破壊に注力する。この攻撃に錯乱状態にあった連邦軍は、まともに対応する事もできず、防空能力の九割を損失した。

 此処まで二週間、コロニー落としによる災害が収まりつつある頃合いだった。公国軍は裏で休戦条約の締結を目指しつつも地球降下作戦を発令する。これには地球連邦を威圧する意図があり、休戦条約が結ばれなかった時の事も考えて、地球連邦の主要な都市と基地の制圧に取り掛かった。

 南極で休戦条約が進められる中、捕虜になっていたレビル大将の救出がテレビ局によって報道される。

 

 ジオンに兵なし。

 

 後世に語られる徹底抗戦の演説によって、休戦条約を締結する為の会議は戦時条約を結ぶ為のものに変更される。主に大量破壊兵器と大質量兵器の使用禁止、グラナダを除いた月面都市やサイド6など中立地帯の承認、捕虜の取り扱いなどが定められた。南極条約が締結されたのは1月31日。この時、公国軍はオデッサとキャリフォルニアベースの占拠を終えていた。

 

 北米大陸の制圧に大きく貢献した部隊のひとつに魔女と呼び畏れられる部隊が存在する。

 地球攻撃軍の総司令官であり、北米方面軍司令を兼任するザビ家の御曹司。ガルマ大佐の指揮下にある当部隊を中核とした電撃戦により、北米を守る連邦軍は瞬く間に壊滅へと追いやられてしまった。地球上を守る連邦軍の将兵の数は、土地面積に対して意外と少ない。連邦軍の主戦場は宇宙にあり、地上は治安維持を目的に置いている為だ。近年、サイド3との関係悪化によって規模を増やしつつあっても優先されるのは宇宙艦隊、地上部隊が劇的に数を増やすことはなかった。

 北米を守る連邦軍の半数以上が戦死するか捕虜になっている現状。最早、組織的な抵抗は望めない状況に陥っている。

 

 参謀本部は北米大陸における味方の状況が掴めなくなっていた。

 ゴップ大将が持てるコネを駆使しても、北米大陸を守る連邦軍は壊滅状態にあるという事が分かるだけだ。愛娘の無事を祈る事しかできなかった。その一方で公国軍の攻撃により壊走し、北米大陸から逃げることも叶わず、取り残されてしまった敗残兵の中には身を潜めて、力を蓄える者達も居た。

 今もまだ反攻作戦に備えている。

 参謀本部の支援が受けられない状況でも抵抗を続けており、ゲリラ戦で公国軍に消耗を強いる。それでも各地に点在するレジスタンス組織は次々に潰されている。北米大陸の統治が進むに連れて、ゲリラ的な活動も難しくなり、組織の運営に窮する組織が増えつつある中でなおも抵抗を続ける組織もあった。

 その内のひとつは連邦軍に先んじて、モビルスーツを運用していた。

 

 

 宇宙世紀0079年3月上旬。北米大陸に敷かれた鉄道を大量の物資を乗せた列車が通過する。

 車内に武装した公国軍の兵士を確認、丘の上に控えさせていたモビルスーツのザクⅡに狙撃の指示を出す。直接、車両を狙う必要はない。列車は線路の上しか走れないが故、進路先にある線路を狙撃すれば良かった。ザクⅡのバズーカが、線路の爆破に成功。脱線した列車は、けたたましい音を立てながら横転する。

 手慣れたものだ。ザクⅡに周囲を警戒させながら物資の回収を急がせる。

 援軍が来る前に速やかに行動する必要があった。捕虜は取らない、トラックを用いて物資だけを回収して離脱する。現状、自分達の戦力はモビルスーツが1機だけだ。他にも鹵獲したモビルスーツは、あるにはあるのだが、まともにモビルスーツで戦えるのは今、ザクⅡに乗っているパイロットのエリスだけだった。

 戦闘行為は極力避けなければいけない。

 ドラケンCに乗る私、メアリーも物資の回収作業に参加して援軍が来る前に逃げる事が出来た。

 

 

 地球連邦のレジスタンスが鹵獲したザクを運用している。

 その内のひとつは類稀な戦闘能力を有しており、もう既に遭遇戦で3機ものザクが撃破されている。これを公国軍は由々しき事態と捉える。ニューヤークを占拠した事もあり、北米大陸の制圧にも一区切りが付いた頃合いでもある。

 北米方面軍の指揮を執るガルマ大佐は、レジスタンスの壊滅にノイジー・フェアリー隊の投入を決断した。

 

 戦争初期、公国軍のパイロットは一年以上の訓練が費やされている。

 遭遇戦とはいえ、それを3機も撃破するのは偶然ではない。実力は認めた、それ以上に薄気味悪い存在だとも思った。連邦軍がモビルスーツを知って三ヶ月、実際には、もっと前から情報は漏れていたと考えるべきだが、連邦軍にモビルスーツと同等の戦力を保持しているのであれば、疾うの昔に投入されている。つまりまだ三ヶ月しか経っていないのに、我が軍の精鋭を圧倒するパイロットが敵に存在している。

 後の禍根になるやも知れぬ。と親友が隣に居れば、失笑を買いそうな己の慎重さにガルマは自嘲した。

 

 まだ戦線に余裕がある内に倒しておきたい。

 ガルマは少なくともレジスタンスのザクⅡパイロットをザク3機をタイマンで倒せる戦力と仮定し、ノイジー・フェアリー隊を送り込んだ。程なくして公国軍の諜報機関がザクⅡパイロットが居るレジスタンスの拠点を特定する。

 その数日後、レジスタンスを壊滅させる作戦が決行された。


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