NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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7.じこはおこるさ

 双眼鏡を片手に丘の上からレジスタンスの拠点と言われる場所を観察する。

 半壊した建造物の隣に巨大な倉庫が建設されていた。注意深く観察を続けていると建造物の中から軍服を着た若い男が煙草を片手に姿を現したので、キシリア機関からの情報が正しかったと確信した。私の隣で、私と同様に腹這いになる気真面目な顔付きの将校、バルバラ・ハハリ中尉に視線を送れば、彼女も小さく頷き返す。太陽光が双眼鏡の硝子に反射しないように注意しつつ敵拠点の観察を続ける。

 それにしても、と部下達と同年代の少女を眺めながら小さく口を開いた。

 

「廃墟化した通販会社の倉庫ってのは、盲点だったわ」

 

 開戦するまでは、地球では最大規模の通販会社だったようだ。

 それもまあ戦争の影響で物流が潰れて、倒産寸前にまで追い込まれているようだけど。地球では、最大規模と呼ばれるだけあって、倉庫も相応に巨大だった。モビルスーツの一機や二機は優に入りそうである。実際、奴らのゲリラ活動には、鹵獲したザクⅡを運用している情報も入っているので、モビルスーツ戦になるのは間違いない。そうでもなければ、エース部隊である私達を向かわせる理由もない。

 追いかけていた士官服を着た短い金髪の少女が、一度、倉庫の中に戻る。

 まだ、こちらに気付いている気配はない。夜襲を仕掛けるか、夜明けを待つか。気付かれる前に今から仕掛けるべきか。部下のアルマ少尉とヘレナ軍曹は、地球に降下した後で作戦に参加した新兵である。実力だけは、公国軍のエース達にも引けを取らないが、経験という面では不安が残る。夜戦は避けるべきだ。

 少し休憩をした後、まだ明るい内に攻撃を仕掛けよう。そう判断を下した。

 

「ん?」

 

 倉庫の窓から何かがキラリと光った。

 硝子の反射光、サッと血を引いた。考えるよりも早く、バルバラ中尉の頭を地面に抑えつけながら顔を伏せる。パァン、と遠方より乾いた音。何かが公国軍の士官服に付いている肩パッドの先端を掠めて、後方にある木の幹に突き刺さる。

 狙撃を受けた! この距離で気付かれた?

 

「中尉、下がるわよ!」

 

 錯乱する頭の中で、兎にも角にも後方に退いた。

 これでは奇襲にならない。自分の失態に舌打ちを零しつつも後方に控える部下達に即時攻撃の指示を下す。

 敵に私達の存在が気付かれた。今から奇襲を仕掛ける、相手が準備を整える前に打ち倒す。

 即断即決、アルマとヘレナは困惑しつつも慌ててモビルスーツに乗り込んだ。

 自分もまだ状況が飲み込めていない。

 モビルスーツのシステムを立ち上げる僅かな時間に追加で情報を口にした。

 

「相手の中には、アルマと同じ能力を持っている奴が居るかも知れないわ!」

『アルマと同じ……?』

『私と……了解です!』

「私が先陣を切るわ──二人は援護を!」

 

 了解、と二人から威勢の良い返事が返って来る。

 此処まで十五分、相手の動きも慌ただしくなっていた。口惜しいな、軍服を確認した時点で身を退いておけば良かった。

 そう考えるも後の祭り、今は相手の拠点を破壊する事だけを考える。

 

 

「仕留めた?」

 

 狙撃銃を構えた私に御嬢様が問い掛ける。

 私は首を横に振る。

 御嬢様は私を責めようともせず「仕方ないわ」と逆に気遣った笑みを浮かべる。

 

 最初は、見られている感じがしただけだった。

 部隊の連中が私と御嬢様の事を少なからず、そういう目で見ている事は知っていた。身体を洗う時に覗こうとする奴が居るのも知っているのだけど「直接、手を出さない内は気にしなくても良い」と御嬢様が言うので無視を決め込んでいる。しかし今回は、今までとは違った相手を探るような視線だった。

 出来るだけ相手に悟られないように視線の元を辿ると、遠い場所。丘の上から感じられた。

 遠過ぎて、実際に相手が居るのか確認できなかった。とりあえず、御嬢様に報告すると狙撃銃を手渡される。双眼鏡代わりになるわ、と言われたので照準器で丘の上を探った。すると公国軍の軍服を着た二人の女性が双眼鏡で私達の拠点を観察しているのを確認できた。

 その事を報告すると御嬢様は「撃ち殺しなさい」と私に命令した。

 

 狙撃は、外してしまった。

 私は戦車やモビルスーツに乗った人間を殺した事があっても、生身の人間を殺した事はない。相手の顔を見ながら引き金を引いたことで迷いが生まれてしまった。風などの影響もあったのかも知れない。だけど、気持ちを落ち着かせ切ることが出来なかったのも事実だ。僅かなブレが殺せるはずの相手を殺せなかった。相手は、偉そうだった。此処で戦闘を回避出来ていたかも知れない。私の覚悟が足りなかったせいだ。

 私は狙撃銃を近場の兵士に手渡し、足早にザクⅡの操縦席へ歩みを進める。

 

「身を挺してなんて考えないでよ。そんな死に方なら私も追って死んでやるからね」

 

 擦れ違いざま、そんな事を耳打ちされる。

 私は、僅かに躊躇って首肯した。

 ザクⅡの傍まで足を運ぶと機体の整備をしてくれた少年が困惑している所に出くわした。

 軍人ではない彼は、今の状況に慌てふためいていた。

 

「な、何が起きているんです?」

 

 私の顔を見つけた彼は、戸惑い気味に問い掛ける。

 

「公国軍の攻撃が始まるわ」

「え? な、なら、僕に出来る事は……」

「何もないわ、邪魔になるだけよ」

 

 あえて突き放すような言葉を意識して使う。私の前に立つ彼を押し退けて、コックピットに向かった。まだ呆然とする彼に、溜息を零し、ああそうだ。と彼に最後になるかも知れない助言を付け加える。

 

「もし仮に捕まる様な事があれば、保護を受けていたと言いなさい」

 

 兵器の整備に携わっていたと知れたら非戦闘員の扱いを受けられなくなる。

 宇宙世紀以前の戦時国際法なんて、何処まで適応されるのかなんて分からないけども軍人と民間人では、待遇に天と地ほどの差があるはずだ。炊事や洗濯を手伝う程度であれば、情状酌量の余地もあるかも知れない。まあ地球にコロニーを落とすような連中に人の心を期待する方が間違いかも知れないのだけど。

 ……そういえば、今回の戦争に戦時法や条約なんてあるのだろうか?

 開戦後、通信機器は使えなくなって情報が全く入っていなかった。今の戦争がどのような状況にあるのか分からないままだ。公国軍が占領した都市部では、酷い略奪が行われた場所もある。若い女を攫って行った話もあり、捕虜になったところでまともな待遇を受けられるとは思っちゃいなかった。

 自決用の弾が込められた拳銃をお守り代わりにコックピットに乗る。

 

「迷っていては駄目、目の前の敵に集中しなければ……」

 

 ザクⅡのシステムを起動しながら大きく深呼吸をする。

 あの女性も出て来るかも知れない。顔を知った相手を殺すのは、初めての経験だ。

 名前も知らない、今までだって殺してきた。

 今更、生まれるはずもない迷いを抱えている。

 どうして、手が震えるのか。このままでは守り切れなくなる。

 

「また抱き締めて欲しい……」

 

 システムが起動し、モニターに外の景色が映し出される。

 ザクⅡの上半身を起こし、身を屈めながら倉庫の外に出した。

 遠方より敵の気配がする。

 ザクが三機、特殊なカラーリングをした部隊だった。

 今までの敵とは違う感じがした。

 

 

 紫に白の塗装をした機体がマシンガンの弾をばら撒きながらエリスのザクⅡに突っ込んだ。

 エリスもバズーカで迎撃しようとし、構えを取るも後方に控える狙撃銃を構えたザクⅡによってバズーカを撃ち抜かれた。多分、本体を狙ったつもりで外したようだ。エリスはマシンガンの斉射を右肩の盾で受け止めつつヒートホークを手に取る。先頭を駆けるザクⅡはマシンガンを撃ち続けたまま、エリスの機体と擦れ違った。擦れ違った機体をエリスは無視し、その影に隠れていた敵機に向けてヒートホークを横薙ぎに振り抜いた。空を切る、相手の機体がスラスターを吹かして急停止をしていた。頭上にヒートホークを構えていた。エリスはスラスターを吹かし、相手がヒートホークを振り落とす前に、左肩のスパイクで相手の胸元に体当たりをする。

 そのままエリスは相手と身体を入れ替える。

 最初に擦れ違ったザクⅡがマシンガンでエリスの背中を狙っていた。上手い、と思ったのも束の間、後方に控えていたザクⅡの狙撃銃がエリスの機体を捉える。ヒュッと最悪の予感に息が漏れる。しかしエリスの機体は無事だった、右肩のシールドで相手の狙撃を受け止めていた。身体を入れ替えた機体とは密着しながら腰に付けていたクラッカーを地面に落とす。

 強烈な爆発音。砂煙が舞い上がり、戦闘の様子を眺めることが出来なかった。

 

「お前、こんなとこで何やってんだ!」

 

 若い連邦兵に肩を掴まれる、部隊の連中は逃げる準備を進めていた。

 当然だ。この拠点には防衛能力がない。モビルスーツに通用する装備もない。襲撃を受けた時点で逃げることは予定されていた。

 だけど、目の前で死闘を繰り広げているエリスはどうなるんだ。

 どうしようもない事は分かっている。だけど、このまま逃げ出してしまっては何かが終わる。そんな予感がした。若さ故の強迫観念、こんなのは気のせいだって事は分かっている。僕如きに何が出来るんだって、理性が訴える。僕は物語の主人公じゃない、僕が幼い時から見てきたロボットアニメのように上手く行くはずがなんてないと分かっている。現実は、そう簡単な話じゃない。アニメじゃないんだ、現実なんだ。

 だけど僕は、抱いたこの想いが間違いだなんて思わなかった。

 

「あ、おい! 待て!」

「ごめん!」

「どうするつもりなんだ!」

 

 連邦兵を振り払って、僕は起動するかも分からない機体に駆け出した。

 ザクタンク。まともな武装もない作業用機械だ。乗った事はない、整備をする為にエリスのザクⅡにあった操縦マニュアルは熟読した。コックピットに乗り込んでシステムを立ち上げる、電源が付いた。しかしシステムが起動しなかった。電源の入ったランプは点灯している。しかしモニターには何も映らなかった。

 こうしている間にも外から戦闘音が聞こえる。

 強制終了をし、何度も繰り返すもシステムは立ち上がってくれなかった。今更、マニュアルを読み直す時間もない。何をどうすればよいのかも分からない。情けない、やっぱり現実はこんなものなのだ。僕は何も為せず、エリスを見殺しにするしかないんだ。

 

「クソ……」

 

 悪態が口から漏れる。

 

「クソぉ……」

 

 不甲斐なさに拳を握り締める。

 

「クソォっ!」

 

 歯を食い縛った、そして両手の拳を振り被った。

 何もかも上手く行かない現実に、腹が立つ。理不尽な怒りを機材に叩き付けた。一度、二度、拳が破けて、血が滲んでも思い切り叩くのをやめられなかった。あの日、コロニーの落ちた日に、僕から全てを奪った理不尽な世界に怒りが込み上がって来る。

 どうして、僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ!

 

「動けよ、ポンコツ! 動けよッ!!」

 

 血反吐を吐く思いで思いっきり拳を叩き付けた。

 

「せめて……せめて、戦う事くらい許してくれたって良いじゃないか……」

 

 僕は、見ている事しか出来ないのか。

 無力に奪われていくしかないのか。

 孤独なコックピットの中で涙を零した。

 

 全てを諦めそうになった時、

 

 ブゥゥン……と、

 機械が立ち上がるような、

 音が鳴った。

 

 ハッと顔を上げる、システムが立ち上がる最中だった。

 

「は……はは、僕は、戦えるんだ……!」

 

 モニターに外の景色が映し出される。

 涙を拭って、操縦桿を握り締めた。大丈夫、マニュアルは読んだ。

 後は……どうとでもなれ、だ!

 

「進め、ザクタンク!」

 

 キュラキュラと未武装のザクタンクの履帯が唸りを上げる。

 そのまま操縦を誤って倉庫の壁に突撃してしまった。

 崩れる壁の向こう側には、視界一杯に映る紫色のザクⅡの背中があった。

 そして、撥ねた。勢い余って。




叩いて直す、常識ですね。(眼鏡クイッ

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