ありがとうございます。書くモチベーションになります。
誤字報告も大変助かっています。
金属同士が擦れる音、紫と緑のザクⅡが絡み合うような格闘戦を繰り広げる。
紫色のザクⅡ、アルマが敵機から距離を取ろうとする。しかしアルマが退いた瞬間、呼吸を合わせて相手が踏み込んでくる。アルマの陸戦高機動型ザクの胸元に敵機が肩を擦り付けた。互いにヒートホークを振り切れない距離で戦闘を続けている。相手は戦い慣れている。モビルスーツの操縦が、というよりも対人戦に慣れていた。これだけ密着されているとザクマシンガンで援護する事が出来ない。それはヘレナ軍曹も同様のようで、狙撃銃を構えたまま引き金を引けずにいる。
そして距離を開けた瞬間に蜂の巣にされる事が分かっているので、相手もアルマに意地でも食らいついた。
「連邦にも良い兵士が居る……っ!」
歯を食い縛る。隙が出来たら撃ち抜いてやる、とマシンガンを構え続けた。
『此処は私とヘレナで……! キリー少佐はレジスタンスの方を……!』
視線を横に向ける、物資を乗せたトラックが倉庫から一斉に飛び出していた。
咄嗟にマシンガンの銃口を逃走する連邦兵に向ける。自動で照準がトラックを捉える、手動で銃口を横にズラす。威嚇射撃で出来るだけ穏便に済ませる為にトラックの出鼻を抑える。ザクマシンガンの引き金を引こうとした時、背後から何かが崩れる音がした。振り返る、その前に巨大な何かに背中を撥ねられた。『キリー少佐!?』と通信機から困惑する声が聞こえた。ザクⅡが前のめりに倒れる最中、モニターに映ったのはアルマのザクⅡが敵機に投げ飛ばされる姿だった。
二機のザクⅡが地面に倒れる音、敵機からオープン回線で通信が入る。
『降伏してください、とまでは言いません。見逃してください。でなければ、一機、この場で道連れに落とします』
若い女性の声だった、俯せに倒れたザクⅡの顔を僅かに上げる。
アルマの陸戦高機動型ザクもまた俯せに倒れており、敵機が核融合炉の上にヒートホークを添えていた。あれでは撃破出来ない。あのまま、手を離しては核融合炉が破壊される。
それはアルマのザクが爆発することを意味していた。
「……ヘレナ、銃を降ろしなさい」
『そんな! 私なんか構わず……!』
「黙りなさいっ!!」
軍人としては、最低だ。
しかし私にはアルマを見捨てる選択が出来ない。
私は、彼女に可能性を見た。彼女は私の守るべき未来だ。
陸戦型ザクⅡの身体を起こす。
相手のザクのモノアイが動いた、敵機から警戒心が伝わる。
私は、マシンガンを手放し、両手を上げた。
「見逃せば、貴方も私の部下を解放してくれるのよね?」
『十分な距離を取れれば……約束します』
「アルマ」
『……信じられます』
でも、とアルマが続ける。
『……このパイロットは危険です! 私よりも、もっと強い力を……っ!!』
「構わない」
『どうしてなんです……これじゃあ役立たずじゃあないですかっ!!』
「構わないと言っています!」
『……ッ! 今が最大のチャンスなんです! 今、倒さないと次に倒せるか……ッ!』
「黙りなさい、これは命令よっ!!」
ひっ、と通信機越しに悲鳴が聞こえた。
駄目だ、感情的になり過ぎる。大きく息を吐いて、震える手を強く握り締めた。
頭の冷静な部分を探り、先にヘレナ軍曹を戦線から離脱させる。
殺意を見せない為に銃口を上げる事を禁じた。
アルマが警戒する相手、ならばアルマと同じ能力を持っている可能性がある。
ならば当然、殺意も感じ取れるはずだ。
「こんな国家の興亡にも関わらないつまらない任務で部下の命を奪わせないでよ……」
そう最後に言い残して、私も敵機とアルマから離れる。
ザクタンクと共にレジスタンスが乗せたトラックが十分な距離を取るまで待った。アルマの陸戦高機動型ザクは足蹴にされていた。充分に距離を取った所で、倉庫からAE社製の小型モビルワーカーが姿を現す。
そして、悠久にも思える程に長く感じた時を経て、アルマは解放される。
ヘレナが狙撃銃を構えようとした。しかし私は、その銃口を下げさせる。敵機は、それ以上は何もせず此方を警戒したままトラックが逃げた先を追いかけた。
彼女達は、約束を守ってくれた。
◇
結果として、レジスタンスを逃したのは大失態となる。
まだ北米大陸に残る反ジオン勢力が彼女達に力を貸し始めたのだ。物資も潤沢となり、公国軍の兵站事情を悩ませる種となった。指導者の身元は割れている。メアリー・M・ポシブル少尉。連邦軍大将であるゴップの養子という話だが、名乗る姓はゴップのファミリーネームとは違っていた。今は北米のジャンヌダルクという名で持て囃されており、北米大陸における反ジオン運動の旗頭になる。
公国軍での彼女の呼称は、魔女だ。
彼女の傍には、二人の戦士が控えている。ジル・ド・レとラ・イルに比肩する者として語られており、片や身元は割れている。エリス・クロード少尉、メアリーと同じく連邦軍の女性士官。もう一人は名前だけだ。シェルド・フォーリー、身元不明。民間人だとも、未成年の少年だとも言われている。そんな人間まで義憤に駆られているとすれば、世も末であるし、そのような子供まで駆り出している相手に怒りが湧いて来る。
しかし自分も同じ穴の狢。元から戦場に居たヘレナは兎も角、アルマを戦場に駆り出したのは私だ。
どうこういえる筋合いなどなかった。
北米各地にある連邦軍残党の掃除をしながら連邦の魔女部隊を追いかけるのが私達の役目になる。
魔女狩り部隊。それがノイジー・フェアリー隊に与えられた可愛くない二つ名だ。
◆
「なあんだって!?」
連邦軍参謀本部、その一室でゴップ大将が素っ頓狂な声を上げる。
彼には珍しく感情を表に出した悪友の姿にグリーン・ワイアット中将は、満足げな笑みを浮かべる。開戦以後、彼に生気がなかった。政務自体はしてくれるのだが、彼の瞳に活力はなく、気のない溜息を吐くばかりであった。しかし今日、彼に齎した情報によって彼の瞳に活力が戻る。
しかしワイアット中将が持ってきた情報は、良いものばかりではなかった。
「なんで義娘が北米でレジスタンスの旗頭になっているのだ!?」
メアリーの処遇は、連邦軍でも物議を醸す議題だ。
「だが、死んでもらった方がよろしいのでは?」
ワイアットの試すような物言いにゴップは無言で拳を机に叩き付ける。
彼女の存在は、軍から逸脱していた。もし仮に義娘が捕虜になったとしても連邦政府は知らない顔をするだろうし、公国軍が勝利した暁には戦争犯罪者として処刑される。だがしかし、地球連邦に限っての話であれば、全員に頭痛の種を仕込むネタがある。彼女の素性を知れば、連邦政府は意地でも彼女を担ぎ上げるしかなくなる。それどころか宇宙も含めた多くの財界人が彼女に力を貸さざる得ず、AE社ですらも彼女の身柄を欲する事に成り兼ねなかった。今の状況で内乱はあり得ない、明確な敵が居るからだ。しかし彼女の素性は力が強過ぎる。仮に彼女が人に知られる事がないまま命を落とした時、後にその事を知った多くの人間がホッと胸を撫で下ろす。
実際、彼女の正体は、それだけ強大なのだ。
「家庭を守る、責務も果たす。両方やってのけるのが良き父親というものだ」
ゴップは持てる力を使って、愛娘を守る為に奔走する。
北米大陸のレジスタンスを支援する事は、公国軍の地球侵攻の遅延に繋がる。と参謀本部を説き伏せて、連邦政府の伝手を使う事でまだ現地に残る財界人にレジスタンスへの協力を取り付けた。この一連の流れで、長年溜め込んで来た政界に対するスキャンダルの七割を吐き出し、多方面に多くの借りを作る嵌めとなる。今日まで無能を装って来た事がバレてしまったし、明確な弱点を晒す事になってしまった。
しかし義娘を助ける為、一月足らずで以上の事をやってのけた悪友に、ワイアットは素直に感心し、畏敬の念を抱いた。
「こんなことをせずとも素性を明かせば、協力を取り付けるのは簡単でしたでしょうに」
そして呆れもした。
「それは最後の手段だよ」
「どうして、と聞くのは野暮ですかな?」
開戦以来、順調に体重を減らしつつあるゴップが疲れ切った顔でワイアットの淹れた紅茶を啜る。
「愛娘の幸福を願っての事だ」
彼女の素性は、彼女の自由を奪う代物である。
墓まで持っていければ上々だ。それが誰にとっても最善の未来になる。
地球連邦に関わる全ての有力者にとって、
彼女の存在は急所なのだ。
何故なら、彼女は地球連邦政府の初代首相リカルド・マーセナスの実子であると同時に、ビスト家初代当主サイアム・ビストの姪なのだ。
メアリー編は、ここで一旦、終わります。