ビスト財団の初代当主であるサイアム・ビストが、自分に年の離れた姉が居た事を認知したのは、彼が自分自身の後継者としてカーディアスを選んだ時、ひいてはビスト財団の財産を継承していた時の事だ。
血縁者に不自由しないだけの財産を分配する最中で、彼は自分自身に姉が居た事を知った。その姉の履歴を辿ってみれば、地球連邦政府の初代首相リカルド・マーセナスの妾として、あの日、あの時の首相官邸があった宇宙ステーション「ラプラス」で自身の姉が生きていた事を彼は知った。姉には娘が居た、リカルド首相が理想と現実の狭間で挫けそうになっていた時、中近東にある小国へ慰問に向かった際に出会ったのがサイアムの姉である。サイアムの姉は特別、直感に優れていた。心が弱ったリカルドの事を著名な政治家と知らぬまま、サイアムの姉は彼の心に寄り添った。
そうして二人は結ばれる。ともすれば政治的なスキャンダルにも成り得たが、元より彼は30以上の国を渡り歩いた経歴を持っており、同じ数の現地妻が居ると信じられていたので大した問題にならなかった。家庭内のトラブルは起きたのだが、これも日常茶飯事。生れたのが娘であった事も都合が良かった。正妻はリカルドに妾の娘にマーセナス家の家督を相続しない事だけを約束させる。妾の娘であるメアリーには妻の姓が与えられた。尤も、この姓というのは、サイアムの姉が考えた偽名である。可能性という意味が込められていた。
ラプラスに移住した後、親子は、それなりに幸せな家庭を築いていた。
直感に優れていたサイアムの姉は、彼女に野心的な思惑がない事を知ったリカルドの本妻とも良好な関係を築いていた。特に浮気性なリカルドに対する愚痴を言える良きガス抜き相手になっていたのが大きかった。リカルドは、妻と妾の共同戦線に頭を悩ませる毎日を送る羽目になったが、しかし下手な軋轢を生まず幸せな生活を営んでいた。
まだ赤子だったメアリー自身、実父であるリカルドに抱きかかえられた事が何度もある。
そんな折に起きたのが、ラプラス事件。
この事実を知った時、サイアム・ビストは急激に老け込んだ。
元々、実子の暗殺で心が病んでいた彼ではあったが、髪の色が真っ白に抜け落ちてしまった。
彼は信じている。あの時、自らの手で、姉と、姉の娘を殺してしまった。
幼い時、定期的に仕送りが送られていた。
それをサイアムは父親に関するものだと考えていた。
決して多い金額ではなかったが、学業を続ける分には問題なかった。
しかし、それも宇宙移民政策によって、彼の家族が故郷を追われた時に途絶える。
その結果、貧困に喘いだサイアムは、
小金を稼ぐ為にラプラスの爆破計画に参加する。
全てを知った後、サイアムは孫のカーディアスに全てを託して自分は長い休眠期間に入る。
ラプラス事件の時にリカルド・マーセナスの為に作られた緊急脱出ポッドが娘、メアリーの為に使われていた事を知らず、眠り続ける。長い、長い時間を漂い続けて、眠り続ける彼女が回収されたのは、半世紀以上も先の話だ。各サイドを巡回する連邦軍の艦船に回収された彼女が眠るポッドの製造番号が極端に古いもので、宇宙ステーション「ラプラス」にまで辿り着いた。事の重大さを察した艦長が連邦軍高官に相談。そのままゴップまで話が伝わる。
この時のゴップはまだ少女の正体について、何も知らなかった。
先ずは少女を覚醒させなければ、話が始まらない。と彼は軽い気持ちでポッドを解放する。そしてポッドの中に入っていたメモ帳の存在でゴップは彼女の正体を知る事になる。彼女の名前は、メアリー・マーセナス・ポシブル。マーセナスは分かる。しかし、ポシブルの姓が分からなかったゴップはすぐ信頼できる配下に調べさせた。
そしてビスト財団と繋がりがあると知り、彼は頭を抱える事になる。
余談だが、メアリーがゴップの姓を名乗らなかった事には理由がある。
偏に義父のゴップに迷惑を掛けない為だった。本名を名乗ったのは、彼女自身、それが本名である自覚がない為だ。偽名が必要になった時、彼女はパッと思い浮かんだ名前を偽名に選んだ。それが偶々、本名だった。それだけの話だ。
この事に関してゴップは、惚ける以外に打てる手がなかった。
サイアム・ビストは今、全ての情報を遮断して眠っている。
時折、覚醒をすることはあったが、少なくとも今は眠り続けている。