NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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2.かくして、ガンダムは大地に立つ。

 サイド7は一度、開発を中断した経緯を持っている。

 それは今ある6つのコロニー群で宇宙移民計画を完遂できるという試算が立っていた為であり、コロニー群の数を減らした方が維持費を減らす事にも繋がる為だ。それが今の時代になって、何故、サイド7の開発が再開されたのかというとサイド3を発祥としたジオニズムの影響が宇宙全体に浸透しつつあった為である。地球連邦とジオン公国の関係性の悪化に伴って、ジオン公国の影響を受けない場所に地球連邦の拠点になるコロニー群を用意しておきたかった。というのがジオン公国総帥府の結論である。

 しかし、それは間違いであった。と私、シャア・アズナブルが訂正する。

 サイド7の開発を再開したのは、ジオン公国の目が届かない場所で秘密裏に兵器を開発する為であった。事実、開発区域に設定されているブロックには跳弾防止壁に観測塔が設定されていた。中には破損した連邦製のモビルスーツの成り損ないが放置されており、此処で何かしらの兵器の開発が行われていた事は明白である。

 連邦軍がV作戦なる反攻作戦を計画していた事は知っている。

 

「……アッシュ軍曹が撃破された?」

 

 通信機に入った潜入部隊からの報告に思わず、問い返す。

 此処はサイド7にある1バンチコロニーのグリーンノアに接舷させた改ムサイ級軽巡洋艦ファルメルの艦橋になる。一緒に潜入したスレンダー曹長からの報告によるとアッシュ軍曹が率いるザク3機の小隊は全滅、デニム曹長はジーン軍曹と共に別のルートで今も潜入任務を続けているという話である。スレンダー曹長は3機のザクが倒された後、残り1機になって情報だけでも持ち帰る為に引き返したのだと言った。

 私は彼を叱責せず、よく戻った。と労を労った。

 

「それで連邦軍の新型モビルスーツは存在するのだな?」

『はい、紛れもなく!』

「分かった。帰還しろ、詳しい話は後で聞く」

 

 スレンダー曹長から送られてきた写真を艦橋のモニターに映し出す。

 破壊された連邦軍の旧型機。ヒートホークでは有り得ない切断面、強力な熱線によって焼き切った痕跡である。公国軍にはない兵装、新しいビーム兵器の実験が行われていたようだ。連邦の新型機には、携行できるビーム兵器が搭載されていると考えれば、アッシュ軍曹達が敵に後れを取ったのも納得できる。

 ……もし仮に、この予想が当たっていたとすれば、公国軍は拙いことになるな。

 

「少佐、何処に行かれるおつもりで?」

 

 私が踵を返すとファルメルの艦長代理であるドレン中尉が問い掛けた。

 

「私も出る。部下に実戦経験を積ませたかったのだが、そうも言ってられないようだ」

「分かりました、ドックの連中に少佐のザクを準備させておきます」

「助かる。デニム軍曹と通信が繋がった時は、無理はせず撤退しろ。と伝えておいてくれ」

 

 艦橋を出ようとして、ああそうだ。と私はドレン中尉に警告を口にする。

 

「敵のモビルスーツはビーム兵器を携行している可能性がある」

「ビーム兵器? モビルスーツに? ジオンでも開発できてない代物じゃないですか」

「そういう可能性もあるという話だ」

 

 そう言って、私は改めて格納庫へと足を運んだ。

 現時点でザク3機の損失。デニム軍曹達が無事に撤退出来ると良いのだが……情けないモビルスーツを造ることしか出来ないと連邦軍の事を見縊り過ぎていた。腐っても連邦という事か、我々は戦争に長く時間を掛け過ぎている。相手に時間を与え過ぎたのかも知れない。いいや、私自身が連邦軍の意地を見誤ったのだ。

 結果として3名の部下とザク3機の損失だ。勉強代と呼ぶには、高過ぎる。

 

『シャア少佐。聞こえますか、少佐』

 

 赤く塗装したザクⅡのコックピットに座った時、通信機よりドレン中尉の声が響いた。

 

「どうした?」

『コロニーの隔壁に穴が開きました。それとデニム軍曹とジーン曹長から定時連絡が届きません』

「……認めたくないものだな」

 

 私は全てを察し大きく息を零す。

 そして出来るだけ感情を殺しながらも、

 想いを吐露してしまった。

 

「自分自身の若さ故の過ちというものを」

 

 

 少し時間を遡って、コロニー居住区。

 

「命令を無視するのか、貴様!」

「シャア少佐だって、戦場で手柄を立てて出世したんだ!」

 

 居住区ブロックに潜入したジーン軍曹は手柄を上げる為に暴走する。

 潜入任務という名目があり、情報収集に徹底すべき状況で行ったジーン軍曹の独断専行は決して許されるものではない。何よりも民間人が間近に居る状況での戦闘行為をデニム曹長は許容する事ができなかった。しかしジーン軍曹にも独断専行に走るだけの事情がある。これで決着が着くのであればとコロニーを地球に落としたにも関わらず、未だに戦争が続いている。もう疾うの昔に決着が着いているはずなのに連邦軍は粘り続けている。ジークジオンと何度、高らかに叫んでも延々と続く戦争に嫌気が差していた。これだけ辛い思いをしながら戦い続けてきたのに今更、負ける事なんて許容できるはずがない。開戦直後にあった公国軍の勢いが徐々に削がれているのを肌身に感じているのも大きかった。

 此処で戦争を長引かせる要因になりかねない連邦軍の新兵器など彼には許容できるはずがなかったのだ。

 

 彼と同じ想いを、デニム曹長も少なからず抱えていた。

 ジーン軍曹よりも幾分か歳を取っていたので、抑制できていただけに過ぎない。

 歳を重ねた分だけ、若者よりも少しだけ辛抱強かった。

 それだけの話であった。

 こうなっては致し方なし、とデニム曹長もまた連邦軍に攻撃を仕掛ける。

 連邦軍に希望を与えてはいけないのだ。

 まだ量産機の存在を知らない二人は、短絡的に新兵器の破壊を公国軍の勝利と結び付けた。

 誤算だったのは一点、此処には彼が居た。

 

「こいつ、動くぞ!」

 

 後の歴史においても歴代最強のパイロットとして名が上がる伝説的な男が此処に居た。

 当時はまだ15歳。彼は名をアムロ・レイと云った。

 

 ガンダム試作機2号に乗り込んだ彼は、真っ暗な操縦席の中で、父親のパソコンから盗み見た情報を頼りに、手探りで操作を続ける。半ば、直感を頼りにボタンと押し、メインモニターに光が灯る。その光源を頼りに次々とシステムを起動させていった。最後に操縦桿を握り締めた時、彼はガンダムの上半身を起こす。

 

 ガンダム試作機2号には、試作機1号で蓄積された情報が入っている。

 ユウ少尉は、戦闘に必要とされる情報を片っ端から詰め込んでいた。複製した教育型コンピューターの情報は、素人の拙い操縦を的確に補佐する。状況に応じた解析。ガンダム試作機2号は、敵意のある行動を取る相手をモニターの中心で捉えるように鍛えられていた。

 アムロが咄嗟に使った頭部バルカンが、ボタンを押しただけで相手を捉える。

 怯んだ相手にアムロが前進を指示すれば、それだけで相手との距離を詰めるようにガンダムは身体を動かした。頭部バルカンで牽制をしながらザクⅡの鼻っ柱を掴んで、そのまま押し倒す。余りの馬力の違いに「あれが連邦軍のモビルスーツの威力なのか」とデニム曹長が戦慄した。頭部から露出した動力チューブをもぎ取られたジーン軍曹もまた敵の新兵器に怯えてしまった。

 ザクⅡと敵の新型では戦闘力が違い過ぎる。

 デニム曹長とジーン軍曹は、瞬時に撤退を決断した。デニム曹長は破損したジーン軍曹から先に逃がす。しかしガンダムは、デニム曹長のザクⅡを飛び越えて直接、ジーン軍曹のザクⅡを背後からビームサーベルで胴体を両断する。核動力炉が爆発し、コロニーに穴を空ける。

 アムロが安易な攻撃でコロニーを傷付けた事を後悔する横で、デニム曹長もまた驚愕していた。

 

「推進力が違い過ぎる……」

 

 デニム曹長は逃走を諦めた。背中を見せて、逃げても簡単に追いつかれる。相手のパイロットは自分を逃がすつもりがない事は、逃走するジーン軍曹から先に撃破した事からも分かる。

 故にデニム曹長は決死の覚悟で連邦の新型機に突撃する。

 逃走するにしても先ずは敵機に被害を与えてからだ。勝機はある、相手の操縦は拙い。戦闘慣れしていない事は明白だ。その一点に一縷の望みの託し、敵の新型機に攻撃を仕掛けた。

 

「ええい、よくもジーンを!!」

 

 そしてデニム曹長にとってジーン軍曹は可愛らしい部下でもあった。

 上官に楯突く生意気な奴ではあったが、そんな時期は誰にでもあるものだ。特殊任務の部隊に選ばれただけあって、モビルスーツの腕前には見込みもある。いずれは曹長で燻る自分よりも階級が高くなるとも思っていた。まだ若いからと徹底的に教育をして来なかった自分にも非がある、最初に暴走した時に止められなかった自責もあった。

 その想いを糧にデニム曹長は規格外を相手に攻撃を仕掛ける。

 破れかぶれではない。腰に手を翳したままの姿勢から、あえての蹴りは素人では対処が難しいはずだ。

 しかしアムロには通用しなかった。無意識の内に相手の思考を読み取った彼は、蹴りに惑わされず、ザクⅡを爆発させない為にビームサーベルで操縦席だけを貫いた。

 

 デニム曹長とジーン軍曹には、間違った手を取る事も多かった。だが、間違いばかりでもなかった。実際、此処で連邦軍の新兵器を破壊する事は、連邦軍に少なからず打撃を与える事になる。此処で戦力を削ぎ落すことは、新型艦を鹵獲するのも容易になったはずだ。

 

 だが、彼は失敗した。失敗したが故に如何なる弁論も意味がない。

 二人が生き残れなかった要因は、ただ一点。

 

「…………うぅ……」

 

 此処にアムロ・レイが居た。

 

 

 工事区画と偽る試験場から抜け出す道中、連邦軍の駐屯基地。

 居住区側の出入り口でも戦闘が発生したという情報を、新型艦からの通信で知った。相手はザクⅡが2機。ガンダム試作機1号で居住区に急ぐ最中、共にガンダム試作機2号が撃破したという情報が追加で入る。途中でコロニーにも穴が開く被害が出たようだが、民間人を避難させられるだけの時間は持たせられるようだ。

 ガンダム試作機2号のパイロットは、ケンプ中尉。彼は新型機のテストパイロットに選ばれているだけあって、優秀な軍人であった。流石だな、と素直に感心した俺は艦長代理を名乗るブライト少尉の指示を得て、民間人の避難が完了するまでの間、まだ輸送途中にある新型機に関連する予備パーツの搬入を進める。

 間に合わない部品は、木っ端微塵に焼き払う予定だ。

 

『妙ですね』

 

 機械音声、BBと名乗るAIが零す。

 

「何が?」

『2号機には、子供が乗っています』

「……どうしてわかる?」

『エスパーなので』

「今や、機械がエスパーを名乗る時代か」

 

 ガンダム試作機2号は丁度、格納庫に収容されている所だった。

 見た感じ2号機に損傷はないようだ。しかし、だからといって中のパイロットが無事である保証もなかった。激しい戦闘で負傷してしまった可能性もある。自分の知らない事情があるのだろうと考えて、文句も言わず、最後まで残って後処理に精を出す。

 BBというAIの事も気になっていた。

 ガンダムを新型艦に格納した後、テム技術大尉に詳しい話を聞く必要がある。

 

 詰め込めるだけの資材を積み込んだ後、ガンダムを格納庫に収容する。

 BBに別れを告げて、操縦席から外に出る。格納庫が騒がしかった。ブライト少尉の指示に従って、艦橋まで足を運ぶと医療用のベッドで横になる艦長の姿があった。民間人の姿もある。まだパイロットスーツを着たままの俺は、ブライト少尉に視線を投げかけた。

 彼は居心地の悪そうに今の状況を簡潔に教えてくれる。

 

「戦闘員は全員、搬入作業に出ていましてザクⅡの奇襲を受けて全滅。士官を乗せたトラックも途中でザクⅡの攻撃を受けて……亡くなりました。今のブリッジメンバーは、補助員と民間人で構成されています」

『何故、そこで民間人が?』

「……民間人の手を借りなければ、まともに動かせないんですよ」

 

 彼は責任から逃れるように艦長に目を泳がせる。

 随分と状況が悪いようだ。今の状況では何を言っても変わらないと判断し、これ以上の言及は避ける。

 ただ気になっていたことがあったので、最後にそれだけを問い掛ける。

 

「ガンダム試作機2号には、誰が乗っているのです?」

『……民間人の子供です』

 

 どうやらテストパイロットも全滅してしまったようだ。


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