NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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日間6位、週間17位。新作2位。を確認しました(ヒエッ…
気付けば評価バーは真っ赤、お気に入りは2kを超えています。
今もなお増え続けてる。瞬間風速ヤバイ(語彙力

多大な高評価、感想、お気に入り、いいね等をありがとうございます。
作品を書き続けるモチベーションです。
また誤字報告も助かっています。


5.だれがわるいってわけじゃない。

 元々危篤の状態にあったジオン・ズム・ダイクンは、医師達の奮闘も虚しく逝去してしまった。

 この事でジンバ・ラルの動きが活性化する。元々ジンバ・ラルはダイクン派を代表する熱狂的なコントリズムの信奉者であり、国防隊が組織される以前から活発的に反地球連邦のデモ活動に参加していた。サイド3が地球連邦政府からの独立を宣言し、ジオン共和国が建国された後は義勇兵を募り、反地球連邦政府へのデモ活動の指揮を執り、サイド3の地球連邦軍駐留部隊との衝突を繰り返した過去を持っている。

 義勇兵を国防軍に編入する際、義勇兵を指揮する者の一人とし、ダイクン派とザビ派。デギンの工作により、ジオン共和国に寝返った元駐留軍と愛国者のバランスを取る為にジンバ・ラルは破格の大尉待遇を受けた。その後、息子のランバ・ラルを国防隊に入隊させる。まだ法整備が甘かった時期の話だ。自分の階級を移譲する形でランバ・ラルを大尉に着けた後、ジンバ・ラルは歳を理由に政治家に転身する事になる。

 こうして彼は軍部への影響力を残したまま、政界のダイクン派を中心に力を付け始める。

 

「親父が奴を泳がせていたのは事実だ。要のダイクンは非暴力主義で武力で自由を訴えようとするダイクン派の連中とは相容れないし、ダイクン派を自称する以上はダイクンの意志なしでは動けなかったからな。裏でコソコソとされるよりも表で一ヶ所に集まってくれる方が操りやすかったのもある」

 

 国葬式、俺はサスロ兄の言葉に耳を傾ける。

 俺には政治がよく分からない、小難しい話は頭が拒絶する。

 こんな事は頭が良い奴がすれば良い。

 と、少し前まで思っていた。

 

「ダイクン派を排除するのではいけなかったのか?」

「それは余りにも愚かな提案だな」

 

 俺の問いかけにサスロ兄は鼻で笑ってみせる。

 

「ドズル、イデオロギーや国民性という言葉に惑わされるな。要は人間が持つ意志だ、それが大きな流れを生み出す。コントリズムは、要はスペースノイドの自立を促す主張だが、それも国民全員が同じ形の理想を持っている訳ではない」

 

 俺と兄上が持つ理想だって必ずしも一致している訳ではない、と彼は続ける。

 

「人は誰しもが力を持っている。多くの人間が同じ場所に集まれば、それだけで大きな流れが生まれる。多数の人間がより強い流れを生み出し、少数が多数によって押し流されるのは世の常だ。人間、二人も居れば、それだけで反発が起きる。外的要因により、生み出された流れが堰き止められてしまう事もある。多くの要因によって生み出された流れは淀み、流れが止まれば腐敗する。思想の水は腐り落ちてしまうのだ」

 

 だが、とサスロ兄は強い口調で俺を見つめる。

 

「邪魔だからと排除するのも得策ではない。人は誰しも力を持っているんだ、排除するだけでも力を消耗する。排除を続ければ、流れは弱まり、いずれ水は止まる。なにも反発する相手がいる事は悪い事じゃない。上手く活用して競わせれば、それだけで強い力を生み出す事が出来るし、時には手を取り合う事だってあるはずだ。多様性は力だ。俺達だけでは解決できない事も、俺達とは別の力を持つ勢力と手を取り合う事で切り抜けられる事だってある。最も重要な事は、互いに敵視しない事。次に重要なのは、相手が自分の力を発揮できる場を用意してやる事。相手が国家に不満を持てば、攻撃を受け続ける事になるからな。そういった意味でも、受け皿は用意するに越したことはない」

 

 マンパワーはあればあるだけ良い、とサスロ兄が笑ってみせる。

 サスロ兄の話は難しい。多様性は力だ、言われてもピンと来ない。

 力の流れも全部が同じ方向に向いていた方が良いに決まっている。

 でも、それが浅はかな考えだって言う事は、分かっていた。

 

「なあ、サスロ兄」

 

 スモークを施した窓越しに外を睨んだ。

 今は国葬式の真っ只中、厳重な警備の中を多くの車が行進する。

 何処にいるかも知れない襲撃者に目を光らせる。

 

 妙に勘の鋭いカナリアの助言だ。慢心せず、警備を厳重にするように親父に進言した。

 だが親父は最初から暗殺を警戒していたし、既に最大限の努力が取られた後だった。これ以上、警備を厳重にすることはできない。と告げる親父に長兄は「狙撃対策として、窓にスモークを付けてはどうかな」と提案する。外から車内を見えなくすれば、それだけで暗殺の難易度は上がる。その上で誰がどの車に乗っているのか分からなくすれば、狙って暗殺する事はほぼほぼ不可能だ。国家の代表者足る親父は顔を見せる必要があるが、親父以外で特定の誰かを守る備えとしては十分。単純だが効果的な提案、且つ低コストで実行できる点も含めて、親父は快諾した。

 搭乗する車は直前にジャンケンで決めた、これにより秘匿性は更に増す結果となる。

 

「俺、政治を頑張ってみようと思うんだ」

 

 なにげなく呟いた。その言葉にサスロ兄は目を見開いた。

 

 ランバ・ラルは、政治を守るべきを守る為の力だと定義した。

 政治に国を変えるだけの力はない、国を変えるのは人が持つ意志である。だから国家の方向性を示す指導者の力は偉大であり、意志を束ねたダイナミズムが文明を築き上げる。

 ならば政治とは何か、現状をより良くする為の手段である。

 

「おお、そうか! やっとお前も政治に興味を持つようになったか!」

 

 サスロ兄は破顔して俺の包帯が巻かれた頭を撫で回した。この歳で頭を撫でられるのは気恥ずかしいものがある。だが、振り払ったりはしなかった。

 

「良いか、ドズル。政治の肝はパワーバランスだ、組織や派閥の間にあるパワーバランスを取り持つのが政治家の役目と言っても良い」

 

 嬉々として話し出すサスロ兄の話は、やっぱり今の俺には理解できないものばかりだ。分かったような、分からないような。そんな話に頭がパンクしそうになっている俺に気付いたサスロ兄は苦笑し、また俺の頭を撫でた。

 

「ドズル、無理に政治をしなくとも良い」

「……だけどサスロ兄、俺は…………」

「公人で在り続ける限り、政治は切っても切り離せないものだと知っておくだけで構わない」

 

 サスロ兄が、優しく笑いかけてくれる。

 

「お前が恵まれた肉体を持つように、政治にも才能ってものがある。政治家と軍人が相容れない事もあるはずだ。だが政治への理解を持つ者が軍隊に所属しているだけでも、俺達にとっては大助かりなんだぞ?」

 

 お前が政治に理解を示そうとしてくれた事が嬉しいんだ、とサスロ兄が口にする。そんな殊勝な事は考えていない。国家の為ではない、エゴを貫く為に政治という力を欲したのだ。

 それでも、とサスロ兄は告げる。嬉しいんだ、と。

 

「勉強したいなら良い本を教えてやる。政治でやりたい事があるなら俺か兄に相談すれば良い。可愛い弟の頼みだ、一つや二つ聞いてやっても罰は────」

 

 まだ、話の途中だった。

 

 視界が眩い閃光のように白く染まった。

 対して意識は真っ暗に──意識を取り戻した時、車内は黒い煙で立ち込めていた。

 熱かった、車内が燃えている。まだ意識が朦朧としている。

 一体、何が起きたんだ? サスロ兄は?

 つい先程まで、今まで見た事もないような笑顔で話していた肉親の姿はもう何処にもない。

 隣の席には、原型を留めない肉塊があった。

 ヒュッと血の気の引く感覚。次の瞬間、感情が怒髪、天を衝いた。

 

「サスロ兄が殺されたッ!! 出て来いッ! 誰がサスロ兄を殺したあああああああああッ!!」

 

 俺達の落ち度は、殺すのは親父以外のザビ家なら誰でも良かったという点だった。

 

 

「これを恐れていた」

 

 意気消沈した父さんが、サスロ兄さんの遺体を前に項垂れる。

 ドズル兄さんは入院中。この場に居るのは父さんの他にギレン兄さん、キシリア姉さんだ。ギレン兄さんは買ってきた缶コーヒーの栓に爪を立て、カチッカチッと何度も開けるのに失敗する。苛立ちを隠せず、未開封の缶コーヒーをテーブルに叩き付けた。

 空気が重い、未だサスロ兄さんが死んでしまった事が信じられない。

 

「ダイクン派の連中だな」

 

 兄さんは零す。

 

「詳しくは地球連邦の手解きを受けたダイクン派の連中だ」

 

 父さんは兄さんが叩き付けた缶コーヒーの栓を開けて、口を付ける。

 

「報道ではジンバ・ラルが首謀者という事になっていますよ。私の伝手から得た情報もジンバ・ラルの手の者だ」

「アイツは人を殺せる度胸はあっても暗殺ができるタマじゃない。義勇兵を率いていた時も味方と共に突撃し、叱咤激励をするモチベーターだ。もしアイツが首謀者なら今頃、死んでいるのは私だよ」

「だがジンバ・ラルの手の者である事は事実です」

「……人望がない訳じゃない。兵には好かれても将には嫌われるタイプだからな、ソコを突かれてしまったのだろう」

「では地球連邦は何故、わざわざジンバ・ラルの手の者を使ったのですかな?」

 

 偶然とは言わせませんよ。と感情を感じさせない目で父さんを問い詰める。

 

「冷静になれ、ギレン。言わずともわかっているはずだ」

「……ええ、ええ、そうですとも。ザビ派とダイクン派の対立を深める為です。ダイクンの暗殺にザビ派の者が使われていた以上、此処までが地球連邦が仕掛けた策だと考えるのが妥当です」

 

 だが! とギレン兄様が声を荒らげて、拳を机に叩きつけた。

 

「弟が殺されたのです。これを報復せずはザビ家の恥です」

「それで笑うのは誰だ? 連邦の連中だぞ。ダイクン派の連中も、手綱を握れなかったジンバ・ラルも許せんが、裏で糸を引いた連邦の連中に笑わせるのはもっと気に食わん!」

「肉親が、殺されたのです!」

「殺した殺されたの話をするならば、先に殺したのは我々(ザビ派)の方だ!!」

「都合の良い場所だけ都合の良いように捉えて、ダイクンの何たるかも知らぬ者達がダイクン派を名乗っている事が烏滸がましいのです! そもそもジオン共和国とは、ダイクンとザビ家で成り立っていたのです!! それをダイクン派がまるで味方の総大将を殺されたかのように振る舞うのがおかしい! ダイクンを殺されたのはザビ家も一緒だ!!」

「感情で語るな、馬鹿者! 私だって、できる事なら縊り殺してやりたいわ!」

 

 口論が止まる、二人が息を切らしていた。

 ボクは、何も出来ない。激昂する二人を眺めている事しかできない。

 ……いや、違う。ボクには、泣く事しかできなかったんだ。

 

「もうやめてよ……誰が殺したとか、報復とか、そんな事今はどうでも良い! サスロ兄さんが死んだんだぞ!!」

 

 政治、政治、政治……なんでこんな時も、父さんと兄さんは喧嘩なんかしているんだ。

 今から葬儀が始まる。ジオン・ズム・ダイクンの国葬を終えた直後の混乱期でサスロ兄さんの葬儀を執り行うことができず、身内だけのひっそりとした形式で行われている。父様は、落ち着いた後にまた改めて葬儀をすると言っている。

 ……今は、サスロ兄さんが死んでしまった事が、ただただ悲しい。

 サスロ兄さんの遺体の前で、二人が政治の話で喧嘩をしているのかと思うと、その事実だけで涙が溢れ出した。

 

「……ガルマ、すまんな。熱くなり過ぎた」

 

 ギレン、と父さんが兄さんを呼んだ。

 

「今はサスロを悼む時だ」

「……分かりました、話は終わった後で致しましょう」

 

 ギレン兄さんはテーブルの上に手をやり、そして何かを掴もうとして空振った。

 缶コーヒーを啜る父さんを、ジッと睨み付ける。ボクは慌てて、部屋に備え付けてあったティーパックを使って紅茶を淹れる。

 おずおずとティーカップを差し出す。

 ギレン兄さんは力の抜けた息を零し、紅茶を受け取ってくれた。

 

「私がサスロ兄様の代わりを務めます」

 

 それまで押し黙っていたキシリア姉さんが声を上げる。

 

「今はまだ……しかしサスロ兄様が今日までやって来た事を私が引き継ぎ、ザビ家の力になりたいと思います」

 

 この時、父さんと兄さんは姉さんの言葉に何も返さなかった。

 皆が自分の感情を整理する事で精一杯で、キシリア姉さんに優しい言葉を掛けられる人は居なかった。

 今、この場にドズル兄さんが居れば、もう少し違う未来もあったかも知れない。

 

「……ギレン、ダイクンの遺族はどうなっている?」

「今はラル家の屋敷に、後々正妻のローゼルシアを頼る事になりそうです」

「そうか。不自由を強いる事になるな」

 

 この時、キシリア姉さんは、二人を睨み付けていた。


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