NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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3.ファーストコンタクト

 ガンダム試作機1号の座り慣れた操縦席に腰を下ろす。

 ハッチを閉じた直後、手元を照らす僅かな光源が点灯するまでの一瞬の暗闇と静寂が戦場の孤独を思い出させる。冷たい装甲板で覆った人一人分の箱に所狭しと詰め込まれた機材の数々、戦場で頼れるのは基本的に己だけだ。少なくとも周りの誰かに助けられる事を期待して、何度も生き残れる程、戦場はあまい場所ではない。

 覚悟と共にタッチパネルに手を触れる。

 それだけでシステムが立ち上がる音が鳴り、パネルにはNTロリ娘というゴシック体の文字がデカデカと表示された。

 

『おはようございます。お早い帰りですね、ユウ』

 

 機械音声の声、メインモニターには外の景色が映し出される。

「出撃する事になりそうだ」と俺の呟きを受け取って『戦闘準備を開始します』と動力炉に火が入れられた。これまで自分が声に出し、指先で確認してきた事を自動で勝手にやってくれるのは楽だ。このAIに慣れ過ぎると他の機体に乗る時に苦労してしまいそうだ。

 緊急出撃にも対応できるようにガンダムを発射口のカタパルトまで移動させる。

 

『新規武装を確認、ビームライフルが追加されています。操作説明を行いますか?』

「必要ない」

『分かりました。敵勢力の情報はありますか?』

「聞いた話によると敵艦は一機、コロニーの外に控えている。ムサイ型の改修機だ。コロニーの中でザクを5機も破壊しているから残りは少ないと思う」

『相手にエースが居なければ、楽な仕事です』

 

 AIも楽観するのか、と悪態を零す。

 客観的事実に基づいた結論です、とBBが少し不貞腐れた声で返した。

 少しの間を取った後、ですが、と機械音声が言葉を続ける。

 

『あくまでもエースが居なければ、の話です』

 

 艦艇が動き出すのを肌身で感じ取った。

 緊張感を保ったまま、艦艇がコロニーから出航するのを待ち続ける。

 もう襲撃はあるものとして考えていた。

 

 

 改ムサイ級軽巡洋艦ファルメル、随分と寂しくなった格納庫に搭載された赤色のザクⅡに搭乗する。

 薄暗い操縦席の中で各種、計器を確認する。操縦桿を強く握り締めて感触を確かめた。やはり自分は後方で指示を出しているよりも前線で部下を率いている方が性に合っている。黒い三連星のように血気盛んな性根をしている訳ではないが、艦橋に大人しく立っているよりも身体を動かしている方が気が楽だ。戦況を見守るよりも動かしたい、搔き乱したい。辛抱が足りず、策を弄したくなる自分が艦長の役目を担うには少々若過ぎる。

 自分の苦手な役目は、自分よりも適役の人間に押し付けるに限る。

 

『コロニーのハッチが開きます』

 

 ファルメルの艦長代理を務めるドレン中尉から通信が入る。

 

『……向こうも出して来ますかね?』

「ああ、たぶんな。それでなくては戦えんはずだ」

 

 相手も戦闘になる事は分かっている。

 戦えないなら降伏する。今の戦場でモビルスーツの護衛がない艦艇は無力だ。

 逃げるようであれば、スラスターを破壊してやれば良かった。

 

『了解です。御武運を』

「中尉もな」

 

 通信を切ると同時にヘルメットのバイザーを閉じる。

 仮面の上からヘルメットを被るのは窮屈だった。少し前まではノーマルスーツも着ておらず、その理由を義妹に問われた時に「宇宙という名の戦場は、撃墜されたらそこで終わり。必ず帰還するのなら、私には無意味だ」と気取った言葉で返せば「そんな西暦の暴走族みたいな事を言ってないで、ちゃんと着てよ。もう良い歳なのに恥ずかしい」と蔑んだ目で見られてしまったので以後はノーマルスーツを着るように心がけている。

 ノーマルスーツには、耐G機能もあるので戦闘中だと着ていた方が絶対に良かった。

 

 敵の新型艦が姿を現した瞬間に攻撃を仕掛ける手筈になっている。

 協定によって戦闘艦はサイド7に手出しが出来ない。しかし先に協定を破ったのはサイド7で兵器開発を進めていた連邦軍の方だ。木馬が姿を見せた後、サイド7を盾にした動きを見せるも容赦せず、直進ミサイルで攻撃を仕掛けた。爆発に気を取られている内に私も愛機を発進させる。

 星々の煌めく宇宙に赤い軌跡を画く、相手も爆発を潜り抜けるように角付きの新型機を出していた。

 スレンダー曹長の報告によるとザクⅡとは比べ物にならない程の性能差があるようだ。ザクⅡはジオニック社の傑作機であるが、開戦当時から使われていた機体でもあった。西暦時代に起きた世界大戦の事を思えば、半年以上も使い続けた機体が時代遅れになってしまう事なんて十分に考えられる。

 しかし、それでも、モビルスーツの実戦も経験した事もない素人に負けるつもりは毛頭ない。

 

「連邦のモビルスーツ、お手並み拝見と行こうか」

 

 

 ムサイ級軽巡洋艦から二発の大型ミサイルが放たれる。

 まだ実戦経験がないブライト少尉は、攻撃を受けたという事実に動揺したが、艦長のパオロ中佐は、手加減を受けたと感じ取った。最初から本艦を墜とすつもりであれば、コロニーの搬入口から脱出する時にメガ粒子砲を撃ってきているはずなのだ。本艦が背にするサイド7のコロニーに対する政治的な配慮もあったのかも知れないが、それ以上に敵艦から新型艦のホワイトベースを鹵獲する意図が見えた。鹵獲するのであれば、航行に支障が出ない最低限の推進力は残しておきたいはずなのだ。

 その事を艦長席に座るブライト少尉に伝えようとした時に「舐められているな」と彼は呟いた。

 

「ミライ代理、オペレーターの指示通りに回避運動を! 砲塔員、弾幕を厚く張るんだ! ……やはり、素人では迎撃は難しいか。ユウ少尉、大型ミサイルを撃ち落とすことは可能か!?」

 

 パオロ中佐よりも一歩、遅れて相手の意図に気付いたブライト少尉は艦橋員に指示を出す。

 まだぎこちないが艦長として最低限の体裁は取れている。確か彼の士官学校での成績は、座学が三位で戦術と戦略に関する事は次席であったか。初めての実戦だが、自分が思っていた以上に頭が回っている彼に元教官であるパオロ中佐は満点を付けてやりたかった。

 一方でブライト少尉は脳内でバチッバチッと三次元チェスを打ち込んでいる。

 幾度と打ち込んだ同級生との対戦が彼の思考を支えていた。実際に演習で部隊を率いた経験もあり、その時の相手は決まって同級生の彼女である。何度もコテンパンに打ち負かされた経験が却って、彼を開き直らせる。彼女は何時も味方には余裕のある笑みを浮かべて、相手には不敵な笑みを見せつけていた。何時でも冷静な姿がブライト少尉の指揮官としての理想像を象っている。

 指示を出した後は部下の働きに身を委ねる。

 自分がドタバタした所で何も変わらないのであれば、せめて周りの負担にならないように艦長席にどっかりと腰を据えた。演習の時にメアリーの奇策に浮足立ってしまった指揮官が狼狽える姿は、なんとも情けなくて頼りないものか。やせ我慢でも指揮官は部下に度胸があるところを見せねばならなかった。

 そのブライト少尉の姿を見て、パオロ中佐もまた口出しするのをやめる。

 初めての実戦で、虚勢であっても度量を見せようとする新入りに情けない姿を晒す訳にはいかなかった。

 任せると決めたのであれば、任せる。

 パオロ中佐は、覚悟を決めた。

 艦長としての責任を手中に収めたまま、彼は自分の立ち位置を副官だと見定めた。

 

『やってみせます』

 

 連邦軍の新型機がホワイトベースの前に出る。

 大型ミサイルに接近し、頭部のバルカン砲を斉射した。二発の大型ミサイルの内一発を処理したが、もう一発は逃す。パオロ中佐は衝撃に備えて、目を伏せる。しかしブライト少尉は、最後までジッと画面を見つめていた。ガンダム試作機1号は撃ち漏らした大型ミサイルに向けて、ビームライフルを構える。そして放った、黄色いメガ粒子が大型ミサイルを捉えて爆破させた。

 わあっと艦橋に歓声が上がる。ブライト少尉は胸を撫で下ろした。

 

「まだだ、艦長代理。すぐ次が来るぞ」

 

 パオロ中佐が長年の経験により、艦橋内の空気を引き締めた。

 公国軍の戦闘教義の根幹には、必ずモビルスーツの運用が関わっている。

 現にオペレーターが二機の敵影を捉えた。

 

「モビルスーツのようです! でも、このスピード……一機は速いです!」

 

 ルウム戦役で、たった一機だけでレビル艦隊に突撃したモビルスーツ乗りが居た。

 彼は通常の約三倍の速度で突出し、無数の艦艇による弾幕の隙間を掻い潜り、バズーカ砲で艦艇の急所を的確に撃ち抜いた。五隻の戦艦が彼一人の為に撃破される。艦隊の隊列をこれでもかという程に搔き乱した後は速やかに撤退していった。まるで彗星の如く活躍に付いた渾名が赤い彗星。公国軍が誇る最高峰のエースパイロット、シャア・アズナブルその人である。

 逃走を促そうとした。しかし、パオロ中佐が判断するよりも早くブライト少尉が指示を出す。

 

「早くホワイトベースを前に出すんだよ!」

「え……で、でも!」

「相手は新型艦が欲しいんだ! 墜としはしないさっ!」

 

 ブライト少尉は操縦手代理であるミライ・ヤシマの反発を切り捨て、ガンダムとの通信回線を開いた。

 

「ユウ少尉、相手はスペシャルのようだ。出来るだけ援護をするが砲手も素人だ、頼りにはするな」

『了解』

「無傷で切り抜けられる相手ではない。本艦を盾にしてでも食らい付け!」

『それは……』

「宙域ではモビルスーツの相手はモビルスーツでしか出来ないんだ! 貴官が撃墜されれば、我々は降伏するしかなくなる! なあに最悪、ルナツーまで持たせれば良いんだよ!!」

 

 スラスターだけは撃ち抜かれるなよ。という艦長代理の指示にパオロ中佐は力なく目を伏せる。

 

「ワイアット君……連邦軍もまだ捨てたものではなさそうだな」

 

 暗闇の中で見た小生意気な後輩は、茶葉の入った缶を片手に匂いを嗅いで笑みを深める。

 ええ、知っていましたとも。と空想の中でも、いけ好かない態度の彼に苦笑した。

 

 

 大型ミサイルを撃ち抜いた黄色の閃光を見た時、操縦桿を握る力が強くなる。

 ビームサーベルの報告は受けていた。しかしビームライフルまで実用化しているのは想定出来ていた訳ではない。可能性としては考えていた。公国軍もまだ開発途中にある技術を目の当たりにすると、その衝撃は自分の想像を超えていた。一度は逃した大型ミサイルを後追いで悠々と撃ち抜ける弾速、命中精度。全てにおいて、脅威と呼ぶ他になかった。

 艦艇の撃墜を目的にしないのであれば、と持ち出したマシンガンの斉射で牽制する。

 しかし相手の装甲は戦艦並でマシンガンの弾を弾き返した。効果がない訳ではない、衝撃は与えている。相手が怯んでいる隙に胴体に蹴りを叩き込んでやった。出来るだけ機体を傷付けず、操縦席に乗るパイロットだけを狙った攻撃だ。しかし操縦席を守る装甲が歪んだ気配すらもなかった。

 相手がビームライフルを構える。

 咄嗟に回避行動を取った。メガ粒子の閃光は私のすぐ横を通り抜け、程なく背後からモビルスーツが爆発する衝撃が伝わった。モノアイを動かして背後を確認する。自身の僚機として出撃していたスレンダー軍曹のザクⅡが撃破されてしまったようだ。それも一撃で、あっさりと撃墜されてしまった。

 連邦軍の新型機の性能と威力に歯噛みする。

 

「あのモビルスーツは戦艦の主砲並のビーム砲を持っているのか!」

 

 だが、当たらなければどうという事はない。そのように己を鼓舞して相手から距離を取る。

 あのパイロット、モビルスーツの操縦には不慣れだが素人ではない。ならば相手の土俵で戦うのは得策ではなかった。ビームライフルの砲口が自分を狙っているのが分かる。赤い彗星と呼ばれたのは、ただ単に機体の性能の事を云うのではない。宇宙空間という自身の出している速度の分かりにくい環境で急速接近する小隕石やスペースデブリに畏れず、アクセルを踏み込む度胸と全てを回避してのける技術がなせる技なのだ。

 故に通常の三倍、全身にGを感じながら一般兵が出せる限界速度を超越する。

 新型機から放たれた閃光を不規則な動きで回避し、弾数を消費させた。元が戦艦のサイズで漸く搭載できる代物なのだ。無限に撃ち続けられるものでもあるまい。最初は二度、三度と連射していたビームライフルを撃つ数が、途中から極端に少なくなったのを感じ取った。

 ならば、攻撃を仕掛けるのは今しかあるまい。

 片手でサブマシンガンで弾幕を張りながら接近、もう片方の手で相手から死角になるようにヒートホークを握り締める。

 

「ソロモンでは黒い三連星に可愛がって貰っていたのだよっ!!」

 

 ビームライフルの砲口が自身を捉えた。

 瞬間、身を捩って躱す。閃光は胴体の装甲を掠めて溶かす。

 必要最低限の回避行動を以て、ヒートホークを振り抜く。

 相手の死角からの一撃だ。

 

 勝った、と笑みを深めた。

 

「────ッ!!」

 

 瞬間、脳裏に直感が迸った。角付きの新型機が自分の方を見ないまま、逆手に持ったビームサーベルでヒートホークの熱刃を受け止める。それを見て、咄嗟に相手を蹴って距離を取った。

 

「……カナリア、か?」

 

 有り得もしない直感に、いや、と首を横に振る。

 

「カナリアにしても、やり方が素直過ぎる。搭乗者は誰だ?」

 

 胸が騒めく直感に気付けば、通信機に手が伸びていた。

 正気の沙汰ではない、と苦笑しつつもオープンチャンネルで相手に呼び掛ける。

 ヒートホークを両手に構えたまま、臨戦態勢を取りつつだ。

 

『なんだ?』

 

 通信機から男の声が聞こえた。

 

「……男か?」

『男だったら、なんなんだ?』

「いや、なんでもない」

 

 首を横に振り、気を持ちなおして告げる。

 

「私はジオン公国軍宇宙攻撃軍所属のシャア・アズナブル少佐だ」

『俺は、ユウ・カジマ少尉だ。交渉なら上をやって欲しいのだがな』

「いや、これは私的な通信だ。気になる事があってだな」

『気になる事?』

 

 自分でも何をやっているのだと思いながらも疑問を口にする。

 

「貴官の機体には、少女が乗っているのではないか?」

『少女? ……乗っていないが?」

「……嘘ではないな?」

『少女を乗せる必要が何処にある。あんたも俺が母艦から出撃したのを見ているはずだ』

「そうか、そうだな。戦闘の合間に通信をしてすまない」

 

 仕切り直す。と通信を切断し、私は戦線を離脱する。

 角突きの新型機が追いかけて来たが、ドレン中尉に指示を出してファルメルのメガ粒子砲で追い払った。

 敵機が母艦に戻ったのを確認し、自身もファルメルに帰投する。

 

『シャア少佐、機体に不具合でもありましたか?』

 

 ドレン中尉の疑問に私はヘルメットを外しながら答える。

 

「マシンガンの弾では、アレの装甲は貫けん。次はバズーカを使う」

 

 完敗だな。と最後にもう一度だけ大きく息を零す。

 新型艦の鹵獲には義妹の助力が必要だ。

 義妹に助けを求めるのは、兄として少しだけ気が重かった。


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