なんか凄い事になってる(唖然
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ズム・シティの大通りからひとつかふたつ、道を外れた裏通りにその店はあった。
酒場エデン。少し柄の悪そうな男達が集う中で足踏み二回、拍手を一回。ズンズンチャのリズムで魂を震わせる律動を刻んだ。此処は世間様の爪弾き者が集まる場所、不満ばかりを口にする不貞腐れた面をした大人になったばかりの若者が酒を呷る。
そんな酒場のしがない舞台の上で私は彼らを指で差し、訴えてやるのだ。
おい、主語ばかりがでかい若人よ。
今は道端でヤンチャしてるけど、何時か大物になってアッと言わせてやるんだろ。自分の顔に泥を塗ってる暇があるならシャンとしろ! ガキにケツをしばかれなきゃ何もやりゃしないのか!
さあ、歌え! 私達で世界をアッと言わせてやるんだ! 私達が何者になれるのか確かめに行こうじゃないか!
くだらない理由で喧嘩して、顔に血なんか付けているんじゃねえ! 慈悲を請うな、自分で動かない人間なんて誰も助けちゃくれないぞ! 心の安寧は自分で動いて掴み取るしかないんだよ! 自分だけの旗を掲げろ、アームストロングは月に旗を立てて見せた! 私達で世界を手に入れてみせるんだ!!
さあ、今だ! 此処で虚勢も張れない奴は二度と男を名乗るんじゃない!
私達で世界をアッと言わせてやる!
さあ、吠えろ! 私はやってやるぞってな!!
「うぃー、うぃーる、うぃー、うぃーる! ろっくゆーっ! しんぐいっと!」
その場に居る全員が片手に持ったエールを天井に突き上げて、私にリズムに合わせて歌い始める。
私はカナリア、歌姫なのです。地球の音楽が聴いてみたいとランバとドズルに訴えた時、ドズルに貰った音楽CDの焼き増しを聞いた私はド嵌りした。バンド名からして私の為にあるような曲だった。歌っていた人は男の人だったのだけど、きっとこれはカバー曲とかいうもので本家本元は女性バンドに違いない。だって男性が女王様なんていうバンド名なんておかしいに決まってる! でも、この男性の人ってアマチュアとは思えないくらいに歌が上手いんだよ! 顔も名前も分からないけど、きっと有名なプロのミュージシャンになったに違いない。このカナリアがいうから絶対だ、この耳に狂いはない! ちなみにランバから貰ったのはオーケストラだった。
そんなこんなで私が歌い終えた後、私が立つ舞台に大量のおひねりが投げ込まれた。
その回収は周りに任せて、私はランバの妻であるハモンに汗を拭き取って貰う。
内縁の妻だっけ? よく分からない、浮気とは違うのかな? でも、ランバって独身だ。夫婦のようなお付き合いって事? それとも結婚を前提にしたお付き合い? 大人の世界はややこしい事ばかりだ。
でもまあ良い関係だって事は分かるので、私からは何も言う事はない。
何故なら私は出来るレディ。出来るレディは余計な小言を口にせず優しく見守るものなのです。
カウンター席で酒を啜るランバに駆け寄り、にんまりとした顔で見つめる。
「……なんだ、その目は?」
「あったかーいめ」
「馬鹿なことをするな」
ランバに心底、ウザったそうに手で追い払われた私はムッキャーと拳を振り上げる。
「ほらほら、レディが無暗に手を出してはなりません」
だがランバの腹を叩こうとした拳はハモンによって止められてしまった。できるレディの筆頭格に言われてしまっては仕方ない。と私は握り締めた拳を緩めた。
「ハモン、奥の部屋は空いているか?」
「ええ、今なら大丈夫よ。貴方の天使が酒場を盛り上げてくれたしね」
「あ、わたしもついてくー!」
私が付いて行こうとすれば、ハモンに止められてしまった。
「あなたはダメよ、まだ早いわ」
「えーっ! きゃすばるとあるていしあのはなしなんでしょ!? わたしもいく!」
「……ランバ?」
ハモンに睨まれたランバは観念するように首を横に振る。
「その子に隠し事はできない。いずれ君も分かる」
「ええ、でも……」
「ちゃんとはなしがおわったらでてくから! ふたりでいちゃいちゃしたいんだよね!?」
私が必死で説得を試みたらハモンが笑顔で私の脳天にチョップを振り落とした。
「あだあっ!!」
悲鳴を上げる私、ハモンは私を腰に抱えて奥の部屋へと足早に連れ込んだ。
ランバは周囲の客を睨み付ける。しかし、お客さんのにまにまとした揶揄う視線に耐え切れず、居心地の悪そうに私達の後を追ってくる。
私はお客さんに笑顔で手を振ったとこで扉が閉められた。
ランバが私の事を鬼の形相で睨み付けている。
私は、ハモンの腕から抜け出し、ソファの上に腰を落とす。
「まじめな、はなしをしましょう」
ハモンは困ったものを見るように失笑し、ランバは額に手を打ち付けて苦悶の表情を浮かべた。
今日の朝方、ラル家の屋敷にローゼルシアがヘリコプターでやって来た。
ジオンの正妻であるローゼルシアがジオンの遺児である二人を引き取りに来たのだ。ラル家の総領であるジンバは適当な理由を述べて、受け渡しを拒否していたけども、ジンバの頭の中にあるのは保身ばかりで聞くに堪えない。その事をローゼルシアにも見透かされてしまっているから二人の遺児の引き渡しを押し切られてしまうのだ。
舌戦に負けたジンバ。ローゼルシアは手早くキャスバル達を連れ去り、慌てたアストライアも二人を追いかけた。
この時、私もキャスバル達と一緒に行く事になるのかなって思ったけど、ローゼルシアはダイクン家に関わりのない人間は乗せないって言ってた。悪意はある、特にアストライアに対する恨みが強い。でも私には優しくできないから突き放したって事も理解できたから、二の足を踏んで三人を見送ることになってしまった。
ジンバは私を屋敷から追い出そうとしている事が見て分かった。でもランバは違った。
ランバは私を抱えて、ラル家を出た。
簡単な変装をした後で、とある酒場に訪れる。そこで開店準備を始めていたクランプって男に私を押し付けて、ランバはまた一人で何処かへと行ってしまった。クランプはキョトンとしていた、ほっそりとした顔をしている。私の知る男の人は皆、恰幅が良いか、体格の良い人ばかりなのでちょっと珍しかった。
私が彼をジロジロと見つめると、彼も私の事をジロジロと見つめ返す。
どうやら子供の対応に困っているようだ。仕方ない、私が彼にレディの扱いを伝授して差し上げましょう。
「ますたー! きついのをいっぱい!」
彼は戸惑いつつも果汁100%のオレンジジュースを奮発してくれた。
うん、モテるよ。クランプさん。ちゃんとグラスで出してくれるのが百点満点だ!
そんなこんなでクランプと一緒に居ると、ハモンがやって来た。
んで自称用心棒のタチって人が来る。
すっごいわかりやすい人だ!
心を読むまでもない。だってハモンを見て、鼻の下を伸ばしちゃってる!
そこから徐々に人が増え始めた。
メイド服を着た私を見た酔った兄ちゃんが「何かやってみせろ、褒美をやるよ」って言って来たので、私は舞台の上で自分の一番好きな歌を歌ってみせた。これがバカ受けしたのが今さっき、いつの間にかランバもカウンター席に座って私の歌を聞いていた。
私が歌ってる時、ずっと胸の内でドズルに悪態を吐き続けていたの知ってるよ。
そして今、ランバとハモンと私の三人で奥の部屋にいる。
「それで根回しは済んだのですか?」
「ああ、ダイクン派の若い奴は俺の提案に賛成してくれたよ。そっちは?」
「港湾局の伝手に話を付けておきましたわ」
私を抜きに勝手に話し始める二人の内容をまとめる。
ダイクン家の三人は塔に入れられる事になった。アストライアは塔に幽閉される事になり、キャスバルとアルテイシアはローゼルシアの下で育てられる事になる。しかしサスロが暗殺された事でラル家の地位は失墜、それに伴ってダイクン派の力も削ぎ落とされてしまっている。今やジオン共和国はザビ家が政権を握っている状況だ。
そんな状況下では、反乱の芽となるジオンの遺児は邪魔者。
二人の成長を待った後、ザビ家がダイクン家に政権を戻すのは困難を極める。それはザビ家の意志とは関係ない。今から十年以上の年月が過ぎた時、盤石に積み上げられたザビ家の政権を誰が崩したいと思うのか。その時に、まだザビ家の政権が続いているのか分からない。でも二人が政権を握れる程に大きくなった時までザビ家が続いたとすれば、その権威と権力はザビ家の方が大きくなって然るべきだ。
二人に与えられるのは、良くて権威。権力は、ザビ家に仕える形で拡大する必要がある。
まあそれもジオンを信奉するローゼルシアに育てられるとなれば、話は別。
二人が大人になった時、間違いなくローゼルシアはダイクン家による政権を訴えてくる。そうなれば水面下で息を潜めるダイクン派の人間が二人に追従し、内乱に発展する。もしかすると内乱時に連邦軍の支援を受けて、連邦軍をサイド3に招き入れる可能性だってある。
そうなった時が最悪だ。いや、二人を神輿にするのであれば、今からでも実行する事もできる。
二人は今、災厄を抱えて生きている状態である。
ザビ家から見た二人は、サイド3に居る限り、殺さざるを得ない程の危険人物となっていた。
「……ドズルが、協力してくれる事になった」
ランバが素っ気なく呟いた。
「ザビ家が?」とハモンが驚きに声を上げる。
「ダイクンの遺児はザビ家にとっても邪魔者。それを地球に追い出してくれるのであれば、願ったり叶ったりとの事だ」
「対価は?」とハモンが鋭い目で問い掛ける。
「ザビ家への恭順。ダイクン派の人間を俺にまとめさせる腹積もりのようだな」
父も見逃してくれると言ってくれた。とランバが肩を竦めてみせた。
「話は以上。此処から先は大人の時間だ」
そう言ってランバは私を部屋から追い出そうとした。
「わたしもついてくから」
「連れていける訳ないだろう、危険だ!」
「かってにいくからいいよ」
私を振り切ることができないの分かっているでしょ? と私はランバに目で訴えた。
「……いいや、駄目だ! 戦場をあまく見るな!」
怒鳴られた、本当に心配しているのはわかる。
でも、二人を助けるのに私だけなんにもしない訳にはいかないのだ!
私は涙が出そうになるのを堪えて、扉の取ってに飛びついた。そのまま部屋を飛び出す。
クランプのいるカウンター席の椅子をよじ登り、更にカウンターの机に昇って腰を下ろす。
行儀が悪い? 良いの、今日の私は悪い子なのです!
「ますたー! いつもの!」
「……代金は、おひねりの中から引いといてやるよ」
「あー……あれってどれだけあったの?」
問い掛けただけで、おひねりは結構な金額になっている事が分かった。
果汁100%のオレンジジュースを在庫、全部飲んでも足りる程。高い酒のボトルも幾つか空に出来てしまうほどだ。
結構、みんな奮発してくれたようでして……なら、私もお返しないとね!
「ますたー! みんなにえーるを!」
私を見て、店に来ていた客はみんなキョトンとした顔を浮かべる。
大丈夫、今、此処に居る人で悪い人はいない。
みんな、店の常連でハモンの味方で明日の作戦参加者だ!
「みなさん! あした、よろしくおねがいします!」
店を揺るがす程の歓声が沸いた。
奥の部屋からランバとハモンが飛び出してくる。
クランプに事情を聞いた後、ランバは頭を抱えた。
ハモンは笑うしかないって感じで腹を抱えた。
これで私も関係者だ。もう爪弾き者になんて出来ないね~?
ランバの拳骨は、とても痛かった。