NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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何時の間にか、お気に入りも3kを超えて、3kを超えた……!?
多くの高評価、感想、お気に入り、ここすき等、ありがとうございます。
書くモチベーションになります。

また誤字報告も大変助かっています。
頼り過ぎてもいけないとは思っていますが、
速度重視で書き続けられる理由のひとつでもあります。


7.まもるべきをまもるため。

 地球連邦軍、某所。とある一室にて、紅茶を淹れる音がする。

 此処には将官服を着た三人の男。英国紳士然とした男が、恰幅の良い男と白い顎鬚の男に紅茶を振舞っている所だ。

 英国紳士然とした男は、紅茶を揺らし、その香りを楽しんでみせる。

 

「ここまでは想定通り」

 

 呟いたのは、英国紳士然とした男。名はグリーン・ワイアット、階級は少将。

 恰幅の良い男は地球連邦軍の双璧の一人、ゴップ中将。

 最後の一人は少将、ヨハン・イブラヒム・レビル。彼は若い頃に地球連邦軍の鬼才と呼ばれた男だ。

 

「あまりティーカップは好まないのだがね」

 

 レビルは呟けば「その髭を剃れば良いではないか」とゴップが豪快に笑ってみせる。

 そんな旧友を胡乱な目で睨み付けて、溜息ひとつ。白い顎鬚を赤く染めた。

 

「紅茶は美味いが、状況は想定よりも拙い事になっているようだが?」

「思っていたよりも混乱が少ないのは確か。もっと派手に内乱が起こるかと思っていたが、想定以上にザビ家が上手くやる」

「ダイクンを仕留めただけでも大きいがな」

 

 五年でサイド3を自活できるまで発展させた内政手腕は驚愕に値するよ、とゴップは感嘆の息を零す。あの手腕を以て全てのコロニーを自活可能にしてくれれば、必然的にスペースノイドの地位も向上しただろうにな、とも。

 

「これではザビ家を後押ししただけではないか。──ダイクン家の遺児はどうなった?」

 

 レビルが問い掛ける。

 

「今はダイクン派のラル家に匿われているようですが、まあそれも今だけ。いずれザビ家に捕らえられるか、捕らえられたとしてどうなるか……案外、事故と見せかけて殺してしまう事も考えられますな」

 

 ワイアットが気障ったく肩を竦めたのを見て、レビルは深く息を零す。

 

「私は、あまり政治が得意ではない。二人はどう考える?」

「ジンバ・ラルに地面の下に潜るだけの知性があれば、支援しても良いかと」

「連邦軍で匿う意味は薄いな。持て余すだけだ」

 

 ワイアットが答えた後、ゴップも続いた。

 今回の騒動でジオン・ズム・ダイクンの暗殺を企てたのはグリーン・ワイアット少将。コロニー移住計画の最中、駐留軍の中には家族を地球からコロニーに移住させられた者も居た。アースノイドとスペースノイドの軋轢は地球連邦の中でも問題視されており、デギンに切り崩しを受けた駐留軍の中には、そういった状況で不満を持った者が多かった。だが地球連邦を裏切った連中の不満は分かっている。逆に、それを解消してやれば懐柔するのは容易いと言ったのがワイアット少将である。

 これに乗ったのがゴップ中将であり、裏切り者の地球での暮らしの保証は彼が根回しをした。

 またサスロを暗殺する時に使った爆弾を調達したのも彼であり、その爆弾の仕掛け方をダイクン派の人間に指導したのはワイアットの直属の部下になっている。

 

「では、ダイクンの遺児はどうするつもりだ?」

 

 再び問い掛けるのはレビル。今回の件で表立って動いていないのは彼だが、これは彼が今回、大きな役目がなかったというだけの話。ゴップも、ワイアットも、レビルの人柄と能力を信頼しており、レビルもまた同じように二人の事を信頼している。

 ワイアットは紅茶を啜り、「放っておくのが良いでしょうな」と優雅に答えた。

 

「内乱の最中で死んでくれるのが一番、しかし我らの手で暗殺してしまえばザビ家に大義を与える事になる」

「あまり疑いの目を向けられたくはないな」とゴップ。

「死ねば上、死なずとも中。下は連邦がダイクンの遺児を殺すことがザビ家にバレる事だ」

「ああ、でも、なにかの成り行きで殺すことは可能かな?」

 

 例えば、相手が戦車でも奪って逃亡している時に、それを止める為に止むを得ずってのはどうかな。とゴップが問いかける。

 

「それでも相手に砲を撃たせなくてはなりませんがね」

「それなら威嚇射撃でも止まらなかった、というのはどうだ?」

 

 このレビルの言葉にもワイアットが答える。

 

「まあ悪くはないが、悪くはないといった程度だな」

 

 ワイアットの返答にレビルは紅茶を呷り、真っ赤に染めた顎髭をハンカチで拭いながらしみじみと口を開いた。

 

「まさか私達が子供の生き死にを算段に立てるようになるとはな……嫌な大人になったもんだ」

 

 ワイアットは失笑する。ゴップもまた困ったように目尻を下げた。

 

「レビル、我らが守るのは100億人の連邦市民だ。それに国民を守る為に存在するのが軍人とはいえ、彼らにも家族がいる。戦争せずに済むのであれば、それに越したことはない」

「経済という観点から見ても戦争で儲かるのは軍需産業の関係者だけだ。戦争は起こさない方が良い。どれだけ卑劣で卑怯な作戦を取ろうともな」

「……まったく国を左右する人間というのは因果なものだな。あまり出世し過ぎるものではない」

 

 レビルは溜息を零し「では、私達は事の成り行きを見守るとしよう」と場を締め括る。

 

 

「ああ、そうだ。レビル」

 

 ワイアットが茶器を片付ける音がする中で、部屋を出ようとするレビルにゴップが声をかけた。

 

「時代のせいじゃない。世界のせいでもなければ、誰に言われた訳でもない。これは私達が自ら決断し、選択を続けてきた道だ。自分がやらずとも、どうせ誰かがやっていたからではない。私達が私達の意志を信じてやった事だ」

 

 なあ、そうだろう? と問う彼にレビルは、

 

「ああ、そうだとも。そうなのだろうな」

 

 と力強く頷き返した。自分に言い聞かせるように。

 

 

『ランバ、準備は出来ているな?』

 

 通信機越しの言葉。嘗て、政敵だった男の声が聞こえてくる。

 

「ああ、若い者は全員配置に就いたよ」

 

 情報は逐次、各部隊の通信機から入れられている。

 今回の作戦はダイクン派の若者衆とザビ家の合作、共演だ。ダイクンの遺児の扱いは、ジオン共和国の中でも困っている。ザビ派の連中は反乱の芽を摘む為に暗殺する計画を企てているし、ダイクン派の連中は遺児を神輿として担ぎ上げる事で復帰を企んでいた。こんな状況では、まとまるものもまとまらない。そこで体良くダイクンの遺児をジオン共和国から追い出すのが今回の目的だ。

 だが共謀を気付かれてはならない。

 あくまでもザビ派の魔の手から逃げる形で、ダイクンの遺児をジオン共和国から追い出す必要がある。

 これには連邦の目を欺く意味合いもあった。

 

「茶番だな」

『ああ、茶番だ。だが、この茶番が政治なんだろう?』

「武人のやる事ではない」

 

 だが、その茶番がダイクンの遺児を救う為に必要だという事は理解している。

 

「そろそろ出る」

 

 俺は通信機を片手に持ったまま、装甲車両に乗り込んだ。

 

 正直、政治はあまり好きではない。

 個人的に政治というのは自分の立場を良くする為に実行する工作行為だ。他者を助ける事で恩を着せ、自分を助けて貰う為に根回しする。そういった貸し借りの積み重ねが政治というものだと俺は理解している。

 だが、俺の根っこにある部分は武人だ。助けるべきを助ける、守るべきを守る。それだけで良いじゃないか。集団で動く以上、不要な争いを避ける為にも政治が必要だと分かっているが、この茶番めいた行為を理解はしても納得し切れない。こんなおままごとなんて煩わしいばかりだ。

 まあ、そう考えても──自分だけならいざ知らず、政治をしなければ自分を慕う者達の立場も悪くすることも分かっている。

 

 世の中、動機ってのは驚くほどに単純な事が多い。

 しかし社会というのは、立ち眩みをするほどに複雑に絡み合っている。

 

「本質だけを見て、物事を単純に捉えたい。と考えるのは、やはり怠慢なのだろうな」

『俺もそうしたい。だが人の上に立つ者として、やはり、それではいかんのだと俺は思い直すことにした』

「随分とご立派になられたもので」

 

 素直に感心するのも癪で、皮肉交じりに返す。

 さて、と俺は車内を見渡した時、そこに居るはずの幼子の姿が見当たらなかった。

 

「……おい、カナリア嬢は何処へ行った?」

 

 どうせ戦場に出てくるのであれば、自分の隣が最も安全。そう考えて、彼女には俺が乗る車で待つように言い付けていた。

 

「はッ、あの酒場の幼子の事でしょうか? 見かけていませんね」

 

 同乗する若い軍人が答える。

 

『おい! カナリアがどうしたって!?』

「あの馬鹿……!」

『ランバ・ラル! 答えろ! おいっ!!』

 

 アイツが向かった場所は分かっている。

 時計を見る、もう既に作戦は開始された後だ。

 今更、連れ戻す事はできない。

 

 ああ、クソ。と頭を掻きむしる。

 

「作戦を開始する! 道路を封鎖し、連邦を足止めするぞッ!!」

 

 

 ローゼルシアの下に居るとザビ家の人間に殺される。

 それが僕だけなら真っ向から迎え撃つ覚悟も決められたけど、妹のアルテイシアまで狙われるとなれば話は別だ。

 ダイクン派の一人、ランバ・ラルの仲間。クラウレ・ハモンの協力で屋敷から逃げ出す事ができた。母は塔に残されたままだ、今の僕達では母を助けることはできない。連邦軍の制服を着たハモンが乗ってきたガンタンク*1に乗り込んで、着替えと一緒に砲座に押し込まれる。

 ハモンが下の操縦席に降りて行った後、アルテイシアと見つめ合った。

 とりあえず着替えるのが先決か。

 そう思った時、座席の下でもぞもぞと動く小さな人影があった。

 

「……カナリア。何故、そこにいる?」

 

 もう顔を合わせる事もないと思った少女が「きちゃった」と悪戯っぽく舌を出した。

 

 

 ダイクン家の遺児を砲座に押し込んで、操縦席に戻る。

 操縦席には二人の男、このガンタンク本来の操縦手と砲手。二人は地球連邦駐留軍に所属する正規の兵士だ。

 情報が漏れた時のリスクを考えて、二人には詳細を話していない。それが仇となる。

 

「ニセ少尉さんよ。最初によォく聞いておくんだったよ」

 

 どうやら仔細がバレてしまったようだ。

 

「上に乗せたあのガキ共。えらい上物のようじゃねえの」

「なんか俺達、えらく安請け合いしちゃったみたいね」

 

 私は今、足元を見られている。

 

「あら、そうかしら? 燃料費込み二万ドルで貨物センターまでタクシー代わりというのは悪いアルバイト料ではないと思うけれど?」

 

 気丈な態度を崩さず、しかし背に腹も変えられないのも事実。

 プラス1万ドル、フルスピードを条件に再度、条件を持ちかけるも二人は挑発的な笑みを崩さなかった。

 もっと搾り取れると思われている。完全に舐められていた。

 

「カネがそれっきりしかないっていうんならしかたないけどネ。その場合は……」

 

 砲手の男が下卑た笑みで詰め寄って来る。

 ここで引けば、骨の髄まで搾り取られる。

 本能的に察した私は、静かに覚悟を────

 

「てりゃあああああああああっ!!」

 

 頭上からメイド服を着た幼子が降って来た。

 何故、彼女が此処に? 砲手の顔に飛び付いた彼女は、数秒もせずに壁に叩き付けられる。

 ふぎゃっ! という声と共に器材の角に頭を打ち付けたカナリアを見て、

 

 私は、我慢が利かなくなった。

 

 カナリアに注意を向ける砲手、その鼻っ柱に肘を叩き込んだ。

 顔面を両手で押さえる。まだ意識は残っている、無防備になった股間に蹴りを叩き込んだ。

 砲手の男が地面に崩れ落ちる。受け身も取っていなかったので、完全に気絶したようだ。

 操縦手が咄嗟に拳銃を抜き、銃口を私に向ける。

 

「やめなさい!!」

 

 威圧する、吹っ切れた私に恐怖はなかった。

 

「こんな所で銃を撃ったらどんなことになるか。まさか知らないわけじゃ────」

 

 パン、

 

 と、

 

 乾いた、

 

 音が鳴った。

 

 操縦手の男の眉間に空いた穴、赤い液体が噴き出した。

 音がした方を見る。切った額から血を流す幼子が、苦しそうに右肩を押さえていた。その足元には拳銃がある。

 彼女の側には、ついさっき気絶させた砲手の男。

 頭の、中が、真っ白になる。真っ白になった頭の中で、辛うじて残ったのは作戦の目的の事だ。

 ここで立ち止まっては、砲座にいるダイクン家の遺児を助けられなくなる。

 

 酒場エデンの歌姫アストライアが残した二人の子供、私が尊敬する先輩の子供達が政争の道具にされる。

 

 立ち止まる訳には、いなかった。

 操縦手の男を、操縦席から引き剝がす。ガンタンクの操縦なんてやった事はないが、マニュアルは読み込んでいたし、実際の操縦は先程まで見させて貰っていた。まだ痛みを堪えるカナリアを抱きかかえて、操縦席に乗る私の膝に乗せる。

 我武者羅に、形振り構わず、ガンタンクを爆走させた。

 だが、それも長くは続かない。

 

「ガンタンクが四台……!」

 

 正面から隊列を為して、近付いてくる。

 両肩に乗ったキャノン砲の砲口は、紛れもなく私達に向けられていた。

 

「どうする? どうする……!」

 

 此処で立ち止まる訳には……撃破、しなくてはならない。

 やるべきことは分かっている。操縦桿を握る手が震える。私は酒場の歌姫、死んだ人を見かける事はあっても殺し合いに参加した事もなければ、誰かを殺した経験もない。呼吸が荒くなる、照準器を見る目が霞み始めた。視界がブレる。照準器の真ん中に敵機が収まっているのに、照準が定まらない……ッ!?

 その時、小さな手が操縦桿を握る私の手に添えられる。

 

「そこっ!!」

 

 小さくてか弱い、されど力強い彼女の手がキャノン砲の発射スイッチに押し込まれる。

 自機の両肩から放たれた砲弾は吸い込まれるようにガンタンクの急所に命中した。

 

「……きこえる。こえが、きこえる……でもっ!!」

 

 二度、三度の繰り返される砲撃は全て、ガンタンクの急所に当たって爆炎が上がる。

 気付いた時には、三台のガンタンクを撃破してしまっていた。

 膝上に乗る彼女の顔は──悲しみがない訳じゃない、恐怖がない訳でもない。

 怯えを飲み込んで、困難に立ち向かうその姿は。

 私の愛しい人が戦地に赴く時の横顔に、よく似ていた。

*1
ガンタンク初期型(型番:RTX-65)。この時はまだMSの概念はなく、大型戦車という枠組みに入れられている。コアブロックシステムはない。


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