NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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8.かなりあちゃん、よんさい。

『7thアヴェニューで戦闘発生! 連邦軍戦車同士が撃ち合っています!』

 

 ショッピングモールにある大型の電光掲示板に、映し出されるニュースの速報。緊急避難を促すアナウンサーの姿を見て、困惑する。

 ハモンがガンタンクを持ち出したのはローゼルシアの警備兵に対して威圧し、ダイクンの遺児を引き渡させる為であり、仮にダイクン派やザビ派と戦闘になった時でも確実に逃げ出せるように保険も兼ねている。まあ尤もザビ派の抑え込みはドズルがやってくれているのだが──そこに連邦軍との戦闘は想定にない。ドッキングベイのカーゴターミナルまで行けるところまで突き進んでから乗り捨てる手筈となっていた。

 それがガンタンクを撃破だ? 何の冗談だ、これでは連邦軍も本気を出さざるを得ない。

 

「や、やばいぞ、おい……ハモンのヤツやりすぎだ! この後、どうするつもりなんだ!」

 

 装甲車に乗り込んで、運転手にアクセルを踏み込ませた。

 

「女なんてものは、キレると何をするかわからん!」

「どちらへ? 大尉殿」

「現場だあっ! それ以外に行く所があるかあっ!」

 

 非常事態、法定速度を無視して装甲車を飛ばさせる。

 道端に乗り捨てられた自動車を蹴散らして、なんとかハモン達を救う為に暴走するガンタンクの側まで急いだ。

 救いがあるとすれば、あそこにはカナリアが居るはずだ。

 勘の良い彼女であれば、この危機的状況からも抜け出せるかも知れない。

 

「……ったく! 我ながら子供を頼りにするとは情けないっ!!」

 

 兎にも角にも今は現場に辿り着かなければ、どうしようもない。

 

 

 7thアヴェニューにて、連邦軍による阻止線が形成される。

 並べたるは八輌の戦車、四輌のガンタンク。既に四輌のガンタンクが撃破された事もあり、兵士達の顔に緊張感があった。

 これ以上、被害を出す訳にはいかない。地球連邦の認識としてサイド3は、未だ統治下にあり、彼の地は紛争宙域に指定されている。つまり連邦軍にとってジオン共和国は守るべき宙域であり、ジオン共和国の国民は守るべき市民だ。それが如何に欺瞞であったとしても、どれだけ石を投げつけられようとも、地球連邦軍はサイド3の市民を脅威から守る義務がある。

 不満はある。なんでこんな奴らの為に命を張らなきゃいけないのかなんて誰もが思っている。

 

「間もなく阻止線に到達する!」

 

 それでも私情を飲み込んで守るのが軍人。職務には忠実、それが公人。

 

「警告の上、一斉射撃を加えて破壊せよ!」

 

 鬱憤は任務を終えた後、民間人の耳に入らない場所で幾らでも叫んでやれば良いのだ。

 

「待ったあああ!!」

 

 だが、それをして貰っては困るのだ。と強面の大柄な男が単身で彼らの前に立ち塞がる。

 

「ジオン国防隊、首都バンチ司令部のドズル・ザビ少佐だあっ! 責任者は誰かっ!?」

 

 つい先程まで、逃げ出すダイクンの遺児を捕える為に動き出したザビ派の人間を止める為に奔走していたドズル。

 ガンタンク暴走の報道を聞いた彼は、現場へと一目散に駆け付ける。政治に興味を持ち始めたといっても、まだ17歳の若者。我慢が利かずに飛び出してしまった彼の若さが、この時ばかりは功を奏する。彼の背後では、肉眼では確認できないが中破したガンタンクの煙に紛れて動く人影があった。

 そんな事も露知らず、「攻撃はちょっとまたれいっ!!」とドズルは声を荒らげる。

 

「共和国前議長の御子息、御令嬢があれに乗せられている! 攻撃はならん! 御二人を救出したその後でなければっ!」

 

 そのドズルの迫力に気圧された阻止線の指揮官は「わ、わかった。今、司令部に問い合わせて」と通信機を片手に取る。

 

 この時、地球連邦がジオン共和国の存在を認めていれば、ドズルの要望は受け入れられていた可能性が高い。

 だが、地球連邦から見たジオン共和国は、統治下のサイド3という宙域に他ならない。連邦にとってジオン共和国という名は、テロリスト組織の名称なのだ。勝手に統治下にあるコロニーの所有権を主張する犯罪者集団の名がジオン共和国なのだ。

 それに既に被害は出てしまっている。ガンタンク四輌という大きな被害、死者も出てしまっているからには地球連邦としても引く訳にはいかない。テロリストの前リーダーの子が車輌に乗せられているからといって、連邦が砲撃を止める理由にはならなかった。

 つまりドズルの要請に対する返答は一言、連邦の知った事ではない。

 

「速やかに叛乱車輌の制圧、破壊……と、いうことのようだが……」

「聞き捨てならんっ!」

 

 かといってドズルもまた引く訳にはいかなかった。

 彼はダイクンの遺児の他にカナリアの命も背負っている。ランバ・ラルから得た情報で暴走したガンタンクに乗っている可能性が高いという話を聞いていた。彼はカナリアとの付き合いでキャスバルやアルテイシアとも仲良くなっている。最早、彼にとって三人は身内であった。義務感ではない、使命感でもない。私情で彼は動いている、感情で彼が動かされていた。

 だが、それ故にドズルは頭を回転させねばならない。

 

「如何に連邦の論理とはいえ、そのような事は! 知った事ではないとはなんだッ!!」

 

 感情で訴えても何も変わらない事は分かっている。

 だが、考え込む時間はない。言葉を詰まらせてはガンタンクが砲撃を受ける。

 喋りながら、論理的に言葉を積み重ねなければならない。

 

「我等の指導者ジオン・ズム・ダイクンの遺児をおのれどもは殺すというのかッ!? それがジオン共和国、延いてはサイド3に住む人々にとって、どういう意味か分かっているのだなッ!? 戦争だ! かつて世界を巻き込んだ戦争は皇位後継者とその妻の暗殺から始まった! 東洋の島国と大陸の戦争は駐屯軍と現地軍の間で起きた一発の銃弾から始まった! 貴様には、戦争の引き金を引く覚悟があるのかッ!!」

「い、いや……」

「全宇宙を戦乱に巻き込む覚悟があるのかと聞いているッ!!」

 

 責任者が気圧される。だがしかし、こうしている間にも状況は刻一刻と悪くなっている。

 

「GT四〇一接近! 速度変わらず、距離二〇〇〇!! 停止命令に依然、応答しませんっ!!」

「よし、砲撃用────えっと、ドズル少佐?」

「撃てば戦争になるぞっ! おいこら!? 良いのか、戦争だぞッ!?」

 

 ガンタンクの姿が見えた。事ここに至っては、力押しで時間を稼ぐしかなかった。

 

「ドズル少佐、少しよろしいでしょうか。ギレン様からの言付けです」

「何?」

 

 後ろを見る、見慣れない顔だ。ジオンの軍服を着ている。

 

「もう大丈夫だ。万事解決する。との事です」

 

 ……どういう、意味だ? ドズルの頭の中は完全に止まってしまった。

 

「これ以上は……待てません! もう駄目です! 砲撃を受けてしまいます!」

「砲撃用意ッ! ドズル少佐、貴方の懸念も分かります! しかし、しかしながら、みすみすと配下を死なせる真似もできんのです! 砲撃の許可……頂けますか?」

 

 背筋を伸ばして問う彼の瞳には、許可がなくとも砲撃するという覚悟があった。

 その時、茫然としていたドズルは「……ああ」と勢いに飲まれて頷いた。

 

「砲撃許可、てぇー─────ッ!!」

 

 暴走したガンタンクは砲撃の雨に晒されて、火の海に沈んだ。

 その速度は、暴走している割には、やけに遅かったなあ。と漠然と思った。

 

 

 怒涛の砲撃音が響き渡った。それを聞いて俺はダッシュボードに拳を打ち付ける。

 

「始まった……間に合わなかった!」

 

 俺が歯を食い縛っている間も運転手は軽快に装甲車を走らせた。

 そうして路地裏の近道から表通りに出た時、運転手に肩を叩かれる。

 顔を上げる、運転手が指で差す方を見た。

 見知った顔の四人組を見て、思わず破顔してしまった。

 ああ、本当に良かった。と全身から息を吐き出す。

 

「いかんいかん。あんな事をしでかした後だ、しっかりと釘を刺しておかねばな」

 

 両頬をパンと叩いて、表情を険しく引き締める。

 運転手が彼女達の側に車を止めた。

 コホンと咳払いをひとつ、開けた窓からハモン達の様子を眺める。

 

「……何があった?」

 

 三人は暗い顔をしており、メイド服を着た幼子は頭から血を流していた。

 俺の問いかけにハモンは答えられなかった。とりあえず俺は四人を装甲車に乗せて、配下の一人にカナリアの治療をさせる。アルテイシアは単純に怪我をしたカナリアを心配しているだけのようだ。しかしキャスバルは何も口にせず、ハモンは膝に乗せたまま治療を受けるカナリアの頭を延々と撫で続けている。そして肝心のカナリアはヘラヘラと笑っていた。

 なにか起きたのかは明白だ、十中八九でカナリアがなにかをやらかした。

 だが今は一刻でも早く、目的地に到達するのが先だった。

 

 ドッキングベイのカーゴターミナル。此処まで送ってきた三人を急いでコンテナの中に詰め込まなければならない。

 カナリアが意地でも付いて来ると言ったのは、おそらくキャスバルとアルテイシアを心配しての事だ。それは即ち二人の後を追いかけるという事に他ならない。それはキャスバルとアルテイシアも同じように思っていたようだった。キャスバルは先にコンテナの中に入った後で頭に包帯を巻いたカナリアに手を差し伸べる。アルテイシアもカナリアの隣で「はやく! はやく!」と声を上げる。

 だが、カナリアは歩を進めなかった。困ったように笑顔を浮かべるだけだった。

 

「きゃすばる、あるていしあ。かなりあとは、ここでおわかれです」

「……何を言っているんだ。冗談を言っている時間はないぞ、早く来るんだ」

「いいえ、いけません。わたしには、ここでやるべきことがあります」

 

 妙に畏まったカナリアが「もうしわけありません」と深々と頭を下げる。

 

「わたしまでいってしまえば、あすとらいあがひとりになります」

 

 たぶん俺はまだ、この子の事を見縊っていたのだと思う。

 

「てがみはわたしあてでください。たぶん、けんえつされちゃうから、きゃすばるはちゃんとみてあげてね」

 

 まだ四歳の子供だと、何処かで思い込んでいた。

 キャスバルは、カナリアを睨み付ける。睨み付けたように見えるだけで、涙を堪えているだけだという事はわかった。

 アルテイシアが愚図りだした。大声を上げそうで、拙い。と思った時、カナリアが彼女を抱きしめる。

 

「おねえちゃん、またあおうね」

「ずるいよお……こんなときだけ、おねえちゃんってずるいよお……」

「てがみ、おくるよ。とどくかどうかわからないけど」

 

 カナリアが優しくアルテイシアの頭を撫でれば、アルテイシアは不貞腐れるように頬を膨らませた。

 

「申し訳ありませんが、もう時間がありません。早く入ってください」

 

 カーゴターミナル所属のタチ少尉が三人を急かした。

 アルテイシアとカナリアは、最後にもう一度だけ抱き締め合って、互いの頬にキスしてから身体を離す。

 キャスバルは眉間に皺を寄せて、ずっと泣くのを堪えている。

 

「またね! かなりあ、ぜったいだよ!」

「うん、またね。きゃすばるも」

「……ああ、そうだな」

「いきてりゃどうとでもなる」

 

 カナリアは最後に強く笑って二人を見送る。

 コンテナの扉が閉じた後もカナリアは泣かなかった。

 強い子だと思う、コンテナが無事に届けられるのを見送る為に別の場所へと移動する。

 窓から見下ろす、周りには誰も居ない。

 移動するコンテナを見送りつつ、俺はハモンに問い掛ける。

 

「合流する前に何があった?」

 

 ハモンは言い淀んだ、カナリアは顔を俯かせる。二人の言葉を、俺は待ち続ける。

 廊下の奥から足音がした。良い子も泣き叫ぶ強面、ジオンの軍服を着た大柄な男。

 彼は俺達の姿を確認すると笑顔で手を振った。

 

「ひとを、ころしました」

 

 足音が、止んだ。カナリアは、笑顔を浮かべていた。

 

「けんじゅうでひとり。あのせんしゃで、はちにんころしました」

 

 それは相手を気遣わせない為に大人がするような笑顔。

 後悔する。俺は何故、まだ四歳の子に、こんな顔をさせているんだ。

 今すぐに、この愚鈍な頭をかち割ってやりたい。

 だが、今は、そんな事よりも先に、してやらなくてはならない事がある。

 

「あたまのきずはだいじょうぶ。おちてたけんじゅうをひろって、こう……かまえて……みけんにあたって……しょうじゅんきのまんなか、ちゃんといれて……すいっちをおして……わたし、あのろぼっとせんしゃをよんだいもたおしたんだよ!」

 

 ほめて! と悲痛に叫ぶ、彼女の頬を思いっきり叩いた。

 手に力は入れていない。でも、しっかりと彼女に気持ちが伝わるように叩いてやった。

 俺は大人として、失格だ。この子はまだ四歳なのだ。

 

「あ……あぁ…………ああ、う……うあ……あ、ああ……っ!」

 

 茫然とするドズル。駆け寄ってくるハモンを睨んで制止し、彼女を抱き寄せた。

 

「すまんな。守ってあげられなくて、すまんな」

「う、うぅ……うあ…………ぅ……うあああああああああああああああああああああああん!!」

 

 カナリアが俺の胸に顔を埋めて、大声で泣き叫んだ。

 ハモンとドズルに周囲を警戒するんだ、と視線で指示を出す。

 

「はもんがあっ! うたれちゃうっておもったらあ、からだがうごいててぇ……!! やらなきゃ、やられちゃうって……うごかなきゃっておもってッ!! あのろぼっとせんしゃも……わたしがうたなきゃ、きゃすばるがうってた! わたしはもうころしたから! ころしちゃったから、きゃすばるにうたせたくなくて、だから、わたしがかわりにうった!! きゃすばるはおにいちゃんだから! あるていしあをまもらなきゃいけないから! だから、わたしが! わたしがうったらいいんだって、おもったから!! ひとりもふたりもいっしょだって!!!」

 

 まもりたかったんだよ!? とカナリアは、また泣き叫んでしまった。

 

「わかっている。お前は優しい子だ。理由もなく、そんな事をする子ではないのは分かっているつもりだ。お前が悪い子だとは欠片も思っていないよ」

 

 怒っている訳じゃない、殴りたかった訳でもない。

 でも誰かが叩いてやらないといけなかった、それも今すぐでなければならない。

 ハモンは助けられた人間だ、ドズルでは彼女を叩けまい。

 この場に居る人間で彼女を叩けるのは、俺だけだった。

 俺だけが彼女を叱ってやることができた。

 今、痛みを以て叱ってやらないと、この子は道を踏み外すことになる。

 

「すまなかったな。それは大人の仕事なんだ。それをお前にやらせた俺達の失態だ」

 

 食い縛る奥歯が砕けて、血の味がした。

 俺はもう二度と、彼女のように泣く子を見たくない。

 そう強く、願うようになった。

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