いつも一緒にゲームをしていた。ずっとこれが続くと思っていた。

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しばらく前に書いた物の供養です。
よろしければお付き合いください。


姉とゲームと思い出と

「僕」には姉がいる。姉と僕は小さいころからおもちゃの取り合いや見たいテレビ番組のチャンネル争いといったようなけんかをすることが多く、お互いに悪口も言い合ったし、酷い時には取っ組み合いに発展した覚えもある。

 

 しかし、まったく仲が良くなかったわけではない。姉と僕が不思議と仲良くできた遊びが、ゲームであった。ある日、父が気まぐれで買ってくれた灰色の小さい箱、スーパーファミコンと星のカービィ3のカセット。テレビ画面に映る見たこともない未知の世界、そんな世界を彩るBGM、その世界を全力で生きている魅力的なキャラクター、それらすべてに僕たちが夢中になるのには時間はかからなかった。最初はどちらがカービィ(1P)を操作するか少し揉めたが、ゲームをしているときは自然とお互いに協力し、仲よく遊べた。そしてなにより楽しく遊べた。(1P争いは死闘(ジャンケン)の末、姉が1Pをプレイ。この時から僕は姉とのゲームでは2Pでプレイするのがデフォルトになった)

 

 それからは色々なゲームを通じて2人で色々な冒険をした。広大な大地、無限に続く大空、大海原、砂漠、氷の世界、過去や未来の世界だって2人でなら制覇できたし、どんなに大きな敵や強い武器や魔法を使う敵、世界を脅かす巨悪だって2人で倒し、正義の味方や英雄にだってなれた。どんなに困難でもお互いに補い合い、知恵を出し合い、切磋琢磨し乗り越えられたこの姉となら、どこまででも冒険できると子供ながらになんとなく信じていた。

 

 

 

 時が経ち、姉は遠くの大学に進学するために家を出て行き、そのままその地域で就職し始めた。心配性の母は就職の知らせを聞いた後もいつでも帰って来れるようにと姉の部屋をそのままにしており楽観主義の父からは「子離れしてあげなよ」と苦笑いされていたのは記憶に新しい。

 

「私」は高校生になり、勉学に四苦八苦し、部活動をほどほどに楽しみ、多くはない友人たちと駄弁るという平凡な日々を続けていた。高校生になってからは思春期からか一人称が「僕」だと恥ずかしい気がして大人っぽさを演出しようと一人称を「私」に変えたりした。ゲームが好きなのは変わらないが勉強や部活が忙しいのと、高校生が自由に使える金などたかが知れている問題により、最新ゲームの情報は仕入れているが買うことはせずたまに中古屋で安い一昔前のゲームを買いあさっている。そのためうちのスーパーファミコンはまだまだ現役でいてもらわないと困るため国宝のように大事に使っている(国宝がどのくらい大切に扱われているかは知らんけど)。それに、これは姉と「僕」が冒険をした証だ。「完全な形で残しておきたい」「何かが欠けてしまえば、思い出の壊れてしまう」今思うとそんな思いが心のどこかにあったのかもしれない。

 

 

 

 

 そんなある日、ネットサーフィンをしていたら

 

「星のカービィシリーズ最新作! 星のカービィ スターアライズ ニンテンドーswitchにて発売決定!!」

 

というニュースを発見した。「まぁ、どーせswitch持ってねーし買わないだろーな」と思いつつその記事を流し見していると、ある1点の画像に手が止まりパソコンの画面を凝視してしまった。そこには子供のころにカービィ(姉)と一緒に冒険したあのキャラクター(僕)の姿があったのだ。

記事を読み進めると、カービィシリーズで出てきた過去作のキャラクターを使って遊べるということが分かった(この時、私が操作していたキャラの名前がグーイであることを初めて知った)。過去に思い入れのあるキャラクターでまた遊べる、そう考えただけでわくわくが止まらなかった。早速準備しなくては! Switchは高いが短期バイトで貯めた金で何とかなるか! 周辺機器は買おうかな? あぁ、興奮してきた! また、あの時のキャラを使って、あの頃と一緒に――――― 一緒に?誰と?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・急に興奮が収まっていくのを感じた。

 

「・・・・・・まぁ、受験もあるし、やってる暇、ないよね」

 

わざとらしくそうつぶやくとそのままニュース記事を閉じ、柄でもないのに勉強を始める。まるで何かから逃げるように。

 

 

 

 そんなことも忘れかけていたころ、久々に姉から「次の連休、遊びに来ない?移動費出すからさ」という内容のメールが来た。久々のメールに驚きつつもちょうど予定もなかったし、移動費も出してもらえるのはありがたいと思い、行く旨の返信を行った後、ふと「遊ぶって、何して遊ぶんだろ?」と疑問に思った。姉と遊ぶ・・・・姉とまともに遊んだ記憶がゲームしか出てこなかった・・・・この年になってゲームしか出てこないとは我ながら幼稚だと思うが実際それが真っ先に出てきたということはきっと私が1番やりたいことなんだろうなと思うことにした。ゲームといえば、この前switchを買うかどうか迷ったなと思い出しただが、最近友達との付き合いが多く出費が多かったため金欠であり今からswitchを手に入れることは不可能に近かった。さて、どうしたものか・・・そうだ、スーパーファミコン持っていこう。とち狂った考えだなぁと自分でも思うが、それしか思いつかなかったし、何より久しぶりに、姉と一緒にゲームができると考えるとあのわくわくがよみがえってくる。

よし、早速準備しよう! キャリーケースにスーパーファミコン一式を詰めて、カセットはマリオカートと、それからゴエモン・・・は吉田君に借りパクされたんだった・・バレバレなのに最後は逆切れされてそのまま押し切られたんだよなぁ・・おっと、感傷に浸っている場合じゃない。あとは聖剣伝説2とそれからもちろん――――あれ? 星のカービィ3のカセットがない・・? 

 

何度も手持ちのカセットを確認したが、星のカービィ3のカセットだけがなぜかない。置き忘れた? いや、最近どころか姉が遠くに行ってから1人で遊ぶ気になれず、ケースからカセットを出した記憶がない。借りパクされたのを忘れていた? いや、あのカセットは姉と取り合いになったとき自分のものと主張するため自分の名前をマジックで大きく書いてしまって恥ずかしくて友達に見せたこともなかった。まぁおかけで借りパク防止になったが・・・というかカセットの取り合いってなんだよ・・・結局2人で遊ぶんだからあんまり関係ないだろ・・ じゃあ姉が持って行った・・・カセットだけでどうしろと。

うーむ、考えても心当たりがまったくない。考えているうちになんだか萎えてしまった。まぁ流石にいい年だしゲームはないかと自分を納得させゲーム機の持ち込みをあきらめた。

 

 

 

 あれから姉のところに行く当日までカセット探しを続けたが、全然見つからなかった。やっぱり、それからも何度かスーパーファミコンやっぱり持って行こうかなと何度か考えては、カセットを探すことを繰り返してしまっていた。今思えば、あきらめたと口では言っていたがキャリーケースの中にスーパーファミコンを入れっぱなしにして、元の位置に片づけようとせず、結局部屋に置いたままにしてきたので未練たれたれだよなぁと感じる。まぁ、カセットは家の外に持ち出した記憶はないし、そのうち見つかるだろう、などと考えていたら「まもなく○○~○○駅前~」と電車のアナウンスが鳴り響いた。姉の住むアパートまでは電車を乗り継いで約2時間弱、長時間移動でくたびれた身体を伸ばしながら電車から降り駅の出口まで歩き始めた。

 

駅から出てすぐに、「おーい!」という懐かしさが感じられる声が耳に届く。声のするほうに顔を向けると、小さめの紙袋を持った姉がぶんぶんと大きく手を振っていた。最後にあった時よりどこか大人びている、だがどこか子供のころの面影がうかがえあの頃を思わせる雰囲気が漂っている。私は姉が少し変わってしまったことへの不安と懐かしさからくる安心感で複雑な気持ちになりながら「久しぶり」と短く返した。挨拶もそこそこに2人で姉の住むアパートまで歩く。駅から距離があるほうが安いとのことで徒歩15分ほどかかるらしい。移動中、姉は「遠いのによく1人でこれたね」「最近学校はどう?」「ここの近くにモスバーガーあるんだよ。地元にはなかったよね」などいろいろな話題をふってくる。気を遣ってくれているのか話題は私が興味を示しそうな話が中心だった。だが、そんなことに気を遣わなくても、久しぶりに姉と話すことができた。――――それだけで「僕」はうれしかったんだ。

 

 

 

 話に夢中になっていたからか、徒歩15分の距離はあっという間だった。姉のアパートは駅からは遠いが新しそうな外観で、これなら駅から多少遠くても入居したいと思う人もいるだろうなと感じた。姉の部屋に入りリビングルームに誘導されながら、そういえば遊ぶって何するんだろう?と思い出しそれを聞こうとしたところ、リビングルームのテレビに目が釘付けになった。いや、正確にはテレビの前においてある1つの機械、この間まで私が買うか買わないか悩んでいた例のもの、ニンテンドーswitchがそこにはあった。「あっこれって・・」と私が言い終わる前に姉は持っていた紙袋からあるものを取り出した。長方形型の箱で派手な色合い、特に目を引くのはあの頃より鮮明に描かれているキャラクター、そしてその箱には「星のカービィ スターアライズ」と書いてあった。

 

「久しぶりにさ、一緒にゲームやろう」

 

少し照れながら姉が言った。――――あぁ、姉も同じ気持ちだったんだ。と胸の奥が熱くなるのを感じた。

 それからは姉とともにゲームを楽しんだ。もちろん、あの頃と同じで姉がカービィを、私がグーイを操作した。見慣れたザコ敵の見たことのない動き、聞いたことのないはずなのに懐かしさを覚えるBGM、新しさと懐かしさが共存する奇跡のようなバランスの、まさに神ゲーといえるものであった。ゲームをしていると、小さい頃の思い出がふつふつと思い出され、自然とお互いにその手の話をし始めたのは必然であった。

 

 

 

 「小さいころ、何にも考えずに走りすぎて穴に落ちたよねー」

 

 

 「・・・姉さんはあの頃から荒っぽかったよね」

 

 

 「荒っぽいってなによー、あんたなんか弱っちぃ敵にだってビビッて動けなかったくせに」

 

 

 「あ、あれは慎重だっただけだし、あーほら敵来てるって!」

 

 

 「ふっふっふ・・・そんなものでごまかされな・・・あーっ!めっちゃ敵来てるー!」

 

 

 「だから言ったんだよー!」

 

 

 

 

 

 

 「ここのBGM良くない? 着信音これにしようかな・・・」

 

 

 「・・・職場でスマホ鳴ったら気まずくない?」

 

 

 「いやいや、今の時代ゲームの曲着信音にするぐらい普通だって、つーかばれないって」

 

 

 

 

 

 

 「おっ、ナイスサポート! さすが私の弟!」

 

 

 「・・・子供のころ、こんな弟恥ずかしいとか言ってたくせに・・・」

 

 

 「・・あれ?そうだっけ・・・?・・・まぁ若気の至りっしょ!」

 

 

 「おい」

 

 

 

 

 

 

 「・・・ねぇ・・・母さんたちはどんな感じ・・?」

 

 

「母さんはうっとうしいくらい心配してるよ、いつでも帰ってきてもいいように部屋も残してるくらいだし」

 

「父さんは・・・なに考えてるかよくわからないけど、たぶん心配してるんじゃない?まぁ二人とも元気にしてるよ」

 

 

 「・・・・・そっか・・・」

 

 

 

 

 

 「あーやっとクリアできたねーってか日ぃ跨いでるじゃん!?」

ラスボスを倒し、エンディングの余韻に浸り終わった後、外を見たら真っ暗であった。

姉の部屋についたのが夕方ごろで現在は深夜の1時、途中食事などで休憩をはさんでいたが、お互いに5,6時間もゲームをしていたので驚いた。しかし、時間を忘れてしまうほど楽しい時間を過ごせたと私は満足していた。あぁ、やはり姉とのゲームは楽しい。これからは私は受験、姉は仕事でお互いに忙しくなるだろう。でも、頑張れば時間を作れないわけではないし、今回みたいな連休は1年のうちになんどもある。なんならバイトで金をためて家から定期的に通えばいい、ちょっと大変だけどそんなことは苦ではない。だって、また、あの頃のように2人で――――

 

 

「いやー独身時代の最後にあんたとゲームができてよかったよ」

 

 

そんな「コンビニ行ってくる」みたいなテンションで姉がとんでもないことを言った

私は頭の中が真っ白になった「えっ、独身最後・・・?」と戸惑いながらやっとの思いで言葉を発した。姉は恥ずかしそうに笑みを浮かべながら

 

「うん、わたし、結婚するんだ」

 

と嬉しそうに言った

 

 

  一夜明け、気づけば帰りの電車に乗っていた。あれからのことはあまり覚えておらず、たしか気分がすぐれないとか嘘をついて帰ることを姉に伝えたんだったか、姉が心配して駅まで送ると言ってくれたが、「大丈夫、一人で帰れる」と念入りに伝え「うん・・・じゃあ気をつけて帰るんだよ」と引き下がってくれた。帰り際に「ありがとう、たのしかったよ」と言ってくれたのをなんとなく覚えている。

姉が結婚する。正直、うれしいと思う気持ちはあるし、祝いたいという気持ちはたしかにある。しかし、なんだか喉の奥に小骨が刺さっているような、指に大きめのささくれがあるような、そんなもやもやした気持ちが胸の中にあった。だが、そのもやもやの正体は何度考えてもわからなかった。

 

 あれから連休も終わり、普通の生活に戻った。だが私はまだもやもやした気持ちのままで、ボーっとしていることが多くなったらしく、母から「話くらいちゃんと聞きなさい」と小言を言われるようになった。こんな気持ちが続いていると、本当に病気になりかねない。明日は土曜日だし、ここはすっきり忘れるためにパーッと派手に友達と遊びに行こうかと考えながら学校から帰る。すると、自宅の前に見知らぬ車が止まっているのが見えた。N〇Kの集金かなとぼんやりと考えていると、母さんが家の外に出てきた。母さんは私を見つけるなり「あっ、帰ってきた」と言いながら駆け寄ってきた。一体どうしたのか聞こうとする前に母が次の言葉を聞いてそんな些細な疑問も吹き飛んだ。

 姉が婚約者を連れてきたらしい、と

 

 

 

 私は今、来客用の座敷に座っており、隣には父と母が並んで座っている。向かいには姉と、婚約者の男が座っている。どうやら、今日は姉が婚約者とあいさつに来る日であったらしい。なんでおしえてくれなかったんだ! と母を小突いたら、最近あんたがボーっとしてるのが悪い! とどつかれた。けっこう痛い。

 ・・・それはさておきと姉が連れてきた男のほうを見る。いい奴そうだな、それがその男を見た第一印象だった。男と姉は高校のころの付き合いで、卒業間際に交際に発展し、現在に至るらしい。男は緊張しているのか若干汗をかいており、言葉を発するときも声が上ずっているのがわかる。しかし、父や母の質問には目線をこちらにまっすぐ向け、若干どもりながらも自信があると感じさせるような内容でどこか頼もしさも感じられる。私はこの男が兄になったら多分楽しいんだろうなと感じたが、まだもやもやした感情が残っている・・・いや、さっきより大きくなっている? この男なら、多分姉を幸せにできる。そのような確信に近いものも私は抱き始めている。ではなぜこんなにもやもやしているんだ? そんな複雑な感情を抱いていると母が「なぜお互いに結婚しようと思った」のかと、二人に問いかけた。すると、お互いのいいところを語り始めた。

 

姉曰く

「前へ前へと行き過ぎている私のストッパーになってくれる人」

「私では気づかないこと、できないことを補ってくれる人」

「この人となら、どこまでも行けると思った」 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

男曰く

「優柔不断気味の自分を引っ張っていってくれる人」

「自分の足りないところを補ってくれる人」

「この人と、どこまでもいきたい」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

そのような惚気話がいくつも続き、 まだ続きそうだなぁ。一回席を離れて飲み物でも取ってきてもいいかな? と思い始めた時

 

 

「あと・・・・」

「それと・・・」

 

 

 

「「彼(彼女)といると、楽しいから」」

 

 

 

 

と2人声が重なった。

 

 

 

 

・・・・・・・・あぁ・・・・・そうか・・・・

 

 

 

 

もう姉にとってのグーイ(一緒に冒険する相棒)は、もう僕じゃないんだ。

 

 

胸のもやもやが晴れ、何かが “ストンッ“ と落ちたのを、確かに感じた

 

 

 

 

 

それから私は、トイレに行くと言ってその場を離れて自室に向かった。日も傾き始めたのか、夕暮れの光が窓から差し込んでいて少しまぶしい。まぶしさに少し目を細めながら私は部屋の隅に立てかけてあるキャリーケースを開けた。そこには、入れっぱなしにしていた、見慣れた思い出の品が完全な形であった。私はただそれを見つめ、当時の思い出に浸った。  

この小さな箱は、私たちに色んなものを与えてくれた。様々な世界の美しさに触れた感動、どんな困難にも諦めずに立ち向かう精神、協力してクリアすることで得られる何倍にも膨れ上がった喜び、・・・・・・・すべての思い出が昨日のようによみがえってくる。

 

しばらく思い出に浸った後、自然とそれに手が伸びた。今からやろうとしていることを、私の心の中で「やめろ、壊れてしまう」「これは大切なものだろう」と止めるような声が響く。しかし、「大丈夫、思い出は壊れないよ」とつぶやき、箱から伸びている1本コードを抜き、ポケットのしまった。

 

 

 

 ずいぶん長く思いにふけっていたのだろう、気がついたら日はすっかり落ちて窓の外は薄暗くなっていた。早足で座敷に戻ると、話はほとんど終わっていたようだ。父は「娘をよろしくお願いします」と言って男と握手をしていたのが昔のドラマのベタなワンシーンのように見えて少し笑ってしまった。母に「長かったけど、具合悪いの?」と小声で心配されたが、「難産だった」と適当に流した。

 

話が終わり、姉たちはもうそろそろ帰る旨を伝えた。もう暗くなってるし、泊っていけばいいと母が言っていたが、明日も午前中だけ仕事があると言われては母も引き下がるしかなかった。玄関先に出た後も母は「ちゃんとご飯食べるんだよ」「風邪をひいたら、我慢せずにちゃんと病院行くんだよ」と心配そうに話していた。父は母の隣に立ち笑顔を浮かべていた。しかしその表情の中に寂しさが見えたのは多分気のせいではないだろう。私はそんな2人から離れたところに立ち、社会人は土曜日にも仕事があるんだと恐怖を感じていると、男が近づいてくるのが見えた。男は優しそうな、それでいて少し残念そうな笑み浮かべて、「本当は君ともっと話してみたたかったけど、また次の機会だね」と私に言った。本当は話しかけられたら「あんなじゃじゃ馬、もらってくれて感謝してます」や「尻に敷かれる人生が目に浮かびます」など茶化してやろうと思っていたが、いざ、その時になると言葉が出てこなかった。ただ、これだけはやらなくてはならないという謎の使命感に押され、ポケットに入れていたもの

 

コードがついていて

 

カラフルな〇型のボタンがや+型のボタンがついていて

 

一見すると変な形であるが不思議と手になじむ

 

当時の僕の相棒 ―――――――スーパーファミコンのコントローラーを差し出した

 

「えっこれは・・・」と男は戸惑った様子であった。確かに、結婚のあいさつにきて、自分の義弟になるかもしれない者からいきなり謎の物体を渡されたら誰だって戸惑うだろう。私だって戸惑う。

しかし、私はそうしなければならないと思ったんだ。だって

 

 

 

「姉さんと冒険(人生を歩む)するには、必要だから」

 

 

そうだ、これさえあればきっと

どんなに広大な大地だって、無限に続く大空だって怖くない!

 

どんなに大きな敵や強い武器や魔法を使う敵、世界を脅かす巨悪にだって立ち向かえる!

 

正義の味方や英雄、自分のなりたいものにきっとなれる!

 

 

これで、どんな困難にでも打ち勝って姉と一緒に歩いてほしい 

 

 

僕には、もう、できないことを

 

 

男はまだ戸惑った様子であったが、少しだけ笑みを浮かべて「ありがとう、絶対大切にするよ」と言ってくれた。――――頼んだよ、義兄さん

 

 

 

 

義兄さんにコントローラーを渡した後、姉が近づいてきた。

 

「今日来るの知らなかったんだって? ごめんね、いきなり来て」

 

「いや、姉さんの家でもあるんだから、いきなり来てもいいでしょ」

 

「あー、それもそうか・・・」

 

というような会話をしていると姉が少し不安そうな顔になり

 

 

「1人でも大丈夫?」

 

 

と聞いてきた。

 

本当はもっと一緒に冒険したい、

何気ないような話をしていたい、

 

たまにけんかもして、しばらくして仲直りして、

 

また一緒に遊んで、

 

ずっと一緒にいて欲しい

 

そんな思いが心の中を支配するが、無視する

 

 

「大丈夫」

 

 

だから、安心して、冒険(人生を楽しんで)してきて

 

 

「・・・・・・・そっか」

 

姉は “ポンッ” と私の頭に手を乗せ

 

「さすが私の弟だ」

と静かに微笑みながら言った

 

 

 

 ちゅんちゅん、ちゅんちゅんと小鳥たちのさえずりで私は目を覚ました。

昨日、姉たちが帰ったあと緊張から来る疲れからか、夕食をコンビニ弁当(私が買いに行かされた)で簡単に済ませ、家族それぞれ早めに休むことにした。休む前に、母は「お姉ちゃんの部屋、片づけなきゃね」と寂しそうでありながら、もうあの部屋は必要ないと思わせるような自信を感じさせる表情で静かに言い、父は「子離れしたつもりだったんだけどなぁ・・」とどこか情けない声をあげながら滅多に飲まない酒をグビグビと飲んでいたのが印象に強く残っている。私は自室にきてすぐに眠ってしまったらしく、昨日の服装のままであった。昨日は風呂にも入らず寝てしまったため、せめてシャワーだけでも浴びようと体を起こすと、壁に立てかけているキャリーケースが目に入る。その中にまだ入っている灰色の小さい箱、3色のカラフルなコードも、少し大きめのコンセントも入っている。しかし、コントローラーが1個足りない。不完全な形となってしまったを見ると少し寂しい気持ちになるが、後悔はまったくなかった。

 

 「さて、せっかくの土曜日だし、遊びにでも行こうかなー!」とわざとらしく言いながら部屋を出るとすぐに向かい側の扉が視界に入った。姉の部屋だ。いつもならスルーして通り過ぎるが、もうすぐここも片づけられると考えると気になってしまって、「悪いことしてるなぁ」と罪悪感を覚えながらも、扉を開けてしまった。部屋の中は勉強机やベッド、ぬいぐるみなど姉が家を出て行った時のままになっていて、ここで待っていたら姉がひょっこり帰ってきそうだなと感じてしまう。部屋に入っていくと、何かが足にぶつかった。足元を見ると、小さくてカラフルな箱が1つ置いてあり、箱には小学校低学年が書きそうな不細工な字で「たからもの」と書いてある。そういえば、姉は子供の頃から自分の大切なものは箱にしまっておく人だったなぁ、私のお気に入りのおもちゃもここにしまわれてたことがあったっけなぁ、と懐かしみながら箱を見ていたら、開けかけの箱の隙間から見慣れたものが見えた気がして思わず箱を開けてしまった。

 箱の中には、友達と撮ったであろう写真や、家族旅行で海に行ったときに拾ったきれいな石などが入っていた。そして、その箱の一番上に、私がずっと探していた「星のカービィ3」のカセットが入っていて、カセットの表面に姉と――――「僕」の名前が書いてあった」

 

 

「なんだよ・・・」

手が震える

 

「ここにあったんだ・・・」

目から、あつい液体が流れる

 

「2人のなんだから・勝手に持ってくなよぉぉ・・!」

耐えきれなくなって、声をころして泣いてしまった

 

 

 

「星のカービィ3」

スーパーファミコン屈指の名作ゲームであり、クレヨンで描いたような絵のタッチやカービィの仲間たちと力を合わせた多くのアクション要素が特徴で、今も熱狂的なファンが多い。私もステージやボスキャラの攻略方法、どこのステージでどのBGMが流れるかさえ今も覚えているほど大好きなゲームだ。今でも楽しく遊ぶことができる、いや、もしかしたら子供の頃より視野が広くなった分昔より楽しいかもしれないと確信している。だが、私はこのゲームをもうプレイすることはないだろう。

なぜなら、このゲームで遊んでいるとき、ふと横を見て、そこにいるはずの人がいなくて、不自然に空いてしまった空間を見た時、きっと、

 

私は――――――――

 

僕は――――――――

 

 

 

このゲームが大嫌いになってしまうから

 




拝読してくださりありがとうございます。
この小説は元々「星のカービィ スターアライズ」にグーイが参戦決定したときにめちゃくちゃうれしい気持ちと一緒に遊んでくれる友人がいないことの虚しさで脳がぐちゃぐちゃになったときに書いた物です。
最近パソコンの整理をしていたらまだ残っていたので供養の意味も込めて投稿してみました。
初めて書いた小説なので読みにくかったり、誤字脱字があったり、わかりにくい表現だったりするかもしれませんが大目に見てもらえると幸いです

さて、あなたには一緒に何かをやって楽しいと感じる人はいますでしょうか?
ゲームに限らずスポーツでも料理でも何でもいいです。

どうか、その人との時間を大切にしてください。

きっといつか、それができなくなってしまうから

これを読んでいるあなたが、一瞬でも長くその人と一緒に過ごせることを祈っております。

最後になりますが、これだけは言わせてください












吉田(偽名)君、ゴエモン返してください(ガチ)


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