星刻学園の落ちこぼれ   作:4kibou

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第五章/ 星刻学園の落ちこぼれ
17/最弱と最強


 

 

 

 斯くて役者は揃い、時間は針を合わせるように。

 翌日の授業はあっという間に過ぎて、すぐさま約束の場面はやってくる。

 

 束の間の平穏も運命じみた接触を前に意味はない。

 

 全ては星の導きのままに。

 彼方より呼びかける声が、深く低く響いていた――

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 篝が中央広場へ繋がる扉を開けると、そこには思わず目を疑う光景が広がっていた。

 

 会場内に響き渡る大小の歓声と人のざわめき。

 いつもなら無人の筈の観客席は、今日に限ってまったく逆の様相を呈している。

 

 ――見渡す限りの人、人、人。

 

 舞台をぐるりと取り囲んだ観覧スペースは多くの生徒たちで溢れかえっていた。

 

『え……なにこれ、すご……!?』

 

「お! ようやく挑戦者(チャレンジャー)が来たぞー!」

「待ってたよ折原くん! せいぜい瞬殺されないよう頑張れー!」

「あれだけでかい啖呵切ったんだ! いっそ目にもの見せてくれや!」

「勝つのは無理でもせめて一泡吹かせろよー!」

 

 どっと湧き上がる客席は、どうやら二年生の一団であるらしい。

 仲良く……というには若干の距離を置いて、綺麗に一組から五組まで横並びになっているのは彼らの学年らしい統率の取れ方だろう。

 

 入学以来ずっと姫奈美の姿に引っ張られ、その強さを一番身をもって体験している勇者達でもある。

 当然篝との関係についても周知の事実だった。

 

「ファイトォーっ! 委員長ー! フレー、フレー!」

「頑張れ折原ー! 五組の意地を見せてやれー!」

「折原くん! 私たち精一杯応援するからねー! いけるよいけるよー!」

「おらボケッとしてんなシャキッとしろシャキッとぉ! そんな顔じゃ勝てねえぞ!」

「鷹矢間、野球観戦の親父みてえだな。ガラ悪ぃ」

「愛情表現の裏返しでしょ。相変わらず素直じゃないヤツ」

「うっせーわボケェ!?」

 

 ……色んな意味で賑やかな一団から視線を切りつつ、真っ直ぐ伸びる道を歩いて行く。

 

 遙か先、遠く舞台の上には既にひとつの影があった。

 威風堂々と待ち構える、この学園において唯一無二の玉座へ座るひとりの少女。

 

 ある種の憧憬と恐怖すら覚える立ち姿は、決闘を前にしてより鮮やかさと鋭さを増している。

 

 ――まるで真冬の夜気だ。

 そう感じてしまうほどの気迫に、自然と足が速まった。

 

「……お待たせ。姫奈美ちゃん」

 

 声をかけると、眼前の少女はゆったりと瞼を持ち上げた。

 群青の髪に紛れて、赤い虹彩が彼の体を射貫くように見据える。

 

「ああ、漸くか。待ち侘びたぞ、篝」

 

 気落ちした様子もなく答える姫奈美。

 その表情には隠しきれない愉悦が浮かんでいる。

 

 声は大気を震わせるほどの言霊を帯びながら響いていく。

 偏に、彼女の感情が力となって吹き荒れているからに他ならない。

 

「なんともまあ、賑やかだな。だが華々しいぐらいがちょうどいい。私たちの最後の決闘……いいや、訣別か。なにはともあれ、この機会に恵まれたことは素直に喜ばしいな」

「……そうだね。本当に、機会には恵まれたと思う」

 

 ぎゅっと拳を握り締めながら、篝はその部分にだけ同意した。

 良い意味でも悪い意味でも後ろを振り向かない彼女は、一度決めたコトを簡単には覆さない。

 

 なにより覚悟をして決めた道筋、それを侮辱するような生き方を容認しないだろう。

 それは正しく、少女にとって消失よりも恐ろしい自身の崩壊に他ならない。

 

「だから君に勝つ。今まで待たせちゃった分、ここで全部取り返す。それが僕の、やるべきことだと思うから」

 

 くすりと、距離を挟んで立ち続ける姫奈美が口の端を吊り上げた。

 

「――いいだろう。ならば宣言を。正式な決闘手順だ。やり方は、知っているな?」

「……もちろん」

 

 凪いだ空気と、瞬間の静けさが包む舞台の上。

 

 睨みあう二人の間に他の要素は一つも介在していない。

 無粋な立会人が入る隙間がないままに、彼らは高く声をあげる。

 

「……二年五組、出席番号七番、折原篝。我が誇りと名誉にかけて、星の導きのもと、互いに刃を向け合う権利を提示します」

「二年一組、出席番号二十八番、十藤姫奈美。我が誇りと名誉にかけて、星の導きのもと、その権利を受諾しよう」

 

 カチリと、歯車の噛み合うような起動音が響いていく。

 

 学園指定の制服、その肩部分に縫い込まれた校章には、声に反応してアリーナの記録装置へ呼びかける機構が含まれている。

 必要な言葉はふたりともが発した。

 微塵も問題なく認証された動作は、これが冗談や生半可なモノではなく、本気で序列をかけた争いだと設定した。

 

 後には退けない。

 いや、はじめからどちらも、退くつもりなんて更々ない。

 

「誓いをここに。僕は君に――」

「代価はここに。私はお前に――」

 

 眼光が、鋭い視線と共にぶつかって火花を散らした。

 

「「決闘を申し込む」」

 

 声は重なり合って、開始を告げる合図が会場中へと鳴り渡る。

 声を大にして騒ぎだす多くの観衆、建物すら揺らすほどのあまりにも凄絶な反応。

 

 それらを全て一笑に付して、姫奈美は大きく右手を突き上げた。

 

 視界に映すのは広がる舞台でも、後ろの観客席でもない。

 ただひとつ、この場に於いて同じ舞台に立つのは彼の少年たった一人のみ。

 

「――さあ、行くぞ篝……!」

 

 瞬間、たしかに彼女を中心に風が巻き起こる。

 閉じられた屋内円形闘技場、室内では先ずありえない不自然な空気の流れ。

 

 それだけではない。

 

 迸る青い稲妻、深い海を思わせる電荷は、バチバチと唸りながら空を裂く。

 蒼光を放つ首もとの星刻は今にも焼き切れんばかりだ。

 息の苦しさに眉を顰めながら、それでも彼女は人の身に余る領域へと手をかけていた。

 

 途端。

 

 姫奈美の頭上に暗雲が立ち込める。

 何層にも重なった灰色の雲。

 内側で音と共に閃く稲光を、けれども彼女は諧謔の笑みと共に引き摺り墜とす。

 

雷撃皇帝(らいげきこうてい)ッ!!」

 

 直後、光を放つ落雷は少女目掛けて振り下ろされた。

 

 命を削る自然の暴力、現実を歪めて神秘により再現された光景は、ただ星の力の一端を形成するだけの現象でしかない。

 

 臙脂色の布が揺れる。

 銀色の刃は細くしなやかに、けれど両刃の剣という特異なカタチをした一振りだった。

 

 鍔はない。

 

 柄に巻かれたぼろ切れだけを靡かせるそれは、少女だけが手にするコトを許された不敗の証明。

 何人をも玉座に寄せ付けなかった、十藤姫奈美の得物たるこの学園で最も優れた星の刀剣。

 

「さあ、次はお前の番だ。見せてくれ、出してくれ。そしていざ尋常に――」

 

 〝斬り合おう、私の幼馴染み(かがり)……!〟

 

「……うん。分かってる。行くよ」

 

 姫奈美から向けられる零れる笑みを受け止めながら、篝は静かに目を閉じた。

 

 何度も繰り返した工程、慣れきった動作。

 当たり前がそうと成る束の間の安心が、彼の不安をひとときの内の吹き飛ばす。

 

 ――その一瞬こそは、何よりも、誰よりも真剣に。

 

「紅蓮星霜」

 

 爆発する火炎の中から引き抜いた星剣を、素早く腰だめに構える。

 

 震えは起こらない。

 鯉口を切り、刀身が姿を見せるそのときまで無意識は反応しない。

 

 ……だからといって、剣を抜かなければ戦えないのが現実だ。

 

 このまま固まっていたところで、何の抵抗もできずに負けて終わるだけ。

 

 ――そんなのは、喩え誰が許しても篝自身が納得できない。

 

「――――っ!!」

 

 閃きは火炎を伴って。

 引き抜かれた刃は、虚空を裂きながらその銀色を見せた。

 

 ……指先が震える。

 行方が定まらない切っ先と高鳴る動悸を押さえつけて、ただただ正面を睨みつける。

 

 頭のなかに響く声はあったかどうか。

 

 脳内で反響するナニカを無理やり堪えながら、篝は星剣の柄を強く握りしめた。

 

「……っ、勝つのは、〝僕〟だよ……!」

「見事だ、良いぞ。だが違うな。勝つのは〝私〟だ!」

 

 再度火花を散らす視線の交錯。

 気勢をあげる両者の意思が交わり拮抗する。

 

 彼女の行く末を、彼の身勝手を、そして学園最強の座をかけた舞台。

 

 決戦の火蓋は、ここに堂々と切って落とされた。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「先手は貰ったぁ!」

 

 宣言と変化は一瞬だった。

 直後に割れ砕ける地面と、スパークじみた青い発光。

 

 加速の性質を持った姫奈美の星刻は、彼我の距離を一秒足らずで零へと縮める。

 

『まず――――』

 

 地面を伝う稲妻のように〝何も無い〟場所を青雷が走っていく。

 

 聴覚はおろか、視覚ですら認識が追いつかない。

 既に通り過ぎた彼女の位置は特定の隙もなく迫っている。

 

 ゾクリ、と。

 

 正体不明の悪寒だけが、紛うことなき脅威のタイミングを捉えていた。

 

「ぐ――――!?」

「ははっ、反応したか! 良いぞ良いぞ!」

 

 直感のみで受け止めた刃が、速度の乗った一撃にあらぬ方向へと飛んでいく。

 

 トラウマ以上に痺れるのは星剣から伝わる雷撃の余波だ。

 ランクで言えば最高基準のA以上、星形の痣を発現した彼女は既に限界点を超えている。

 

 つまりその神秘は最早、人の器にない。

 

「しかしまだだ!」

「っ!!」

 

 霞と消える姫奈美の姿。

 空気と一体化したとしか思えない光景に、遅れて耳朶を震わせる轟音が響いていく。

 

 青色の本質はあくまで速度の向上。

 時間の経過と共に増していく速さで圧倒するのが基本戦術となる。

 

 だが、コレはどうか。

 

 〝――っ、後ろ――!!〟

 

 振り向きざまに放った刃は、けれど確かな手触りと共に彼女の一撃を拒んだ。

 

 背後からの奇襲。

 瞬間移動としか思えない現象に歯噛みするも、ぶつかり合った星剣が互いの力量差に悲鳴をあげる。

 

 決闘が始まって一分も経っていない状態。

 なのに姫奈美の最高速度は軽く音を越えている。

 

 それは『加速』というにはあまりにも速い、彼女の出鱈目さだ。

 

「っぅ…………!!」

「あははっ! これもか! ではこれならどうだ!?」

 

 バヂン、と一際大きく青雷が迸る。

 手に握られた星剣が彼女の意思に応えるよう、ぼろ切れをはためかせながら刀身へと稲妻を巡らせていく。

 

「見せてくれ! ああ、魅せてくれよ! 篝!!」

「ッ!!」

 

 物理法則の悉くを無視しながら、電荷を帯びた〝七つ〟の刃が篝へと襲いかかる。

 

 その差はコンマ一秒以下のほぼ同時に行われる連鎖斬撃。

 一つを凌いだところでその隙をもう一つの太刀筋が切り裂き追い詰める。

 

 防御は、不可能に近い。

 

 〝――――、赤の、力……!!〟

 

 ギチギチと負荷に軋みをあげる軸足。

 だが構っている場合ではない。

 

 篝は一瞬の判断で右脚に力を集中させ、不安定な姿勢のまま足場を蹴り抜いた。

 

『っ、ぅ…………!!』

 

 超高速の斬撃の嵐を躱しながら、水平に飛び抜ける身体を強引に捻る。

 

 このまま遊覧飛行なんてしている余裕はない。

 地面に突き刺した星剣を支えに、ざりざりと滑りながら体勢を立て直す。

 

 脚はまだ使い物になるぐらいには無事。

 

 だが、

 

「はぁあ――ッ!!」

「!!」

 

 その停止位置を狙うかのように、上段へと構えた姫奈美が天井を背景に映った。

 その全身を、刀身の切っ先に至るまでの全てを、青い稲妻で覆いながら。

 

 〝なん、て……速さ……!!〟

 

 驚いている場合ではないのに、その速度にただ驚嘆する。

 

 こんなものは加速とは言えない。

 純粋なまでの速度の暴力だ。

 

 流れる時間、一秒間に行える動作の回数、手数の多さ、決定打の有無ですらかけ離れた圧倒的な差異。

 彼女にとって舞台上の距離、どこに身を潜めているかなんていうのは時間稼ぎにもならない。

 

『ッ――――!!』

「あはっ」

 

 頭上から振り下ろされる剣閃を、横へ転がりながら回避する。

 

 とっくに星剣はただ掴んでいるだけ、構えも何もない後手に回った状態だ。

 けれどもしょうがない。

 なにせ今の篝にあの素早さを凌駕する手札がない。

 

 勝機はここに来て――いいや、そもそも初めから閉ざされているようなもので。

 

「あははははっ! 良いぞ! だが足りない! 足りないなぁ!!」

「がッ――――!?」

 

 腹部へ襲い来る急激な激痛と、再度身体を包み込む浮遊の感覚。

 

 今度は篝の意思によるものではない。

 唐突な変化は事実、彼の思考に空白じみた穴をつくった。

 

 口内に溢れる血の味に顔をしかめる。

 瞼を開けるのもどうにかやっとという事態。

 

 少し離れた姫奈美は、剣を振り下ろしたままこちら側へと足裏を向けている。

 

『け、蹴ら、れた……? 地面に降りた、あの、一瞬で――』

 

 着地の反動を真横へと流して蹴り飛ばしたというのか。

 

『――っ、……! でも、姫奈美ちゃん、なら……ッ』

 

 ありえないと思いつつも納得してしまうのは、偏に篝としても姫奈美を理解しているからだ。

 不可能なんて言葉で片付けられるほどあの少女は甘くない。

 道理を捩じ曲げてでも事を為す力がその身には宿っている。

 

 星の輝きは、そうそう人の尺度で測れないだろう。

 

「――っく、ぅ……げほ、えほっ……!」

「もっとだ。もっと〝おまえ〟を見せてくれ、私の篝。おまえこそが私の唯一だと!」

 

 爆ぜる快音は三度青雷を撒き散らしていく。

 

 うずくまる篝に反撃の手段はない。

 即座に上半身を持ち上げながら、なんとか震える指先で星剣を握り締めることはできた。

 

 呼吸をくり返しながら思考を素早く、冷静に回す。

 

 落ち着け、焦るな。

 見えないモノはどう足掻いても見えない。

 頼れない情報はどう解釈しても同じだ。

 

 考えて、常に感じろ。

 

 幼馴染みとして傍に居た時間はダントツで長い。

 彼女はどこへどう向かうか、どう動いているか、その気配は、匂いは、雰囲気はどこから漂ってくるか――

 

「――そこ……っ!」

「正解だッ!!」

 

 衝撃波に並んで響く甲高い音。

 斜め横から襲い来る凶刃を弱々しくも受け流す。

 

 鍔迫り合いはできない。

 できたとしても勝ち目が無い。

 

 手の震えは剣へと伝わる力さえまともに通してはくれない酷さだ。

 剣戟は捌けても、当の剣を握った腕は跳ね上げられる。

 

 篝はそこから切り返す術を持っていない。

 

「っ、ぅ、ぐ…………!」

「ははははは! どうした、もっとだ! まだまだ足りないぞ! 意地を見せてみろ!」

「――ぅ、い、ぁあッ……!!」

 

 至近距離から放たれる青の斬撃を逸らしながら、歯を食い縛って痛みを堪える。

 

 全部に反応することは間に合わない。

 傷は一秒ごとに数十と増えていく。

 

 飛び散る血痕は篝だけの流しているものだ。

 対等に渡り合うなんて夢物語。

 

 差はどこまでも広がり続ける。

 

「あはは! あはははは! ああ愉しい! 愉しいな篝! おまえと仕合うのがこんなにも心躍るというコトを、改めて実感した! だから、さあ、もっとだ!!」

「ッ――――!!」

「この程度で終わるような男じゃないだろう!? おまえは――!!」

 

 斬撃は彼女の期待を表すように速くなっていく。

 

 一合一合が生死の分け目だ。

 篝の力では撃ち落とすコトなんて望めない。

 

 受け流す、逸らすのが精一杯。

 それでも身体は後退していく。

 

 剣は押されて刃があらぬ方向へと切っ先を向ける。

 

「はははっ、あははははは! ははははは――!!」

「――っ、ぐ、つぅ……!!」

 

 息が苦しい。

 

 目眩がする。

 

 胸も痛い。

 

 先ほど蹴られた衝撃で何本か肋が折れていた。

 

 それを治す星刻ですら、彼にはたったの一画しかないのだから笑えない。

 能力の扱いも必要最低限、出力は言わずもがな、治癒の速度ですら他人と比べて遅々に過ぎる。

 

 対する少女はその全てが最高峰。

 素質は篝を遙かに凌駕している。

 

 天才と謳われる才能と強さを求める精神が噛み合わさった結果は揺るぎない。

 

 剣閃一つ、体の動かし方を見ても鮮やかに磨き上げられた美しさがあった。

 

『……っ、あぁッ……!』

 

 敵わない、敵う筈がない。

 この場に居る誰もがその現実を信じて疑わない。

 

 当たり前だ。

 

 前代未聞の優等生と、落ちこぼれの劣等生。

 特別な才能なんて何一つもなければ、彼女に勝てるようなモノだってありはしない。

 

 勝敗は目に見えている。絶望的なまでの結果が。

 

『――ッ、だから、どうしたの……!!』

 

 そんな逡巡を気迫と共に嚥下して、篝は必死で刃を走らせる。

 

 迷うな、悩むな、振り向くな。

 いま大事なのはそんな事じゃない。

 

 この結果がどうなるか、勝つか負けるかでさえ、この瞬間の彼にとっては二の次のどうでもいい事だ。

 

『目の前のことに集中しろ……! いま僕が戦ってるのが誰か、分かってるのか……!』

 

 青い電荷は容赦なく彼の身体を傷付ける。

 

 手加減は一切なし。

 彼女は本気で彼を殺さんばかりに刃を振るっている。

 

 星刻があるから死ぬ事は無い、傷付いても治るから大丈夫、そんな甘い考えではない事は明らかだった。

 

 他者を圧倒する異常性。

 普通の日常生活を送っていた人間ほど、彼女の本気に触れれば心に深い疵を負う。

 

 なにせ簡単な話。

 

「は、はは、ははははははは!! あはははははははは――!!」

 

 前に突き進む砲弾を人の身で受け止めれば、止めることはおろか生きてはいられない。

 

 彼女の生き方は鮮烈にして強烈だ。

 その本質は環境や才覚で揺らぐモノでもないだろう。

 

 力の有無、他者との差異、強弱の関係性、その全てが姫奈美にとってはスパイスでしかないように。

 彼女は心の底から闘争を、命を賭けた斬り合いを尊んでいる――

 

「――――あぁぁああッ!!!!」

「!!」

 

 震える両手で握り締めた星剣を、篝は薙ぎ払うように強く振り抜いた。

 

 呼吸の隙間、意識の外側、視線、手足の動き、その全ての裏をかいて作り上げた好機。

 偶然は多分にあって、その中でも掴めたのは奇跡に等しい大博打。

 

 けれども成したのならそれこそが必然であったと言えよう。

 

 ――目を見開いた姫奈美が、弾かれた剣もそのままにこちらを見据えている。

 

 胴はがら空き、チャンスはその一瞬に。

 

『これで……!』

「――――ふ、は」

 

 ニィ、と。

 

 篝はたしかに、振るわれた刃を見て笑う、彼女の表情を垣間見た。

 

 〝なっ――――〟

 

 だが気づいたところでもう遅い。

 一度決めた動作はそう簡単に覆せない。

 

 星剣は揺れながらも真っ直ぐに、彼女の胸目掛けて走っていく。

 

 それを、

 

「――――はぁッ!!」

 

 目を灼かんばかりの勢いで差し込まれた、銀と青の雷霆が悉く防ぎ切った。

 

「はははっ、良い良い、実に良いぞ。今のはヒヤッとした。危なかったな。だが――心が躍った。正しく期待以上だったぞ、篝」

「っ…………、」

「ではこちらも一つ、おまえの本気に応えて見せるとしよう。なに、心配することはない。もう一段〝ギア〟を上げるだけだ。――――ついて来れないとは、言わせんよ?」

 

 眼前で吹き荒れる星の力。

 撒き散らされる青雷に皮膚を焼かれながら、篝は頬を引き攣らせる。

 

 その先の自分の未来は、全くもって想像もできないようだった。

 

 

 

 

 

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