星刻学園の落ちこぼれ   作:4kibou

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18/それは圧倒的なまでの

 

 

 

 一方その頃。

 観客席で勝負の行方を見守っていた悠鹿は、ところどころからヒソヒソと囁かれる声に眉を顰めていた。

 

「なんか、一方的……」

「あんまり強くないのかな、あの、【青電姫】と戦ってる先輩」

「さっき五組って言われてなかった? 二年生以上の五組って……」

「わ……マジ? 最底辺ってことじゃん。それがなんで序列一位と決闘してんの?」

「これ、もう勝負決まってるだろ……あんな剣筋じゃ勝てねえって。絶対」

 

 チラリと視線を向ければ、比較的真新しい制服と白色の襟飾が目に入る。

 

 今年に入学した一年生たちのものだ。

 八ヶ月になる学園生活で既に慣れきったのだろう。

 新入生特有の不安そうな態度、浮いた様は見られない。

 

 ……すくなくとも、その感想を除いて。

 

『いや、まあ……十藤のことあんまり知らないヤツから見たらそうなるか、そりゃあ』

 

 仕方なげに笑みをこぼしつつ、悠鹿は舞台の上の篝を再度眺める。

 

 彼らの言っている事は決して間違いではない。

 実際のところ篝は姫奈美の攻撃を防ぐのに手一杯、防戦一方な状態で、それも次第に崩れ始めている。

 

 落ちこぼれの五組所属、天地がひっくり返っても強いとは言えない劣等生の彼が奮闘しても、ワンサイドゲームに見えてしまうのはある。

 

『俺らもヒトのことは言えねえけど、ホント弱え。剣筋は相変わらずガッタガタだし、動きは繊細さの欠片もねえし、今んとこ一撃も十藤に入れられてねえし。そりゃそうだ。誰がこんな決闘を良い勝負だって言える? 言えねえよなあ、こんなモンは』

 

 公開処刑、あるいはただの陵辱。

 同じ土俵に立ってすらいない。

 

 誰がどう見ても彼の奮闘は讃えられるものではなく、無意味で無価値だと蔑まれるくらいな惨状だ。

 

 嫌なものだと目を背けるか、酷い光景だと目を伏せるか。

 それぐらいに彼我の実力差は歴然としている。

 

 篝の攻撃を寄せ付けないほどに姫奈美は強く、姫奈美の攻撃を防ぐことができないほど篝は弱い。

 

 今この瞬間にも彼は追い詰められている。

 

『ああ、バカだ、無謀だ。頑張る必要なんて微塵もない。分かってるよ、そんなことは。けど、相手を誰だと思ってやがる? 〝あの〟十藤姫奈美だぜ』

 

 知らぬが仏とはよく言ったもので。

 

 初めての挑戦者が彼らの学年首席であった一年生達は、姫奈美の強さを実際に体感した者がそれ以外にいない。

 ただ知っているのは彼らの頂点に躍り出た少年より遙かに強いという事実のみ。

 

 自分で経験しているかどうか、その違いは軽いようでいてどこまでも重要な差異だ。

 なら、もし知っていたならどうなるか。

 そんなものは言うまでもなく、二年生以上の生徒全員が体現していた。

 

 彼らは一様に黙って決闘を眺めている。

 純粋に応援しに来た者、友人に連れられて仕方なく足を運んだ者、暇潰し代わりに顔を出した者、からかい交じりの気分で来ていた者。

 その全てが当初の目的を忘れて、無言のまま、篝と姫奈美の戦いをじっと見つめている。

 

 それもその筈。

 

 一時期美人だなんだと騒ぎになり、交際条件に決闘を持ち出していた姫奈美だ。

 彼らの殆どは自分自身の体で少女の怖さを理解している。

 正面切って向かい合ったとき、ましてや一度敗北してトラウマを負った後の戦闘がどれほどなものなのかを、我が事のように思い浮べることができる。

 

 であれば、ああでもして立ち向かう少年がどう見えているかなんて言うまでもなかった。

 

『分かってんだ、知ってんだよ。あんな馬鹿げた自殺行為、誰にもできるもんじゃねえ。少なくとも手前には無理だって、そう思っちまうんだよ。十藤姫奈美は別格だ。住む世界が違う、生き方が違う、考え方が違う。そうやって理由付けて離れそうなモン前にしやがってんのに』

 

 それでも彼は目を逸らさずに、少女と向き合い続けている。

 

『だったら俺たちは笑えねえ。これっぽっちも笑えねえよなあ。仕方ねえだろ、ほんと。一番弱っちいクセして、一番本気で十藤を倒そうとしてんだから。マジで、いや、全く。――情けなくてちっとも笑えねえわ、こりゃあ』

 

 誰もが不可能だと断じた玉座の簒奪。

 学園最強の地位へと手を伸ばす向上心。

 

 それらとは全く関係ないところで、しかし、それら全てを目指している少年がいた。

 

 本来有り難がるべき報酬でさえ要らないと断じて、その結果のみを欲した彼の姿が。

 

「いやあ、頑張ってるねえ篝っち」

「……子波か。なんのようだよ、一組の優等生が」

「いやー? なんかみんな黙っちゃって落ち着かないから、見やすそうなところにー?」

「ああ、そういうことか。じゃ好きにしろ。分かりやすくてありがたい」

「あはは。じゃ、お邪魔しまーす」

 

 ストンと悠鹿の隣の席に腰を下ろす伽蓮。

 その顔は笑いながらも篝から目を離していない様子だった。

 

 緑の星刻、風の属性を併せ持った希少性の高い色合わせの星刻使い。

 

 曰く戦うのが好きじゃないとしている序列七位の【波風】は、しかしどうやら自分の色と好みの色は違っているらしい。

 暗緑色の黒髪を後ろでひとつにまとめ上げるリボンと、耳や腕につけられたリング状のアクセサリー。

 

 その色が赤色なのは、果たして同居人である〝青〟に対抗してのものか、別の理由があるからか。

 

「……ね、鷹矢間くんは篝っちが勝てると思う?」

「無理だな」

 

 ばっさりと。悩む暇もなく悠鹿は即答した。

 

「うわ、ひっどー……篝っちが聞いたら泣くよ? それ」

「泣くかよ、男子だぞ。……いや、待て。分からん。泣くか? 泣くのか、あいつ。いや多分泣くな、うん。泣くわ、やっぱり」

「そりゃ篝っちだもん。涙腺ガバガバでしょ。あはは」

 

『……女子がそういうコト言うのは、うん。どうかと思うんだが』

 

 そのあたり突っ込んでも火傷するだけなので、一先ず置いておくとする。

 

「でも、なんでー? 鷹矢間くん篝っちと仲良いのに」

「俺はあいつの友人であってファンや信者じゃねえからな。盲目的に信じるなんてそれこそ御免だ。無理なモンは無理って見てた方が良いだろ。できるなんて確証もなしに他人に押しつけることじゃねえよ」

「ふーん……なんか、意外かも。ちゃんと考えてるんだ、そういうところ?」

「適当だ適当。頭使うのは苦手で仕方ねえしな。そういうおまえはどうなんだよ、子波」

「あたし? あたしはまあ……勝てるほうかなー」

「……ほう?」

 

 その理由は? と胡乱げな視線で問う悠鹿。

 くすくすと笑う伽蓮はどこか悪戯っぽく口元を隠して、遠くの少年を見据えながら呟いた。

 

「だってあたし、篝っちの友達じゃないから」

「……ハッ。そっちこそ篝が聞いたら泣きそうじゃねえか?」

「あー、うん。たしかに。絶対泣くね。もうお目々うるうるさせてそう。正直かわ――」

 

 しゅばっ、と手で口を覆う伽蓮に、悠鹿が一時複雑な……もとい残念そうなモノを見る目を向ける。

 

 理由は言わずもがな。

 そっと目を逸らす少女は、何とも気まずそうだった。

 

「……まあ、今のは聞かなかったことにしておくわ。うん。それがいい」

「そ、そだねー! いや、聞かれちゃねー! うん! ……姫奈美に殺されそう」

 

 最後の一言にはちょっとだけ同意できる悠鹿だった。

 やはり【青電姫】は恐ろしい。

 

「しっかし勝てるほう、ねえ。何をどうしたらそれが叶うのか甚だ疑問だが」

「ま、勝ち負け一票ずつでちょうどいいんじゃない?」

「――あら、それじゃあわたしも勝つ方に入れましょう、是非に」

「……紅葉センセ」

 

 不意に後ろからかけられた声に振り向くと、ちょうど揺れる赤髪が見えた。

 微笑をたたえてふたりの近くまで来た朱丘教諭は、ニコニコと笑顔のままに舞台を眺める。

 

「勝てると思うんすか? あいつが、十藤に」

「いえ、厳しいと思いますよ。正直折原くん、ダメダメな部分が多いですし」

「そうでしょうそうでしょう」

 

 うんうんと頷く悠鹿に、紅葉は苦笑を浮かべつつ「そうですね」と応えた。

 技術も才能も足りない彼が、その全てを持っている少女に勝利するなんて青写真はない。

 

「でも、勝ちますよ。……いえ、正確には勝って欲しい、ですかね?」

 

 ピタリ、と首の動きを止めた悠鹿が紅葉を見遣る。

 その視線を微笑みのまま受け流して、彼女は穏やかな表情のままに言葉を続けた。

 

「きっと誰かに褒めてほしいわけでも、認められたいわけでもなかったんです。ただ目指した人に一歩でも近付きたい、その為の力が欲しい。そう思ってずっと頑張ってきたんですよ。なら、もうそろそろ、ちょっとは報われてもいいと思いません?」

「あたしは思う! すっごい思うよー! 朱丘先生!」

「……チッ。二対一かよ。どうしてこう……なんていうか、望まれるもんかねえ……」

「そりゃあ、折原くんですし」

「まあ、篝っちだしね」

「……まったく分からん。負けるのが当たり前だと思うけどなあ、俺は」

 

 それ以外に考えられないだろ、と悠鹿は吐き捨てる。

 さっぱり理解できない、どういう思考回路をしていればそう思えるのかと。

 

 回りくどくも思ってしまう。

 だからそれは同時に、自らの予想を覆すなにかを望んでいるのと同義でもあって――

 

「動きますよ、ほら」

「!」

 

 紅葉の言葉につられて、勢いよくアリーナの舞台へと視線を戻す。

 

 そこには。

 

 

 

 姫奈美の一撃を受けて盛大によろめく、ボロボロに傷付いた少年の姿があった。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 要するに、結果を率直に言ってしまえば。

 

 例えどんな奇跡が起きても、どんなに目を輝かせるような幸運に恵まれたとしても。

 

 なにを願って望んだところで、いまの篝が姫奈美に勝てる筈もなかったのである。

 

「――はははははっ! どうした、動きが鈍いぞ! 隙だらけだ!」

「あッ……ぐ、ぅ……!」

「そんなものか? その程度か!? 違うぞまだだそうじゃないッ!!」

「ッ…………!」

 

 弾かれる刃と、青電を纏って肉を裂いていく斬撃の雨霰。

 

 無理を押し通してきた身体はすでに限界寸前、ギリギリのところで保っているとも言えない死に体だ。

 

 捌ける剣戟の数は五つに一つから八つに一つにまで減っている。

 否、彼女の剣速が天井なしに上がっているが故に単純な回数が増えている。

 その上でこの状態、むしろ倍に増えていないだけ十分以上に食らいつけていた。

 

 長年の経験で培った直感が、寸分の狂いもなく彼女の太刀筋を捉えているのがなによりの証拠だ。

 

『い――たい、辛い、苦しい、泣きたい……ッ、でも、まだ、駄目だ……!』

 

 込み上げるモノを必死で堪えて、篝はひたすらに剣を振るう。

 

 痛いのも怖いのも大嫌いだ、弱い自分がそう訴えている。

 

 でもしょうがない。

 情けないコトにどこまで言ってもそれが彼の本音。

 

 激痛も、苦痛も、艱難辛苦に恐怖の類いだってそのとおり。

 

 彼にとっては忌避すべき対象以外のなにものでもないのに。

 

『我慢しろ……! 痛くても、泣くんじゃない……! 怖くても怯えるな……!』

 

 その全てが目の前の彼女から、自分に向けて放たれている。

 

『もう、逃げないって、決め、て……、――――――っ』

 

 

 

 

 

 〝――ああ、怖い。怖い、怖い、怖い!〟

 

 

 

 

 

 いくら押さえつけても本心を隠し通すには限界がある。

 

 脳裏には黒い靄のように立ち込める何者かの影。

 血液を送らんと拍動する心臓、生きる為に必要な活動のすべてが一瞬にして停止する錯覚。

 

 ――大好きで大事な彼女が、怖くて怖くてたまらない――!

 

 

 

 

 

 

『――ッ、恐怖(それ)が、なんに、なるって言うのぉ……!!』

 

 

 

 

 

 沈みかけた気持ちを引き摺りあげて、無理やり前へと蹴り上げる。

 

 そうだ、なんにもならない。

 なるわけがない。

 

 逃げているばかりで変わる事があるなら、彼自身がとっくの昔に弱い自分から変われている。

 

「あぁぁあぁあああああ……ッ!!!!」

「あはは! あははははは! そうだそうだ! そうこなくてはなァ!!」

「あぅッ――!?」

 

 ドスン、と鉛を撃ち込まれたように陥没する鳩尾。

 

 肺にため込んでいた空気が口と鼻から一気に外へと流れ出る。

 骨が数本、内臓が幾つか破裂したようだった。

 

 噴き出る鮮血と内側の痛みが冷静な思考を根本から奪っていく。

 

「――――、――――、――――」

 

 真っ白になる頭のなか。

 

 酸素を求めてあえぐ呼吸器官。

 耳鳴りと目眩が平衡感覚すらも失わせる。

 いまはどこで、どう立っていて、どちらが地面でどちらが空かも分からない。

 

 けれど、力がなくなる最後の最後まで、身体は必死に生きようとしてくれていた。

 

 〝――――赤の、力、火……属、性っ――――〟

 

 何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。

 丑三つ時の暗闇じみた世界で、右手に握る星剣に限りなく力を込める。

 

 寸前まで正面切って姫奈美と打ち合っていた。

 胸を衝かれたのはその直後。

 重力に引っ張られる感覚は前にある。

 

「ぁあッ――――――――!!」

 

 刀身に宿る赤色の火炎。

 星刻が齎す最小の神秘の力。

 

 それを掬い上げるように振り抜きながら、篝は身体を強引に捻ることで縦の円を描く。

 

 瞬間のうちに取りこまれる酸素、彩を取り戻していく視界、回復する五感の情報を整理しながら、眼前の光景を捉えた。

 

 

 

 

 

「――――ハ」

 

 

 

 

 

 ニィとつり上がる口角と、愉しげに細められる紅の瞳。

 群青色の髪はわずかに濡れて、その毛先までもが乱雑に落とされている。

 左肩から噴出する血は紛うことなき姫奈美のモノだ。

 

 ――ここに来て初めて、彼女の体に傷が入った。

 

『…………っ』

 

 だが浅い。

 あの程度の怪我は怪我とも言えない。

 

 篝と姫奈美とでは星刻の恩恵が何もかも違っている。

 

 彼にとっては治癒に数十秒とかかる傷跡も、彼女にとってはその場の一瞬で回復できるものでしかない。

 

 一秒経てば、もうすでに止血は済んでいた。

 

「……良くやった。凄いぞ、篝」

 

 決闘の空気にはてんで似合わない、優しい声音が耳元で囁かれる。

 純粋に、どこまでも彼の奮闘を褒め称えるような甘い言葉だった。

 

 思わず、力を抜きかけてしまうほど。

 

「だから、お返しだ」

 

 〝ッ、やば――――〟

 

 不安定な体勢から地面に足を着けて、篝は即座に距離を取ろうとする。

 

「逃がすかッ!!」

「いっ……!?」

 

 ギィン、と跳ね上げられる右手の星剣。

 体重ごと宙へと浮かび上がらせた一撃は、篝にとってこれ以上ないほどの隙を生む。

 

 追撃は速い。

 青色の稲妻は容赦なく迫る。

 

 ――迅雷耳を掩うに暇あらず。

 

 それは正しく、人の反射限界を超える速度で放たれた。

 

 〝こ、れは――――〟

 

 ――間に合わない。

 

 深く考えるまでもなく、そう直感するほど致命的な絶死の一撃。

 

 青雷は光もかくやという速度で迫る。

 星剣に赤の力を乗せて走らせたところで刃を打ち合わせるのは難しい。

 いや、コンマの秒数でわずかに足りない。

 

 胴はガラ空き、生身で受ければきっとこの仕合ではもう立ち上がれない。

 戦意を無くすか負けを認めるか、または一方が戦闘続行不能と判断されれば決闘は終わる。

 

 終わってしまう。

 

 まだなにもしていないのに、まだなにも為せていないのに。

 大切な、大事な、彼女との時間が終わって――

 

 

 

 

 

「――――あぁあぁぁああぁああああああッ!!!!」

 

 

 

 

 

 ばっさりと。

 

 なにか、とても。

 

 とても重いモノが、体から消えた気がした。

 

 ――意識が、遠退く。

 

 ……思考が錯乱する。

 

 ああ、でも、

 

 それでもどうにか、冷静に。

 

 だって。

 

 だって、まだ。

 

 

 

『――――ま、だ……勝負は……っ、終わって、ない……!!』

 

 

 

 姫奈美の斬撃は当たっていない。

 

 彼女の刃を防いだのは握り込んだ微かな隙間。

 間に合わせた〝剣の柄〟による防御は、けれど、代償を払ってやっと叶った結果だ。

 

 ボタボタと滴る血液。

 熱に魘されるような激痛と、それを越える冷気のような喪失感。

 

 ――篝の左腕は、肘から先が無くなっていた。

 

「ハハハハハハ!! なんだそれは!? 躊躇いすらしないとはどういう了見だ!? ああ、すまない! 悪かった! ごめん、篝!! 私はおまえを勘違いしていたよ!!」

 

 ギチギチと、胸の前で構えた柄が刃に押し切られて震える。

 男女の膂力の差など関係ないとばかりに吹き荒れる青色の電荷。

 

 そもそも、至極情けないことに、篝は今日まで忘れかけていた事実を今更ながら思い出した。

 

 ――そう。

 

 素の彼女とですら、力比べの類いは一度も勝った事がなかったと。

 

「謝罪だ! 極大の一撃を以て謝罪としよう! これでぇ――」

「ッ!!」

 

 力任せに弾かれた体が、そのまま数歩よろめいて後ずさる。

 同時に耳をつんざく音と、痺れるぐらいの皮膚の震えに目を見開く。

 

 視線を上げたそこに、原因は存在した。

 

『――――――――、』

 

 刃に纏う、刀身に走らせる。

 そんな児戯にも等しい程度ではない。

 

 あれは暴威とも呼ぶべき災禍の具現。

 この極小空間に於いて天災を再現させた神霊の如き権能によるモノ。

 

 ――天を閉じた闘技の舞台に雷霆が犇めき合う。

 

 撒き散らされる青雷は一つ一つが落雷以上の威力を誇る超高電圧。

 地面を砕き空を喰らい、彼女は高く星の雷刃を掲げた。

 

「どうだぁあぁあぁぁぁあああぁぁぁああッ!!!!」

 

 振り下ろされる大質量の雷火の塊。

 あまりに異常な規模、光景を前に〝逃げる〟という選択肢すら出てこない。

 

 防御するにしてもあんなものを相手にどう防ごうと言うのか。

 

 なにができる、なにをやれる。

 取り留めなく暴走する思考と感情、荒れ狂う青雷を前にただひたすら目を焼かれていく。

 

 ああ、もう駄目だ、逃げられない。

 そのまま篝は、極大の雷撃に包まれて――

 

 

 

 

 

 

 

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