22/エピローグ
「――というわけで、星刻の数が減ったっていう異例の事態の措置らしいから……」
「今日からこのクラスで授業を受けることになった。どうぞよろしく」
「「「なんでそうなるんだよっ!!!!」」」
翌日の二年五組。
姫奈美と篝が行った決闘の熱も冷めやらない中で、彼らのクラスだけはまったく違う様相を呈していた。
ボロボロになりながらも無事勝利した我らが委員長の隣、ペコリと頭を下げて一礼するのは学園最強……の座を譲った少女である。
「おかしいだろ! なんで一組から五組にいきなり来る!? せめて二組に!!」
「おい折原! 十藤離すなよ、絶対離すなよ! マジで!」
「あば、あばばばばっ、と、十藤さんキテルキテル……ヤバイヤバイ……」
「あっはっは。あんたら本当情けないわね。十藤さんがどうしたってのよ」
「そう言いながら膝が震えてるのは錯覚か見間違いでしょうか」
「星刻が一画しかなくても十藤は十藤なんだよなあ……トラウマ、つらい……」
ざりざりと距離を取って教室の隅に固まる一団は、どれも篝と同等かそれ以上の恐怖を姫奈美に植え付けられた敗北者たちだ。
顔面蒼白、今にも泣きそうだったり吐きそうだったりしている彼らは、おまえこそが盾になれと言わんばかりに後ろへ後ろへ下がっていく。
「…………ふむ。これはあれか。フリというやつか?」
「え、そうなの」
「ふふ、なんか良いな。一組はどうにも真面目な人ばかりだったから、こういう馬鹿騒ぎができるクラスはちょっと憧れてたんだ。おまえも楽しそうだったし」
「それは、まあ……退屈しないよね、なんだかんだで」
なにより過ごしやすいし、気を遣わなくていいという部分もある。
彼自身を含め単細胞じみた馬鹿ばかりというのが大きいのだろう。
なにを比べても計ってもどんぐりの背比べであれば、闘争心こそあれど嫉妬渦巻くようなことも少ない。
「――よし、じゃあ景気付けにひとつ。物は試しだ」
「?」
「青の……〝加速〟ッ!!」
「あ、ちょっ」
決闘以外で星刻の無断使用は禁止……、と言おうとした篝だったが、止める暇もなく彼女は弾丸じみたスピードで走りだしていた。
「ぎゃあああああああッ!? 青!? 青色!? なんでぇ!?」
「逃げろー! メーデーメーデー! こちら二年五組ィ! 誰か先生呼んでこい!」
「南無阿弥陀仏! 諸行無常! 神様仏様姫奈美様ー!!」
「つか速いんだよマジか!? あれで星刻一画か!? 弱体化ってなんだバカ野郎!!」
「みんなここは任せて! あたしが黄色の能力で防ぐか――がばぁー!?」
「なにやってんだ!? いくら硬化でもアレ止めるのは辛いぞ!?」
「あははははは! 待て待て! 仲良くしようじゃないか! ほら!」
「「「「いやああああああああああ!!??」」」」
どったんばったんの大騒ぎを見せるクラスメートたち。
それをどこか暖かい視線で眺めながら、篝はほうとひとつ息をつこうとして、
「ようチャンピオン。今日はまた一段と随分賑やかじゃねえか」
「あ、悠鹿」
がっしと後ろから肩を組んできた、同居人兼友人のほうへと顔を向ける。
「……ん? て、ありゃ十藤か。なにしてんだあれ」
「今日からうちのクラス。凄いよね、姫奈美ちゃん。もうみんなと仲良くなってる」
「……俺には血に飢えた獣が獲物を狩っているようにしか見えないが」
「そんなことないよ? だって、ほら、楽しそうだし」
「楽しそうだからなんだよなあ……」
幼馴染み贔屓で節穴評価というか、フィルターを通した結果の激甘評価というか、そういう部分は相変わらずだな、とため息をつく。
欠点と言えばわりと無視できない欠点なのだが、そのあたりは既に突っ込むのも諦めかけている悠鹿だった。
いずれにせよ愛は強い。
「それより、チャンピオンって?」
「あ? そりゃおまえ、序列だよ序列。学内序列。昨日十藤と決闘しただろうが」
「? うん……。あ、そっか。姫奈美ちゃんに勝ったから、いまの僕って……」
「そういうことだよ。おめでとう。序列一位【篝火】サン? 一躍有名人だぜ」
「う、うわー……、うわぁあ……! ええ? なんで? いや分かるんだけど、そうなるのはそうなんだけど、でも、ええ……? 僕があ……? なんでえ……?」
なんでと言われても、そういうルール、決まり事なのだから仕方ない。
事実篝は姫奈美を打ち倒して、誰にも分かる明確な勝利を刻み付けた。
ならば文句を言うのも、違うと言い張るのも筋違いである。
「ま、せいぜい頑張れ。何日天下か見物だな。お姫さまの座ってた玉座だ。どこぞの奴等にゃ簡単にくれてやんじゃねえぞ?」
「それはそのつもりだけどさ……僕にこの学園の看板は重すぎるよ……」
「おいおい弱気だな。十藤は二年近く背負ってきてたのにおまえがそれでいいのか?」
「……いぢわる。分かってて言ってるでしょ、悠鹿」
「お互い様だろ馬鹿野郎」
「それもそうだね。……うん。そう言われたら、やるしかないよ」
「そりゃあなにより。テメエの意地はしっかり見せてもらったからな」
ニィッと笑う悠鹿に、篝もくしゃりと表情をほころばせた。
ほんと、こういう時の彼はなにより頼もしい。
「……あ、そういえばありがとうね」
「あん?」
「昨日の決闘。悠鹿の声、ちゃんと聞こえてた。すごく力になった。だから、ありがとう。僕、悠鹿のそういうところすっごい大好き」
「……きしょいコト言うなよばーか。十藤に捕捉されたらどうすんだ」
「大丈夫だよ。ちゃんと、プロポーズはした、から……」
「あーはいはい。リア充末永く爆発してやがれ」
顔を赤らめてもじもじと人差し指をくっつける篝から目を逸らしながら、ちらりと黒板上にある掛け時計に目を向ける。
そろそろ時間だ。
「おーい! テメエら席に着け! ホームルームまで一分切ってるぞ馬鹿野郎! 十藤もそのあたりにしろ! なんなら俺が席替わってやるから!」
「いや、ありがたい申し出だが不要だ! 私はこの女子から隣の席を奪――もとい譲ってもらうのでな! 気持ちだけ受け取っておくとしよう!」
「いやあーーー!? なんていうとばっちり!? 私なにもしてないのに!?」
「ちょくちょく委員長の頭撫でてたよな」
「あと教科書見せてもらったりとかしてたな」
「ノート貸し借りしてんのあたし見たわ」
「そういや二年になってから学食から購買に切り替えたよね。わざわざ教室戻るのに」
「ほう? 面白い話を聞いた。どういう事か説明してもらおうか? ん?」
「しまった!? というか仲間がいない!? うわーん篝くーん!!」
「させるかぁ!! 篝は私のモノだということをその身に刻み込んでやる!!」
「ちょっ、あの、姫奈美ちゃん! 星刻使うのは校則違反だって! まずいよ!」
「席に着けって言ってんのが分かんねえのかこの阿呆どもは!! ええいクソが!!」
がやがやと騒がしくなる教室と、無慈悲にも進んでいく時計の針。
もうしばらくすれば顔を出す担任教師の反応を思いながら、誰もが笑顔のままに制止を振り切っていく。
うるさいぐらいの周囲の声は、けれどもなにより間違いない平穏の音だった。
クラスメートたちは悪乗りが好きで、それを友人が嫌味交じりに止めて、罵詈雑言が飛び交いながらも深い悪意は一切ない。
ちょっとだけ賑やかな、いつもの日常。
でも、それが良いのだと篝は思った。
きっとそこに、特別な光なんてなくても。
ただ誰かと一緒に微笑んだり、あるいは時に涙を流すような。
そんなささやかな幸せこそが、なにより大事なのだと思って。
――これはただ、そんな日々の中に起きた、すこし変わった物語。
進み続けた果てに少年は星を掴み、地上にて共に在ることを誓った。
ならばきっと。
繋がれた手はもう二度と、離れることもないだろう――
ご愛読ありがとうございました! 4kibou先生の次回作にご期待ください!
以下あとがき。
ということで走り抜けさせていただきました石鹸モドキです。最近の子は知らないでしょうが今は昔「石鹸枠」というアニメがあったんじゃよ……(遠い目)そんな感じのラノベテイストな話が書きたくて気付けばやってました。
うん。石鹸だァ……(節穴)
一先ず書きたいモノ書いて駆けたので満足です。プロットだとこの後くっそ長いシリーズモノになるけどそれ書いてると余裕で二百話超えそうなのでキリよくここで一旦終了とさせていただきます。
お付き合いくださりありがとうございました! お疲れさまでした! またご縁があれば何卒宜しくお願い致します。