「「「おめでとうございます、先生!」」」
パーン、と弾けるクラッカーの音。
何事かと言うほどドアの周りに集まった生徒たち。
教室に足を踏み入れた紅葉は、あまりの出来事にポカンと口を開けて呆けていた。
「へ? え、ええっと……これは、あの……?」
「待ってました! 朱丘先生!」
「これからも何卒よろしくお願いします!」
「ナイスだ委員長! グッドタイミング! おいおまえら! さっさと用意しろー!」
「言われなくても分かってるっての! はい先生! あたしらからプレゼントね!」
「ケーキもあるぞー! 紅葉先生らしく赤色意識していちごケーキだぜ!」
「ひゅーひゅー! 祭りだ祭りだー!」
「宴だー!」
わっしょいわっしょいとはしゃぎはじめる二年五組一同。
妙に連帯感のある歓迎体制に紅葉は殊更戸惑うばかりだ。
一体全体この騒ぎはなんなのだろう、と右へ左へぐるぐると目を回す。
「ほ、ほんとに何事ですかこれ? ていうかなんなんですこれ!?」
「え? なに、まさか先生忘れてるの?」
「まっさかー……とは思うけど、この反応ガチっぽいな。おいカレンダー!」
「へいお待ち!」
「朱丘先生! 今日の日付は!?」
「へ!? えーっと……」
しゅばっと差し出されたカレンダーに、近くに居た女子生徒が勢いよく指をさす。
十二月も半ばを過ぎた頃。今日を乗り切れば土日の休みとなる金曜日。
すなわち、
「……十九日って……あっ」
十二月十九日。それが示すところは彼女がいちばんよく知っている。
「す、すっかり忘れてました……今日、わたしの誕生日ですね……」
「えー! 本人が忘れてるとかそんなんアリかよー!!」
「ご、ごめんなさい……」
「いいですって! おめでたなんですし! とにかく祝え! 飲め! 歌えーっ!!」
「はいはい乾杯乾杯。未成年だからジュースだけど」
「いいんだよ雰囲気さえ出てりゃあ! それで先生、御年おいくつでしたっけ?」
「オイ待てこら男子」
「たしか用意したロウソクの数が二十五本だから……」
「だからデリカシーがないっつってんでしょ! 大人の女性に年齢の話を振るなバカ!」
「大声でそう言ってるそっちもデリカシーねえんだよなあ……」
「なんか言った!?」
「いえなにも」
ざっけんなコラーやんのかコラーと闘争に発展する一部を無視して、本日の主役のもとには大量のプレゼントとケーキが運ばれている。
大がかり、というか大袈裟だがさもありなん。
落ちこぼれだ劣等生だと言われる五組の生徒たちだが、そのノリの良さと賑やかさは学園随一。
他を圧倒的に寄せ付けないフットワークの軽さと他にはない謎の団結力がある。
こういうサプライズは優等生だらけの一組や、それに追いつけ追い越せと躍起になっている二組ではまず起こらない。
彼らの担任を務めるからこその特権だった。
「――ありがとうございます、みなさん。先生、とっても嬉しいですっ」
「よっしゃあ大成功太鼓判! ミッションコンプリートだぁー!」
「やあ……そう言ってもらえるとオレらも自腹を切った甲斐があるなあ……」
「おかげで今月のお小遣いがもうないよ私……残金たったの千五百円……」
「まだ良いじゃねえか。俺なんて八十円だぜ? 自販機のジュースすら買えねえ……」
「売店のガムなら買えるわよ」
「ガム食って生きろってか!? 満腹中枢だけ刺激してろってか!? 無理だわ!!」
「大人しく仕送り頼んどけよ。無理なら、まあ、なんだ。奢ってやるから……ガムぐらい」
「結局ガムじゃねえか!!」
各々の財布事情をネタにして騒ぐ生徒たちに、紅葉が曖昧な表情で微笑みかける。
そこまでしてくれたという嬉しさと、そこまでしなくてもという申し訳なさだ。
紅葉としては本気でありがたいどころか泣きたいぐらい嬉しいが、教師としては無理をするぐらいなら計画的に、と言っておくべき部分だろう。
……まあ、言ったとしても彼らのコトなので聞かないか、聞いてもすぐ忘れるかのどっちかなのだが。
「でも、納得しました。それで折原くんが珍しくお手伝いに来たんですね」
「あはは……まあ、そういうことで。僕からもおめでとうございます、先生」
「ふふ、ありがとうございます。なるほど、うん――やっぱりいいですね、わたし、このクラス大好きです」
「俺たちも紅葉先生のこと大好きっすよー!」
「マジ愛してるッス! マジラブ百パーセントッス! ドキドキで壊れそうッス!」
「それ千パーセントじゃないの?」
「ところで始業のチャイム鳴ってるけど、いいのかよ。もう他は授業はじめてんぞ」
「あっ、そ、そうです! 授業! はい! とても、大変、非常に嬉しいんですけど授業はしないといけませんからね!?」
「おいおい空気読めねえこと言うなよ鷹矢間ー!!」
「もうちょっとで十分……いや十五分は授業時間潰せたのにー!」
「うるせえ。バカがバカになることしてんじゃねえ。とっとと席付けバカ野郎ども。お前らバカなんだから授業受けねえとバカから脱却できねえだろうが」
「バカバカ言うなバカこの……このバカ!」
「誰がバカだアァン!?」
「やっぱキレるのそこなんだな……」
「はいはい! とりあえず始めますよー! みんな用意して、はい! 折原くん! まず号令からお願いします!」
大慌てで一旦片付けに入る教室に、やいのやいのと大勢の騒ぎ声が響きわたる。
ちょっとだけうるさいぐらいの、賑やかな彼らの日常だ。
それにほんのりと満足しながら、落ち着いてきたところで「起立」と篝が声を上げた。
学級委員である彼の合図を皮切りに、二年五組の授業は親しげな空気と共に幕を開けるのだった。
◇◆◇
「――それでは早速今回の授業、『星刻学』についてやっていきたいと思いますけど……そうですね。皆さんからとびっきりのサプライズをもらっちゃいましたし、わたしからも一つサプライズ――もとい、ちょっとした抜き打ちテストでもしましょうか!」
ニコリと微笑んで告げた紅葉の一言に、教室中から「えー!」というブーイングの合唱が巻き起こる。
成績の悪い彼らにとってテスト自体に悪いイメージしかないのに、それにプラスして抜き打ちなんて付いていれば尚更だ。
「ああ、大丈夫です。安心してください。ちょっとした基本の復習ですよ。いまから先生が問題を出すので、指名された人は元気よく答えてくださいね」
それならまあ、といった感じで「はーい」とやる気なさげに答えるクラス一同。
ちょっと心配になる返事だが、いつもの事だと苦笑して紅葉は言葉を続けた。
「ではひとつめ。わたしを含め皆さん、この学園にいる全員が持っている紋様、『星刻』と呼ばれるモノですが、これは一体なんでしょう? じゃあ――はい! 折原くん!」
「うわっ、最初……!」
「頑張れ篝ぃー?」
ニヤニヤと笑ってあからさまに気持ちのこもっていない応援をするのは悠鹿だ。
他人事だと思ってからかう彼へとわずかにジト目を向けながら、ええっと、なんて篝は質問の答えを脳内で模索する。
「その、『星刻』っていうのは一部の人間が生まれつき持っている不思議な紋様で、主に高次元にいる『星霊』と繋がった証とされています。身体に刻まれた数、色、形によって様々な力を扱うことができて、大体は生まれたときから変化しないまま、です」
「はい、ありがとうございます! いいですよ」
「ほっ……」
安堵の息と共に着席する篝。
目の前の友人が「おめでとー」なんてニヤけづらで拍手をしているのを、自分の手で挟み込むようにパンと叩く。
――ふたりして悶絶した。
「傷の回復、特殊な力の操作、武器の呼び出し……沢山の効果を持つ『星刻』は、要するにわたしたちが『星霊』と呼ぶモノの力になります。さて、では次の問題。この『星刻』が繋がった先にいる『星霊』とはなんでしょう? はい、鷹矢間くん! ……って、二人ともどうしました?」
「い、いや、なんでもねぇっす……」
「いたい……ちょういたい……」
「ばかがり……ばかかがり……!」
「ばかがりはやめて……!」
「??」
サンドイッチされた拍手の威力は相当なものだったらしい。
手をおさえてぷるぷると肩を小刻みに震わせながら、なんとか悠鹿が立ち上がる。
「はいはい……っと。あー、『星霊』だっけ。つまり『星霊』っつうのは高次元にいる謎の生命体で、俺たちに『星刻』を授けてる元凶……もとい原因とかなんとか。全部で五体確認されてて、俺らの『星刻』はそれぞれの『星霊』に対応した属性の形をしてますね。でもって、その属性の力を扱うことができると」
「はい、それぐらいで大丈夫ですよ。オッケーです」
「はっ、どんなもんだ?」
「言っとくけどもうアレはやらないよ」
「アホ。やったらもう一回ふたりで悶える羽目になんぞ」
それだけは嫌だね、とうんうん頷き合う男子ふたり。
彼らは本日も非常に仲が宜しい。
「わたしたちの暮らす此処より更に高い次元、星の外側、世界の裏側……なんて言われる別のどこかに存在するのが『星霊』です。彼らは事実この星に居ますが、基本的には通常の観測すら不可能、むしろわたしたちが観測されているという状態で、一説によると『星刻』とは彼らの瞳や触覚代わりなのでは、とも言われています。まあ、難しい事を言っても仕方ないので。全部で五体の『星霊』がいる、とだけ。ではではお次も、この五体の『星霊』に属した属性ですが、これらを説明してもらいましょう! はい、
「あっ、はい!」
ガタン、と立ったのは篝の隣の席にあたる女子生徒だった。
普段から気軽に話したり、教科書を忘れた時は度々お世話になる少女である。
「五体の『星霊』それぞれの属性は、『火』、『水』、『雷』、『風』、『土』の五つに別れていて、私たち星刻使いはその属性と、星刻の〝色〟によって発現する能力を織り交ぜて戦うのが基本になり、ます」
「うん、完璧ですね。ありがとうございます、座って良いですよ」
「……やったね、見槻さん」
「やったよ篝くん……!」
「そこまで喜ぶところかおまえら」
がっしと手をつかみ合ってブンブンと振るふたりに、悠鹿が呆れ気味の視線を向ける。
余談ではあるが、またもや某所で毒電波を受信した幼馴染みが「うがーーーっ!!」と内心で猛り狂っていたのは言うまでもない。
「五つの『星霊』と五つの属性。ここまでの関係はいいですか? いいですよね? ……一年時の復習内容ですから、よくないとアレなんですけど……はい、先生みんなのこと、信じてますから。次に行きましょう! では先ほど見槻さんの言ってくれた星刻の〝色〟についてですが、こちらを全部言ってもらいましょうか。はい、
「げぇっ! いきなりキタ!」
「返事は〝はい〟です!」
「はいぃいっ!」
やけくそ気味に声をあげる遠埜少年。
無駄に元気があってよろしいのは、まあ、五組の全員に言えることなのでわざわざツッコむものでもないだろう。
「星刻の色? 色ね、色……赤と、青と、黄と、緑と、黒っすね!」
「素晴らしい! ではその色ごとの特徴、能力は言えますか?」
「えッ……いやそれは、ちょっと……」
わかんないっすねーあっはっはー、と頭をかきながら着席する遠埜某。
ちなみにコレも一年生の履修範囲であるので、彼らのごとく忘れているのは間違いなかった。
「はあ……仕方ないですね。じゃあ能力はわたしのほうから説明します。きちんと聞いてもう忘れないようにしてくださいね? ほんと、サービスですよこういうの」
うぇーい、とまたもや一段とやる気の無い声をあげるクラスメートたち。
自分たちは劣等生だから、と落ちこんで暗くならないのは良いのだが、軽く受け止めすぎるのもどうか。
目下悩みどころである授業態度に、ひっそりため息をつく紅葉である。
「……ではまず、赤色から。赤の『星刻』が持つ特性は力の集中、解放になります。ある一点、または一定期間、溜めた力を解き放つことで強力な攻撃や、とても高い身体能力の再現を可能にします。例えば――」
言いつつ、紅葉はひょいっと持っていたチョークを見せびらかすように揺らしてみる。
何の変哲もない白墨は、彼女が先ほどまで使っていたものだ。
若干先端が削れている。
「このチョーク。これをこのように……えいっ、と弾いても、特に変わりませんね」
「動いてまーす」
「動いてますけど、はい……動いてますけどぉ、その、壊れたりはしないでしょう?」
「そっすねー」
「はいはい。では……」
スッと、片手に白墨を持ったまま、紅葉が逆の手で親指と中指の輪っかをつくる。
その指先に見える赤い燐光は、気のせいでもなければ錯覚でもない。
彼女の星刻、そこから通された星の力が、光と共に肉体を駆け巡っている証拠だ。
赤の力。集中と解放。それが示す結果は、つまり、
「――――ふっ!」
ざあ、と。
デコピンの要領で打ち出された指先が、一瞬にして白墨を粉微塵へと変えた。
「……このように、溜めた力を一気に撃ち出すことで、威力を増すことができます」
「せ、先生すげえな……」
「割れるどころか粉になって流れていったぞ、チョーク……」
「俺、人間の手でチョークが粉末状になるの初めて見たわ……」
「ふふっ」
若干ドヤ顔で決める紅葉へ、若干引きつつも尊敬の視線を向ける二年五組。
その中でも同じ色、同じ属性である篝の驚愕は特段大きい。
……あれほどの威力は今の篝では発揮できないだろう。
せいぜいが割れるぐらいなもので、消し去るなんて当然無理だ。
まだまだ技術的にも、足りない部分は多い。
「はい、ではどんどん行きますよ。次は青色の『星刻』になりますが……これの特性は、知ってる人も多いですかね、やっぱり」
「当たり前でしょー。なんたってうちらの学園トップだもんねー」
「知ってるっつうか、一度体感したら忘れられないっつうか……」
「トラウマ級だわ、十藤の強さ……マジで脳内からこびりついて離れねえ……」
「姫奈美ちゃんは人気だなあ……」
「篝。おまえのその、幼馴染みに対しての激甘判定は本当どうかと思う」
悠鹿の言葉もいまの篝には聞こえていないようだった。
姫奈美の話題になると希によくなる精神状態である。
「でも一応、授業なので説明しておきます。青の能力は〝加速〟……シンプルで汎用性も高い特色のひとつですね。剣を振る速度から、純粋な移動速度まで。使いこなせば音速ぐらいは軽く超えられるとも言われてますね。果てには擬似的な時間の停止も可能とか」
「十藤はどのレベルなんだっけ。折原ー?」
「姫奈美ちゃんなら光速一歩手前が限度じゃないかな……? あ、でも分かんない。前に決闘で勝ち続けてたらまた星刻の数が増えたとか言ってたし」
「うへー! あれでまだ増えるのかよ……まじ化け物だろ……」
「こら、折原くんの前でそんなコト言わない。傷付いちゃうでしょーが」
「いや、大丈夫……だよ? うん」
実際化け物と言っても過言ではない実力なのは篝も認めている。
が、言い方は言い方なので、できれば天才的とか神童とかそこら辺に変更してもらえないかなとも思っていた。
やはり判定は激甘らしい。
「はいはい、静かにー。では次も行きますよー。次は緑です。緑の特色は五感の強化……遠くのものを見たり、小さな音を拾ったり、という使い方ですね。制御が難しいのが欠点ですけれど、上手く使い所を見極めれば優位に立ち回れます。……まあ、その分、無闇矢鱈に発動させるとやられちゃう特性なんですけど」
「正直ハズレ枠だよねー……あたし斬り合いの途中で鼓膜やられたコトあるもん」
「分かるわー……少しでも切られると感度上がってるからめっちゃ痛いんだよな……」
「普通に失神するよなアレ。まじ不遇色でしょ緑……青とか赤とか交換してぇ……」
ひそひそと漏れる会話は実際に緑の『星刻』を持っている生徒からのものだ。
感覚の強化、とは言うが、強化された感覚はその分傷を受けた時にも機能してしまう。
結果、痛みが何十倍、何百倍となってしまうのが扱いの悪さ……もとい難しさだった。
「そんなネガティブに捉えないでください! 緑の『星刻』でもちゃんと結果を残してる人はいますよ! 例えば……一組の子波さんとか!」
「序列第八位の【波風】じゃないっすか! しかもエリートクラスの一組生!」
「星刻だってそこそこの数を持ってて、しかも〝色合わせ〟ですよ!?」
「比べものになんないっすね! つか無理!」
逡巡の余地もない生徒たちの全否定に、がっくりと肩を落とす紅葉。
実際名前をあげた彼女が理想的な『緑色』の使い方をするのだがさもありなん。
後々どうにかフォローできないかと考えを巡らせつつ、次の話に移った。
「……では次、黄色。これについては青色同様とてもシンプルな効果ですね。ええ、はい。――〝
しん、と静まり返る教室。あまりの静寂に頬を伝う一筋の汗。
全員が「何言ってんだコイツ」みたいな目で担任教師を責めていた。
「ふふっ……」
「あッ! バカ折原! なに笑ってんだ紅葉ちゃんが喜んじゃうだろ!」
「ご、ごめん……いや、なんか、ツボ入っちゃった。あははっ」
「! そ、そうですよね折原くん! いまの面白かったですよね!?」
「いやまあ、そこそこ」
「そこそこっ!?」
「さらっとトドメ刺しやがった! ナイスアシスト折原!」
「ナイスなのか……」
……まあ、時折こういったギャグを挟みつつも、授業はつつがなく進行していく。
「では最後、黒色の『星刻』です。こちらの特性はエネルギーの吸収、反射。相手の直接攻撃だったり、属性だったりを利用した戦い方が特徴ですね。二工程に分けられた能力になりますから、即座に反射したりは無理ですし、吸収する量にも限界があります。コンスタントに能力を使用するのが無難になるかと」
「たしか十藤の雷撃を吸収した奴いたよな。一瞬で破裂したが」
「肉片になっても再生する『星刻』を凄えって言うべきか……肉片にしても嫌な顔ひとつしてねえ十藤さん凄えって言うところか……」
「どっちもどっちでしょ……いや、あいつ腕切られて笑うようなヤツだからね?」
「ひぇっ……なんでそんなのと折原は何年も幼馴染み続けられてんですかね……」
「折原はほら。バカだから。すげえバカだから」
「悠鹿、悠鹿。なんかすっごいナチュラルに悪口言われてるよ」
「おまえはいま、泣いて良い」
無言で机にうずくまる篝を、例の如く隣の席の見槻女史がよしよしと慰める。
話題にあがっている幼馴染みが見ていれば歯ぎしりしながら殺意を宿していても不思議ではない光景だった。
というか見ていなくても毒電波を受信してキレそうになっている。
幼馴染みの間にある運命的な見えない糸は、ちょっと色々おかしい。
「はい、ということで『星刻』の色が一通り終わりましたし、少し深い部分へ突っ込んでいきましょうか。この『星刻』、見た目で強さ、才能の度合いがはっきり見えます。要は紋様が幾つあるか、というところですね。これを『星刻』の画数と言うのですが、これらをランク分けした詳細を言えますか? はい、
「うーっす。えーっと、たしか一から五画までがEランク、六から十画でDランク、十一から十五画がCランク、十六から二十画はBランク、二十一画以上でAランク……じゃあなかったですかね?」
「はい、正解。お見事です。……とまあ、このように『星刻』はその数でランク付けされていて、基本的に画数が多ければ多いほど使い勝手、またその威力や応用範囲も広がっていきます。また詳しく解明されてはいませんが、過去に画数が増減した、という事例は幾つもあがっていますね。もしかするとこれから増えるかもしれませんし、減っちゃうかもしれない、ということですね」
「Aランクはうちの学園内でも十藤だけだっけ? 先生らでもBが限度だろ、たしか」
「だなだな。マジモンの規格外だぜ。……いや、規格外って言ったらウチにもいるが」
「うん、いるな。真逆の意味での規格外が。……一画って相当だよなあ、折原」
「悠鹿、悠鹿。なんだろう。眼鏡が曇ってるみたい」
「篝。泣いていいんだぞ」
二度目の涙を流すたった一つしか『星刻』を持たない少年。
それは出力的にも使い道的にも正真正銘〝才能ナシ〟であることを示している。
なお、姫奈美同様にこの学園で『星刻』の数が一つであるのは篝だけだ。
素直に喜べない複雑な部分でトップとワーストお揃いなのが歯痒い。
「だ、大丈夫ですよ? 折原くんは滅多にいない〝色合わせ〟の『星刻』ですからね! ……まあ、十藤さんはその〝色合わせ〟ですらない普通の組み合わせで強いんですけど」
「――――――」
「オイオイオイ。死んだわ折原」
「今日は委員長の厄日だな……つか天誅殺? 大丈夫か、お祓い行く?」
「大丈夫じゃねえだろお前ら。この顔見てみろ。チベットスナギツネみたいだ」
感情を失ってやがる、と冗談でおののいてみせる悠鹿。
地味に名演なのが
「そ、そう! ちょうどいいので、〝色合わせ〟の解説でもしましょうかっ!?」
「話を逸らしたな」
「あからさまに誤魔化したわね」
「はいはい! えーっと、色合わせというのは『星刻』の属性と色が最も相性のいい組み合わせのことを言います! これはとても珍しくて、星刻使いの中でも百人、二百人以上のうちのひとりほどしかいません! それぞれ対応するのが、火と赤、水と青、風と緑、雷と黄、土と黒、といったところですね! 私と折原くんはそのうち火と赤になります! お揃いですね! 頑張りましょうね! ね!? 折原くん!!」
「はい……」
「ダメだ、覇気を失ってやがる」
俯きながら返事をした篝は小声で「ひなみちゃん……」と呟くだけだった。
打ちのめされて尚出てくる単語がそれでいいのかと思わないでもない悠鹿である。
「そ、それじゃあ後は……っと、残りはなにがありましたかね……発現すると限界を超えて『星刻』の力を使える代わり、一月後に『星霊』に連れ去られて肉体が消失する星形の痣……とかはまあ、そもそも実力者しか出ないモノですから皆さんには関係ないですし……」
「おい、紅葉先生がナチュラルに俺たちに喧嘩を売ってきたぜ。どうする」
「上等ォ! そうだ! でもって喧嘩だ! 喧嘩をしてやらあッ!!」
「えッ、ちょ、落ち着いてください! 違います違います! そういう意味じゃなくってですね!? えーと、えーと……! そ、そうです! いちばん大事な『星剣』の説明がまだでしたね!」
ステイステイ、と一部の過激派を落ち着かせながら、紅葉がピンと人差し指をたてる。
「こほん。えー、『星剣』というのは文字通り、我々『星刻使い』が主武装とするモノになります。大体は刀剣の形をしていることからこの名前になっていますが、形状自体は千差万別ですね。両刃だったり片刃だったり、日本刀だったり青竜刀だったり、あと西洋剣とかも。これらは一見すると普通の武器にしか見えませんが、実は高密度のエーテル……『星霊』たちが居る高次元に溢れている第五要素を凝縮してつくられたものだと言われています。要するに彼ら『星霊』のつくった特殊な武装、その強大な力の一端ですね」
あくまで最後の言葉を強調しつつ、くるくると紅葉が指を回す。
彼女が得意げに解説するときのクセだろう。
同時に、気分があがってきている証拠でもあった。
……このとき。
篝を含め一年時からお世話になっていた生徒全員がこのあとの展開を「あっ……」と察したのだが、もちろん紅葉自身はそれに気づかない。
「あとは……一応、コレも説明しておきましょうか。わたしたち『星刻使い』にとっての必殺技とも言える一撃。即ち、姿なき『星霊』すら魅了する動作を以てして、その一連の流れを後押しされる。彼らが至高と仰ぐ究極の一。これを『
「いやそれ無理……十藤レベルでやっとって、基準がぶっ壊れてるわ……」
「それこそありえないよねー……てかあの強さで奥の手あるのがズルい」
「つか意味がわかんねえ。なんだよ『星霊』に認められる動きって……綺麗さか?」
「たしかに十藤の剣捌きとか、体捌きとか、綺麗っちゃ綺麗だけどよぉ……」
不満の声をあげる生徒に、紅葉がいま一度「こほん」と咳払いをする。
「強いことが大事ってワケでもないですよ。わたしたちは『星刻』を通して呼びかけることで、何時でも手元に『星剣』を出現させることができます。これは自衛のためを思うと便利ですが、逆にいつでも相手を傷付ける凶器を持っているのと同じなんです。色や属性の能力だってそう。生まれつきで、望んだものではないとしてもそれが事実。だからわたしたち『星刻使い』は、こうやって特別に定められた学園で正しい知識を得ることで、正しい身の振り方、力の使い方を覚えていくわけなんですよ。勉強がすこしできないぐらいなんてことありませんけど、無闇矢鱈に力を振るうのは駄目ですからね。時と場合と場所、そして節度を守って、『星刻使い』としての意識を高く持っていきましょう! ね!」
はーい、と真面目な紅葉に合わせるよう、今度は真面目な返事で応える五組一同。
これで話は終わり、あとはのほほんと授業を続けていけばいいのだと、油断した一部の生徒が気を抜こうとする。
もちろん、経験者は全員冷や汗をだくだくと垂らして。
「――じゃあ早速時間もいいところですし、実践でもしましょうか! ちょうど今は第一アリーナが空いていた筈ですし! うん! 皆さん一緒に運動と行きましょう! 先生にどんどんかかってきてくださいね!」
全員みっちりしごきますので! と満面の笑みで紅葉はクラス中へ告げた。
かわいさ満点、善意百パーセントの笑顔は見る者を魅了するが、今回に限っては上手く機能しない。
なにしろその台詞は地獄への片道切符。
美人で若手、授業も明るく分からないところは何度もくり返す。
生徒から人気を博している紅葉だが、ある一点においては非常に畏怖の念を抱かれていた。
「これでもBランクの色合わせ。先生、手抜きとかしませんよ?」
こと試合形式、戦闘のコトになると他とは比べものにならないほどのスパルタ教育。
いつもの穏和な口調のまま激しい剣戟をくり出してくると有名な、わりと体育会系とも言えるノリと実力を併せ持つのが彼女の本質である。
……その後。
もちろんアリーナへ移動して授業風景を変えた篝たちは、揃ってボロボロになるまで地面やら壁やらを転がされることになるのだった。