月を憂う銀龍   作:Marian

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弱虫な銀龍と偉大なる母

 

 昼の間、母と妹が狩へと出掛けている時、私はこの洞窟から出てはいけない。

 

 それは私の鱗が、他の龍とは異質であるからだ。

 母と妹はかっこいい真紅の鱗であるが、私のは銀色で目立ちやすい。

 

 みんな綺麗と言ってくれるけど、私にはよく分からない。家族なんだから、同じ色の方が良かったのに……。

 それに異なるのは鱗だけじゃなく、私には狩の才能がなかった。

 母のように口から炎を吹くこともできず、龍なのに飛ぶこともできない。

 

 この洞窟だって、山の頂上にあって私が他の危険な生き物に見つからないように周りは大木で覆われている。きっと母がひ弱な私を守るために見つけてくれた家なのだろう。

 

 そんなネガティブな感情を抱きながらも、私は今日も今日とてのんびりと風景を眺めていた。季節は夏、緑生い茂る草木と揺蕩うようになびく風が私を癒してくれる。

 母には山に何かが入り込んできたら知らせるように言われているが、この山の大きさは相当なものだから、山に生き物が入り込んでも気付けやしない。

 

 * * * 

 

 夜になって、妹が気だるげな表情をしながら狩ってきた獲物を口に咥えて帰ってきた。

 

 『銀姉、ただいま桜龍(おうり)

 

 『うん、おかえり』

 

 銀姉っていうのは銀子(ぎんこ)お姉ちゃんの略称でもあって、妹が私に付けてくれた愛称のようなものでもある。

 

 『お母さんはどうしたの?』

 

 『なんか用事があって遅くなるってさ。先に食べててだって』

 

 『ふーん』

 

 遅くなる……か。そういえば、今日は大事な話があるからっていつもより神妙な顔してた気がするな。話って何なんだろう。

 

 『さっさと食べちゃおうよ、わたしお腹すいちゃった』

 

 『……そうだね』

 

 食事中に、妹から今日の狩のことを沢山聞いた。

 母がどんな凄い技を使ったのかとかそういうのは聞いても驚かなかったが、今日の獲物の半分は妹が仕留めたものだとわかった時は流石に衝撃が走った。

 

 龍は誰しも『龍気を操る程度の能力』を持っていて、龍が固有に持つ龍気というものを変幻自在に操れるらしい。

 妹はその中でもかなり才能がある方で、狩で使う技の数々をほとんど覚えてしまっている。一方で私は元々持っている龍気の総量が極端に少ないから、使えるのは会話をするための念話や石ころみたいな小さい龍気弾くらいなもの。

 

 妹が知らない間に成長していく姿を見て、私の心は不安に晒されていった。はやる気持ちを抑えきれず、食事が終わって妹にあることを試してもらった。

 

 『桜龍、ちょっと龍気弾撃ってみてくれない?』

 

 『弾? なんで』

 

 『お姉ちゃんとして妹の成長ぶりが気になるのです』

 

 仕方ないと言いながらも満更ではない顔で外の大木に向けて弾を放つ準備を始める。

 前に私と弾比べをした時はどちらもヘンテコで、木に小さな傷跡をつけることくらいしかできなかった。あれからそんなに時間は経ってないから、そこまで変わってないと思うのだが……。

 

 『銀姉、いくよー』

 

 そんな掛け声と共に、妹の口から龍気弾が放たれる。そしてその瞬間、私は重大なことに気づいてしまった。

 弾の大きさがおかしい。せいぜい大きくても顔の大きさくらいだと思っていたけど、そんなのとは比べ物にならなかった。

 岩。そう思えるほどに、弾は大きかった。しかも、込められている龍気の量がこの前とは桁違いだ。

 巨大な弾は目標の木に見事に命中する。だがそれだけでは収まらずに、その木を貫通してしまった。一本、また一本と大木がドスンドスンという爆音を響かせながら倒れていく。妹が放った弾の先にはもう立っている木は存在せずに、全て根本から吹き飛んでいた。

 

 『……銀姉、大丈夫?』

 

 あまりの出来事に私は声も出せず、石みたいに硬直してしまった。

 私とは……大違い。なんで双子なのにここまでの差があるの。おかしい……何かがおかしい。

 

 龍気もない、才能もない、何の取り柄もない自分が惨めに思えてしまった。

 妹のことが嫌いなわけでも、妬んでいるわけでもない。むしろ桜龍は大好きなんだ。こんなに弱々しくてそこらの野良妖怪にも敗れてしまうような私を、桜龍は姉として慕ってくれている。

 だからこそ、自分の無力さに呆れ返ってしまうのだ。

 

 しかし、ここで諦めてしまったらそれこそ本当にただの弱虫ニートと化してしまう。これでも、龍なんだ。私は龍としての誇りを持っている。

 

 『桜龍、私はやりますよ!』

 

 『どうしたのいきなり』

 

 『私はあの強大なお母さんを超えて、この山に、この世界に、太陽の下に燦然と輝く銀龍として名を轟かせてやるのです! わーっはっはっ』

 

 「ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 私の意気揚々な宣言をさえぎるように、突如頭上に暴風が吹き荒れ、まるで山全体が何かに恐れ慄くように震え上がる。

 

 額の石が赤く燃え上がらせ、膜質の翼が大きく広げて、私の目の前にドスンという巨大な音を立てて着地する。

 そこには、私の体格を遥かに超える紅い龍が鎮座していた。

 

 そう、私の母だ。

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