自分の名前が「一心」なので、葦名かと思ったら稲妻だった 作:クラウディ
「剣聖の逸話を知りたいのでござるか?」
「おう! 影から一心伝の万葉なら、剣聖の人としての逸話を知ってるかもって聞いたんだ!」
「ふむ、確かに拙者は一心伝を継ぐ楓原の末裔。剣聖のことは幼少より教えられていたでござる」
「万葉のひいおじいちゃんが、一心伝を受け継ぐ一人だったからなんだよね?」
「そうでござる旅人殿」
影と別れた蛍とパイモンは、彼女の薦めでとある人物のもとへ訪れていた。
蛍たちを待っていたのは結われた白髪に、一筋の紅葉のような髪を持つ美青年。
名は「
今となっては没落してしまった名家――「楓原家」、その末裔である。
そんな彼に会うことを、なぜ影は薦めたのか……それは彼の家系に関わる。
それは「雷電五箇伝」というものだ。
――「雷電五箇伝」
それは稲妻の神――「雷電将軍」がもたらした鍛造技術を継承する五つの流派。
それが「天目」、「百目」、「千手」、「経津」、そして……「一心」。
この五つの流派のうち、万葉の曾祖父は一心伝を受け継いでいたのである。
「天目影打」……「波乱月白経津」……そして、雷電影が持つ「夢想の一心」。
これら現代にも残る名刀たちを生み出したのがこの流派たちだ。
そのうちの「一心伝」を受け継ぐ家が、万葉の生家「楓原家」である。
だからこそ、影は万葉に聞くことを薦めたのだ。
「さて、なにから聞きたいでござる?」
「うーん……まずは、葦名一心という人物について、かな?」
「葦名一心について……単純でありながら難しい質問でござるな。拙者が知っているのは又聞きの又聞き……さらにその又聞き程度の話であるが故、あまり信用にはならないが、それでもいいであるか?」
「うん、お願い」
「分かったでござる。まず、一心という人物がどのようにして世に知られるようになったのかというところから始めるとしよう」
そうして万葉は一心という男について話し始めた。
「まず一心という男の生家……「葦名家」はどういったものなのかということを知っているでござるか?」
「おう! 影から聞いたぞ! 『たった一代で稲妻に名を遺すほど成長した名家『葦名家』。その初代当主が葦名一心』って。一代で名を遺すって、どれだけ稼いだんだろうなぁ……でへへへへ……」
「パイモン……」
「アッハハハ……稼いだか稼いでないかで言えば稼いだ方でござろう。なにせ、全くの無名の家が雷電五箇伝に並ぶどころか、将軍の懐刀となるまで成長したのだから」
「おぉ! じゃ、じゃあさ! もしその一心に出会えたら、財宝をたんまり……!」
パイモンが財宝に囲まれる妄想にふける横で、呆れたような表情をする蛍と、苦笑いを浮かべる万葉。
そんなパイモンに万葉は告げる。
「それはないでござるよパイモン殿。なにせ一心様は財宝をため込まない主義だそうで、困っている民には惜しみなく散財していたようだ。そのせいで葦名家の財政はいつであろうと火の車。むしろ他の家に頭を下げるのが常だったそうな」
「えー!? も、もったいないなぁ……オイラだったらおいしいものをお腹いーっぱい食べて、モラのベッドに寝転ぶくらいはしたかったけどなぁ……」
「パイモン……流石にそれはないよ……」
少しうれしそうに語る万葉の言葉に、がっくりと残念がるパイモン。
そして冷たい目でパイモンを見る蛍。
このメンバーで稲妻に来てからはいつもの光景であった。
「それはさておき、一心様の家についてでござる。一心様の生まれた葦名家。拙者が生まれた時と同じく、もはや没落寸前の家であったそうな」
「え!?」
「没落寸前!? なんでだ!? そいつが生まれるほどだったんだろ!?」
「驚くのも無理はない。なにせ、葦名家のある「葦名」という土地は、太古より「災い」に見舞われていたからでござる」
「災い……」
思わず息をのむ蛍とパイモン。
そんな二人の様子を察しながらも、万葉は話を続ける。
「葦名に根付く『怨嗟』によって凶暴化した獣。『怨嗟』によって正気を失った人々。『怨嗟』によって流行る病……『怨嗟』と呼ばれる、呪いとはまた違う現象によって、葦名という地は地獄と化していた」
「『怨嗟』……?」
「……今となってはその正体を誰も知らない、負の連鎖というべき災い。それが『怨嗟』。これを見出したのは一心様に他ならない。『怨嗟』は生物に降り積もり、その者を狂わせる。妖であろうと、獣であろうと。そして……「人」であろうと」
「狂うとどうなるの……」
「狂うとどうなるか……それは拙者にも分からない……いや、「知ることができない」のでござる」
「ん? 分からないじゃなくて、知ることができないのか?」
深みを持たせた言葉にパイモンが聞き返す。
「そうでござる。拙者自身、一度は葦名の土地に訪れたことがあるが、その時の自然はこう言ってきたのでござる」
「『知ろうとするな。怨嗟に魅入られたくはあるまい』と」
「「……!!」」
「そうも突き放されてしまえば、拙者は聞くことができぬ。その時はただの観光で終わったのでござる」
自然に愛されているといっても過言ではない万葉が突き放されるほどの災い……「怨嗟」。
そのことにどれだけの過去があったのか……そう思う蛍とパイモンの様子を見て、万葉は話を変える。
「さて、『怨嗟』についてはここまでにしておこう。葦名家の事情についてであったな。本来、没落寸前の家を立て直すのは不可能に近い。そも資金がなければ人員を集めること自体が不可能に近い。しかし、それこそ、波打ち際に作られた砂の城をまた積み上げるがごときこと。もしそれをなせるとするなら……それを立て直すことだけに力を注いだ狂人くらいであろう」
「でも、成長したということは……」
「そう。廃れていた葦名家を立て直すことに成功したということでござる。他ならぬ、一心様の手によって……」
「ほぇー……」
「そんなすごい人だったんだ……」
万葉の話を聞いた二人は1か月ほど前のことを思い出す。
ファデュイたちとの合戦で、乱入してきた男のことを。
『さぁ!! 滾ってきたわぁ!! ゆくぞぉ!!』
地面から十文字槍を引っこ抜き、それを片手に担ぎながらも人造神の目――「邪眼」を持つファデュイの軍勢を蹴散らす一人の侍。
綾華たちのような剣術……とはいいがたく、万葉のような我流に近い、だが、剣術というよりかは喧嘩ともいえる戦い方をしていたあの男が曲がりなりにも家を再建させたという事実をのみ込めないようだ。
「あれはむしろ狂戦士なのでは……?」そう思ったが口には出さなかった。
なんだかんだ空気が読める二人である
「そんな一心様であったが、なにも無から有を生みだしたわけではない。資金も雀の涙。士気は火種よりも弱かった。そんな状況でどうしたか? 二人は分かるでござるか?」
「うーん……どうやったんだ? 旅人は分かるか?」
「私も分からない……どうやったの万葉?」
「ふふっ、まぁ思いつかないであろう。なにせ――」
「――雷を切るほど強くなったのでござる」
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「へっくしょい!! うぅ……誰かが噂でもしてるのか、それとも普通に体が冷えてきたのか……流石に「眠いよパトラッシュ……」にはなりたくないの……」
そんなことがあるなどつゆ知らず、剣聖はいまだ雨の降りしきるヤシオリ島の洞窟で必死に薪を集めていた。
そんな薪の数も小山程度には集まっており、火をつければ燃えそうであった。
湿気てなければの話だが……
「ふぅむ……火をつけるにはどうするかのぉ……刀を走らせた火花でつけるにはちと大きすぎる……」
ああでもないこうでもないと首をひねる剣聖。
その時、不思議なことが起こった!
「あ、いいこと思いついた」
頭に電球がともり、ポンッと手のひらと拳で音を立てるというある種古典的な動作をした剣聖は刀を持って外に出た。
外は岩をも削りそうな豪雨であり、ところどころ雷が落ちている。
そんな外に出て何をするのかと思えば、この剣聖――
「ほいっ」
――高々と跳躍したのである。
流石に垂直に飛んだわけではないが、壁を蹴るなどして空高く飛ぶ。
そして頭上に刀を構えれば、刀に青白い雷元素がにわかに集まり始める。
このままでは雷に打たれて墜落するだろう。
だが、この「剣聖」は違った。
「あやかしの雷は源の神鳴り」
落ちてきた雷を刀で受け、即座に振る。
「神業なくば弾き返せぬ」
外側に行こうとする力によって剣先に集まった雷を保ったまま、洞窟の入り口に落ちていく。
「すなわち――」
入口に入った瞬間――
雷鳴がとどろいた。
「――地に足つけぬ、雷返しなり、とな」
雨音にかき消されるほど静かに着地した剣聖の視線の先には……
轟々と燃え盛る薪の山があった。
雷返しでやりたかったシーン