霊の方が怖い話を知ってるに決まってるもんね!

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こっくりさんに怖い話させてみた

「ヒロ、なんか怖い話ない?」

 人気のない図書室の一角。僕らはいつものように暇を持て余していた。目の前の机には「あなたはこの恐怖に耐えられますか」などと銘打たれた怖い話傑作選やら有名な怪談師の著書やら世界の呪い図鑑やらが散らばっている。

「ないよー、だってもうネットにも図書室にも知ってるやつしかないし」

「じゃあなんかして遊ぶ? ひとりかくれんぼとか、こっくりさんとか!」

「あきた」

「えーじゃあ何する? ヒロ、アイデア出してー」

「タクミも考えなよー」

 タクミがうんうん唸りながら机の周りを回りだす。僕も頬に手を当てて、良いネタはないかと思案する。

 僕らは飢えていた。真新しいネタを求めていた。図書室のホラーなんて生ぬるい。ネットの話は見尽くした。となれば次のネタは自分で考えだすしかない。

「うーん、難しいな……20人かくれんぼとか、……口裂け女にてけてけの怖い話喋らせるとか、うーん」

「それだー!」

 タクミが突然、全人類の鼓膜を破壊するような声量で叫んだ。

「それだよ! 組み合わせればいいんだわ。かー、さすが俺」

「え。なになに」

「こっくりさんに、怖い話させよう!」

 

「はてさて。ろうそくとライターと10円玉となんかいろいろ書いてある紙。準備万端」

 放課後の教室。タクミが用意した数々のブツを横目に、遮光カーテンを閉めていく。

 二分とかからずに前も後ろもわからない完全な暗闇が完成した。

ライターの金属音と共にタクミの顔が浮かび上がる。悲鳴を上げる僕を無視してろうそくに火を移しながら、タクミは上機嫌に微笑む。

「じゃあ始めるか」

「でも、本当にこっくりさんって怖い話してくれるのかな」

「聞かれたことに何でも答えてくれるわけだから、大丈夫だと思うよ」

 ろうそくの乗った机を挟んで向かい合う。ゆらゆらと揺れる橙の火が二人を鮮明に、教室中を淡く照らしている。

「こうしてみると結構雰囲気あるな…」

 タクミがぶるっと体を震わせる。

「ビビってんの? 珍しいね」

「ヒロ、悪い」

 見たこともないような神妙な表情だった。

「うんこ」

 

「タクミがあんなに面白いとは珍しい…」

 5分たってもタクミは戻らなかった。どうやらかなりの難産らしい。

「……先にはじめちゃうか」

 半分ほど燃え尽きたろうそくの前に座り、汚れた十円玉に指を乗せる。

「こっくりさんこっくりさん。あなたが知っているとっておきの怖い話を教えて!」

 ぴくり。意思を持ったように十円玉が反応する。ゆっくりと移動する硬貨。最初は「ひ」に止まった。次は「ろ」。さらに「き」、「い」、「て」と移動する。

「ひろ、聞いて……?」

 怪談の始まりらしからぬ文章だ。まるで僕に何かを聞いてほしいような。

 き、の、う、と十円玉は動き続け、時間をかけて文章を生成していく。

『きのう ひとりでこっくりさんをした』

「昨日? 誰が?」

 

『じゅうえんだま てをきった ちがついていた』

「十円玉? 血がついてた? 意味が分からん」

 

『それで いれかわった』

「入れ替わった……? 誰と誰が? 血のせいで?」

 

『いまのたくみ べつじん』

「……」

 生唾を飲みこむ。今日のタクミはいやに冷静だった。元々ギャグなんてするやつでもない。そう、まるで別人のような――

 

『ひろ にげて』

「そんな……嘘だろ? 逃げるったってどこに……」

 

『はやく』

 けたたましい音を立てて引き戸が開く。心臓が跳ね、目がくらむ。細まった視界の中でタクミが僕の方へまっすぐ歩いてくるのが分かった。

「勝手に始めるなよな。抜け駆けは校則違反だろ。いやー、でも悪いな、めっちゃ時間かかっちゃって。トイレが壊れててさ、職員室まで行って先生呼んでから別のとこでうんこしてた」

 タクミは消えかかったろうそくを新しいものに取り換え、教室の戸を閉める。部屋の明かりはろうそくだけだ。そしてまた二人は向かい合って座った。

「……で、こっくりさんからはなんか聞けた?」

「いや……何も」

 僕の答えからわずかに間が開く。恐る恐るタクミの表情をうかがうと、先程と変わらぬ微笑がろうそくの火に照らされていた。

「ふーん、やっぱ二人でやるものだもんな。それじゃ、始めようか」

 そうだね、と答えつつ、僕は胸をなでおろしていた。タクミがいつもより冷静に見えたのは気のせいに違いない。普段とキャラが違うのはたぶん漫画にでも影響されたんじゃないだろうか。

 もしかしたらあれが、こっくりさんの考えたとびきりの怖い話だったのかもしれない。流石はこっくりさんだ。今まで聞いたどんな怪談よりも怖かった。今日の夜はトイレに行けないかもしれない。

 タクミがろうそくの向こうでにやにやと笑いながらこっちを見ている。どうせ何かバカバカしいことでも思いついたんだろう。

「どうした?」

「ちょっと提案があるんだけどいいかな」

「へー、なに?」

「……十円玉に血をつけてやってみないか。やべーことが起こるんだって。面白そうだろ、一緒にやろう。俺の血はすでにつけてあるから、ほら、手出して……いいだろ、ちょっとちくっとするだけだって。なんでそんなに嫌がるんだよ……あ、」

 ろうそくの火が消える。

「……もしかして、聞いちゃった?」


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