「お前たちは兵器である」

 鎮守府に着任した私たちに真っ先に告げられたのはそんな言葉だった。

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私たちは兵器である

「お前たちは兵器である。見た目こそ一般女性と同じであり、また、人と同じように考え、動くこともあるだろう。だがしかし一歩海に出た瞬間、お前たちは兵器となる」

 

 鎮守府に着任したその日、提督から告げられたのはそんな言葉だった。

 

 艦娘――先の大戦を初めとする様々な艦船たちの遺志を受け継ぎ、海を駆け、戦う者たち。

 

 そんな私たちはあくまで兵器であり、人外である。彼はそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 ある日、ひとりの艦娘が指示を無視し、そのことについて提督から強く叱責を受けた。

 

 お前たちは兵器である。そこに意志があろうとも、海の上ではあくまで兵器なのである。兵器が使用者の意思に逆らってはいけない。

 今回は大きな事故もなく事が済んだが、それで万が一つにでも命に関わることが起きたらどうするつもりだったのだと。

 

 強く、強く感情を顕にして提督は怒った。

 

 

 

 ある日、維持していた戦線を突破されてしまった。提督はそのことについて上からかなりキツく言われていた。

 

 この件について、私たちはかなり責任を感じていた。前線にいた私たちの不注意があり、突破されてしまった側面が大きかったからだ。

 そんな私たちに提督は一切怒らなかった。もしかしたら怒り心頭でもはや怒ることすらやめてしまったのかもしれない。

 

 私たちには不安が残ったが、提督の指示で自室に戻ることになった。

 

 

 

 その夜、どういうことなのか気になり、提督の自室を訪れた。

 

 反応はなく、既に寝ているのか。はたまた関わりたくもないのか。仕方なく部屋に戻り眠ろうかと思っていたとき、執務室に小さく明かりが灯っているのがわかった。

 

 急ぎ近づきノックをすると、少し間を置いて「入れ」という声がした。

 

「……こんな夜遅くにどうした」

 

 そこにいたのは提督だった。

 

「その、窓から明かりが見えたので」

 

「……この灯りでも外からだと見えるものか」

 

 机をギリギリ照らせるかとほどのカンテラ。その下にはたくさんの紙があった。

 

「まだ、仕事が? 言ってくだされば手伝ったものを」

 

「いいや、これは私個人の仕事だ。……私の責任だ」

 

 彼の手元をよく見ると、それが始末書だということがわかった。

 

「私個人の責任から生まれたものを業務時間内にやるべきでもない。また、それを他の者たちに手伝わせるわけにも行かないのでな」

 

「だからってこんな夜遅くに暗い中でやらなくても」

 

「そうでもしないと手伝おうとするものがいるだろう。現にお前がそうしようとしたように」

 

 つい数分前の事実なだけに、言い返すことができない。

 

「というか、始末書でしたら私たちにも責任が……」

 

「責任? なんのことだ」

 

「今回、戦線を突破されてしまったこと。それは私たちが油断してしまったことが間違いなく原因に……」

 

「何を言っている。お前たちは兵器だ。海の上にいる限り、私の指揮を受け、それを遂行する兵器だ」

 

 彼はそう言い、そして続ける。

 

「その兵器のコンディションが万全でなかったというのは間違いなく使用者の落ち度であり、責任は使用者にある。だというのに兵器に責任を取らせるなどというのはおかしな話だろう」

 

「けれど」

 

「とにかく、お前たちが責任を取る必要はない。取らないといけない理由もない。そんなことを気にしているのであれば早く寝なさい」

 

 彼はそう言って、私のことを追い出した。

 

 

 

 ある日、私たちの艦隊が大きな戦果を挙げた。深海棲艦に押され気味だった戦線を大きく押し返し、以前奪われた海域よりもより広い制海権を得た。

 

 鎮守府では小さいながらも祝賀が開かれ、珍しく提督も酒を飲んでいた。

 強くないと自称していただけもあって、酒豪の艦娘たちに囲まれすっかりと酔いつぶれてしまっていた。

 

 このままじゃ良くないと判断して、私は彼を抱きかかえ、提督の自室へと運んだ。

 

 ベットに横たわらせ、布団をかける。服は、まあそのままでいいだろう。

 

 そのまま外へ出ようかと考えていたら、提督がうわごとのように言葉をつぶやいていた。

 

「どうして、私は、戦えないんだ……」

 

 それは、提督の本心からの言葉であるように感じた。

 

「どう見たって、彼女たちは人間じゃあないか」

 

 きっと、ひとりごとなのだろう。酒に突き動かされ、不意に出てしまった言葉。

 

「私たちと同じように考え、そして行動する」

 

 誰にも宛てられなかったであろう告白。

 

「なのに、それなのに、どうして私はそんな彼女たちに」

 

 本来、受け取ることのなかった告白。

 

「戦いに行けと命じることができるだろうか。死もありうる場所に、死から遠い場所から」

 

 それを受け取ってしまった私は、ゆっくりと部屋の外へと出た。

 

 

 

 自室のベッドに身体を預ける。

 

 仰向けになり、天井を眺める。ゆっくりと、思考する。

 

 私たちは、兵器である。彼に言われ続けてきたその事実は、今までどちらかといえば向き合いたくない事実として、私に降りかかっていた。

 

 けれど、違った。彼の言葉の本意は、そこには無かった。

 

 彼は、私たちを。そして、彼自身を守るため、私たちを兵器として扱っていた。

 

 彼は度を過ぎて優しかった。だから、私たちを人として扱えなかった。

 そうすると、出撃の命令などできなかったから。

 

 そんなこと、割り切ってしまえばよかっただろうに。

 本当に不器用な人だなあ。私はそう感じた。

 

 けれど、それと同時に。

 

「……よし」

 

 私は、やっと理解できた。

 異様なまでに私たちを兵器として扱おうとする、彼のその意図を。

 その言葉の裏にある、彼の優しさを。

 

 

 

 

 

 私たちは兵器である。見た目こそ一般女性と同じであり、また、人と同じように考え、動くこともある。だがしかし、海に一歩出た瞬間、私たちは兵器となる。

 

 そして兵器は使用者の意図を汲み、遂行する。

 

 提督が命ずるのであれば、私はそれを遂行する。

 

 彼は言った。戦えないと。戦場から遠い地で命令するのみだと。

 私はそうは思わない。指揮を執る彼は間違いなく私の隣にいる。彼は、戦場で戦っている。

 

 そんな彼だからこそ、私はそんな彼の鉾となり、盾となる。

 

 私たちは兵器である。

 

 私たちのことを兵器扱いするような、そんな優しい彼の管理下の兵器である。


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