根が真面目な彼女は自己研鑽と執務に集中するあまりに、鎮守府内でコミュニケーションがとれていない。
鵜来を慕い、心配するよつとみとは、あの手この手で鵜来の気を惹こうとするが……。
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鵜来ちゃんおかえり | 暁の瑞雲 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18540730
「海防艦 鵜来、着任しました」
2022年夏から秋にかけての大規模作戦海域で、鎮守府初となる鵜来型海防艦が着任した。
彼女は、戦時中はもちろんのこと、戦後も長く国のために働いた武勲艦である。
「鵜来ー!! 久しぶりですって!」
鵜来が艦として佐世保所属になった時に、訓練相手だった呂500が声をかける。
「あ、ゆーさん? いえ、ろーさんですか?」
鵜来は、呂500がU511だった時の姿も知っているため戸惑ってはいたが、久しぶりの再会だ。自然と笑顔になる。
「ろーさん、またお世話になります。戦後まで生き抜いたこの鵜来、鎮守府はもちろん、この国のために粉骨砕身頑張ります!」
ビシッと敬礼する気合い満々の鵜来を前に、呂500はにこやかに応える。
「よろしくですって! でもお仕事は無理しちゃダメです!」
「分かりました!」
鵜来は元気よく執務に戻る。
こうして、鵜来は正式に鎮守府の一員となった。
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この鵜来、着任したはいいが根が真面目であるのだろう、鎮守府での挨拶もそこそこに秘書艦業務に就きたいと言い出した。
提督は断るつもりだったのだが、その時の秘書艦だった大淀が、その意気を買ってやらせてみてはどうかと提案してきたのだ。
「鵜来、もう15時だ。書類整理もほとんど終わったし、他の海防艦達と遊んで来たらどうだ?」
「いいえ、執務が終わっても提督に聞きたいこと、勉強したいこともありますし、先輩方に追いついて即戦力になりたいんです」
着任間もないが、彼女は言い出したら聞かない頑固さがあることを提督はすでに知っている。
今まで着任した海防艦達と違い、戦時中の海防艦時代、戦後の定点観測艦時代、そして巡視船時代と様々な経歴を持つ彼女だ。見た目の幼さとは裏腹にその豊富な知識と、貪欲な成長意欲は歴戦の水雷戦隊にも引けはとらないだろう。
「鵜来、今は君たちが艦だった頃と違い、人に流されて戦っている訳ではない。作戦立案から、その海域へ出撃するかどうかも君たちの意思を最優先する。自分で考え、歩いて行ける足もあるのだよ」
鵜来は、聞こえているのか、いないのか、次の書類に目を通している。
提督は言葉を続ける。
「鵜来、君を慕い、仲良くなりたいと思う子達もいるんだ。それを忘れるな」
そこで鵜来の手が止まる。彼女が何を考えているのか提督は知る由もなかった。
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提督の心配と同様に、他の海防艦達も根を詰める鵜来を心配していた。
海防艦達が姉妹で連れだって声をかけに来るが、鵜来はいつも忙しそうにしており、交わす言葉もほとんどない。
そうするうちに、執務室へ足を運ぶ子達も一人減り、二人減り、ついに様子を見に来る海防艦は、よつとみとの二人だけになった。
執務室の扉は、海防艦の背丈では取っ手に手が届かないので、最近は扉を開け放っているが、ふと目をやるとよつとみとが中を覗いていることが増えた。
「うくるさん、まだおしごとですか?」
「いそがしそうでっすぅ……」
幼い二人は、鵜来が忙しいのを見て寂しそうに去っていく。
執務室への訪問を繰り返すうちに、鵜来の手が空いたタイミングを狙って様々な手で会話をしようと試みることも始めた。
ときには手に捕まえたのだろう「セミ」を持っていたり、「蝶」を持っていたり。
「これ、よつがつかまえたんですよ!」「このちょうちょ、めずらしいんでっすぅ」
ときにはラムネやお菓子を持ってきたり。
「やまとさんとくせいラムネでっす!」「いらこさんのようかんいかがですか?」
ときには桃に教えてもらった歌の振り付けをフリフリの衣装でお披露目したり。
「てーがたかいぼー、てーがたかいぼー、てーがたかいぼーかんっ!」
だが、やはり執務中の鵜来は、ニコリともしない。
最近は、執務を終えた後は食事をしてすぐに入眠しているというから、海防艦のみならず、他の艦とのコミュニケーションすらとれていないようだ。
相手にされなくても、毎日毎日鵜来を慕ってくるよつとみとが不憫でならない。
そこで、提督は一計を案じる。
「鵜来、これは提督命令だ。明日、よつとみとと遊園地へ行って来なさい」
「え? 明後日までに仕上げなければならない報告書があるのですよ!」
書類の束を指し示し、鵜来が反論する。
「大丈夫だ。大淀に頼んでいるから」
すると鵜来の目にみるみる涙が溜まっていく。
「わ、私の何がいけないんでしょうか? い、いっしょうけんめに、やて、やっているのに……。うええ、うわああああん」
鵜来は、大声で泣き出した。
すると、扉の近くにいたのだろう、よつとみとが異変を感じて駆けつける。
「うくるさんだいじょぶですか?」「おなかいたいの?」
と、よつとみとが必死に鵜来の頭を撫でる。
すると鵜来は、ますます大きな声で泣き出した。
それは、ここにきてからずっと、鎮守府の、この国のために役に立ちたいと、自分の存在意義はそれだけだと、頑かたくなに頑張ってきた鵜来の、固く張り詰めた心が溶けた瞬間だった。
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「よっちゃん、みっちゃん、次は何に乗る?」
翌日、一緒に出掛けた遊園地、引率の松型三姉妹と鵜来は、よつとみとの手を引っ張って色々な乗り物に次から次へと乗っている。
「よつは、メリーゴーランドにのりたいでっす!」「わたしかぼちゃの馬車がいい!」
「分かったわ! チケット買ってくるから、二人はおとなしく座っててね!」
目をキラキラさせて答える二人の頭を撫でて、鵜来は駆け出す。
その足取りは軽やかだ。
「なぁ、松、良かったよな」「ええ」「桃の振り付けがよかったからじゃないかな」
鎮守府の艦娘たちは、鵜来を気にしていなかった訳では決してない。
激動の時代を生き抜いた彼女にかける言葉が見つからなかったのだ。
先に沈んでしまい、その後、鵜来にかかった負担がどれだけ過酷だったか知っているからだ。
だから、同じ海防艦であるよつとみとに託したのだ。幼い二人の純真さが、いつか鵜来の頑かたくなな心を溶かしてくれると信じて。
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「おーい! よっちゃん、みっちゃん! ソフトクリーム食べるでしょー!?」
小さな手にチケットと、三つのソフトクリームを持って鵜来が駆けてくる。
「あっ」
小さな段差に躓いて、転びそうになるところを竹が支える。
「おっと、危なかったな」
勢いがついていたためソフトクリームの頭の部分が反動でへしゃげる。
ソフトクリームは、竹がいなかったら今頃地面に転がっていただろう。
「ありがとうございます! 竹さん」
「いいさ、それより、ソフト、大丈夫か?」
「はい、ちょっと形が崩れましたが大丈夫です!」
鵜来はにこやかに答える。
(鎮守府運営は皆でやればいい。自分も今を楽しんでいい。幸せになっていいんだ。今だって、こうして竹さんが支えてくれた)
と、気付くきっかけをくれた二人に、鵜来はソフトクリームを差し出すと三人並んで一緒に食べる。
秋になったばかりで、まだ強い日差しはソフトクリームを少しずつ溶かしていく。
そう、よつとみとが、鵜来の頑かたくなだった心を溶かしたように。
「ふふ、美味しいね」
「おいしいでっすう」
「おいしいです!」
ソフトクリームを食べ終わり、べたべたになった手と口を、松型三人が優しく拭いていく。
「鵜来さん、これからもよつとみとと一緒に遊んであげてね」
松が声をかけると、鎮守府に着任してから今まで見たことがない程の笑顔で鵜来は頷いた。
「みなさん、今日はありがとうございます。鵜来、これからはもっとみんなと一緒に過ごす時間も大切にしますから! これからもよろしくね!」
「はい、よつも!」「みとも!」
言葉を交わした三人は、メリーゴーランドに向かって手をつないで走り出した。
完