獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】 作:ごぼう大臣
「よかったー、みなさん遅いから何かあったのかと……」
「まあな、けっこう苦労したよ」
……アランたちがゴブリンとオークの群れを倒してから三日後。アラン、ジゼル、ダニエル、ルナの四人はルベーマ市の冒険者ギルドにもどっていた。それぞれ顔に疲れは残っていたものの、依頼を達成してもどれた事で安堵の色がうかんでいる。
「えーとそれで、当初の目標であったゴブリンの群れに……オークが一体ですね。これは特別報酬に入れておきます」
「お、色つけてくれんの?」
「はい。負担が増えてしまった時のきまりでして」
「よっしゃ、苦労したかいがあったぜ!」
「ワシも吹っ飛ばされたかいがあったのぅ、ははは」
ジゼルとルナが上機嫌にハイタッチをする。そしてジゼルは報酬を受け取ったアランへ詰め寄ると、開口一番にこう言った。
「よっしゃ、四人で完遂した記念に飲みに行こうぜ! 報酬もオークのぶん増えたんだし」
「いきなりそれかよ。もうちょっと節操というか、先の心配もしようぜ」
「そうですよ。お二人はまだ依頼の制限を受けているでしょう?」
「なんだよつまんねーな。おいルナ、お前は――」
アランやダニエルにとがめられ、ジゼルはすねた顔でルナを見る。しかし、自身のお腹ていどの背丈のルナを見て、ジゼルはふと言いよどむ。
「お、なんじゃ?」
「ルナ……お前、酒って大丈夫か?」
じっさいの年齢は分からない。ダニエルと付き合っているとは聞いたが、見た目はやはり子供である。そう頭の中で考えるジゼルをよそに、ルナはちょっとガッカリした顔で答えた。
「む……悪いがワシは好きではない。苦味と妙な匂いがどうしてもな」
「ああ……そっか」
年齢が問題ではないらしい。ジゼルは平静をよそおって頷いた。そこへ横からダニエルが声をかける。
「せっかくですけど、僕らは宿を取ったりとか色々しないといけなくて……」
「なんだ、そんなに時間かかるのか?」
「ええ。獣人おことわりの宿もいまだ多いですし、かといって同じ宿にいつまでも居るのも気まずくて……」
頭をかいて説明するダニエル。するとアランが思い出したように言った。
「ああ、そんなら俺らの行きつけの宿教えようか? 獣人も一緒に働いてるぜ」
「え、いいんですか?」
「おう、割りと部屋あいてるしな……。ちょっと待て、メモ渡すから」
アランはそう言って、受付嬢から紙と羽ペンを拝借し、住所を書いてダニエルに手渡した。ダニエルはそれを受け取ると、一礼してほほえむ。
「ありがとうございます。僕ら二人でしたら、依頼は失敗していたでしょう」
「礼を言うのはこっちさ。まさに渡りに船だったからな」
ははは、と軽い調子で礼を返すアラン。隣のジゼルはふいと目線を下げ、ルナにこうたずねた。
「……ルナ、もう傷は平気か?」
「なんじゃ、まだ心配しとるのか。きのう水浴びした時、ふさがっとるのを見たじゃろ」
「……そっか、よかった」
答えを聞き、ジゼルはホッと胸を撫で下ろす。そして四人は、ギルドの入り口で別れた。
「そんじゃあな。また一緒に仕事してくれると助かる。つってもこっちだって昇級しないとダメか」
「そんな、気にする事ないですよ。いつでも声をかけてください」
「ジゼル、久しぶりに獣人だけで話せて、面白かったぞ」
「ああサンキュー。またな」
めいめいに挨拶をし、ダニエルとルナは街の中に消えていった。それを見送ってから、ジゼルはアランの背をたたいて言う。
「さて、私らも店に行くか! 村からこっちまで一滴も飲めなかったからな」
「ちょっとだけだぞ? しばらく収入も苦しいんだから」
「んー、後でお前が手を出さないって約束するなら」
「分かったよ。……水浴びだけじゃちょっと
「あ? 今なんつったこの野郎!」
「わあ、悪かった。冗談だよ……」
ジゼルに尻を蹴られ、アランはあわてて酒場の方角へと逃げていった。
――
……そして、数時間後……。
「こんばんはー」
「あ、アランさん。毎度どうも」
「よう、部屋あいてる?」
「ええ。一階に二つほど。これカギです」
日も沈んだ頃、アランとジゼルはいつもの宿を訪れた。今日はいつもよりシラフに近く、ほろ酔い程度である。
カウンターからほほえむリズへ、アランは小銭を差し出して言った。
「あのさ、ここに杖もった客が来なかったか? 赤髪で、小さな女の子を連れてるの」
「女の子の方は金髪だ」
「……ああ、いらっしゃいますよ。そちらの部屋に」
「そっか。じゃあちょっと挨拶させてくれよ」
リズが近くの部屋の扉をしめすと、アランはそこへ向かって歩き出す。後ろをついて行きながら、ジゼルがつまらなそうに言った。
「あーあ、やっぱり四人で行きたかったなぁ。飲めた量もちょっぴりだし、あれじゃもの足りねえぜ」
「そう言うなよ。なんなら今からあいつらに約束取り付けようぜ」
「男性陣が二人でおごるってのはどうだ?」
「よしとけ。ダニエルはなんか、押せばそのまま引き受けちゃいそうだから」
苦笑しながら、アランは扉の前まで来る。ところが、その目の前にひょいっと誰かが割り込んできた。
「お兄さん、お久しぶりニャ~」
「おう、そちらも元気そうで何より」
エマであった。初めて会った時と同じく、まさしく猫のような愛想のいい顔で笑うエマ。本性はともかく、獣人むけの看板娘としては上々である。
しかし、彼女はふと目をニヤリと細めると、アランたちに小声でささやく。
「……そちらの部屋に御用かニャ?」
「ああ……まあ知り合いで」
「……やめた方がいいニャ。明日にしとくニャ」
「へ?」
エマにならって思わず声をひそめていたアランが、ついでに眉をひそめる。ジゼルもけげんそうな顔をしていたが、エマはさっと飛びのいた。
「どうしてもと言うなら、ドア越しに探るニャン。獣人の耳ならよく分かるニャ」
「なんのこっちゃ?」
「私からは秘密にしておくニャ。後はご自由に。ミャハハハハ」
含みのある言い方をして、エマはその場を去っていった。それを見送り、顔を見合わせて、二人は同時に首をかしげた。
「……なんだろ」
「……さあ」
「ジゼル、ちょっと聞き耳立ててみたらどうだ?」
「は? なんで私が」
「俺は獣人じゃねーもん。お前だって気になるだろ?」
「まあ……なるけどさ」
相変わらず小声で話しながら、ジゼルはそっとドアへと近づく。アランも口をつぐみ、なりゆきを見守っていた。
「おおかたケンカでもしてんじゃねーのか……?」
憶測をつぶやきながら、ドアに耳をつけるジゼル。ところがそれから数秒あって、彼女の顔色がふと変わった。
最初に目を見開き、それから注意深い目つきになってドアの向こうに神経を集中する。そしていつしか、なぜか頬がさっと赤くなった。
「……? おい、どした?」
無言なのを気にしたアランが声をかける。するとジゼルはハッと我にかえり、すばやくその場を飛びのくと、カギを渡された自分たちの部屋へと早足に向かっていく。
「ジゼル? なんか怒ってるのか?」
後ろからアランが追いかけ、とまどいながらたずねる。するとジゼルは部屋の前でやっと足を止め、振り返らずに言った。
「……アラン」
「お?」
「ルナってさ……もう18歳以上なのかな」
「は?」
言わんとするところが分からず、眉根をよせるアラン。しかし振り返ったジゼルの赤らんだ顔を見て、何か察したようにうなずいた。
「まあ……大丈夫だろ。ギルドに登録できているんだし」
「そう……だよな」
「そうそう。恋人どうしの情事……間違えた、事情に首をつっこむモンじゃねえさ」
アランのシャレにならない言い間違いに、リズが目と口をかっ開いて振り向く。それに気づきもせず二人は部屋へと入っていってしまった。
カウンターで一人、赤面しながら頭に"!?"マークをうかべるリズを、エマが吹き出しそうな顔で見つめていた。