獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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二人はこうして、魔法を練習する

「……今日から、魔法の練習をしてみようと思う」

 

「なんだよ、いきなり」

 

 ある日の朝方、人里から離れた森の中。

 

 アランはジゼルに向かって言った。妙にやる気に満ちあふれた相棒を見て、ジゼルはけげんそうに眉をしかめている。

 アランはふんと鼻息あらく笑うと、ふところから何かの本を取り出し、ジゼルへと見せつけた。それをジッと見つめ、ジゼルはタイトルを読み上げる。

 

「『雷の魔法・入門』……なんだコリャ?」

 

「ダニエルに借りてきた。アイツ将来で使う事になるかもって、色々もってるんだとよ」

 

「ああ、アイツの影響か……」

 

 アランの言葉に、ジゼルは納得してつぶやく。彼らは先日、炎の魔法を使うダニエルと依頼をこなしたばかりなのである。

 アランは本を開いて見せ、うんうんとうなずきながら続けた。

 

「あれを見て、俺も少しやれる事を増やさなきゃと思ってさ。ダメ元で何かいいのないかって聞いたら、コレを」

 

「……3日坊主にならなきゃいいけどな。その決意」

 

「失礼な。始める前からシケた事いうなよ」

 

「だってお前これ……私なら頭痛がしてくるぜ」

 

 ジゼルはアランから本を奪い取り、パラパラとページをめくる。パン3切れていどの厚みだったが、その中身は小難しい文章や図(人間の書き文字に慣れていないジゼルは特に)にあふれ、とても一朝一夕に身につくものには思えなかったのだ。

 苦笑したアランが本を取り返し、明るい言葉をのべる。

 

「大丈夫だって! だいたい例の避妊とか、感染症防止の魔法だってゼロから学んだんだから」

 

「その根性が今回も続けばいいけどな……。言っとくけど、私は手伝わないぞ。お前なら一つ上達するごとにパイタッチ一回とか言い出しそうだ」

 

「どんなイメージだよ俺は。地道な努力を知ってると言いたいんだよ」

 

 アランは堂々と胸をはり、真面目な顔で誠意をしめす。それを見て、ジゼルはようやく信用した様子で口を開く。

 

「そりゃ分かったけど……具体的に何するんだ? こんな森まできて」

 

「ふふん、よくぞ聞いてくれた」

 

 アランはいよいよ本題といった顔で、腰の剣をすらりと抜く。日が昇ってきている森の中で、長い刀身がうっすらと光る。

 それを高くかかげて見つめながら、アランは言った。

 

「魔法には、武器に魔力をまとわせる方法もあるらしい。せっかくだから広い場所で、それを試してみようってワケだ」

 

「……で、今んとこ何ができんだよ?」

 

「そう焦るなよ。とりあえずは形になりかけてる。いくぞ……」

 

 なんとなく不安になる一言を残し、アランは数メートル離れた木に剣先をむける。剣は両手で腹の高さに固定して、脚に力をこめた。その衝撃に備えるかのような姿勢にジゼルがなんとなく嫌な予感を覚えた。その直後。

 剣先に黄色い紋章がうかんだかと思うと、アランがするどい声を発した。

 

放電(スパーク)ッ!!」

 

 瞬間、バチィッ!! と耳をつんざくような音がすると共に、アランを中心とした半径1メートル範囲にまぶしい稲光がいく筋も広がった。それらは一瞬にして辺りへ飛び散り、周りの木々にぶつかって火花をあげる。

 

「キャンッ!?」

 

 犬のような悲鳴をあげて、ジゼルはその場にうずくまる。膝をついて突っ伏して頭を守りながら彼女が周囲を見回すと、辺りの木々や茂みのあちこちに焦げたような跡と、そこから吹き上がる白い煙が見えた。

 言葉を失って前を見直すと、アランが片手をヒラヒラと振り、笑いながら振り返った。

 

「ダーメだ。全然狙いが定まんねえや……」

 

「バカ野郎オオォッ!!!」

 

「ぐえっ」

 

 無防備にぼやいていたアランへ、ジゼルが低い姿勢で突進して拳をぶちこむ。そのパンチはみぞおちに深々と命中し、アランは苦悶の表情をしながらひっくり返った。

 地面に背をつけてアランがうめいていると、その上にジゼルがマウントを取り、激しい罵声をあびせてくる。

 

「お、おおお前なに考えてんだ! 殺す気か!?」

 

「いや上手くコントロールできないだけだって。だから今練習すんの……」

 

「あ、ああ言う事になるんだったら、最初から言えッ! びびビックリするだろうがよ!!」

 

 上に乗って叫ぶジゼルの声は、心なしか震えていた。尻尾をふくらませてピンと立て、キバをむき、目には涙までうかべている。

 その様子を見て、アランは何か察したような顔になった。そして仕草でどいてくれと示し、おだやかな口調で言う。

 

「悪かったよ。次から少し離れていてくれ。必ず魔法をマスターしてみせる」

 

「……ふん。気をつけろよ全く……」

 

「カミナリ嫌いか?」

 

「わ、悪いかよ!?」

 

 アランがからかうと、ジゼルはうろたえながら怒鳴って、ずかずかと遠くへ行ってしまった。その姿が豆粒のようになってから彼女はくるりと振り返り、ジーッと遠くからでも分かるあきれた視線を向けてくる。

 

「やれやれ。じゃ、気を取り直して……」

 

 体の土をはらいながら、アランは立ち上がる。そして剣を手に取ると、再び目の前の木に剣先をむけて呪文をとなえる。

 

放電(スパーク)! 放電(スパーク)! 放電(スパーク)!!」

 

 ただひたすらに同じ魔法を連発し、その度にさっきと似たような制御できない電流が周囲にはしる。それでもアランは目の前の目標をジッと見つめ、そこに向かって魔法を放ち続けた。

 魔法の習得に近道はない……というのは、ダニエルの言だった。

 

――

 

「ぜーっ……ぜーっ……」

 

 ……それから1時間後。アランは剣を握ったまま、手足を震わせてやっとの思いで立っていた。周りには魔法を放ってできた焦げ跡が無数に残り、アランの額にも汗がうかんで荒い息を吐いている。

 呪文がとだえてから3分ほどが経過して、遠くからジゼルがやれやれと近づいてくる。

 

「……どうした? バテたか?」

 

「はは……そうみたいだな。一応この呪文、魔力の消費量は一番低いんだけど」

 

 ジゼルの声に振り向き、アランは力なく笑った。その顔が今にも死にそうに見え、ジゼルはしばし言葉が見つからなくなった。

 しかし、アランは腰にさげていた水筒を一口あおると、また笑みをつくり、正面の木を指さして言った。

 

「でもほら! 少しずつ狙いはつけられるようになってきたんだぜ。見てみろよ」

 

 ジゼルは半信半疑で、しげしげと指さされた方向を見る。確かにその木には、何度も電撃をぶつけたらしい黒い跡が、バラつきはあるものの幹の真ん中あたりに集中してついていた。

 誇らしげに歯を見せて笑うアランへ、ジゼルはさほど感心してない様子でたずねた。

 

「……ちなみにその魔法を使えるようになるまで、この調子でどんくらいかかる?」

 

「んー……そうさなぁ……。体感的にこのままミッチリやって1週間、他の依頼やら休息やら挟んだら1ヶ月、ってところか」

 

「初心者むけ一つでそんなにかかるのかよ……」

 

「まあ魔法じたいに慣れれば上達具合も変わっていくんじゃねーかな。とにかく今はコレを覚える!」 

 

 表情は明らかに疲れていても、アランはまだ魔法を練習する気まんまんだった。その根気を意外に思うと同時にあきれながら、ジゼルは一つたずねる。

 

「……なぁ、正直私ヒマなんだけど。これから何か手伝うのか?」

 

「やだなぁ、優しく見守ってくれるだけで十分だよ。お前も相棒が成長する姿には興味が……」

 

「お、チョウチョが飛んでる。こりゃかなりデカいな」

 

「……まあいいや。放電(スパーク)! 放電(スパーク)! 放電(スパーク)!」

 

「うわ、だから近くでやるなって」

 

 もはやかけ声のように呪文をとなえるアランから、ジゼルはあわてて後ずさりする。しかし彼女の見たところ、確かに最初のようにあちこちに電撃が広がるような事はなくなっていた。

 ……いや、それ以前に、威力が弱まっているのだ。目標の木に一閃の稲妻が走るほかは、アランの周りにパチパチと火花が散る程度である。

 

「…………」

 

 疲れていても、簡単にはやめない。相棒のそんな姿を、ジゼルはその場にしゃがんで何ともいえない表情でながめていた。膝に肘をつき、頬杖しながら一つ、あくびをする。

 

「ありゃ……もう水筒も空になったか。暑いんだけどなぁ」

 

 ふと、アランは持っていた水筒を逆さに振り、苦笑いする。練習の合間に飲んでいたのがついに尽きたのだ。今までバテながらも魔法を放ち続けた彼だったが、ついにがっくりと肩を落とす。

 その様子を見たジゼルはやれやれといった調子で立ち上がる。そしてそっぽを向き、いかにも独り言だという風に口を開いた。

 

「はぁーあ……川で涼みにでも行ってくるかなぁ、ヒマだし」

 

「えっ?」

 

「ちょうどこっちの方角から、水の匂いがするんだよなぁ」

 

 川、そして水。体力のすり減ったアランはそのワードに思わず振り返る。一方のジゼルはそそくさと背を向け、川のあるらしい方角に歩きだした。

 そして数メートル歩いたところで、ポカンとして見つめているアランへと振り返り、ぶっきらぼうに言う。

 

「……どした? 来ねーのか?」

 

「んー……いやしかし川の水を飲むのはさすがに」

 

「なにブツブツ言ってんだよ」

 

「い、いや行くよ。待ってくれ!」

 

 アランは何やらためらいながらも、あわてて後を追いかける。それを確認して、ジゼルは歩の進みを少しだけ遅くし、アランを先導するようにして歩いていった。

 

――

 

「はー……生き返る」

 

「ったく、ぶっ倒れたらどうするんだよ」

 

「いやぁ、自分しだいで上達するって素敵じゃん?」

 

 ……歩いて10分はかかっただろうか。アランたちは森の中にある小川にたどり着いていた。アランは火照った顔を洗ってから、その川をぐんと見回した。

 川幅は2メートルほどで、おだやかな流れが静かな森の中できらめいている。水は透き通るように澄んでいて、手を入れると水中の指先がくっきりと見える。

 

「川辺ってだけでだいぶ空気が変わるな。ここでちょっと休んでいくか」

 

「私は朝から何もしてないんだがな」

 

 ジゼルは小さくごちながら、なぜかアランの背中を通りすぎ、わずかに上流側に言ってから、岸辺にしゃがむ。それを見たアランが首をかしげた。

 

「どした? そんな妙な移動して」

 

「いや、お前が手をつけた水がこっちに流れてくるのは、なんか嫌だ」

 

「そっすか……」

 

 アランは悲しい顔でうなだれる。それを横でながめていたジゼルが、ふとたずねた。

 

「飲まないのか?」

 

「へ?」

 

「川の水」

 

「いやいや、飲むのはやっぱり無理。透明に見えても汚れてるし」

 

「なんだよ、人間って軟弱だな」

 

 ふんと鼻を鳴らして、ジゼルは手で川の水をすくって口へと含む。二、三度そうしてから手で口をぐっと拭い、彼女は足元の川を指さした。

 

「見ろよ、魚まで泳いでるんだぜ。たいていの奴らは平気なのに」

 

「ふーん、魚ねぇ」

 

「自然を荒らしてんのは人間の方だぜ。汚いなんてどの口が言いやがる」

 

 すねた口調で言うジゼルを軽く流し、アランは川の中へ視線をうつす。すると小振りではあるが、確かに川魚の影がある。それをボンヤリ見つめていたアランであったが、ふと何か思い立ったかのように腰を上げた。

 

「そうだ!」

 

「うお、何だよいきなり」

 

「ジゼル、いったん川から離れろ。面白いもん見せてやるから」

 

「は?」

 

 けげんな顔で後ずさるジゼルの前で、アランはすらりと剣を抜く。そして剣先を川の水面にぽちゃりと浸けると、ためらいなく呪文をとなえた。

 

放電(スパーク)!」

 

 瞬間、刀身から水中へ、バッと音を立てて白い閃光がはしる。直後、川の中を泳いでいた魚たちがビチビチと川面へ飛び出した。

 

「よっしゃ! 大漁、大漁!!」

 

「えぇ……」

 

 水面には気絶した魚が十匹ほど、ピクリともせずぷかぷかと浮かんでいる。それを見て大喜びするアランへ、ジゼルはドン引きしていた。

 しかしそれを気にせず、アランはいつも依頼に使う袋を取り出し、魚をつまみ上げては放り込む。

 

「魔法の使い道って色々あるよなー。うんうん」

 

「ガサツな野郎だ……。お前コレちゃんと食えよ? 無意味に殺すとか最低だぞ」

 

「分かってるよ。えーと……リズの宿におすそ分けしよう。エマのやつ喜ぶぞ」

 

「今考えたろお前それ」

 

「言うなって。ちゃんと食べるから」

 

 ジゼルの口出しに後ろめたくなりつつ、アランはさっさと魚を回収する。そして袋を結び、立ち上がってジゼルに言った。

 

「じゃ、今日のところは帰るか――」

 

 ところが、その時。

 

「――あ」

 

「ん?」

 

 ジゼルの頭ごしに向こうを見たアランが、まぬけな顔で立ち尽くす。視線をかけらも動かさずに、表情を凍りつかせている。

 

「……アラン? なにボケッとしてんだよ」

 

「……あれ、見てみ」

 

「あん?」

 

 固まっていたアランへけげんな目を向けていたジゼルだったが、震える手で指さされた方向へ、とまどいながら振り向いた。

 そして。

 

「キャンッ!?」

 

 雷魔法が炸裂した時と同じように飛びのき、尻もちをついた。無理もない。その視線の先には、森の動物すべてが恐れると言っても過言ではない猛獣がいたのだ。

 茶色い毛におおわれ、岩のようにたくましい体躯。四肢は太く四つ足で、小さな丸耳と丸っこい顔は愛らしくも、口からするどいキバをのぞかせている。

 

「ク……クマッ?」

 

 クマである。地域によっては神の一種とまで言われる、恐ろしい獣である。そのクマはジゼルの近くの茂みから顔を出したかと思うと、不幸にも二人に興味を持ったのか、のそのそと近づいてきたのだ。

 アランはすばやくジゼルを助け起こし、小声で耳打ちする。

 

「……いいか、絶対に背を向けるな。そして目をそらさず、ゆっくり後ずさりするんだ。間違っても戦おうなんて思うなよ」

 

「わ……分かった」

 

 意外にも声が震えているジゼルの背を支えながら、アランは二人で少しずつ後ずさる。しかしクマも興味が続くのか、二人から距離を離さずゆっくりとついてくる。

 クマに敵意までは無いようだったが、万が一食欲をそそられてしまえば一巻の終わりである。アランもジゼルも地面につまずかないようにしながら、視線はクマから離さない。

 

 二人にとって緊張に満ちたその時間が、1分ほど続いた頃だろうか。業を煮やしたのか、じれったそうにジゼルが言う。

 

「おいアラン。確かこういう時、物を投げて気をそらせると良いんじゃなかったか?」

 

「そりゃそうだけど……物って何を」

 

「さっき捕まえた魚があるだろ。もうソレ投げちゃえよ」

 

「……ん」

 

 言われてアランが自分の手元を見ると、とっさに持っていたのか先ほどの魚を詰めた袋があった。何匹も入ったその袋は重たく、クマの気を引くのも複数回できそうである。

 しかし、アランは真面目な顔で首を横に振った。

 

「……いや、ダメだ」

 

「どうしてだよ、命がかかって……」

 

「もしあのクマが、人間からエサをもらえると勘違いしてみろ。今度は他の誰かを自分から襲いだすんだぞ」

 

「…………」

 

 その声は想像以上に厳しく、ジゼルはうなだれる。続けて、彼はこう付け加えた。

 

「あと、単純にもったいねえし」

 

「なんだよ、食い意地かよ!」

 

「あくまでついでの理由だ。貴重な魔法での収穫だし……」

 

「……小さい奴」

 

 ジゼルが吐き捨てる間にも、クマはどんどん距離を縮めようとしてくる。その時、アランの目の前でジゼルが悲鳴をあげた。

 

「うわっ!?」

 

「ッ!? おいどうした!?」

 

 川べりの地面に、足をすべらせたのだった。尻もちをついたジゼルを、アランはあわてて起こそうとするが、クマの前ではけっきょく自分が前に立ちはだかるしかなかった。しかしかばうように立っていたアランの背後で、またも不運な出来事が起きる。

 

「ヤバい……ちょい、アラン!」

 

「……大丈夫だ、ジッとしてろ!」

 

 立つのもままならず後退していたジゼルであったが、彼女は川沿いの茂みや木に行き当たり、退路までふさがれてしまったのだ。クマはもう目の前まで来ている。立ち上がり、しかも向こう岸に渡ろうなどすれば、それこそ相手を決定的に刺激しかねない。

 しかし、クマは依然として去る気配がない。追い詰められた格好になり、アランもいよいよジゼルに寄りかかるまで引き下がらざるを得なくなる。

 

 窮屈そうなジゼルが、歯がみして口を開く。

 

「仕方ねえ、こうなりゃ獣化して……」

 

「よせ、勝てたとしても大ケガだぞ!」

 

「じゃあどうすんだよ!?」

 

 二人の声からは明らかに余裕がなくなっていた。アランはのっぴきならない表情で、何を思ったかさっと剣を抜いた。

 後ろのジゼルがとまどった声を出す。

 

「アラン? お前まさか捨て身で……」

 

「心配すんな。魔法を使うだけだ」

 

「つったって……体力のこってるのかよ!? さっき散々練習したのに!」

 

 魔力の枯渇を心配し、ジゼルが声を張り上げる。彼女の荒々しい吐息が、アランの背中にまで届いた。

 アランはそれを聞きながら、ほんの一瞬だけ考え込む。そして、思いついたように言った。

 

「……ジゼル」

 

「あん?」

 

「無事に帰ったら……ちょっと夜の相手をしてくれないか」

 

「は?」

 

 突拍子もない申し出に、ジゼルの声が跳ね上がる。しかしクマはもうすぐそこまで来ている。彼女は考える間もなく、叫ぶように返事をした。

 

「だあぁっ! もう分かった! 五回戦でも六回戦でも、いくらでもシてやるから! 手があるなら早くしてくれ!!」

 

「よっしゃああぁ!!」

 

 ジゼルの答えを聞いた瞬間、にわかにアランの覇気が増した。すばやく剣をクマに向け、目と鼻の先にいるその相手へ、威勢よく呪文をとなえた。

 

放電(スパーク)ッ!!」

 

 その瞬間、クマの目の前を包み込むように、幅広い雷がほとばしる。それは辺りに張り裂けるような騒音を残し、クマの全身に突き刺さったが、さいわいにもアラン自身やジゼルには飛んでこなかった。

 

「グオオォォッ!?」

 

 その電撃に驚いたのか、クマはくるりと背を向けて一目散に去っていった。その姿が見えなくなった頃、二人はヘナヘナとその場にへたり込んだ。

 

「ふぅーー…………っ」

 

「おい」

 

「へっ?」

 

 長い息をつくアラン。その背中を、軽く小突く者があった。振り向くと、ジゼルが頬を染めて不機嫌そうににらんでいる。

 アランが肩をすくめると、ジゼルは短く問う。

 

「…どういうつもりだよ、今のは」

 

「今のって?」

 

「だから! その……今夜……」

 

「そりゃあんなの言われたら、元気になるしかないだろ」

 

 当然のように言うアラン。魔力の不足を気力でおぎなう、そのための質問であったと理解した瞬間、ジゼルは目を丸くし、それからあきれ果てたようにため息をついた。

 

「お前なぁ……ホントに……」

 

「そんな目で見るない。助かったんだからいいじゃねえか」

 

「よかねえ! じ、実際にヤるかどうかは、私が決めるからな!」

 

「分かった分かった。悪かったよ」

 

 ジゼルがふくれるのもどこ吹く風で、アランは剣をもどし、捕った魚を持って歩きだす。その後ろをついて行きながら、ジゼルが口をとがらせた。

 

「……ったく、そんなのに精を出すヒマがあったら、もっと技とか磨けってんだ。そうすりゃ今ごろ、魔法だって色々マスターしてたろうに」

 

「失礼な。俺はこれでも二刀流の達人なんだぞ」

 

「へ、二刀流? ……いつの間に」

 

「"昼"と"夜"とで二刀流。お前といれば、我が聖剣は衰える事なく……」

 

「死ねぇーッ!!」

 

「ぐえっ」

 

 疲弊したアランへ、容赦なく蹴りを叩き込むジゼル。コントのようなやり取りをしなから、二人は日の傾いた森を後にしていった。

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