獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】 作:ごぼう大臣
「本当に感謝する。ミミを見つけていただいて……」
「いやぁ礼には及びませんよ。冒険者のつとめを果たしたまでです」
ある日の昼下がり、アランとジゼルの二人はいつものギルドではなく、街の住宅地の一角にいた。その玄関口では二人に向かって父子が頭を下げている。
ガタイの大きな父親の後ろでは、5、6歳の子供が子猫を抱いてアランたちをチラチラとうかがっていた。
「街はずれの裏道に丸まっていました。たぶん道にでも迷ったんでしょう」
「そうか……。エリク、もう目を離すんじゃないぞ。ほら、お礼を言いなさい」
「ん……」
父親にうながされ、子供がおずおずと顔を上げる。心細そうに子猫を抱きしめるその子の視線には、かすかに怯えがあった。
その反応に、アランは少し寂しさをおぼえた。冒険者という職業は、一般人から見れば得体の知れないものだ。田舎の人なら大抵は農業や狩猟などに従事するだろうし、都市部でも家業を継ぐなり、商売を始めるなり、そうでなくとも鍛冶屋、仕立て屋などに弟子入りしたり……食いぶちは沢山ある。それらから溢れた人間が行き着くのが、冒険者だった。
たまにスケールの小さい用事――たとえば逃げたペットを見つけてほしいなど――で頼られる事はあっても、それは個々の冒険者への信頼にはなかなか繋がらない。その職業が成り立つのは、ギルド運営が間を取り持つか、あるいは今のように……住民と対面するアランたちの隣で、ギルド職員が監視していたりという工夫があるからこそである。
「……もう依頼は終わった。早めにギルドへ戻って手続きをしろ」
白シャツにキュロットという格好の監視員が、無表情にアランたちへ命じる。アランはそれに目だけをふっと動かすと、父子に向かって笑いかけた。
「礼ならコイツに言ってください。彼女の鼻がなければ、匂いをたどれる事もなかった」
「えっ……」
「あん?」
アランが示したのは、隣で仏頂面をして黙っていたジゼルだった。その瞬間、周囲にわずかな緊張がはしる。
監視員は剣呑な目つきになり、子供はさっと父親の陰にかくれ、その父親も先ほどまでの穏やかな態度がくもりだし、表情を引き締めた。
その空気の中、ジゼルは不機嫌そうに腕組みしながらもジッとしていた。
実は、このような空気になるのは初めてではなかった。一般人にとって、人間の冒険者よりいっそう近寄りがたいのが、獣人の冒険者なのである。人間に似て非なる容姿をした彼らを、迫害……とまではいかなくとも敬遠する者は多かった。
現に、例の子供もジゼルを見つめながら、なかなか口を開けずにいた。監視員は相変わらず「早くしろ!」と急かす。
「少し待っててくれよ。すぐ終わるから」
アランがいら立ち混じりに言い返した。しかしジゼルと子供の間には依然として距離があり、二人とも動く気配がない。
数秒、気まずい空気が流れる。するとジゼルがふと子供に歩み寄り、しゃがみ込んだ。
目線が合い、子供がとまどう。それを切なそうに見つめながら、ジゼルは言った。
「……ボウズ」
「は、はひっ」
緊張に息をのむ子供。それに表情を変えずに、ジゼルは続ける。
「もう外に逃がすなよ。……ソイツは、お前を信用してくれてるんだから」
「わ……かり、ました」
それは意外にもおだやかな口調で、子供も思わず目を丸くしてうなずいた。隣の父親も、後ろで見ていたアランも、監視員も、キョトンとしながらジゼルを見つめていた。
そんな周囲をよそに、ジゼルは腰を上げるとそそくさと歩きだした。アランたちはあわてて追いかけたが、監視員がただ行方を見張っていたのと違い、アランはなんとなくジゼルの後ろ姿に悲しげな雰囲気を感じていた。
――
「こんちわー」
「あれ、今日は早かったんですね」
「まあな。どうせ大した仕事ないし」
……それから数時間後、アランとジゼルは日の沈まないうちから宿にもどっていた。意外そうな顔をするリズとの挨拶もそこそこに、二人はさっさとカギを受けとり、部屋へと向かう。
ジゼルがずっと無言でいるので、リズはつい彼女の姿を目で追った。一方、アランは何も言わずに扉を開け、ジゼルを部屋に入れると、早々に扉を閉めてしまった。
「…………」
部屋に二人きりになった後も、ジゼルは口を開かず、にこりともしなかった。ただ拗ねたような顔をしながら、ベッドのふちにボスンと腰を下ろす。
アランは扉に背をもたれ、しばし相棒の姿を見つめる。そしてやがて、遠慮がちに口を開いた。
「……そう気にすんなって。いずれ、普通に感謝する人だって増えてくるよ」
「何の話だよ。私は普通だ」
ふんと鼻をならしてジゼルは言った。その声にはトゲがあり、いい気分ではないのが丸分かりであった。
アランは苦笑して頭をかくと、少しだけ言葉を舌で転がし、おだやかに言う。
「……あれは、悪かったよ。ひょっとしたら礼を言ってくれるかと思って」
あれというのは恐らく、先ほど依頼で子猫を届けた時の出来事だろう。 アランが『礼ならコイツ(ジゼル)に言ってください』と促したとたん、監視員はもとより子供も父親も顔色を変えたのだ。
一般人から獣人への恐れを、わずかな時だけでもむき出しにした一件。それを口に出したせいか、ジゼルは苦い顔になってアランを見つめる。
「お前は悪くないだろ。あの親子がもう少し礼儀をわきまえてりゃ、丸くおさまったんだ」
「まあ……いやちょっとはそれも勘弁してやってほしいところだがな」
アランは苦笑したまま歯切れを悪くして言った。なんせ冒険者をのぞけば、獣人になじみの無い人間はまだまだ多いのだ。その事情を汲んでやれというのは獣人たちには酷だろうが、あの何も知らぬ親子が無礼よばわりされるのも気の毒で、つい態度があいまいになってしまう。
気をそこねただろうか。そう思ってアランはちらりとジゼルを見る。するとジゼルは大きくため息をつくと、ベッドに横向きにどっかと背をあずけた。そして天井を見ながらポツリとつぶやく。
「……私も少しはマシになったつもりなんだがなぁ……昔よりは」
「そういえば、今までお前の過去の話って聞いた事がないな」
話題を変えながら、アランは寝ているジゼルの隣へ座る。ジゼルは顔だけをかたむけ、自虐的に笑って言った。
「別に聞いて面白い話じゃないぜ?」
「かまわないさ。聞かせてくれ」
アランは自然な笑みで言った。話題を転じるためではなく、純粋な興味を持っている。それを見て取ったジゼルは再び天井を向くと、独り言のように話しだした。
「……生まれてからしばらくはな、普通の獣人と同じように森で暮らしてた……。爺ちゃん、婆ちゃん、親父にオフクロ、兄貴に姉ちゃん、弟、妹……けっこうな群れだった」
「群れ……家族か」
孤児だったアランは、ついその言葉をつぶやく。そこから一拍おいて、ジゼルはまた話しだした。
「……まあ、12、3歳の頃までは、普通にやってたよ。狩りを教わって、兄貴たちとケンカして、下の子の世話して……いずれ、私も母親になるんだろうと思ってた。けど……」
「けど?」
不穏な雲行きを感じ、アランがついたずねる。ジゼルは気だるげに額の髪の毛をはらい、低い声で言った。
「……そこに人間どもが乗り込んできた」
「…………」
「私たちに断りもなく木を切って、文句を言おうとしたら容赦なく魔法や弓矢で追い払った」
悪い予感が当たり、アランは口をつぐむ。ジゼルは目を悲しげに細め、ただ口を動かした。
「正直、ガチで戦ったら勝ててたと思うぜ。ガキの見立てだけど……。でも、親たちはそうしなかった。他の群れを連れて、森の奥へ逃げたんだ」
「抵抗、しなかったのか」
「ふん……私も同じ事を思ったよ。実際に血を流したヤツもいた。でも、私らはひたすら逃げたんだ」
思い出したくない記憶なのだろう。ジゼルは自分が顔をしかめているのに、気づいていない様子だった。二、三度、気を落ち着かせるようにまばたきして、彼女はまた話す。
「逃げながらの生活は大変でな……。他の獣人のナワバリに入ったり、エサが無いまま冬になっちまったり……群れのみんなも腹をすかしていた」
「……厳しいな」
「そんで、何度も親父たちに食ってかかったんだ。なんで人間どもから逃げるんだ。あんな奴ら殺しちまえばいいだろって」
「…………」
アランは、相づちすらもなかなか打てない。当時のジゼルは、家族や同族を迫害してくる人間しか知らなかったのだ。その時の心情は察するに余りあるもので、人間の一人としてアランは胸が痛んだ。
しかし、そこから話は思わぬ方向に流れる。
「……それを何ヵ月も言い続けたらよ……とうとう、勘当されちまった」
「な、勘当!?」
「ああ、もう群れから出ていけって……そんな事をいつまでも言うなら連れていけないって……置いていかれちまった」
驚くアランへ、ジゼルは上半身を起こして笑いかける。それは参ったという風な、諦めのついた笑みだった。
なんで笑っていられるんだろう。そうアランが思った矢先、ジゼルは静かに口を開く。
「……そうして置いていかれた場所が、ちょうどこの街の近くだったんだ。おかげで割りとすぐに冒険者に転身できたってワケ」
「まさか、そこまで計算して?」
「多分な……。親父やオフクロは、人間をただの敵だとしか思えないようじゃダメだと思ったんだろう。無理にでも人と触れあえるようにしてくれたんだ」
「……人間の印象って、どうだ? 変わったか?」
アランは身を乗りだし、望みをかけて言った。自分をふくめた人間というものが、どうか彼女の心を救うものであってほしい。そんな期待が知らず知らず、声色にこもっていた。
ジゼルはその声から上半身を遠ざけ鬱陶しげな視線をよこすと、しばし宙を見て答える。
「……そりゃ、じかに話してみればな。嫌なヤツもいりゃ、良いヤツだっている。つまんねえ結論だけどさ」
「そっか……よかった」
「じゃないと、人間どもと組んでる獣人連中がバカみたいだろ」
安堵するアランへ、ジゼルは照れ隠しのように言う。それでもアランはホッとしながらしみじみと頷いていた。
その様子を横目に見て、ジゼルはなんとも言えない表情で黙っていた。やがてゆっくりと立ち上がると、うつむきながら言う。
「……ちょっと一人になっていいか。外をぶらついてくる」
「あんまり遠くに行くなよ? 兵隊に見つかると面倒だからな」
「……うん」
小さな声で返事をして、ジゼルは部屋を出る。リズやエマに軽く手を振り、入り口を出てすぐの壁にもたれた。
(……みんな、今ごろ元気かな)
ボンヤリと空を見ながら、遠くにいるであろう家族へ思いをはせる。ジゼルはもう独り立ちできる年齢だ。もし今になって再会しても、元の群れには戻れないだろう。寂しいが、それでも彼女は平穏な気持ちでいた。
(……人間たちと一緒に暮らしてたら、まだダチが増えてくれるかな。人間の方も、私を良いヤツだって思ってくれたらいいけど)
夕方にさしかかる空を見つめながら、ジゼルはジッと物思いにふける。道端の喧騒も耳に入らず、ずっとそうしていた。しかし。
「おや、お前は……」
その平穏は何者かの声によって破られる。ジゼルが振り向いた先にいたのは、黒い長袖の服に身をつつんだ見覚えのある男だった。小脇に分厚い本をかかえ、首に太陽の紋章がはいったネックレスをさげた、あのいつか冒険者ギルドの近くでわめいていたカレナ教の神官である。
それに気づいてジゼルがげっと顔をしかめたのと同時に、神官はニヤリと口元をゆがめると、つかつかと歩み寄って口を開いた。
「いつぞやの狼の獣人じゃないか。奇遇だな」
「……どうも」
「こんな場所に一人でどうした? まさか勝手に出歩いているのか?」
「まさか。アランは宿の中にいるよ。ちょっと二人で居づらかっただけだ」
ジゼルは明らかに面倒くさそうに目をそらす。神官はそれにかまわず、顔を近づけていやらしい声で言った。
「依頼を制限されてからはどうだった? 金欠に悩んだりでもしたか?」
「少しはな。でも友達が増えたし、結果オーライだ」
「友達、ねぇ……。そういえば生活が苦しいからと、体を売る獣人もいるらしいな。何人くらいの穢れた"友達"がいるんだ? え?」
「……何言ってんだ、お前」
とんでもない邪推を受け、思わずジゼルは神官の顔をにらんだ。神官はそれを見て予想が当たったと思ったのか、饒舌になってしゃべりだした。
「やっぱり当たりか! やはり人間とちがって獣人どもは度しがたい! 人の街に暮らしていても、一皮むけばこの有り様だ!」
「え、いやあの……」
「聖典にもそう書かれているんだ! ほれ、読むがいい!」
神官は自分の持っている本をパラパラとめくり、あるページを開いてジゼルへ見せる。彼が持っているのは、古くからのカレナ教の聖典が模写された、神官用の本であった。
それを一瞥し、ジゼルは投げやりに答えた。
「悪ぃ、私字が読めねえんだわ」
「ふふん、つくづく無知なヤツめ。ならば私が代わりに要約してやる」
「いや別に……」
「だまって聞け! 大切な教えだ……」
ジゼルの制止も聞かず、神官は本を見ながら音読をはじめた。
「えー、『創世・第一章』」
「…………」
「『神はある日、太陽から舞い降り、何もない大地に降り立った。そして海をつくり、山をつくり、草木をつくり……最後に、自らの姿に似た生き物を二人、つくりあげた』」
「……………」
「『それこそ、人間の男女であった。彼らは子を成して増え、次第に自分たちで他の獣たちと交わり、さまざまな兄弟をつくった。それが後に獣人となった』」
「……そう」
ジゼルが吐息のような相づちを打つと、神官は顔を上げ、いかめしい顔つきでこう付け加える。
「……そして、神の手から離れて獣人をつくった事が怒りを買い、原初の人間たちは彼方の地へちりぢりにされてしまったんだ」
「へぇ、業が深いねぇ。どっかの冒険者さんみたいだ」
アランの事を思い出し、ジゼルは適当な返事をする。しかし神官はそれにムッとした様子で怒鳴りだした。
「笑い事じゃないッ!!」
「は?」
「そもそも、
「…………?」
突然の激昂に困惑するジゼル。それを意に介さず、神官はこんな事を言いだした。
「聖典には、獣と兄弟をつくったとしか書いていない……。だが実際は、獣どもが我ら人間の祖先を誘惑したに違いないんだ!」
「あん? 誘惑?」
「そうとも! 人間が自主的に獣などに手を出すか! 獣が人間の血を穢し、穢れた子を生ませ、神に見放される原因をつくったのだ! そうに決まっている!!」
「んな証拠、どこに……」
「はっ、穢れた子孫には想像できまい。獣人だって同じだ。お前らが傍にいればたちどころに罪を誘発し、どんどん堕落が進んでいく。お前らは太古から続く罪悪の種だ! さっさと消えてしまえ!」
「……このっ……」
あまりにも勝手な言いざまに、ジゼルは思わず拳をにぎる。しかしすんでの所で思いとどまった。
頭の中で、家族たちの事を思い出す。人間というのは、単なる"敵"ではない。性格がさまざまな、ただの異種族だ。そう自分に言い聞かせ、なるべく静かに語りかける。
「……それは、教会の総意なのか?」
「なぬ?」
「アランから聞いたぞ。教会にも色んなグループがあるって……お前が言ったのは、お前とそのお仲間の解釈だろ」
神官が虚をつかれるほどに強い口調で、ジゼルは言った。その口調の裏には確信があったのだ。人間というものが、そうそう偏った考えの連中ばかりにはなるまい……という確信である。
すると案の定、神官はかすかに狼狽えて答えた。
「……わ、我々は教会の中でも二大派閥だ! 聖典の解釈も、これで間違いないと信じている!」
「それお前らの感想じゃん?」
「いや、まあ……」
「なんか、そういうデータがあんの?」
「データ、というか……この聖典をまっとうに解釈するなら」
「あるのか? と聞いた。"はい"か"いいえ"で答えろ」
「は……い、いえ」
「ウソつくのやめてもらっていいか?」
ジゼルは暴力をやめ、神官の主張の穴を突き続けた。心のどこかで、神官の認識も変わってくれるのではないかという期待を持っていた。でなければ、こんな応酬はしようとも思わないだろう。
その時、ジゼルの背後から足音が聞こえた。彼女が振り返ると、のほほんとした顔のアランが出てきた。ジゼルはひょいと横によけ、つっけんどんに言う。
「……なんだよ、急に出てきて」
「や、リズから何か言い争いしてるって聞いてさ」
「別に、そんなんじゃねえって……」
隣にきてほほ笑みかけるアランに、ジゼルは恥ずかしそうに目をそらす。するとアランは、目の前で渋面をつくっている神官の方を見た。
「いようお久しぶり。なんか用かい?」
「ついさっき、聖典の素晴らしい独自解釈を聞かせてくださったよ」
「……へぇ」
「あ、お前……!」
ジゼルの言葉で大体のいきさつが分かったのか、アランは訳知り顔でうなずく。そしてあわてる神官のセリフをさえぎるように言った。
「……おおかた、獣人たちを悪者にしちゃう寸法かい」
「だ、だったら何だ!?」
「……いや、考えは自由でかまわないけどさ」
そこでいったん言葉を切り、アランは不意にジゼルの肩を抱いて引き寄せた。ジゼルが驚いて顔を赤らめる。
「わっ!?」
「それは、しっかりと周りを見てから結論づけてくれないか? コイツがそんなろくでなし女に見えるかい?」
顔のすぐ横でにらむジゼルをよそに、アランは神官に問いかける。確かに神官や周りから見れば、二人はそこそこ仲の良さそうなコンビだった。アランはジゼルから離れると、神官へと歩み寄る。
「俺は知ってるぜ、ジゼルの事。お前がまるで知らないような事まで、色々な」
「色々、とは……」
緊張しながら聞き返す神官。するとアランは、急にからかうような口ぶりになった。
「んー中にはちょっと、神官サマからしたら刺激の強いアレコレもあるんだけど」
「!……刺激の……」
「あ、お話しした方がいいかな? なんにせよ知りたいって思ってくれたら幸いだし……」
「ば、バカを言うなっ! お前、何を考えて……」
「まあそう言わずに。周りに聞かれたら大変だから、ちょっと耳を……」
「やめろぉ(建前)。ナイスぅ(本音)」
「どっちなんだよ」
ツッコんだアランを払いのけ、神官は顔を真っ赤にして飛びのく。そして周りに響く大声をあげた。
「も、もう夜だから私は帰る! お前らと話すのは時間のムダだ!」
「おうそうか。じゃあな」
いつの間にか、日は沈みかけていた。肩をいからせて去る神官の背中が遠くなり、アランが振り返ると、ジゼルが呆れたような顔で立っていた。
「……お前なぁ、いったい何をバラそうと……」
「そう怒るなよ。あんなの冗談だって」
「はぁ……」
ため息をつくジゼルを、アランはなだめるように宿へと誘導する。そして穏やかな笑みをたたえて言った。
「焦らずに、真面目に生きていこうぜ。お互いに知るべき事はたくさんある」
「……もし愛想がつきたら、私は森で一匹狼やるぜ。そんなに辛抱強くないし」
「ああ、肝に銘じておくさ」
いつもの調子で会話しながら、二人は部屋にもどって夜をすごした。
――
……そして、3日ほどのち。
二人はいつものギルド支部で、受付嬢からあるものを受け取った。
「手紙? 俺たちに?」
「ええ。宛名からして、以前のペット探しの依頼の人じゃないかと」
封筒に書かれた送り主の名を見ると、そこには親子か何かで書いたのか二つの同姓の名前があり、片方には"エリク"と書かれてあった。
そのエリクという名に、二人は聞きおぼえがあった。ジゼルがあっと声をあげ、嬉しさの混じった口調で言う。
「エリクって……あのボウズの名前!」
そう。あのミミという子猫を見つけたさい、ジゼルを見て怖がっていた子供である。
その手紙の中には、子猫をこれから大切にしていくという約束と、きちんとジゼルに礼が言えなかった事へのお詫び、そして二人への改めての感謝が、子供の字でつづられていたのだった。