獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼らはこうして顔を合わせ、飲みに出かける

「あぁー……疲れた……」

 

「元気ないな。今日は薬草とってきただけだろ」

 

「いやぁ、昨日つけた手錠が重くてな」

 

「無理しなくていいのによ……」

 

 ある日の夕暮れ。今日も依頼を終えたアランとジゼルは、ギルドに併設された酒場の一角にてあれこれと話しながら一服していた。すると二人に声をかけてくる者がある。

 

「おや、ジゼルたちじゃないか。奇遇じゃのう」

 

「おうルナ。お疲れさん」

 

「そちらもお疲れさまです」

 

「ダニエルたちも帰ってきてたのか」

 

 テーブル席の横をふと振り向くと、ダニエルとルナの二人がいた。ルナはローブのフードをかぶっていたのを脱ぎ、赤い目を細めてアランたちへニコリと笑ってみせる。

 

「最近は日差しも強くなってきたのう。ワシは日光に慣れるまで毎年大変なんじゃ」

 

「あー。もともとは夜行性だもんなぁ、ルナ」

 

「まったく、やっと夜がきたと思えばすぐ寝なければならんし、つまらんのう……」

 

 ジゼルと愚痴を言って笑いあうルナ。そこへダニエルが苦笑しながら口をはさんだ。

 

「規則ただしい生活は大事ですよ。こんな仕事してるんですから」

 

「お主はいちいちお行儀がよすぎるんじゃ。ワシだってたまには夜遊びしたいぞ」

 

「あんまり夜ふかしにハマると戻れなくなるぜ。俺みたいに」

 

「私はその夜ふかしにいつも付き合わされてるんだがな。毎晩よくあんなに頑張れるもんだ……」

 

 たしなめる男二人に、ルナとジゼルはそれぞれ文句をこぼす。その時彼らのそばへまた他の誰かが近づいてきた。

 

「こら、あまり騒ぐと迷惑だぞ。そこのお嬢さんも」

 

「おっと……ん?」

 

 低い男の声に、アランたちはあわてて口をつぐみ、声の方を見る。するとそこにいた人物を見て、アランは表情を明るくした。

 

「おお、クリスじゃん! それにナタリーも!」

 

「……だから声が大きい」

 

「こんばんは、アランさん、ジゼルさん」

 

「よう、元気そうだな」

 

 大きな斧と円盾を装備した男性クリスと、ハトの翼を持ち弓を携えた女性ナタリー。アランに機嫌よくあいさつされるも、クリスは少し渋い顔をしていた。

 

「ギルドでちょうど会うなんて偶然だなー」

 

「……別に。たまたま宿を引き払う必要があって、仕事を切り上げてきたんだ」

 

「引き払う? 何かあったのか?」

 

「ナタリーの羽根が散らかるのが迷惑だと言われたんだ。前々から獣人をよく思わない宿でな……」

 

 ふんと息をついたクリスは、ふとテーブル席のダニエルと目が合った。するとダニエルの方から立ちあがり、右手を差し出す。

 

「えと、はじめまして。ダニエル・グラニエといいます。こちらはパートナーのルナ」

 

「……ああ。クリス・ブロンドーだ。こっちはナタリー。……君は、アランの知り合いか?」

 

「ええ、色々とお世話になっています。そちらもお知り合いで?」

 

「まあ……一応な」

 

「そう堅くなるなよクリス。見たところお前もうオッサン……じゃねえや、最年長じゃねえか」

 

「やかましい。なれなれしくするのは苦手なんだ」

 

 アランがからかうと、クリスはすねたようにそっぽを向く。それをよそに、ナタリーはかがんでルナへと話しかける。

 

「こんばんは。えーと……ルナちゃん?」

 

「呼び捨てでかまわんぞ。ワシはもう子供じゃないしな」

 

「え……ああごめんね。どうしても働く年に見えなくって、つい」

 

「む……」

 

「ナタリー、おまえ笑顔で失礼な事言ってんぞ……」

 

 まるっきり天然の笑みをうかべ、ナタリーは申し訳なさそうに頭を下げた。ルナはその姿をややふくれた面で見つめていたが、かがんだナタリーの胸元が目に入り、ふと顔色を変えた。

 

「……大人じゃ」

 

「へっ?」

 

「革鎧の下からでも分かる……。その胸についた重たいものは、間違いなく大人の証じゃ」

 

「……??」

 

「ルナ……お前……」

 

 何を言われてるのか分からず、とまどうナタリー。それを見ながらジゼルはただ半笑いしていた。

 その時、クリスが六人全員に聞こえるようにしてたずねる。

 

「で、ここで集まって何を話していたんだ? 用もないのに居座っていたら迷惑だぞ」

 

「ああ別に、大した事ない雑談で……」

 

 クリスの問いに、アランが口を開く。しかしそこにルナが強い口調で割り込んだ。

 

「待たんか! 忘れてもらっては困る。ワシだって夜遊びしたいわい!」

 

「ルナ、そんなに良いものでもないですよ。遊びって言っても……」

 

「正直いってな。元がコウモリじゃから、夜が短い季節はなかなか眠れんのじゃ。たまにはいいじゃろー? なぁ」

 

 なだめようとするダニエルへ、ルナは子供のように甘えてアピールする。それを見たナタリーがくすくす笑うのを一瞥し、アランはジゼルへと耳打ちする。

 

(なぁ、別にいいんじゃないか? せっかく六人も集まったんだし、軽く飲むくらいなら)

 

(ムリだろ。この前ルナが酔った時の事、覚えてないのか?)

 

(……あ)

 

 ジゼルに言われ、アランはかすかに苦笑する。以前、ルナが訳あって腹立ちまじりにエールを一杯飲んださい、それだけでべべれけになってはしゃいでしまったのだった。

 それを意識してか、ダニエルもどうにかルナを思いとどまらせようとする。

 

「でもほら、ルナってあの麦の匂いが苦手だったじゃないですか。こないだも確かそう言っていましたし」

 

「むむ……そうじゃが、こないだ飲んだはずのエールは記憶に残っとらんし、じっくり酒を味わってもみたいのう……」

 

「どうせなら、時間とお金のある時に行きましょうよ。高くつきますよー、大人の遊びは」

 

「……そうか、そんなものか……」

 

 ダニエルの言葉にルナはだんだんと肩を落とし、気が変わりはじめる。

 ところが、そんな彼女にナタリーがこんな事を言った。

 

「ルナちゃん、ポワレって飲んだ事ない?」

 

「ぽわれ?」

 

「エールとは別の、洋梨を使ったお酒。酔いにくいしオススメだよ」

 

「梨……」

 

 ルナの表情に興味がもどりはじめる。ダニエル、アラン、ジゼルの三人が内心でまずいと思いはじめた時、クリスがおもむろに口を開く。

 

「行きたいと言うならいいんじゃないか? ここで揉めていても仕方あるまい」

 

「そうじゃそうじゃ。お主は話が分かる。ポワレとやらを探しに早く行こうぞ」

 

「いやちょっと待てって。おいクリス……」

 

 ルナの酔いやすさを知らせようと、クリスへとささやくアラン。しかしアランはクリスの表情を見てふと言葉が止まる。

 わずかにではあるが、クリスは頬をゆるませてナタリーやルナに視線をめぐらせていた。(コイツ密かに楽しみにしてやがるな)とアランが内心で考えていると、ジゼルがあわてた様子で口をはさむ。

 

「クリスお前、宿を引き払うとかなんとか言ってなかったか? 飲んでる時間あるのかよ」

 

「あ……そうだったな。うーむ」

 

「ならばワシらのいる宿に来たらどうじゃ。獣人も働いているし気がねせずに済む。なあジゼル?」

 

「あ、それは……」

 

 ルナに振り向かれ、ジゼルはつい言葉をにごす。万が一宿を見つけられなければ、クリスらは路上で危険な一夜をすごすハメになる。知っている宿をすすめない理由は対外的にはない。

 しかし、ルナがもし前後不覚に騒いだりなどすればと考えると、ジゼルもどうにか上手い言い訳はないかと考える。

 

「でも僕ら、あまりお金がないんですよね……。あまり贅沢はできないですよ?」

 

 今度はダニエルが遠慮がちに言った。実際の貯金額は彼とルナにしか分からないが、口調からしてデマカセのようであった。

 しかしクリスはその気配に気づかず、上機嫌で頼もしくこう言い切った。

 

「ならば俺にまかせろ。さすがに全員におごりは出来ないが、多めに払おう」

 

「わあ、クリスさん珍しい。いつもはすごく倹約するのに」

 

「人をケチみたいに言うな。これはコミュニケーションの一環だ」

 

 なんの嫌みもなく驚くナタリーに、クリスは照れのまじった顔で言う。どうにも酒盛りに行く雰囲気だと、アラン、ジゼル、ダニエルの三人は視線をかわす。

 そして直後、クリスが胸を張ってギルド内に聞こえる声をあげた。

 

「よし! そうと決まれば俺とナタリーは宿に荷物を取りにいく。ダニエル、アラン、すまんがお前たちのいる宿とやらに案内してもらえるか?」

 

「あー……うん。OK」

 

 アランはあきらめたような笑顔でうなずく。そして近くでうきうきと小躍りしているルナを見て、やれやれと心の中でつぶやいた。

 

――

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