獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼はこうして、悩みを打ち明け行動する

 

「ギャギャーッ!」

 

「くそっ……このっ!」

 

 人の手が入らない、深い森の奥。アランたち一行はゴブリンたちの襲撃をうけて必死に応戦しているところだった。アランもジゼルも武器を隙なく振るって相手を倒そうとするが、今回のゴブリンたちはなかなか手ごわい。手傷を負わせても、かまわず斧や剣を手に向かってくる。

 

「……っ待ってください! 仲間を殺したのは僕らじゃ……」

 

「どうせ聞きはせん! あきらめろ!」

 

 そんな中、ダニエルはゴブリンの攻撃を避けつつ、痛切な顔で説得をこころみる。しかし魔法を使わずに言葉でいくらなだめようとしても、ゴブリンたちはいっこうに怒りをおさめようとしない。ダニエルへ飛びかかる何人もの敵を、ルナが一人で突き放し、近づかせずにいた。

 

 ……いつもより執拗に襲ってくる、そのゴブリンたち。その理由は、かたわらに転がる一つの死体にあった。

 頭を割られて死んでいる、一人のゴブリン。それはアランたちがここにたどり着く少し前に来たであろう、リチャードという男のせい……と思われる。

 ダニエルの古い知り合いらしいリチャードは、ゴブリンを憎むそぶりを見せていた。そんな彼が少しおかしな様子で森に入っていったと聞き、アランたちはそれを追いかけた。そこで目の前の死体と、怒りに満ちたゴブリンたちに出会ったのだ。

 

 ……おそらくは、リチャードに仲間を殺されて怒りと警戒心にあふれたゴブリンたちが、リチャードと同種の"人間"をふくむアラン一行を敵と見なしたのだろう。収奪やなわばりの主張が目的のいつもとは違い、ゴブリンにとっては自分たちの尊厳と生存をかけた戦いである。

 

「くっ……炎の矢(ファイア・アロー)!」

 

 ダニエルの魔法が一匹のゴブリンに命中する。しかし退く気のないゴブリンたちは、仲間がやられてもしぶとく彼に襲いかかる。そんなダニエルをかばうように、ルナが横から割って入る。

 

「ええい!」

 

 ゴブリンの首筋に、ルナのレイピアが突き刺さる。彼女は続けて翼を広げて飛び上がり、他のゴブリンの頭を思いっきり踏みつけた。

 ごきっ、とにぶい音がして、ダニエルが思わず目をつぶる。そんな彼へ、ルナがゴブリンたちをいなしつつ激をとばした。

 

「いいかげん覚悟を決めんか! 今回は戦うしかないぞ、分からんのか!?」

 

「…………」

 

「抵抗しなければ死ぬぞ! お主は死にたいのか!?」

 

 ルナにそう言われながらも、ダニエルは動きだす事ができなかった。自分の中でゴブリンへの認識が変わり、どうにか争わないよう距離をとれるようになってきた矢先に、この事件である。敵対するつもりはないのに、ゴブリンたちからは憎まれ戦わねばならなくなる辛さ。

 ダニエルは迷いを押し殺し、ゴブリンへ杖を向ける。それと同時に、彼に向かってきたゴブリン数匹が、血を流して倒れた。

 

「ガハッ……!」

 

「あっ……」

 

 ゴブリンがうめくのを見て、ダニエルが息をのむ。そこには、ゴブリンの血がついた武器を持ったアランとジゼルが立っていた。

 

「これで……全部だな」

 

「ったく、胸くそ悪いトラブルだよ」

 

 二人は深刻な顔を見合わせて言った。それをボンヤリと見つめていたダニエルのもとへ、ルナが駆けより手をさしのべる。

 

「ほれ、動けるか?」

 

「……はい、すみません」

 

 小さく言って、ダニエルは立ち上がる。そして周囲をあらためて見回した。

 

 自分たちが殺したゴブリンの死体が10体ほど、まさに死屍累々というさまで転がっている。緑の草に赤黒い血をドロドロと染み込ませる亡きがらの中には、四肢のいずれかを失った者もいた。

 

(……本当なら、森で平和に生きながらえていたかもしれないのに……)

 

 ダニエルの目に、かすかに涙がうかぶ。人間とトラブルにならなければ、ゴブリンたちも自由に暮らしていけるはずなのだ。だがそのバランスはふとしたキッカケで崩れてしまう。

 ダニエルが黙っていると、ふとジゼルが口を開いた。

 

「……アラン。いいニュースと悪いニュースがあるぜ。どっちから聞きたい?」

 

 雰囲気を和らげたかったのか、どこか軽い口調だった。アランはうなずき、自らも調子を合わせて言う。

 

「いいニュースから頼む。あのリチャードの野郎が戻ってきたとか?」

 

「いいや。だが少なくとも生きてるよ」

 

「なんで分かる?」

 

「ゴブリンの死んだ匂いが、ずーっと奥まで続いてるのさ。きっとリチャードがやったんだ」

 

 ジゼルは森のさらに奥を指さした。殺戮はまだ続けられている。そう告げられ、アランはかわいた笑いをうかべた。

 

「やれやれ……じゃあ俺らは引き続きこんな歓迎を受けるのか?」

 

「嫌なら帰ってもいいぜ。血なまぐさいパーティーになりそうだ」

 

「……そうもいかんさ」

 

 アランはそう言って、ダニエルの方を見る。見つめられ緊張するダニエルへ、アランはこうたずねる。

 

「お前はいけるか? アイツと何があったか知らないが、もし見放したくなるような輩だったら、無理強いはしないぞ」

 

「!……いえ、行きます! 大丈夫です」

 

 ダニエルは一瞬だけ目をおよがせたが、きっぱりと言い切った。ルナは心配そうにしていたが、一行はけっきょく森のさらに深くへ歩きだした。

 ……ダニエルとリチャードに何があったのか、それはこの場にいる中では当人しか知らない。しかし何があったにせよ、森に無断で踏みこんでむやみに殺戮をくり返す者を放置はできない。ヘタをすれば森の魔物と街の人間が全面的に敵対するハメになるのだ。

 

 ……しかし、やはりというかゴブリンたちはその後何度も襲ってきた。アランたちの行く先々に潜み、森のあちこちからゲリラ的に攻撃をしかけてくる。ゴブリン自体は強い魔物ではないが、不意打ちをおそれて油断できない道中はいやおうなしに心身を疲弊させた。それはゴブリンの作戦でもあったのだろう。

 そして、いつしか日が沈みかけ、空が茜色に染まりだした頃。

 

「ぐあっ!!」

 

「っダニエル!?」

 

 ついに負傷者が出てしまった。右腕をゴブリンに斬りつけられたダニエルは、思わず杖を取り落とし、その場にくずれ落ちてしまう。

 

「ダニエル、立て、早く!」

 

 ゴブリンたちに応戦しながらルナが叫ぶが、すでにダニエルの前では敵が剣を振り上げていた。うずくまるダニエルに向けて、ゴブリンが雄たけびとともに剣を振り下ろす。

 

「ギギィーーーッ……ギャッ!?」

 

 しかし、その攻撃が届く寸前でゴブリンの動きが止まる。アランが後ろから、胴体を剣で突き刺したのだった。

 

「ガッ……フ……」

 

 ゴブリンは持っていた剣を落とし、背後のアランをにらみつけながら倒れた。胸と口から血を流して、少ししてそれは息たえる。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

「大丈夫か? 俺が分かるか?」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

 すんでのところで救われたダニエルは、我にかえってアランへ礼を言う。気づけばゴブリンの声があふれていたその場は静かになっていた。

 

「もうこの辺に気配はない。とりあえずは安全だ」

 

 返り血をいくらか浴びたジゼルが、近づいてきて言う。それに気づいたダニエルはとっさに立とうとしたが、腕の痛みに体を震わせた。

 

「あっつつ……っ!」

 

「おいおい、無理すんなって!」

 

「ひどい傷じゃぞ。ジッとしておれ!」

 

 右肩から肘にかけて、ダニエルの腕はまっすぐに切り裂かれていた。衣服に血がにじみ、押さえていたもう片方の手まで真っ赤にそまっている。

 心配して駆けよるアランやルナに、ダニエルはぎこちなく笑ってみせる。

 

「お、お気遣いなく……こんな事もあろうかと、薬や包帯は常備して……あっ!」

 

「ああもう、そのままにしておれ! ワシがやってやる!」

 

 ローブから片手で道具を取り出したダニエルだったが、傷の痛みからつい落としてしまう。ルナがそれを拾い上げ、せわしく手当てをはじめた。

 

「……少し休憩しよう」

 

 アランは剣をおさめ、落ち着いた声で言う。そして手当てをしているダニエルらを見守りながら、座って木にもたれた。

 みんなが無言になると場が静かになり、風のそよぐ音が思い出したように響く。いつしか日はすっかり沈み、真っ暗闇の広がる森の中に虫の声があちこちから聞こえていた。

 

「……うーむ、暗くて上手く巻けんのう」

 

「いいですよ。包帯なんてテキトーで」

 

「ダメじゃ。血が止まらなかったらどうする」

 

 ルナは不器用なのか、包帯を巻くのに四苦八苦していた。ダニエルはわずかに頬をゆるめ、クスリと笑う。

 そんな時、少し離れて木にもたれて立っていたジゼルが、ふと口を開く。

 

「……あのさ、ダニエル」

 

「はい?」

 

「あの野郎……リチャードと、結局どんな関係なんだ?」

 

 その質問に、ダニエルは一瞬で笑みを消す。そして答えにくそうに目をおよがせた。

 和やかになりかけた空気が、また緊張したものに変わる。ジゼルもそれは薄々感じていたが、それでも気になるのかこう付け加えた。

 

「その……森に勝手に入ったヤツを連れ戻すってだけなら、他の冒険者(ヤツら)でもできるしさ。こんな時間に、私らが体を張るこたねーじゃん」

 

「…………」

 

「だから、お前がリチャードにこだわる理由があるなら知りたい。一体、何があったんだよ?」

 

 ジゼルがもたれていた背を離し、ダニエルをまっすぐに見つめて言う。ルナも遠慮がちながらたずねた。

 

「ワシも、できれば聞きたい。なんだか今のお主は思い詰めているようで見ていられん」

 

「…………」

 

 ダニエルは黙ってうつむいていた。しかし、やがてアランの方をちらりと見て、うなずいた。

 

「……いいのか?」

 

「……はい」

 

 アランの問いかけに、ダニエルはまたうなずく。そして地面に目を落とし、思い出すように語りはじめた。

 

 

――

 

 

「……僕のいた村は、すごく田舎でした。自然と隣り合わせで、森や山には立ち入るなって、キツく言われていて……魔物の危険も、常にそばにありました」

 

 ダニエルの言葉に、アラン、ジゼル、ルナの三人がジッと注目する。ダニエルは地面を見つめたまま続けた。

 

「そんな村だったので、子供の付き合いも狭かったんです。リチャードも同い年だからってよく遊んでいましたけど……実際は、僕が少しイジられがちだったり、そんな関係でした」

 

 幼い頃からおとなしい性格だったのだろう。ダニエルは周囲をちらと見て苦笑いする。しかしすぐに沈んだ表情にもどり、また口を開く。

 

「……僕が13歳になった、ある冬の日でした。その年はいつもよりずっと寒くて、村の人々は食べ物を求めて何度も森に出入りしました。……けど、そのぶん森にいる生き物は獲物がとれなくなって、警戒心も上がったのでしょう」

 

「…………」

 

「例年より強い寒さに、人間への不信感……それらが重なって、とうとう……大きな事件が起きました」

 

 そこまで言って、ダニエルはきつく目をつぶる。言うのをためらうかのように強く唇をかみ、彼は泣きそうな声になってつぶやいた。

 

「僕らの村が……ゴブリンに襲われたんです」

 

 聞いていた三人が息をのむ。緊迫した面持ちで見つめられながら、ダニエルはポツリ、ポツリと続ける。

 

「……いくつかの家に火の手があがって、気づいた時には百匹以上のゴブリンたちが色んな方面から村に入りこんできました。僕が気づいた時にはもう、村は崩壊するしかなくなっていたんです」

 

 記憶が強く残っているのだろう。ダニエルはローブのすそをきつく握り、トラウマに耐えているようだった。涙をこらえてか何度もまばたきし、絞りだすような声で言う。

 

「今なら……ゴブリンたちも生きるためにやった事なんだと理解できます。でも……それでも、あの時の事は忘れられません」

 

「……あの時?」

 

「その日、僕の母が大ケガをさせられて、動けなくなったんです」

 

 ルナが首をかしげると、ダニエルは重苦しい声で言う。そして手のひらで目をおおい、歯がみして言った。

 

「脚に深い傷をおって……一人では逃げられない状況でした。見捨てなければ、自分も危なかった。……そんな時に、リチャードに会ったんです」

 

「それから……?」

 

「僕は必死に助けを求めました。母を連れて行くのを手伝ってくれと。二人でなら、どうにか逃げるのだけは出来たと思います。でも……」

 

 ダニエルは手を外して口ごもる。その沈黙だけで、アランたちはある事を察した。

 

「まさか……」

 

「……ええ。リチャードは逃げました。一人で……それからずっと、今日まで会う事はなかったんです」

 

 ダニエルは膝をかかえ、深く頭をたれる。ただ落ちこんでいるのではなく、恨み言を押し殺しているのが分かる。負傷した腕から血がにじむのもかまわず、両の拳を強く握っている。

 

「どのみち、母は助からなかったでしょう。僕と同い年のリチャードに、大した事はできなかったでしょうし……仕方ないという事になるのは……分かります」

 

「けど……お前はそれで納得できるのかよ?」

 

「正直、感情の方はまだくすぶっています。……でも、母が言っていたんです」

 

「言ったって、何を?」

 

 ジゼルが問うと、ダニエルは弱々しく視線を向けて答えた。

 

「『あの子を恨んじゃいけない。みんな生きるのに必死なんだから』……って」

 

「それをずっと……守ってきたのか」

 

「子供ながらに、考えないようにしてきました。流れて冒険者になってからも、まるで昔の事なんか無かったかのようにふるまってきました。……でも」

 

 内心を打ち明けるダニエルを、ジゼルやルナはいたたまれない目で見つめる。しかしその時、アランが腑に落ちたという風にこう言った。

 

「……代わりに、ゴブリンが嫌いになったってワケか」

 

 ジゼルとルナが驚いて振り向く。以前、二人きりでダニエルからゴブリン嫌いを聞かされたアランは、その事をよく覚えていたのだ。

 ダニエルはハッと顔を上げ、それから苦い顔でうなずく。

 

「そう……ですね。つとめてリチャードの事を忘れようとしましたが……今度は心の中で、ゴブリンのせいにするようになりました。アイツらさえいなければ、ゴブリンは害悪でしかないんだ……と」

 

「じゃから、一時期ゴブリンを目のかたきにするようになったのか……」

 

「……ふふ、笑えるでしょう? 死んだ母さんの遺言をまるで理解しようとしないで……ちょっと強気になったら、見境なく敵扱いしだすなんて」

 

 いつも組んでいるルナの方を見て、ダニエルは自嘲して笑う。そしてその笑みはすぐに無くなり、彼はふさぎこむようにして言った。

 

「振り返ってみれば、くだらないものですよ。けっきょく今まで、ずーっと何かのせいにして生きてきた」

 

「…………」

 

「バカなんですよ。僕は」

 

 嗚咽のまじった声で言って、ダニエルはヒザに顔を埋める。自分への情けなさでうずくまってしまった。聞いていた三人もしばし口を閉ざしてしまう。

 しかし、そんな中でルナがつとめて明るい声をあげて寄り添った。

 

「な、何を大げさな! 誰かを恨むなんぞ、そう珍しくもあるまい!」

 

「でも……」

 

「お主は気にしすぎなんじゃ。間違いなぞ誰にでもある。ワシだってあるぞ。だからその、元気を……」

 

「…………」

 

 ルナはめいっぱい笑みをつくって励ましたが、ダニエルはなかなか動かなかった。座りこんだままちらりと顔を上げてルナを見たものの、すぐに顔をふせてしまう。

 ルナがしゅんと眉尻を下げる。子供の頃から何年もためこみ、こじらせてきた増悪。それが自身の愚かさを示すものだとなれば、すぐには受け入れられまい。

 1分、2分……月の光もささない森の奥で、時間は刻々とすぎていく。

 

 そんな時、アランがダニエルへ歩みよったかと思うと、不意に名を呼んだ。

 

「ダニエル」

 

「……へ?」

 

 それまでしばらく無言だったせいか、ダニエルは思わず顔を上げる。そんな彼に、アランはかがんで目を合わせて話しかける。

 

「……前に言ったよな。ジゼルが、かつて人間を恨んでいたって」

 

「……あ」

 

 アランの言葉に、ダニエルは思い出したように目を見張る。一方でジゼルはあわてて話に割りこんだ。

 

「アラン、まさか……!」

 

「悪い。文句は後で聞く」

 

 ジゼルのセリフをさえぎり、真剣な目で一瞥するアラン。それからダニエルへ向き直り、彼は続けた。

 

「……見ての通り、ジゼルは今じゃ気に入っている人間もいる。けどそりゃ自分だけで気づいたんじゃない。宿屋のリズや、エマ、おかみさんたちに他の冒険者……見下さず接してくれた人間や、街で一緒の獣人たち、みんなのおかげさ」

 

「…………」

 

「あ、もちろん俺もな」

 

 最後にわざとらしく、クスクス笑うアラン。そして少しずつ話に聞き入るダニエルに、さらに続ける。

 

「お前だって、今まで色んなものを見てきたろう。俺が知ってるだけでも、ゴブリンが贈り物をくれたり、戦わずに去ってくれたりしたはずだ」

 

「…………」

 

「誰かのおかげで、キッカケがあって気づくってのは、何も恥ずかしくないはずだ」

 

 アランの言葉はおだやかながら、語気に強さが増す。そのせいか顔を完全に上げたダニエルへ、アランはぐんと顔を近づけて言った。

 

「アイツは……リチャードは、今でもゴブリンを憎んでいるんじゃないか?」

 

「……ええ、おそらく」

 

「今それを助けられるとしたら……命だけじゃなくて、理解してやって、憎しみからも救いだしてやれるとしたら、誰がいると思う?」

 

 アランが問いかけると、ダニエルの目に力が戻りはじめる。アランはだめ押しとばかりにダニエルの肩をつかみ、歯を見せて笑って言った。

 

「お前だって、本当は気づいてんだろ? だから一人でも血相変えて追いかけようとしたんだ」

 

「…………ですね」

 

 ダニエルはようやくうなずき、小さく笑いかえす。ヨロヨロと立ち上がろうとするのを、ルナが横から支えた。

 

「心配かけさせおって。ワシはお主と組んどるんじゃぞ? 一人でいつまでも落ち込まれたらかなわん」

 

「はは……すみません」

 

 負傷した右腕をかばいながら、ダニエルは苦笑する。するとジゼルが歩みより、慎重そうに言う。

 

「……けど、何の用意もなしじゃ危険だぜ。視界はほとんど真っ暗で、またどこでゴブリンが出るか分からん」

 

「心配性じゃなあ。ワシは元から夜行性じゃぞ? しっかりと前を歩いて……」

 

「あ、それならいい考えがあります」

 

 ルナが自慢げに話すのをさえぎり、ダニエルがまたローブの中に手を入れる。そして長く束ねたロープを一本とりだした。

 それを受け取りアランがしげしげ見つめていると、ダニエルはこう説明する。

 

「そのロープでお互いの体をつなぎましょう。少なくともはぐれる心配はないはずです」

 

「おお、相変わらず準備いいな!」

 

「……じゃ、明かりは……」

 

「大丈夫。僕がまた松明を用意します。包帯も油もありますし、あとは……」

 

 アランがロープをほどく間、ダニエルはジゼルへ笑いかけて木の枝を取りにいく。しかしその背中へ、ジゼルがとつぜん声をかけた。

 

「ダニエル! 待て!!」

 

「……へっ?」

 

 おどろいたダニエルは一瞬だけ振り返り、前方から足音が近づいてくるのに気づき、身がまえて向き直った。するとそこへ、何者かの人影があらわれる。

 それを見て、ダニエルと、他の三人の顔は一様に驚愕した。

 

「……ダニエル?」

 

「……リチャード!」

 

 ……そこにいたのは、血と泥にまみれ、しかも両腕を背に回し植物のツタでしばられた格好のリチャードだったのだ。

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